参考
よく話題に出る同書です。ちょっと古い本になってしまうので、持っていない、と言う方もいるかもしれません。
この記事で、ジャズを独習されている人で、自分が同書で学習できる段階にあるかどうかご判断される目安になれば幸いです。
まず、譜例が豊富ですので、楽譜が読めることが前提になります。
理論とは音楽の周りで知性が踊りをおどっているようなもので、本質は主観的な、非論理的な経験であるものを、客観的に、また論理的に説明しようと試みているものにすぎないのです。
マーク・レヴィン
同書の紹介
マーク・レヴィン ザ・ジャズ・セオリー「ATN 公式オンラインショップ」
ATNの音楽理論書関連はこちらから。
理論/アレンジ イヤー・トレーニング「ATN 公式オンラインショップ」
同書は、モダン以降のジャズプレイヤー向きです(演奏家向き)。
00年代初期ぐらいまでのコンテンポラリーな様々な手法を実際のプレイヤーの実例を多く含んだ膨大な情報をもつモダンコンテンポラリージャズ方法論書、と考えてよいでしょう。
コンテンポラリーといっても、フリー思想までは扱っていません。
買った当初はアウトサイドする技法などに初めて触れた本格的なジャズ一般書の海外翻訳本!と言うATNらしいイメージでした。
数年かけて読んでいく本です。
これからジャズを勉強しよう、として買うレベルのものではなく、音楽学校に在籍2年目または卒業してすぐの人が、これから数年どういったことを意識の指標にしてジャズをやっていくか、について刺激を受けるためのジャズ方法論辞典です。特に伝統的ジャズを学習する人にとっては決して色褪せないメソッドでしょう。
その代わり先進ジャズを行う人にとっては保守的に映るかも知れません。
一度には読みきれないので、どこに何が書いてあって思い出せるようなインデックスを別途書いておき、いつでも参考にできる、という状態にしておくと活用できるでしょう。
この本の先に、最新のジャズのトレンドがあるので、早々に内容を取り込んで、最新の音楽をどんどん聴いて自分なりの研究分野に進んでください。
またDTMなどを用いているクリエイターがジャズの手法を取り込もうと考えている場合、同書はDAWまたは機材的環境との連携等については全く考慮されていないのでご注意ください。あくまで音楽理論的、方法論書として活用ください(練習方法等の記述も当然アナログです)。
本気で勉強をしていたら10年ほどかかる内容ですし、ハマってしまうと方法論の学習、研究にこだわるようになってしまいます。
目次をまとめますのでご参考ください(丸写しではありません)。
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著者の言葉
ピアノについて
用語、特殊な業界用語、ミュージシャンのニックネーム 他
Part1 理論:コードとスケール
Chapter1 基礎理論 p3-
インターバル、インターバル一覧表、インターバルの転回、トライアド
Chapter2 メジャースケールとII-V-I進行 p13-
メジャースケールのモード、II-V-I進行、Voice leading、サイクルオブ5th、ロクリアンモードとハーフディミニッシュコード、 モーダルジャズ 他
Chapter3 コードおよびスケールの理論 p29-
メジャースケールハーモニー、メロディックマイナーハーモニー、ディミニッシュスケールハーモニー、ホールトーンスケールハーモニー
Chapter4 スケールの練習法 p89-
Chapter5 スラッシュコード p96-
Part2 メジャースケールとII-V-I進行
Chapter6 スケールから音楽へ p107-
スケールから音楽へ、シークエンス、連続したスケールエクササイズ、シークエンスの名人たち、 トライアドに基づいたインプロヴィゼーション、7thコードのシークエンス、コモントーン(共通音)他
Chapter7 ビバップスケール p157-
ビバップドミナントスケール、ビバップドリアンスケール、ビバップメジャースケール、ビバップメッロディックマイナースケール、ビバップスケールリック 他
Chapter8 アウトサイドの演奏 p169-
