ここでは特に楽器を演奏せず、作曲/制作などの音楽専門行為をしない人、を対象に書いています。
音楽理論ではなく「魅力」を語れればいい
音楽を"理解"するためには、音楽理論が必要だ、と思うかもしれません。
しかしそれは、パソコンが使えるようになりたいから、とC言語から勉強し始めるようなものです。またはタイピングの練習に数年費やすようなものです。
そのやり方でいつネットに繋げてAmazonで買い物ができるでしょうか。
そうした基礎からの網羅論だと先が長すぎて挫折してしまいます。目的がまるでずれています。
また「音楽理論を学ぶというファッション」に酔う、みたいなところもあります。周囲にはかっこよく映りますが、音楽は何一つわからなかった、なんてことになります。
あなたが知りたいのは、その音楽の魅力だと思います。
そして「魅力」は好き嫌いであり、その解釈者の価値観です。
それは音楽理論的価値とはまるで違うものです。
魅力に説得力を与えるために音楽理論的用語を借用するだけで、魅力そのものを音楽理論では語れません。
その音楽にかっこよさを発見することができる理由は、その音楽の中にあるのではなく、あなた自身の中にあります。
あなたの音楽経験が、そのかっこよさを感じ取り、感応させているからです。
かっこいいを語るのに音楽理論知識がなくても語れます。「かっこいい」は理屈ではなく、感じるものだからです。
どこにそれを感じるのか、それがわかればいいんです。
そのためにたくさん音楽鑑賞、音楽行動を行っておく必要があります(ここが人一倍出来ちゃう人は、理論的知識などなくてもそのままプロになっちゃうわけです)。
音楽理論はちょうどいいところから学べない
音楽理論自体は、教育機関で数年以上をかけて学ぶためのカリキュラムになっています。
いきなり音楽理論書から読み始めてしまうと辿り着くまで時間がかかります。
カレーを作りたいのに、じゃがいもの苗の構造、植え方、牛や馬の育て方から学ぶような感じだからです。
音楽理論は"学問"です。
人類の英知の結集です。本来数年でも学習し尽くせるわけではありません。
私自身音楽理論の数%しか知らない自覚があります。
理論書にはそのアーティストは用いていない技巧やそのアーティストがあまり好んでいない技術、知らない技法も掲載されています。古今東西のあらゆる音楽家の知識の総体系だからです。
その知識の海から、一人のアーティストの魅力に辿り着くのは困難です。
「モーダルインターチェンジ」の知識に音楽的魅力はありませんが、「So What(モーダルインターチェンジが使われている曲)」のカッコよさはすぐ感じられるでしょう。それは音楽理論的構造の魅力よりも、演奏者のスキル/才能/努力の結晶が醸し出す魅力であり、同じことを私がやっても出ません。「かっこいい」は音楽理論的技巧が作っているのではなく、そのアーティストが作っているんです。
「モーダルインターチェンジの魅力」を語るのは、自動車の魅力を広く一般に語らなければならないのに後輪タイヤのバルブの内側の巧みな仕組みの話ばかりするようなものです。
どうやって勉強するか?
このようなことを踏まえて、音楽の勉強は、いきなり理論の勉強をするのではなく、まずは
「自分の好きなジャンル(Artist)にとことん詳しくなってみてはどうでしょう?」
と提案しています。
3ヶ月から半年、毎日45分の"音楽活動時間"を作ってください。
休日はありません。毎日です。脳内に太い学習回路を作りたいからです。習慣によって脳は回路を作ります。
やることは簡単です。
45分で好きなジャンルの音楽を聴いたりネットサーフィンをしたりしてメモまとめをするだけです。文章が得意な人はブログを書いてもいいですし、SNSで発信してもいいです。
まずはいろいろなことを知ること、その先に真偽を分析する目ができてきます。
このとき大切なのは完全に主観で書くこと、引用はどこから引用したかちゃんと書くことです。また、自分の意見は所詮独自論ですから、他人に強要しないこと。
しかし、独自理解こそがあなたらしい音楽活動を作ってくれます。
それからこれも覚えておいてください。
・音楽に詳しい人の方が少ない。
・ましてや、音楽理論に詳しい人などほとんどいない。
音楽理論の話を聞いて面白いと思うのは、当人達だけです。それがステータスのように感じられるかもしれませんが、それは優越感しか生みません。ファッションです。
大切なのは、演奏できること、歌えること、制作できること、発信し続けることです。
例えば、ショパンが大好きなら
・ショパン研究家並みに詳しくなりたい!
・ショパンと同時代の作曲家、ピアノ曲に詳しくなりたい!
