音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

8.ユーミン楽曲からの発展技法と不定調性論1 (ユーミンレポート公開シリーズ)20

2019.7.16⇨2020.5.24更新

日本人の心の情景を変えたシンガーソングライター(改訂版)―研究レポート;ユーミン楽曲の和声分析と音楽的クオリアが紡ぐ作曲の手法―

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8.ユーミン楽曲からの発展技法と不定調性論 

私は音楽の中の歌詞に意識を集中すると、メロディを聞き逃してしまいます。

そして耳に止まったメロディに囚われると歌詞はほとんど意識に入ってきません。

 

ぼんやりと「言葉の音」を聴いています。こうした聞き方で頭に浮かんで来るのは、やはりぼんやりとしたクオリアです。同じような人がどのくらいいるでしょう。

だからコード進行がどうとか、アレンジがどうとか、ちゃんと聞こうとしないと耳には残りません。時々!!!!というようなこともあるのですがそれは偶然かも、です。家を見て設計図が浮かぶのは職人だけです。だから作曲脳になった時、ついそういう聴き方をするのかもしれません。

 

だからこそコードを聞いても、曲を聴いても、歌詞を聴いても必ずなんらかのクオリアを返してくれるユーミンソングはまるでめちゃくちゃ濃いラーメンみたい(変な例え)。どこ食べてもうまい、みたいな。このチャーシュー、単品でいけんじゃね?的な。

 

音楽はそれらの全情報が渾然一体になり、脳の中で曖昧かつ断片的な「抽象的な感情イメージ」や「言語感のある色彩」のような瞬間的情報となりランダムに具体化され、次から次へと感覚を刺激します。

それは私だけの理解の方法かもしれません。

「音楽的なクオリア」がその楽曲の自分にとってのリアリティです。

 

会話でもなく、講演でもなく、朗読でもない、音楽の知覚は独特な情報の処理で、個々人の処理スキルの程度で得られる情報も異なるでしょうし、解釈も異なる(一時的なものだから)でしょう。

情報の理解って、ほんとは常に不完全なものなのかも。


そうなるとあとはやはり伝え方、理解のさせ方、その手法の巧みさに面白みや技術が必要です。

と言って、わかりやすく、いかにもそれっぽいことを言って相手を納得させるから人気がある、というのはある意味弊害です。理解した気になってしまうだけで双方が満足してしまうのですから一番厄介です。

 

そうして得た情報を各位が自由に一時解釈し、自由に議論できるのが音楽の面白さではあります。ゆえに音楽の好き嫌いの差異が埋まることはありません。

 

そして自分自身と共感できる音楽を持つ、ということは人生を生きた喜びの一つ、です。その曲聞くだけで地黄的に感動できる曲、ってエナジードリンクから麻薬とか、そういうものに匹敵するものでしょう。

 

ユーミン楽曲は日本語の美しさと普遍的感情によって表現されるがために心の風景を簡単に彩ってしまいます。それはテクニカルで安易なものかな、と最初は思ったのですが、ユーミンご本人の覚悟を見るにつけ、いや、これは天才が精一杯やって出て来るもので、こちらの享受力が足らないのだ、なんて感じます。

 

ビートルズは、ロックのシンプルさ、という先入観を用いて、激しいリズムと綺麗なコーラスをベースに通常は向かわないコードに単純な三和音を用いて拡張しました。

ビートルズを聴くとオールディーズはシンプルすぎて一時期聞けなくなります。まるで濃い味に慣れてしまって、薄味を毛嫌いするような。

 

そしてユーミンチームは、やさしく切ない風景感と、卓越した日本語の表現力によってそれまでは脈絡の作りづらいジャズ的な和声連鎖を見事に脈絡付け、ポピュラー音楽として表現しました。

 

ベートーベンの音楽が進行する根拠はベートーベンの意思であり、彼の感じた音楽的脈絡です。決してトニックがドミナントへ向かい、ドミナントがトニックを"勝手に"導いたのではありません。一音一音全て人の意思が詰まっています。

 

この「意思」を本ブログでは、音楽を進行させるために作曲家が創造した「音楽的脈絡」とし、「音楽的なクオリア」とさも格好をつけて書いています(名前があったほうがいいでしょ?)。

 

特にユーミンレポートでは、不滅のコード進行を選りすぐってまとめました。もちろん他のアーティストが先に使っている事例もあるでしょう。

しかし音楽を志す人は、自分が好きなアーティストを分析して学習意欲を盛り上げたほうが楽しさも増えます。そういう勉強モデルとしての意味もあります。

これら121(レポート時)の挑戦的事例は、時を経れば経るほど自らにとって価値を高めると思います。

 

(続く)

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