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音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

8.ユーミン楽曲からの発展技法と不定調性論1 (ユーミンレポート公開シリーズ)20~★★★

日本人の心の情景を変えたシンガーソングライター(改訂版)―研究レポート;ユーミン楽曲の和声分析と音楽的クオリアが紡ぐ作曲の手法―

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8.ユーミン楽曲からの発展技法と不定調性論 

私は音楽の中の歌詞に意識を集中させると、メロディを聞き逃してしまう。

そして耳に止まったメロディに囚われると歌詞はほとんど意識に入ってこない。

ぼんやりと「言葉の音」を聴いている。

そして変わったコード進行の響きに耳が向くと、その瞬間からメロディと歌詞は「音」になり認識はしているが、意味を汲み取れない。「音楽を聴く」という行為がメロディ、歌詞、リズム、和声の同時認知処理作業であることに改めて気が付くし、実際どこまでリアルタイムで聴き取れているものなのだろう、と感じることがある。

音楽はそれらの全情報が渾然一体になり、脳の中で曖昧かつ断片的な「抽象的な感情イメージ」や「言語感のある色彩」のような瞬間的情報となりランダムに具体化され、次から次へと感覚を刺激してくる。これが「音楽的なクオリア」となるのだろう。

 

メロディは輪郭となり、歌詞は「意味感」「ニュアンス」になり、和声展開は色彩の展開感、天候の変化のような光のグラデーションになり、アレンジがそれぞれの民族のそれぞれの時代に沿った音楽らしさを作り出している。会話でもなく、講演でもなく、朗読でもない、音楽の知覚は独特な情報の処理であり、当然個々人の処理スキルの程度によって得られる情報も異なるであろうし、解釈も異なるであろう。

本来は情報の理解というのは、不完全なものなのかもしれない。


そうなるとあとはやはり伝え方であり、理解のさせ方であり、その手法の巧みさにあると思う。

また個々人の理解の方法に合った伝達方法=音楽の好み、という点もあるだろう。

ユーミンライブのエンターテインメントが大いに楽曲の雰囲気を拡張させ掻き立てるのは、ユーミンチームにある種の「イメージは拡張し、驚嘆すれば永遠に残る」といった意味付けの方法論が備わっているように感じる。

 

そうして得た情報を各位が自由に解釈し、自由に議論できるのが音楽の面白さである。ゆえに音楽の好き嫌いの差異が現われて当然である。

そして自分自身と共感できる音楽を持つ、ということは人生を生きた喜びの一つ、と言っても過言ではないだろう。
この意味観の違いを共有しながらも、同じような印象を得るためには、赤色と青色が同じように見える何らかの音楽的工夫をしなければならない。人の人生は人それぞれ違うが、心の風景、夢の中の風景は似ているのではないか。または似たような色彩感を持っていて、それを揺り起こされる外部の刺激が抽象的で多義的な情報を沢山持っている、それが音楽という存在なのではないだろうか。

   

ユーミン楽曲は日本語の美しさと普遍的感情によって表現されるがために心の風景を簡単に彩ってしまう。音楽の他にこの強烈な言語によるメッセージ(歌詞)があれば、背景の和声、色彩感が多少異質なものであっても、分りづらいものであっても、ユーミンチームの音楽翻訳技能によって、美しい日本語の言葉、文章となってそれらの難解な和声進行は意味を与えられているように感じた。

ビートルズは、ロックのシンプルさ、という先入観を用いて、通常は向かわないコードに単純な三和音を用いて拡張した。そしてユーミンチームは、やさしく切ない風景感と、卓越した日本語の感情表現によってそれまでは脈絡の作りづらいジャズ的な和声連鎖を見事に脈絡付け、ポピュラー音楽として表現してきたといえる。列挙した事例のコード進行のいくつかを、コードだけ弾いても、とても脈絡など生み出せそうもない、という進行がいくつもある(コード進行からだけ考えるのは誤りであるが)。少なからずユーミンチームが、旋律感と和声感の意味の拡張、ジャズ的和声進行のポップス化=より日常音楽的なお洒落さ?を創造してきた事は間違いない。

 

これらの和声概念拡張の戦歴を、ただ住み慣れた港から何キロ沖に離れることができたか、というような基準でそれらを「特異な離れ業」とみなすのではなく、もともとあった港のシステムをより改良してみることで、もっと簡単に沖まで行って変幻自在にストーリーを作る技巧的方法手段の理論的表現ができるとしたら?という思考の手法について考えてみたい。

 

詳しくは「不定調性論」という体系に全てを注ぎ込んだが、しかし実例は既にあったのだ。多くのジャズフュージョン楽曲の和声進行や、ビートルズの進行、そしてスティービー・ワンダーやユーミンのような野心的楽曲群である。

不定調性論はそもそもビートルズ楽曲の和声進行の形成の考え方に対応すべく、機能和声の考え方をいったんゼロから組み立て直したものである。それらの再構築の過程で必然的にジャズ、フュージョンのアイデアや現代音楽のアイデアなどが盛り込まれていった。

ベートーベンの音楽が進行する根拠はベートーベンの意思であり、彼の感じた音楽的脈絡である。決してトニックがドミナントへ向かい、ドミナントがトニックを導いたのではない。そうかも知れないが、それであれば、ドミナントがトニックを導かない場合は、どう考えるのか?となり、結局作曲家がそう考えたから、という結論に落ち着く。
ユーミン音楽も同じである。それが拡張され創造されている。

これを本レポートでは、音楽を進行させるために作曲家が創造した「音楽的脈絡」とし、「音楽的なクオリア」とさも格好をつけて書いてきた。作曲家の音楽的なクオリアが自在に展開してしまえば、その音楽は大変理解し難いものになる恐れもある。しかしユーミンチームは、その作曲過程で、誰でもが分かりやすいように翻訳を行う、というような作業を徹底して行い、“日本語と格闘”し、誰もが心に持つ情景のどれかにリンクするようなポップミュージックを作り上げてきた、という点において、題材としては最高の教材である。商業的な成功者としての実績が更に説得力を高めてくれる。

 

多くの日本人にとって共感すべき内容を持っていたという点で、その手法を用いてこれからの音楽の商業的な成功を目指す者にとってのヒントにならないはずはないのである。これらの121の挑戦的事例は、時を経れば経るほど多くの人に理解されていくことになるし、評価は更に高まっていることだろう。

ゆえに、それらの良く知られたユーミン音楽に内在する事例を背景とした上で、これから解説する内容をご覧頂くのが最も効果的であろう。

 

(続く)

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