・19−20世紀の作曲家(ピアノ曲)に詳しくなりたい!
・ピアノ曲の歴史に詳しくなりたい!
・ショパンの演奏家に詳しくなりたい!
・とりあえずショパン全曲聴いて感想をつけたい
・...etc
などと大雑把な目標を決めてください。
有名なジャズ理論書マーク・レヴィンのジャズ・セオリーにも
疑問の答えはすべてあなたのリビングルームにあるということです。
と述べています。棚に並んでいるCDに中に答えは全てある、というわけです。
音楽への理解は、まず聴いて覚えることです。
聴き込むとその時の彼らの体調や調子なども感じられるようになります。私はジョージ・ベンソンやユーミンなど全曲耳コピ/分析をやってみましたが、今回調子悪そうだな、なんていうことが何となく感じられるのです。
45分でやること
その日の気分で自由に決めてください。
ショパンのピアノ曲に詳しくなりたい!とします。
・本を読みたいときは伝記や研究本を読みます。面白い話があればメモります。真偽はできるだけ明確にしておきます。
・インターネットをしたいときは、ショパンについてのサイトをかたっぱしから読みます。これも面白いネタをチェックします。どのサイトで読んだか、必ず出典を書いておいてください。権威筋以外の引用は信頼度が低いので、二次引用時に注意しなければなりません。
・youtubeなら、作品目録や年表を見ながらショパン曲を全部聴きましょう。全部聞いた、というだけでかなり凄いです。
好きなアーティストの情報に触れてゆくと、そのアーティストが影響を受けたアーティストや音楽理論的な解説、専門家の意見などを見ることができます。そこからまた遡って影響を受けたアーティストを聞いてみたりして、まずは現状の知識で理解できる情報を自分なりに網羅、まとめ直してみてください。
楽曲を聴くときは不定調性論的思考を活用します。
この方法は、音楽理論的知識、音楽史的知識がなくてもできます。
自分の感受性を研ぎ澄ませて聴きます。
例えば作品Aという曲なら、
//どちらかといえば好きか嫌いか
//曲はどんな雰囲気を思わせるか(夜っぽい?甘い?ワルツ?おしゃれ?など自分が後で思い出しやすいわかりやすい雰囲気用語を書き込む)
//曲の中でも好きなフレーズはどこか(あなたにとっての"曲の核"を探します)
慣れてきたら詳しく感想を書きます。"この繰り返すフレーズがいつも好き"とか。
//歌詞、ジャケット、作者のコメント、なんでもピンときたら感想を書いておきます。
「このジャケ、壁紙にしたい」とか。デザイナー調べて他の作品見たり。
//それ以外に気がついたこと、感じたことを書き留めておきます。
こうした分析を心象連環分析と言います(拙論)。
全部スマホに音声認識メモで入力しておくと、手持ち無沙汰の時、人と一緒で気まずい時、そのメモを直したりできます。時に雑談のトピックにもなります。そうしたことを考え続けることで、いつの間にか他の人よりも詳しくなっていきます。
自分でメモった後に他の人の感想、書評、論文、随筆なども読んでみると捕捉できます。
最初はボヤッとしか浮かんでこないかもしれませんが毎日続けることではっきりと印象を持てるようになります。そういう風に脳が働き出します。
一回聞いてわからない曲は今のあなたには合いません。
繰り返し聴きたくなる曲が今のあなたにぴったりです。
好みは来年はまた変わります。音楽は変わりません。あなたが変わるからです。
感想も解釈も変わります。歴史/理論勉強は自分の解釈を挟まないで行う作業です。生半可な経験しかないと自分の解釈が理解の邪魔をしてしまいます。音楽理論不要論はそこから生まれます。難しいですね。
それを3ヶ月〜半年続けてください。感想は自然とどんどん専門的になります。
対象はデスメタルでも現代音楽でもジャズでも映画音楽でもボカロでもミュージカルでもなんでも構いません。
外国語にも、歴史にも、国語にも、地理にも詳しくなれます。音楽理論好きな人は、物理にも数学にも詳しくなれます。"好き"は最強です。
また音楽の中であなたが気持ち良いと感じたところは音楽理論的にも重要だったりします(だから人が再利用できるように方法論として一般化している)。
音楽に詳しい人に
「この曲の、ここの部分がすごく泣けてくるんです、なんでですか?」
と聞きまくっていればあなたにぴったりの答えをくれる人が現れます。
"それはピカルディの三度だね"とか教えてくれたら、あとはその用語を覚えておいて調べれば音楽理論的用語にもちょっとずつ詳しくなれます。
音楽理論は「いきなり全部を理解しようとしない」がコツです。
