前回
前回に続き、参考曲の抜粋です。
ピアノ編曲と書いてある作品は、声楽とピアノの作品や複数のピアノ編曲の場合なども含めてあるそうです。
四度和声が使われた作品
バーンスタイン ピアノのための7つの記念(Seven Anniversaries) 3頁
ヴァレンティノ ブッチ ピアノソナチネ(1938) 3頁
ヒンデミット 気高い幻想 管弦楽組曲 49頁
Paul Hindemith - Nobilissima Visione, Konzert-Suite (1938)
ストラヴィンスキー 七重奏曲 11頁
ウォルトン ヴィオラとオーケストラのための協奏曲 ピアノ編曲 12頁
調性に対して無頓着なこの無根音和声(Rootless Harmony)では、主導的旋律線を示す声部に調を確認する負担がかけられている。
完全四度構成の和音中の各音は、他の音と同様に重複されてもよく、この際外声の重複は、和声の色彩を豊富にし、また内声の重複は各声音の動きを強める。
一番低い音と高い音を重複(同じ音名のオクターブ違い等)させると、和音としての響きのニュアンスがくっきりし、それ以外の和音の中間部の音を重複させると、和音連結の進行感が強くなる、ダイナミックになる?的な表現と思います。
ちょっとここで不定調性論を入れますと、音程は、歩幅の単位ですから、オクターブレンジの考え方と通例の音階の考え方を活用して、四度音楽の音階を考えてみましょう。
二つの四度を静と転とします(同著には書いてありません)。
cの上部に半音が重ならないように四度を重ねると、
このような音階ができます。これで三和音を作ると、
gだけ増四度にしないとトップノートでeが出てしまうのでそこだけ調整します。
あとは四度堆積において、cを持つ7音集合をcの下にどんどん降っていって、元々の音階音以外の構成音にどんどん当てはめていくと、
左上から、右下に、どんどん増四度が加えられる音階ができます。
最後の音階だけ、元々増四度を使っていたf#-c-fだけそのままにして三和音を保ちます。
綺麗に上部が増四度になります。この時、c音を音楽的なクオリアで根音と心象するとき、これらの静から転への雑然と、騒然となる変化が楽しめます。
最初と最後の二つだけを並べてを聞いてみましょう。
逆に四度音程を上に辿っていくと、減4度、すなわち長三度が出てきてしまうので、厳密な四度和音を作ることが難しくなります。下記の四つだけが可能です。
音で聞いてくと、どんどん増四度がなくなり、静だった感じが、どんどん機能和声のような「色合い」を持ってくるように感じます。
それぞれ音階の一番低い音は赤い枠の音です。
ここに使用範囲をどんどん下げていくと、cを含んだ7音集合でありながら、他の音が入り込んで、音階集合の中にはどんどん増四度が生まれます。
四度和音については、減四度という意味をどのくらい認めるか、どう解釈するかで音楽性の抽象性、色彩感が変わってくると思います。
二度和声が使われた作品
カール バーガー ブログダール 宇宙オペラ(Aniara) ピアノ編曲 105頁
ドビュッシー 前奏曲 第2巻 73頁
プーランク ピアノのためのプロムナード(Promnades) 13頁
Carl Ruggles - Men and Mountains
伝統理論的な解釈は原点に当たっていただきたいのですが、少しライトに語ると、
四度和音にて静と転としたように、心象の抽象的な二極の概念を置くことで、和音のグラデーションを自分で設定できます。
不定調性論的な観点を得た人は、
三度和声の煌びやかで、ちょっと人工甘味料的な甘さ、手作りなんだけど、かなり使い古された中古品のような匂いのする展開を良いと思う時と、少し胸焼けする時などがあろうかと思います。
ぼーっと作ってるとスルーしてしまうでしょうが、真剣に作っていると、耳に触る明るい響き、暗い響きがあるものです。
そう云うところを四度重ねにしたり、二度重ねにすることで、イメージを変えることができます。ただ一般性は無くなるので、自分なりに例えば、
四度和音は静と転
二度和音は硬と柔
クラスターは黒と白
などとある程度事前に自分なりの感じ方の二極化を一旦明確にした上で発信すると良いと思います。