半音ずらした演奏、トライトーンずらした演奏、他
Chapter9 ペンタトニックスケール p177-
ペンタトニックスケールのモードおよびマイナーペンタトニックスケール、II-V-Iコード上のI,IV,Vペンタトニックスケール、ペンタトニックスケールを用いたGiant Stepsの演奏、メジャー7thコードに対するIIペンタトニックスケール、メロディックマイナースケールに対するIVペンタトニックスケール、陰旋法およびその他の5音スケール、ペンタトニックスケールの練習法 他
Chapter10 ブルース p202-
ブルースチェンジ、特殊なブルース、他
Chapter11 リズムチェンジ p217-
Chapter12 練習、練習、そして練習 p223-
練習そのものを音楽にする、すべてをすべてのキーで練習する他、自分の弱点を練習する、スピードは正確さから生まれる、トランスクレイブ、リラックス、練習環境の改善 他
Part3 リハーモニゼーション
Chapter13 基本的なリハーモニゼーション p237-
II-VのVのリハーモニゼーション、トライトーンサブスティテューション、マイナーコードのリハーモニゼーション、Vコードのリハーモニゼーション、Iコードのリハーモニゼーション、ソロを演奏しながら行うリハーモニゼーション 他
Chapter14 高度なリハーモニゼーション p279-
コントラリーモーション、パラレリズム、スラッシュコード、上行および下行するベースライン、susおよびsus♭9コード、ディセプティブケーデンス、クロマチックアプローチ、Vコードのアンティシペーション、ディミニッシュコードの使用、ペダルポイント 他
Chapter15 コルトレーンチェンジ p327-
Giant Stepsチェンジ、CowntdownとTune Up、スタンダードに対して演奏されるコルトレーンチェンジ、短三度で動くトーナルセンター、McCoy TynerのロクリアンVコード 他
Chapter16 3つのリハーモニゼーション p347-
Part4 チューン
Chapter17 ソングフォームとコンポジション p359-
イントロ・インタールード・スペシャルエンディング・シャウトコーラス・ヴァース、メロディがベースによって演奏される曲 他
Chapter18 リードシートの読み方 p375-
調号、メロディ、チェンジ、リズムおよびフレージング 他
Chapter19 曲の覚え方 p383-
Chapter20 ヘッド p387-
Chapter21 レパートリー p391-
Part5 その他の重要なこと
Chapter22 サルサとラテンジャズ p428-
ラテンミュージックとは何か?、クラーヴェ、隠れた小節線 他
Chapter23 未解決の問題 439-
ハーモニックマイナースケール、ハーモニックメジャースケール、従来の理論の限界、間違った音、批評、書評 他
Chapter24 リスニング p451-p468
巻末p469-28ページにわたり、各種教則本が列挙されているのがまた嬉しかったです。次のステップを選ぶことができました。さすがのATN感。
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500ページ近い内容が見開きA3サイズに小さい文字でびっちりと書かれています。
気後れぐらいの分量ですが、読みやすいですし、YoutubeやSpotifyで音源を探したりしながら読めば、まるでインターネット講義を受けているようです。
以下、ランダムに引用します。
P viii イントロダクション
1%の魔法、
99%は
説明できるもの、
分析できるもの、
分類できるもの、
やればできるもの
P viii
理論というのは、なぜCharlie PerkerやJohn Coltraneがあのようにサウンドするのかを理解できるように、なんらかの法則を見つけ出そうと、音楽の周りで踊っている思考上のダンスのようなものです。ジャズ・ミュージシャンの数と同じほど、多くのジャズ・セオリー(理論)が存在します。
P ix どれだけ上手くなりたいか?
