前回、コードスケールの考え方の基礎に触れました。それらをすべて表にしたのがこちらです。
では、質問です。
「この曲の頭のFm7の小節でe音は使えるか?」
どうでしょう。
先のページで最終的に決まったFエオリアンにはe音は♭しています。
これだけの条件では、Fm7でe音は使えない、と答えるのが正解ですよね。
教科書通りです。これを言っていれば誰からも批判されません。
しかし、ジャズの歴史は、そういう「あたりまえ」をどんどん放棄する事に快感を覚えてきた人たちの歴史です。つまり
こんなふうにジャズは「脳内リハモ」しちゃうわけです。この曲で冒頭C7が適切かどうかはともかく、C7→Fm7は普通のドミナントモーションですからアリですよね。こうやってちょっと意外性を出すことで使えない音を入れ込んできます。これはアドリブパートにおいて顕著に現れます。最初に述べた
「この小節はFm7が支配するヨォ」
すら無視していくんですね。無法になっていきます。
また、こういうことを考えずにできるのがパーカーリックと言われるビ・バップの旋律構成論です。ひたすらパーカーをコピーすれば身につきます。問題はそれだけの時間が人生にないことです。
e音はC7における三度の音ですから、バップ的なメロディに挟み込んでe音が使えてしまうわけです。バップで何でそれが出来んの?というようなことは、下記とか。
"チャーリー・パーカーの技法"を読んで 其の1★★★★ - 音楽教室運営奮闘記
バップの旋律構造が分かると不協和を巧みに用いることができます。
なおジャズの場合はテンション表記がほとんどされないので、このC7のときはC7(b9,b13)とか当たり前に使えるようにしてください。テンションが乗らないジャズはジャズではない、とまだまだ思われているので。
テンションの乗らないジャズ=ポピュラーミュージック
です。ジャンルの一般名が変わるだけです。
時にはこうした音遣いが一時的に完全に違和感が出る場合もあります。
でもこれを10コーラスぐらい繰り返していると、聴き手が慣れる、ということをジャズメンは知ったのです。
そしてそれがレコードになり何年も聴かれると、ミストーンですら、ミスに感じられなくなり、愛情が出る、という心理状態になることを知っているんです。
そして手法が一般化してくると、例えばここでは「リハーモニゼーション」という言葉が生まれます。
そしてそれが教科書に載ってしまうと、いよいよまた表現者たちは飽きます。
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途中をすっ飛ばしますが、結局
このFm7で使えない音はない、となります。
せめてf#とaはだめだろ!だってルートの半音上のf#はいくら何でも不協和だ!、それにFmってマイナーコードなのにaはメジャーコードの三度の音だから、これだけは絶対だめだ!
まあ、一般論に擦れた状態の学習時はそうかもしれないのですが・・自分も一時期はそこにちゃんとしてちゃんとしよう、なんて思ったこともあったのですが、
こういう感覚はどうしても自分を心地よくさせてしまうんです。
上記記事の曲は"昼寝の曲"です。
わたしは短三度の上に長三度が乗ると、「眠気」とか「微熱感」とか「ほてり」を感じます。共感覚的なものでしょう(そんな共感覚ある??)。
いままで、これは「人と違うんだから切り捨てよう」と思ってずっと生きてきましたが、諦めました。無理です。
以下の表をご覧ください。これは不定調性音楽論教材第四巻・資料集からの抜粋です。
このようにいずれのモード=スケールにもm7は出てきます。基本は四つのスケールなのですが、開始音によって指で押さえるポジションが異なるのでどうしてもこの24種のポジショニングは覚えてしまう必要があります。
つまり、Fm7だけでIをm7に持つモードを列挙すれば、
Fドリアン
Fフリジアン
Fエオリアン
FドリアンM6
Fドリアン#4
Fフリジアンb4
Fリディアンm3
などのモードが使用可能なわけです。これをあなたはいつ使い分け、どのように人生の中でまんべんなく使って、常に変化を出し、常に適切に選んで演奏していく自信がありますか?
また、ビバップのフレージングで、装飾音のリズミカルアプローチを使ってFm7のフレーズを作っていく場合などもあります。これはビバップがコードスケールという概念がなかったころに生まれた音楽であることに起因しています。これらの音はことごとくコードスケール外の音です。
こうしてコードスケールはいずれ12音(またはそれ以上=微分音)にまた帰ってきてしまいます。勉強したことは何だったんだ・・みたいに途方に暮れる瞬間ですね。
さてここからが不定調性論。
フリジアンスケールって、〇〇〇〇な感じの時に使いたいよねー
とか
リディアンて黄色だよね!でも彼が弾くと銀色だよね!
とか、それぞれのモードに対する実用的な感覚が生まれますので、これを大切に。
このとき、あんまりピンとこないモードは、あなたの音楽の選択肢から外れていきます。
例えばAm7で自分は常にAロクリアンを弾きたい、と思っていることに気が付いたら、最初は愕然とするかもしれませんが、どうせ最後は自分の欲望には抗えないのです。