ただ「今回は四度和音使ってやろ」とかと思うと、曲を無理くりそっちに曲げるような作りになり、やたらと香水が鼻につく女性、とか、やたら首の光るものが目に入る男性、みたいな作りになってしまう時があります。
クラスターで簡単に考えてみましょう。同書のクラスターの解説も詳細です。
単音の周囲に音を重ねて塊のようにして旋律を弾いたり、二つの異なる音階を密集させてクラスターを作ったり(ポリクラスター/多クラスター)といったマニアックな情報もあります。
また、メロディをいくらクラスター化しても、状況によっては、クラスターの独自の表情が生まれず、ただの不協和音の塊が音階的に並んでいて効果が薄れる、といったことも同書で知り、自分でやってみて確かに実感しました。
注意を弾く旋律がありと、人は、旋律を聞こうとするので、その認知を歪めてしまう効果散漫な結果しか作らないクラスターは逆に意味ない、というわけです。
こうしたノイズに対する認知の知識をしっかり持っていないと、ノイズ自体すら扱えない、というのが現代音楽のそこはかとなく難しい点でしょう。一方で、より自由に安易に楽しめる現代音楽であるpop musicの方が広く一般に受けたのだと思います。
あとは厳格な理論的姿勢で書かれていますので、伝統理論からの側面を把握されたい方はぜひ原著をあたってください。
自分で仕組みづくりをできれば(独自論)、あとはそれで実際表現しながら、もしうまくいかなかったら、先人の技などを検索してみたら良いと思います。
これはG7→Cという進行をどんどんクラスター化していった独自論です。
1はコアとなる動きのみ、"穏やかな空と明朗さ"
2は調生内音のみ、"とりとめもない日中のルーティン"
3はG7のみ変化音、"穏やかな日に時折吹く肌寒い風"
4はG7はクラスター化、」Cには#11th追加、"銀色の不安と苦味"
5は根音を除いた上部和音の最低音、最高音から半音離してクラスター化、"霞がかった太陽"
6は上部和音のクラスター化、"硬質な水の流れ"
7はより抽象的に、G7ではざわついた和音の不均衡、不安定を作りCの部分では、クラスターだけど、整然とした感じを作り、ベロシティ(音の強さ)もG7では少し大きめ、Cでは少し小さめにして全体的な不安定→安定を具象化して表現した感じ、"誰かが水溜まりを踏んでざわついた水溜まり"
です。7ではCのところでeだけ少し強めにする、といった表現もしています。"※※※"で囲った心象がパッと浮かべば、、その曲に合うか合わないかはすぐ判断できると思います。もしよくわからなければ、先に示した静と転、硬と柔、黒と白などの濃度で自分なりに分けてみてください。
ただ和音の心象は、結局一期一会なので、意味のあるなし、程度の差の曖昧さがあれども、自分がその時感じた心象がパッと浮かぶようにしておくといちいち「程度表現集」を開かなくても、その時適切な判断が直感で下せるようになります。
これは例えば、5のG7などはただのG7(9,b9)なのですが、G7(9,b9)って普通は使わないと思います。このように外音から半音空ける、といったコンセプトでふと現れたりする和音です。ジャズ理論的ではないですが、見た目の整合性、聴覚感覚上の聞き慣れた感じ、などによってちょっとだけクラスターへの感覚が身近になると思います。
あとは個人の音楽英なので、インスピレーションが沸けば、歴史上ではクラスタにマジで取り組んでいる作曲家などもいるので検索したり、伝記を読んだりして知識を深めた上で独自論を進化させてください。
クラスターが使われた作品
ベルグ ヴォツェック 33頁
ブロッホ ピアノソナタ 1頁
カウエル リール舞曲の陽気な旋律(Silt of the Reel)
Henry Cowell - The Lilt of the Reel audio+sheet music
Alan Hovhaness - Magnificat for Soloists, Choir and Orchestra, Op. 157 (1958) [Score-Video]
ヴァレーズ イオニゼーション(Ionisation-電離) 21頁
続く。