<注>
当下方倍音記事シリーズは私個人が用いている下方倍音的存在の活用方法が含まれます。専門研究の方は内容にご注意ください。(素人ブログ情報です)。
引用先表記のない内容は、私の独自論です(または先行研究を探し当てられていない)。先行研究を見つけたらすぐに掲載しています。
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- 概要いろいろ
- 倍音とは
- 下方倍音の計算方法
- 上方倍音列表(自然倍音列)
- 上方倍音列の基音からの音程
- 下方倍音列表
- 下方倍音列の音程
- 音程関係図
- なぜ下方倍音が物理的に存在しないのか?
- スティックスリップ現象とサブハーモニクス
概要いろいろ
・下方倍音は振動数を整数の逆数で割って生み出される計算上の概念
・線形音響学では弦や管の振動は基音の整数倍しか生まれないという理由により下方倍音は存在し得ない
・声帯や楽器のリードのように非線形に揺れる=倍周期の振動が起こる状況においては、サブハーモニクスという形で下方倍音的存在は実在する
・下方倍音は“狭義の理論(線形音響学)では存在しない”が“非線形振動現象として主にオクターブ下の低音発生現象自体は存在する” (参考)
・「下方倍音列理論」という明確な音楽理論が存在するわけではない
・短三和音は下方倍音から生まれたわけではなく数理的類似性をもとに後付けされただけ
・実在する下方倍音は主に基音より低い基音と同じ高さの音を指す場合が多い
・耳の中では基音よりも1-2オクターブ下の基音が音色分析解釈過程で知覚される(低音が補強される)*1*2*3*4*5*6。
下方倍音という用語は、私のような専門外が面白がって扱ったり、過去の関連著作の偶然が重なり、専門的に扱うとき違和感を与える可能性があります。
倍音とは
まず上方倍音の計算方法を書きます。
ピアノの低いほうのc(ドの音)を仮にc1とします。
c1よりオクターブ高い音をc2とします。

このc1を基準となる音、「基音」としましょう。
実際のホールで実際の生ピアノのc1をがーーーんと強く弾いた時の余韻を聴いていると、様々な反響と一緒に高いキーンという音(振動)が感じ取れるはず(脳内で鳴ってしまう音も含め)です。
これらの自然に混じってしまう振動数を、「上方(自然)倍音」といいます(空気中の波の共鳴とピアノの中での弦の共鳴パターン、部屋の音響によってそれぞれ無数の空気振動が発生します)。
c1=65(Hz,振動数)とすると、これは鼓膜を1秒間に65回振動させる、とイメージしてください。
人はその振動現象にピッチ、音色を感じる(鼓膜から脳へ電気信号として送られ音程情報に変化させ、脳が認識できる「音」に変換して認識する)ことで、空気の振動を音で理解します。この振動数の単位がHz(ヘルツ)です。
c1は65Hzだ、とか言います。
では次にこの65を比「1」とします。
比2であれば、65×2=130Hzですね。オクターブ高いc2です。
では比10なら?65×10=650Hzです。「65のcの10倍音=c10」と理解しましょう。
上方(自然)倍音列を順に書き出してみましょう。
c1=65とすると、
2倍音=130
3倍音=195
4倍音=260
5倍音=325
となります。これを順に列していくのが「自然倍音列」です。
下方倍音の計算方法
下方倍音の計算方法は上方倍音の逆です。
c4=261.6256とすると、その1/2倍音(下方2倍音)は、
261.6256÷2=130.8128
となります。
1/3倍音(下方3倍音)は、87.20853...となります。
どんどん音が低くなっていくのですから、いずれは1以下の振動数になり、無音=無振動に限りなく近づきます。
ここでは仮にC4=1としてみましょう。
1=C4、1/2=C3、1/3=F2、1/4=C2、1/5=Ab1、1/6=F1、1/7=D1、1/8=C1
この音集合が下方倍音列、です。
上方倍音列表(自然倍音列)
自然倍音の第16倍音まで一覧表にまとめました。

・1=1倍音=基音として、以降16倍音まで掲載。
・音名は24平均律の周波数に基づく近似値で割り振り。
・緑色のセルは異名同音の列、例C#=Dbなど。
基音cの倍音を鍵盤で表すと、

