音楽教室運営奮闘記

音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

M-Bankユーミン楽曲(コード進行・歌詞)研究レポート公開シリーズ1★★★

 日本人の心の情景を変えたシンガーソングライター

(改訂版)

―研究レポート;ユーミン楽曲の和声分析と音楽的クオリアが紡ぐ作曲の手法―

 

〜2015年3月29日(日)日本音楽理論研究会発表参考資料〜

 

監修;music school M-Bank 

 

注)15年発表時から、さらにスティービー・ワンダー研究なども通して得たことを今回改めて見直し改訂しブログ用の文章にして発表しています。

注)文章が"である調"であったり、ユーミンチームへの生意気至極な書きようは今回かなり訂正しましたが・・文章の展開上致し方ない表現がまだございます。ご容赦頂けることを切に願います!売上で貢献いたします ٩(゚T◇T)و.

注)旧ブログ記事と被る部分はできる限りこちらのレポートに統一してページを再構成しています。しばらくはご迷惑をおかけしますがどうぞ宜しくお願い致します。

注)あくまでその音楽に寄って書いています。わたくし自身はむしろ正反対の発想を持つ場合が多く、ここで書かれた内容のテンションやニュアンスの全てが筆者の音楽に代替するものでありません。

本レポートの構成

 

1.本レポートについて(当記事内)

2.本レポートの事例解説とその周辺(当記事内)

3.前回までの日本音楽理論研究会での発表の流れと意義・課題

4.ユーミン略歴他

5.ユーミン楽曲についての各所見

6.和声技法事例集

7.歌詞の音楽的風景

8.ユーミン楽曲からの発展技法と不定調性論

9.参考文献抜粋資料

10.参考資料一覧

 

1.本レポートについて

ポピュラーミュージックの楽曲を還元すると、メロディとコードと歌詞という三つの基本構造に分けることができる。楽曲を作るとき、鼻歌のようなメロディの断片、メロディを引き立たせる和声、旋律と和声の雰囲気を彩る歌詞を紡ぐことによって楽曲の骨組が出来上がる。この骨組が完成すれば、その曲はギター一本でも表現することができる。その手軽さがポップミュージックの魅力である。あとはいかにこの骨格の段階で新しい音楽的挑戦を行うか、である。

 

本レポートでは、1970年代から現在までポップミュージックシーンの第一線で活躍し続ける松任谷由実=ユーミン(以下、敬称等略、切にご容赦頂きたい)の楽曲構造(主にオリジナルアルバム収録作品約370曲が対象)に見られる和声進行ヘの挑戦に特に着目している。そしてその構造的特徴を121の事例に列挙した。これからポピュラーミュージックを学習する人(特に初学者~中級者)が事例から和声的アイデア、技法を吸収し、少しでも自己の作品作りのインスピレーションになれば、という思いでまとめた。

 

さらに当初は、次のポイントにも留意して分析を進めていた。それは、

 

私自身が、私にとってのユーミンの「音楽の価値」を本当に発見できるだろうか。

 

という点である。分析者本人が価値を見いだせない作曲家を分析していても仕方がない。すくなくともこの分析を始めるまで、私はユーミンの音楽における音楽的挑戦について全く無知の状態であった。

ポップミュージックを志す者は、CDを売り上げ、自作曲がドラマの主題歌になること等を一つのゴールに挙げるかもしれない。これは公に認められる評価であり価値となりうる。しかしその事実だけが「その音楽の価値」ではないはずである。音楽には公の価値と私的な価値があると思う。ユーミンの商業的成功と文化的貢献は、2013年に紫綬褒章を受賞したことからもその公の価値は明らかである。しかしそれは個人にとってのユーミンの具体的な魅力にはなりえない。確信を得たいのは「なぜユーミンはこれほど日本人の心に寄り添って離れないのだろうか。」という世上の風評の正体である。どうせ分析を進めるなら、その音楽的価値を商業的成功やブランディングとは関係のない、この評判の正体を自分なりの納得のいく形でその音楽に求めなければならないのではないか。

 

先に結論を述べると、ユーミンによる日本語表現にこだわった心の情景を描くようなファンタジーエッセイ(またはscene essay=情景のエッセイ)と、たゆまぬ工夫によって生み出された多彩な和音進行と、心象感豊かな言葉とメロディを、ユーミンの素朴=身近な人にいそうな・・と感じる声のトーン)で歌われることで、それまでにはなかった新しい日本人の心の情景、既視感のような郷愁と心地よさが人々に遺伝子の上から上書きされ、ある種の心地良さの理想ともいえる心象感に魅せられ続けてきた、という事実に壮大な魅力を感じるに至った。