わからなければ後回しでいいです。
一流プロが理論を理解しなくても音楽ができるのは、そんなことをする時間がないくらい音楽漬けだったから、それらの経験が理論学習を超えて「感覚」にまで落とし込まれているためです。音楽理論は彼ら(一流人)の感覚を体系化したものです。彼らは音楽理論そのものにまとめられる側になっているわけです。一般人と一緒にはできません。
そうやって勉強しているうちに
自分の"好き"の共通点が見えてきます。
あれ?この間もこういうフレーズあったな?とかです。
他人と自分の好みの違いもわかります。一般社会と自分のズレもわかります。
結果自分を知ることができます。これも大事です。
誰も「あなたが何を好きか」に時間を投資してはくれません。
自分の好きは自分で探さないと。
半年後、別のアーティストに広げたり、そこから別の勉強をしてもいいです。なんとなく続かなければあなたは現状、それに向いていません。次の趣味に進みましょう。
どうしても音楽理論をやりたい、という人は、
このページから追求したい分野を見つけて同じように本、ネット、youtubeで自由に独学してみてください。あまり分厚い本、難しい本は読まないでください。
それらは我々講師用です。業務用たこ焼き機を一般家庭に入れる必要はありません。
また「音楽理論」そのものに興味のある方は、「美学」「哲学」「認知、心理、脳科学」の方に向かうことをお勧めします。
アーティストの魅力ではなく、「音楽学が持つ知的欲求」に興味があるのかもしれません。
楽譜の勉強?
楽器を演奏しない、作曲をしない人は、いきなり楽譜の勉強はしないでOKです。
でも、やがて「音楽をある程度読み解くには楽譜の構造がわかれば効率が良いのではないか?」と本気で感じるようになります。それから楽譜について学んでください。
それまでに好きなジャンルを極めておけば
「あとは楽譜を理解するだけだ!」
「次のステップはもう楽譜読むしかない!」
となるのでモチベーションが全然違い前向きに勢いで学習に入れます。
楽譜という存在が役に立つのもこうした経験の後です。
勉強は何からやるか、がとても大切です。
基礎は一生つきまといます。
だから基礎で止まらずどんどん先走って、失敗する中で基礎の本質を体感してください。
勉強はやめないことがポイントです。一生終わらないようですし。
全ての勉強が無事終わりました!と宣言したノーベル賞学者がいたでしょうか。
専門の勉強は一度入ったら出られない沼に入ることです。
だからせめて入口だけでも楽しくのめり込めるような要素や教え方の上手な先生と出会うのが理想だな、と思っています。
なお、本格的に研究の道に進みたくなった場合には全く違う社会的価値が存在しますので、必ず専門機関に入学して博士号を取る目的でしっかりと勉強してください。
それまでの勉強がまるで遊びだったことに気がつくでしょう。
このブログに書かれているような内容など、本当に些細な情報だと感じることでしょう。
(番外編)親からダメ、と言われた時
学生さんとかで、家族から音楽なんかダメ、と言われる場合もあるでしょう。
その時は啖呵を切る前にまず冷静になってください。
必ず家族や周囲がOKと言ってくれる「落とし所」があります。
必ず一度は互いに利になる「交渉」をしてください。
交渉術は社会人の絶対スキルです。
そこで変に遠慮したり、よく考えず親に従ったりすると後で後悔します。
必ず自分の責任で考えてください。そう考えさせてくれる人と出会ってください。
親は不安です。それを一時的でも払拭すれば問題ありません。
家族の刹那的な反対に屈するようならあなたには音楽は無理です。
⇨お金になれば許してくれるかも⇨半年だけ収益化を目指して必死でやる。1000円稼ぐ、とかでいいです(ストリートライブ、ブログ、youtubeなら再生回数)。
⇨逆に勉強で成果を出せば、いい大学に行けば許してくれるかも。
そのために一時期苦しい音楽と勉強の両立の時期があります。
遊ぶ時間は削るしかありません。どうせ音楽の仕事を始めると最初は仕事などなく、一日中暇ですから(私はその時間教材を書いていました)。
大人になると遊び放題飲み放題です。学生時分有意義に遊ぶのは結構な労力が要ります。遊びたければ、いち早くプロになって、堂々と仕事ながら自分の金で遊んでください。
思い詰めず、巧みに自分がやれることを探してください。一面塀に囲まれていても、必ずどこかに穴が開くものです。理想とは違っても「好き」に進んでいれば、必ずちょうどいいところに安息の地を見出せます。考えて頑張ってください。