上方倍音列の基音からの音程
1.基音
2.オクターブ(完全8度)
3.完全5度
4.オクターブ
5.長3度
6.完全5度
7.短7度
8.オクターブ
9.長9度
10.長3度
11.増11度
12.完全5度
13.短13度
14.短7度
15.長7度
16.オクターブ
下方倍音列表
下方倍音列は、物理的な振動によって直接生じる集合音ではありません。
下方倍音は、上方倍音にcを持つ基音の序列を理屈の上で順に並べたものです。こうした集合音が物理的に生じるわけではありません。
この一覧表では、第16倍音が最も低いc1になるように書いてあります。青色のセルは異名同音の列です。


この鍵盤ではc5を基音として配列。
下方倍音列の音程
1.基音
2.オクターブ(完全8度)
3.完全4度
4.オクターブ
5.短6度
6.完全4度
7.長9度
8.オクターブ
9.短7度
10.短13度
11.増11度
12.完全4度
13.長3度
14.長9度
15.短9度
16.オクターブ
音程関係図

なぜ下方倍音が物理的に存在しないのか?
ギターの弦で一番低い音よりも低い音が鳴らないのはそれ以上弦を長くできないからですね。そして弦が細すぎるからです。
弦の長さを短くすればするほど高い音は出ます。
振動の折り返しによってその弦の上でより短い振動節がどんどんできるため高い倍音は自然発生します。
つまり音を低くしたければ、元の長さよりも長い弦が必要です。
弦の原理的に、その張力のまま、それ以上低い音は鳴りません。ギターの6弦より低い音は弦を緩めないと出ません。
だから下方倍音は自然には鳴らないわけです。
もちろんシンセサイザーでなら下方倍音自体を生成し基音に加えて鳴らすことができます(自然に下方倍音が加わるようにプログラムもできる)。
また、複数の音が鳴ると二つの音の振動数の差音が音程となり混じっていく場合もあります。この辺を基礎知識として方法論を展開しています(差音による低音、耳の構造の中で仮想的に構成される音?が感じられる可能性はあり得ます)。
100歩譲って、奇跡的に偶然(部屋の反響、共鳴、前出音との振動の打ち消しによる差音などが発生し)下方倍音が鳴ったとしても可聴範囲にない音なら聞こえません(20Hz周辺以下など)。
上方倍音は音色に影響しますが、下方倍音は耳に音が濁るので不快とされがちで必要性が低いとされます。
その不快さを逆に詩的に「もの悲しさ」と感じることを了承できる人にとっては、下方倍音列は短調的な雰囲気を作る象徴的存在になるかもしれません。
そこは科学的事実とは別に、個人の独自論で処理した方が良いと感じます。
楽器/環境/音色セッティングの要因で、たまたま基音よりも低い音が物理的には生み出されてしまう場合がないとは言えない、と考えるのが自然発生する下方倍音の可能性を言及する限界ではないでしょうか。
スティックスリップ現象とサブハーモニクス
下方倍音のことをサブハーモニクス、と表現する慣習があります。
意味合いを分けておきましょう。
(参考)
なお演奏技巧における"低い音"を上記では"anomalous low frequency vibration=ALF"異常な低周波振動と呼んでいます。木村まりさんの演奏技巧が著名のようです。
Subharmonic Partita, by Mari Kimura
サブハーモニクスについては、上記アダム・ニーリーさんの動画にて音叉を紙に触れることで440Hzより低い200Hzの音を出しています。これは紙に触れる回数が、その距離感(紙と音叉の振動の接触)で実際の音叉の振動の半分ぐらいだったりするから、という説明です。下記の紙(青い線)に触れた音だけが鳴ってると考えてみてください。振動数は半分になるわけですから、音程もオクターブ下がります。