 

本レポートでは全編を通して、この思いを綴っている。その結論を皆さんがどう切り分けるかは、各位の卓見に委ねたい。

 

この121曲という抽出は私の判断である。おそらく対象曲370曲全ての中にユーミンチーム自身にとっての新しい技法があると考えてもよいだろう。決して過去にとらわれず、新しい音楽表現を追い求めたからこそ生まれたこれらの事例は、通例当時のポピュラー音楽学校の勉強で学ぶコード進行の一般学習の範囲を超えた応用技法の連続である(それらの一時転調を伴う和声進行を総じて「不定調性進行」と普段私は呼んでいる)。その中でも特に独創的なものを注意して選んだつもりである。

 

常に新しい手法を用い、分析をする度に、それまで自曲で用いられたことのない技法が次から次へと出てくる。ビートルズの革新性とは全く異なる周到に研磨された音楽性の進化の歴史を121の事例で確認できることは、世界中の10000曲の分析を行うより効率的で、かつ一貫した精神的な学習効果も高いと判断する。

 

「第一線で活躍する人というのは、これほどまでに工夫を続けないといけないものか」と驚嘆した。積み上げられていく技法の数々は後のアルバムの曲になればなるほど精錬されていく。

 

ユーミンの人生の旋律は、いまだに終わることなく響き続けている。私にとってのユーミンの価値は、この技法の数々と積み上げられた歴史の結果生み出された楽曲の構造美そのものであった。この構造美の事例集が今後ポピュラーミュージックの作曲を志す人のアイディアのキュレーションとなり、少しでも初期の学習のクオリティとレベルを上げ、より効率的に高いテクニックを学習できる題材の一つとなってくれることを願いたい。

 

さらにそれらを発見しただけでは、応用の術にまた同じだけの時間を個々人が費やすことになるため、そこをガイドすべく、「8.ユーミン楽曲からの発展技法と不定調性論」において、その更なる発展の可能性をまとめた。和声進行の扱いは時代とともに変化していく。アレンジが昨今のライブでは変化している部分もあるであろう。私が考えるようには、ユーミンチームが考えるわけではないし当人はこのレポートに書いてあるようなことはとっくの昔に悩みぬいている問題であろうし、その真髄は今全く違う所にあるだろう。ゆえに当レポートで重視した点が、必ずしも「現在のユーミン的世界」の鍵となるのではない。しかしこれらの技法を吸収した上で、ユーミンの発言や考え方に耳を傾ければ、その稀有な音楽性やプロフェッショナルなアプローチへの共感が高まることは請け合う。

 

レポートは、ポピュラー音楽作曲の知識がある程度備わっている状態を想定した形となってしまった。不明な点、表記ミスなどがあればご指摘頂きたい。随時修正を行っていくつもりである。また和声の聞き取りミス、解釈違いなどもあるだろう。ゆえに私の聞き取りミスによってユーミンのアプローチを誤解することのないよう、自身の聞き取ったコード進行表記だけをみて「ユーミンはこう考えているはずだ」という推論や断定を行う形にならないような工夫をしてある。また気になるポイントは自身で聞きとって頂きたい。聞こえ方というのは、音楽の好みと同様千差万別であるからだ。

 

また、本レポートの表題である「日本人の心の情景を変えた」うんぬん、というのは、根拠を示しきれるものではないだろう。しかし高度成長期からバブル時代を経て、21世紀を越える今日の今まで40年以上、ずっと私たちの生活の音楽であり続けたという実績は、「トレンディ」の象徴であるドラマや映画、CMの脚本の土台、主題歌となり、時代の若者たちの生き方の象徴となり、リゾート、クリスマスや夏のバカンスなどのイベントのタイアップ曲となり、そうした時代を彩って企業の顔となってきたタイアップ本数が200本を越えることをみれば明らかである。それを証明したい訳ではない。その歌詞はファンタジーかもしれないが、時代の憧れとなり、そのトレンディな世界感をそのまま実現し得た人もいるだろう。参考文献引用などを見て頂ければ分かるが、それまでのフォークソングにはなかった洗練された表現がその後のアーティストに与えた影響ははかりしれない。この表題は、これらの何となく世間に流布している実績を明確に象徴する言葉で表現したくて付したものである。その音楽と活動によって、日本人のいくつもの世代の心に思い描く理想のあり方を変えたアーティストなのではないか。少なくともポピュラー音楽が身近にあった人にとっては。

