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音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

8.ユーミン楽曲からの発展技法と不定調性論2 (ユーミンレポート公開シリーズ)21~★★★

日本人の心の情景を変えたシンガーソングライター(改訂版)―研究レポート;ユーミン楽曲の和声分析と音楽的クオリアが紡ぐ作曲の手法―

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それぞれの楽曲レポートは旧ページで更新をしています。アルバム目次ページからリンクしてみてください。 ユーミン楽曲はこちらからopen.spotify.comopen.spotify.com

ユーミン楽曲は同主調間のダイアトニックコードを自在に行き来する。これはビートルズやモータウンのメジャーコード(三和音的)の展開から端を発する手法であるが、それらのサウンドは粗野でシンプルイズベストなニュアンスを含み過ぎてしまう面があるため、それそのままではユーミンミュージックに活用はできない。

音楽性の淡い質感も手伝い、また当時のニューミュージックの文化を背景にユーミンカラーともいうべきサウンドの連鎖が構築されている。三和音ではなく、四和音の活用である。

 

伝統的なCメジャーキーのダイアトニックコードを列挙する。

CM7 Dm7 Em7 FM7 G7 Am7 Bm7(♭5)

そしてCマイナーキーのダイアトニックコードも列挙する。

Cm7 Dm7(♭5) E♭M7 Fm7 Gm7 A♭M7 B♭7

 

これらを一曲の中で自由に連鎖しても、ユーミン楽曲の中では音楽的脈絡が途絶えることはない。

例;

:CM7  |Cm7  |Gm7  |FM7  |Em7 |Dm7(♭5) |CM7 |B♭7 :|

 

まず、あなたがこれらのコード群を用いて、連鎖を作り、そこに自在にメロディを展開できるようになれば、この段階はクリアしていると言える。

もちろん実際には、メロディや歌詞の雰囲気と該当させながら作っていくので、こうした一時練習のような課題は、即興的な底の浅いものになってしまう。

そのあたりはしっかり各ユーミン事例を確認頂きながら、その利用法の妙を感じてほしい。この時、和声的機能の理論や、極端にいえば本レポートで列挙してきた進行例を重んじる必要はない。それらを取り払い、作曲者各位の感覚がその進行に対してどのような音楽的脈絡を感じているか、~コード進行が繋がってることに意味を感じられるか~について意識を集中して頂きたい。

「あ、これはIM7だ」というような感覚から入るかもしれない。そうした先に「あ、このM7は朝の光だ」となっていけば、次のコードに、サブドミナントがどうとか、機能がどうとかという先入観にとらわれることなく、「次は空気感」とか「次のは女性の感じ」といった音楽の展開が見えてくる。それをメロディで展開するか、歌詞を書いてからメロディを作るか、コードから入るか、をあなた自身のやり方として自分で決めなければならない。ここでは細かい指導を割愛させて頂き、先を急ぐこととする。

   

さらに、ユーミン楽曲はセカンダリードミナントもただドミナントを導くだけの存在として用いず、意味を持たせた和音として用いる。Cメジャーのダイアトニックコードに対する慣習的に用いられるセカンダリードミナントコードは、

A7→Dm7

B7→ Em7

C7→ FM7

D7→ G7(ドッペルドミナント=ダブルドミナント)

E7→ Am7(Cメジャーの平行調AマイナーキーのV7)

などが主流であろう。細かい理論的解釈の差異についてもここでは言及しない。

Cマイナーキーであれば、

B♭7→E♭M7

C7→Fm7

D7→Gm7

E♭7→A♭M7

F7→B♭7

 

例;

:CM7  |C7  |F7  |Fm7  |E7 |Am7 |D7 |B♭7 :|

 

さらに、ポピュラーミュージックで良く用いられる進行感の「進行感」だけを連鎖して、音楽的脈絡を作ってしまう。たとえば、CM7-FM7という四度のメジャー7thや、CM7-BM7という半音下降や、CM7-E♭M7などの短三度の移動のような流れが作る「進行感」を用いるなら、

 

:CM7  |FM7  |B♭M7  |AM7  |DM7 |FM7 |B♭M7 |D♭M7 :|

という流れだけで、ジャズフュージョンのような展開が出来上がる。これに対して機能が、調が、と考えていたらインスピレーションを失ってしまう。不定調性論は作曲している間は、作曲に集中できるように、着想を唯一の動機として音楽を作ることができる考え方を持つので、こうした和音が繋がった時の理由を、論理的に考える脳を排除し、繋がった時の自分の印象が、良いのか悪いのか、だけで作曲を進めることができる。

 

もう一つだけ例を出しておこう。

Am7を皮切りに、機能論的な絡みを考えずに、へんてこコードなポップミュージックを五分で作れ、となったら皆さんはどんな手法を用いるだろう。一つはone note samba(ユーミンが敬愛する作曲家 A.Cジョビン作)の手法がある。たとえば、メロディ音をdにする。そして、

 

例;

:Am7(11)  |A♭7(♭5) |E♭M7 |D7 |GM7 |B♭M7 |Bm7 |FM7(9,13) :|

 

という和声進行を作った。メロディが一音であれば、調的な連鎖など無くても誰でも歌うことの出来る歌をつくることができよう。しかしこの進行もよく見ると、

Am7→A♭7(♭5)やE♭M7→D7

はオーソドックスな半音下降進行だし、

GM7→B♭M7

は今しがた提示した短三度移行の進行感であるし、

Bm7→FM7

におけるBm7はAメジャーキーのIIm7と「思えば」、音楽的脈絡を全体から感じ取れる人は多かろう。また「あ、そういえば、ユーミン楽曲ではこんな時、まさかの増四度進行とかしていたな」と思い、参考にしたりする。

FM7(9,13)の13thがd音で、メロディはdのままなので、演奏がどれだけ奇抜でも関係がない。

 

上記の進行を機能和声的に分析できたとしても、それは私の意図を反映する分析にはなりえない。私自身が機能を意識して連鎖させたわけではないからだ。

「この時作者の無意識には、II度上への転調に対する欲求があったのではないだろうか」といわれても、無意識のことまでは気が付かないし、否定も肯定もできない。これは小説と同じだ。読んで楽しむものであり、音楽とはまた違う。

解釈者の解釈が作者の動機よりも美しいこともあるし、そこにinspirationを感じることもできるからこそ、小説文化は生きる糧となっている。

 

もし分析家ではなく作曲家を目指すなら、やはり分析できることより、創れることが重視される。真似て作っても意味がない。すると「自分らしく作る」という命題が現れ、そのためには何を鍛えればいいのか、となる。不定調性論では、それは「学習時から感じ方と解釈の独自性を打ち出すことに慣れ、自分の印象を信じられるように自分を認めていきながら自ら創造する期間をしっかり設けて学習する」というアプローチになる。これはある程度の訓練期間が必要であるため、通例の学習期間と並行してできることが理想と現状では考えている。

 

(続く)

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