音叉自体の振動なのか、紙などにかかる振動の折り返しによる打ち消しなども含まれた結果なのか、手で触れるときの微妙な距離感がブレるからなのか、とにかくスティックスリップ現象と似たような原理が働くことにより、原音より低い音が出せるわけです。
これ自体は下方倍音現象というよりも、演奏テクニックによる振動数の間引きによる低音の生成です。ボーカリストのテクニックとしても最近はyoutubeなどで発信されています*7。
こうした低音は下方倍音というよりサブハーモニクスと表現するのがポップなようです。この辺は界隈の用語的利用としてであり、当人が下方倍音の意味で「サブハーモニクス」という語を使ったとしても、単語単体の意味においては必ずしも間違ってはいない場合もあり、聞き手側が十分に解釈すれば良いと思います。文脈に注意してください。
こうした間引き振動によるサブハーモニクスは弦の長さに応じ1/2、1/3倍音などがランダムに鳴る(どの音が鳴るかコントロールが微妙)、と説明しています。
どこまで意図的にサブハーモニクス音をコントロールできるか、は個人のスキルに依存します。つまり自然倍音のように自然に出る現象とは性質が異なります。
スティックスリップ現象は「ヘルムホルツモーション」という表現もあるようで、弦の振動現象を利用した演奏法が発生原因である、としているようです。
下記ページ中段にヘルムホルツモーションの解説があります。
弦の毛が滑ってひっかかることで振動数が減少し、結果低い振動数となり、低い音になって現れます。
*1:下方倍音列の動力学 聴覚系では耳から入ってくる音に対して合成モードと分析モードの段階があり、同論文で、その切り替えが数式化されている。分析モードはいわゆる耳コピ時の耳の状態。個別の楽器が何をしているか聞き分けたり、純音の周波数に集中できたりする。この場合欠けている低音などの補完作業は行われづらい。一方合成モードでは複数の楽器の出す音の倍音構造の全体を形成するように知覚システムが働き、低音の不足する状態においても欠けている低音-聞き取りづらいベース音や基音に該当する音を補完できるシステム。音楽を分析モード的に聴くとつまらなくなったりするのは、どのように音楽を聴くか、ということに影響しているのではないだろうか
*2:またこちらの論文では実際に鳴っている音の高音成分が干渉して低い差音が生み出される時、相応する基音を知覚する(「Virtual Pitch」または「Residue Perception」と呼称)、といった実際に生じる差音現象を用いて下方の音の存在に対する聴覚系の反応を指摘しています
*3:こちらの論文では、ストカスティック共鳴=確率的に聴くシステムについて述べられ、適度なノイズが加わることによって、聴覚系が欠けている音を補完しやすくなることを述べています。フォーマット変換におけるディザー処理もこうした"耳に聴きやすくさせる処理"とか変わっていると言えます。なっている音の周波数ので凸凹を、耳は正確に聴取しようとするため、必要のない凸凹をディザーノイズで鳴らすことによって、必要な凸凹を耳が認知しやすくなる、という仕組みが働くと補完される音の精度も上がるようです。
*4:こちらの論文では、3ヶ月および4ヶ月の乳児が、基音が存在しなくても、音のピッチを知覚し、基音の変化に反応する能力をすでに持っていることが示され、早期に精密な聴覚システムが出来上がっていることが示されています
*5:こちらの論文では、聴覚皮質におけるピッチ選択性ニューロンが欠落音の補完を行っていることを指摘しています。音の高低などを識別する仕組み自体が鳴っていない音を補完する機能を持っていることがまとめられています
*6:こちらの論文では、基音のピッチを明確にする低次倍音が大きい音=ピッチサリエンスが高い、と表現、が鳴ると、聴覚系は欠けている低音を補完しやすい、ということが示されています。低次倍音、例えば上方三倍音まで、の成分が少ない音色だと基音が補完しいづらい、ということがわかっています
*7:声帯の非線形振動や、左右声帯が本来のように1:1ではなく、たとえば 3:2 の比率で振動する「エントレインメント(同期)」 によって振動が1回ではなく2回に1回のリズムとなることで、基音の半分の周波数=オクターブ下が現れます。1996年の研究では、正常な喉頭-声帯-においても、F0-基音-の半分にあたる周波数が微かに振動する「F0/2 のサブハーモニックパターン」が観察されています。このサブハーモニクスの特徴を自動検出し「ガラガラ声」のざらつきを定量化する音響モデルARI(Acoustic Roughness Index)が開発されており、音声診断や医療への応用が期待されています。