 

音楽活動を続けるためには、アーティスト本人の強靭な努力とともに、優秀なスタッフ陣とそのチームがあってはじめて成り立つ。これは一般企業でも、どんな組織でも同じであろう。改めて、長きに渡り第一線を走り続けるユーミンの音楽活動の歴史に、ユーミンスタッフチームの結束、その類い稀なる仕事力に、一個人として最大限の敬意を表したい。本レポートで用いる「ユーミン」という語は、時にアレンジャー松任谷正隆氏とのユニット名を指していたり、またそのスタッフチーム全体を意識して用いている場合もある。ご留意頂きたい。

 

 

問い合わせ先;

〒154-0012 世田谷区駒沢3-2-1-8F

music school M-Bank terauchi katsuhisa

TEL 03-5431-3419 

 

2.本レポートの事例解説とその周辺

ユーミンの登場は、ガールズポップの誕生、日本のロックの歌姫伝説、ニューミュージックという文字通り新しい可能性を持ったポップミュージックの出発点であり、その歴史は日本のポピュラー音楽の創成と発展の歴史そのものである。

 

本レポートの中心となる和声進行についての内容を理解頂くために事例を一つ提示する。

「流線形'80」(1978年)収録の「Corvett1954」(事例23)のAメロのコード進行は下記のように表記できるだろう。

open.spotify.com

Aメロ(アルバムに収録された当楽曲の該当タイム0:24-)

C  |Gm |C  |Gm  |C  |Gm  |Fm7 |Am7 |〜

※「|」は小節線とする。

=degree(調を指定しローマ数字でダイアトニックコードを表記)=

(key=C)

I  |Vm |I  |Vm  |I  |Vm  |IVm7 |VIm7 |〜

 

原曲を聴いて頂きたい。

注;ブログ用にはSpotifyへのリンクを統一して貼り付けていくことを考えている。

旋律音の分析は省略するが、この部分はCメジャーとCマイナーのダイアトニックコードを行き来していると解釈もできる。しかし一番の問題は「ユーミンがなぜCの後にGmを用いたのか」という発想の脳内経路の解明がどのようにできるのか、である。そしてそこからの方法論の一般化と活用のための手順を、このレポートが示せるかどうかであろう。本レポートが目指したのは、単なる事例の列挙ではない。そうした事例を経験値として、それらの発想の先の「どのようにすれば、こうした発想を現代の音楽に取り組むことができ、さらに個人がオリジナリティを見つけ、肯定し、創作作業に移れるか?」という点への追求に主眼が置かれなければならない。

 

たとえば同曲のC  |Gm  |という部分は、通例C  |G  |として作っていくパターンの変形と捉えることもできる。つまり、まずC |G |という進行に辟易するほどの作曲経験がないと、これを変えようとは考えないかもしれない。ユーミンがデビューアルバムから用いているVmに該当するGmをここに据えた意図は本来様々であろうし、ユーミンの意識の中での選択の結果である。しかしながらC→Gmのサウンドには、そうした作曲者の意図に関わりなく聴き手各位がそれぞれの和声への印象を持つだろう。この部分の歌詞をみると「月も追ってこないわ みんな探してるころ Corvett1954 あなたとどこへでも行く」となっている。私はこの二つのコードの流れに対するこの歌詞の一文のためか、このC→Gmの流れに“颯爽と走り去るスポーツカーの風”を感じてしまう。

(このような個人独特の"印象感""風景感""模様感""感情感"といった表現で音楽の印象を明確に言い表すスタイルを不定調性論的な和音理解、としている。これについてはすでに多くの方に活用いただいている)

 

この自由に心に浮かぶ印象・心象こそが「音楽的なクオリア」であり、調的な束縛や和声進行の慣習という理論的理由とは別に、個人が音楽を具体的に創作する際の音楽的脈絡となり、作曲の動機、「その和音を選び、その旋律を乗せる判断を下す」動機になる、と考えている。

 