疑問の答えはすべてあなたのリビングルームにあるということです。
(持っているCDの中に答えはある、の意味)
Part1 理論:コードとスケール
p4では各インターバルを実際の曲を例に出して解説してくれます。
p11 イヤートレーニングについて
耳を鍛えなければならないのは、優れたソロというものは、頭の中で聞こえているものを楽器で演奏することによってほどんと創られているからです。
優れたソロのニュアンスを聞き取れる耳を持つことが巨匠に近づく一歩、という意味でしょう。
Chapter5 スラッシュコード p96-
スラッシュコードは分数コード(C/D...)です。様々な実例を示しながら不定調な分数コードの実例とその効果を解説していきます。
Part2 メジャースケールとII-V-I進行
Chapter6 スケールから音楽へ p107-
シークエンスとは、フレーズのひとかたまりのパターンのことです。複雑なインプロヴィゼーションでもシークエンスを使うことで脈絡を作ることができます。同書では様々なシークエンスの達人の技を紹介してくれます。楽譜です。yourubeのリンクなど貼ってありませんから、自分で探してください。
Chapter7 ビバップスケール p157-
ビバップスケールとは、通例のスケールに半音連鎖が入った実用的なスケールのことです。II-Vはこれを使うだけでただのスケールの上下でも自然に音楽的にできる、という特性があります。
Chapter9 ペンタトニックスケール p177-
同書ではポリペンタトニックの考え方に力を入れています。この頃ちょうど流行ったアウトアプローチでしたね。メタルもジャズもみんなポリペンでした。私もスコット・ヘンダーソンの影響を受けて散々勉強しました。
Chapter11 リズムチェンジ p217-
リズムチェンジはI,VI,II,Vによって組み合わされるシークエンス的進行をすべてリズム・チェンジとして解釈しています。教材によってターンアラウンドと呼ぶ概念も含めて解説されています。
Part3 リハーモニゼーション
ここでのリハーモニゼーションは、即興演奏内で即興的に行うためのリハモに特化してながら、テーマなどにおいてちょっとコンテンポラリーなアレンジを施す際のアイディアなどと織り交ぜて当時最先端のリハモ技法が紹介されいてます。歴史の勉強として通り組むと面白いでしょう。ほぼ現代のコードアレンジの源泉がわかると思います。
Chapter15 コルトレーンチェンジ p327-
ハーモニーの革命として、まだ音楽理論的なコンプレックスであった コルトレーンチェンジが詳細に解説されます。またコルトレーンがこの発見を他の曲にも活用した例なども紹介されています。ジャズの歴史書と化しています。
Part4 チューン
Chapter21 レパートリー
965曲紹介されています(アーティスト/曲名のみ)。これらの曲に自分だけの話題を繋いでいけばジャズの講義は一生困らないでしょう。
Part5 その他の重要なこと
Chapter23 未解決の問題
p449
あなたはアーティストとして完璧を目指して努力しなければなりませんが、自分が出した間違った音にくじけてしまってはいけません。(中略)かつて、Art Blakeyは「誰かが間違った音を出した。そしてジャズは生まれた」と言いました。
ああ、、講義ですね。こうやって自信を持って語りたいものです。
Chapter24 リスニング
p458
Herbie Hancock
・Maiden Voyage (中略)1960年代における最高のレコーディングの1つ。
ジャズを知らない頃は、このレヴィンの主観に助けられるでしょう。 有名曲だけでなく、彼が厳選して良いとおもったナンバーがおそらく200曲をはるかに超えて掲載されています。ここを読むだけでジャズの歴史がわかります。あなたはレッド・ガーランドの代表曲、代表アルバムを3つ以上言えますか?
私も言えませんが笑。でもこの本に11作品紹介されているので、それを聞いていつでも予習できます。これで受講生にも「レヴィン先生のオススメのガーランドはね」と第三者的に紹介もできます。
方法論書としては若干古い感じもしますが、ジャズのレコードが変わることはないので、誰の何を聴くべきか、どの曲のどんな特徴があるか、どのアーティストにどんな話題があるかが網羅されているので、熟読しておけばジャズの技法や温度感などはほぼ理解できてしまうでしょう。
それでも、学習の先に「じゃあ自分が何をするのか」と言う"本題"が待っていますので、もしまだ自分の活動方針が決まっていない人は読み終わった後に振り出しに戻るのを覚悟しておいてください。
ビジュアルもごっつく洗練された装丁で、他の理論書の二倍の大きさ、厚さ、重さを感じます。良い紙が使われており「理論書(方法論書だけど)」というイメージが持つ全ての概念が製本化された感じです。
当時は持っているだけで頭が良くなる本、と言われました笑。
戸棚に置いておくだけでも絵になります。
この本を見ると、紙を崇拝したくなります。
==コーヒーブレイク〜M-Bankロビーの話題==
ザ・ジャズ・セオリーというよりザ・モダンジャズ辞典!!です。