音楽的なクオリアのここで持つ意味や概念は私の創作である。「音楽的脈絡を感じる心象、印象、色彩感」という意味である。音楽を作るとき、メロディを紡ぎながら、和音をつなぎながら、その流れに作曲者自身が何らかの音楽的な脈絡を感じ取ることができなければ、音楽を意図的に意味を持たせて作り上げることは一挙に困難になる(これも単なる経験則かもしれないが)。C |G |かC |Gm |かを選択するとき、作曲家が「音楽的なクオリア」を適切に感じ、納得できるからこそ、その進行で制作を進めることを決断するのではないだろうか。その判断基準は一体何なのであろうか。またこの判断基準のみが個性を純粋に反映させた意識過程ではないのか。この音楽に対する心象を明確に描き切ることができれば、創ろうとしている音楽行為全体の意味が把握しやすくなるのではないだろうか。これは「自分は何をしたいのか?」という問いにつながり、「自分はどういう嗜好を持つのか」を決定づけることになる。商業的音楽を作る際には、求められた楽曲に応じてこの判断基準を変えなければならないだろう。この線引きも音楽的なクオリアのバリエーションを拡張することによって可能になるのではないだろうか。

 

本レポートの参考文献インタビュー等を読んで頂くと、ユーミンの「音楽的なクオリア」の風景を発見するはずである。そして各位それぞれの場合「自分であればどうか」を発想するはずである。そしてその音楽的なクオリアが十分な風景を個人の中に確信を持って描かれる時、その音楽的展開は独自性を持ち、個性が生まれるのではないだろうか。

 

そのトレーニングの方法として、

 

“あるコードから次のコードに移った時、それがどのような和音進行であれ、音楽的クオリアを創造し積極的に構築すること”

 

という心象創りの訓練を行うことで、自分の中に無い和声の意味の連鎖の構築を行えるようにする。

初学者であれば、本レポートの事例集に掲載されたコード進行をちょっと弾くだけでも、自分の先入観で使いこなせなかった進行をいくつも見つけることだろう。和音進行は楽器演奏時の手癖や、機能和声的な習慣から先入観が生まれてしまい「このコードの次はここではこれしかあり得ない」「このコードの次はこのコードだけはあり得ない」という考えになってしまう。そういう思考の結果生まれてしまうマンネリ化を避けるために、柔軟な心象展開が必要になってくる。必要なのは理論的展開を咀嚼し再創造する学習能力である。それをこのレポートで極端なまでに展開することで、各位の落としどころをご自身の意思と信念で探していただき、創作活動につなげて頂きたい。

 

常に音楽的なクオリアを持つ、ということについては、例えば、

 

CM7  |F#m7 |CM7  |F#m7 |

 

というコード進行に、何らかの音楽的印象を感じ「意味を持たせる」ことができるか、ということである。たとえば「朝の空気」とか「昼の風」とか「夜の匂い」とか漠然と意味のある言葉でも良いし、「緑色の糸くず」とか「ぐちゃぐちゃな手書きの線」とか「丸い光」とか意味を持たせづらい表現でも良い。先ずはそうした心象が和声から生まれることが奇跡ではないか。和声が心に、脳に共鳴し、そのサウンドと、あなた自身のプライベートな経験から、何らかの記憶や概念、匂いや想いをごちゃまぜにして一気に脳内を巡り、心象を生み出す。あとはそれを感じ、表現し、その一連の創造行為こそが作曲行為の一部である、という経験を積み重ねていく事にある。

決して「この進行は聴き慣れないから、イメージなんて浮かばない」「調がはっきりしないから良いメロディなんて乗るはずが無い」「自分の音楽にこの進行はありえない」などとは考えない、ということである。

そして印象に即したメロディを当て込み(逆もあり得る=メロディにあり得ない和声をあてはめる発想)、歌詞を乗せてポピュラーミュージックにする、ということが楽曲制作の技法的拡張や発見のトレーニングになるだろう。もちろんその和音進行が、広くリスナーに受け入れられるか、はまた別問題である。

本レポートの「8.ユーミン楽曲からの発展技法と不定調性論」において簡単に発展的考察を行ったが、音楽的なクオリアによって自由連鎖されるコード進行体系と、その構造化については私が別途試みている参考教材『不定調性音楽論』があるので、そちらも参考いただきたい。

 

また、本レポートの和声事例は、特に曲中(歌中)のコード進行に注意を払い分析した。作曲における(または作曲を教授する者にとっても)曲中の展開のバリエーションの拡張が何より重要と考えたからだ。ゆえにイントロ、間奏、エンディングなどの部分、1コーラスの楽曲構造などは、特に手法として簡易に活用できるものと私が判断した部分以外はほぼ割愛した。ユーミン楽曲のイントロ、エンディング、間奏での展開事例は作曲家、というより編曲を主に仕事をする方にとってはまた別の研究テーマの一つとなるであろう。

 

その2へ

www.terrax.site

 

 

 

 


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