音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

下方倍音列について その1

当ブログ楽理関連記事目次はこちら

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ここでは下方倍音という存在周辺の情報を扱います。

当ページは私個人が用いる下方倍音的存在の活用方法です。専門研究の方は内容にご注意ください。

 

下方倍音の扱いや言説について

「下方倍音列理論」という音楽の理論が明確に存在するわけではありません。

下方倍音という用語(学術的な用語でもないように思います)は、私のような専門外(正統な音楽研究範囲外??)の人間が面白がって扱う側面や過去の著作の偶然も重なり、いまだ専門的な論術や発表現場で扱うのはちょっとした違和感を与える可能性もあります。

ここに書かれている引用先表記のない内容は、私の独自論です(または私が海外に存在する独自研究の引用先を探し当てられていない確率の方が高い-"独自論"は"独自研究"のさらに下位の扱いをしてください)。

このブログや私の関連教材以外のところで、同一の出典不明の言説やアイディアを見た場合には出典がこのブログである場合があります。十分に各位でも各音楽家/音楽理論家の著書などを細かくご参照ください。

これから3ページにわたり周辺の概念や考え方について説明しています。

 

 

ピタゴラステーブルを元にして

ピタゴラス学派による"ピタゴラステーブル"を応用すると下方倍音列の概念が生まれます。

Archivo:Tabla-pitagoras.png

La Tabla de Pitágoras

古代哲学者時代からその存在(?)は概念として知られていたようです。

哲学者イワンブリコス(ランブリコス)はピタゴラスの研究家でしたが、彼がその本に下方倍音列の元とも解釈できるアイデアを書き記しています。

この表を元にギリシャ語のラムダ(Λ)という文字に形にしたモデルを書きこんでいます。

下記はグラハム・J・ジャクソンがAdolf von Thimusがラムダモデルを倍音列の列の表に昇華した図を掲載しています。

https://www.scribd.com/document/619875286

出典はこちらの記事に最下段にあります。

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ハーモノグラフ:和音が織りなす美しい図像

こういう本でもピタゴラスの図が紹介されています。

 

スティックスリップ現象によるサブハーモニクス

ピアノを鳴らしても物理現象として根音より低い音は自然には鳴りません。(差音による低音、耳の構造の中で仮想的に構成される音(?)の認識が感じられる可能性はあり得ます。また特殊な低音発声や演奏技巧として「サブハーモニクス」等の手法もありますが、これは下方倍音"現象"ではありません。) 

また100歩譲って、奇跡的に何らかの複合要因でいわゆるサブハーモニクスが偶然(部屋の反響、共鳴、前出音との振動の打ち消しによる差音などが発生し)鳴ったとしても可聴範囲にない音であれば聞こえません(20Hz周辺以下)。自然倍音は音色に影響しますが、下方倍音が鳴っても、濁るだけで不快になるだけです。

その不快さを逆に詩的に「もの悲しさ」と感じることを了承できる人にとって下方倍音列は短調の根源になるのかもしれませんが、私は調感覚自体に重きを置かないので 長と短という二極に分けたりはしません。この辺りはその人の音楽存在への把握の仕方に由来するのでそれ以上突っ込めません。

 

弦の原理的に、基音よりも低い音は鳴りようがないわけで(ピアノの高い弦で、その張力のままそれ以上低い音は鳴らせない、ギターの6弦より低い音は弦を緩めないと出ない)、100歩譲って楽器/環境/音色セッティングの要因で、たまたま基音よりも低い音が生み出されてしまう場合がないとは言えない、と考えるのが現状は限界ではないでしょうか。

 

下方倍音自体は現代人の価値観を用いれば、そこまで怪しい存在ではありません。

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なお、演奏技巧における"低い音"については、上記で"anomalous low frequency vibration=ALF"異常な低周波振動、などと呼んでいます。木村まりさんの演奏技巧が著名のようです。

Subharmonic Partita, by Mari Kimura 

 

先の"サブハーモニクス"については、上記アダム・ニーリーさんの動画にて音叉を紙に触れることで440Hzより低い200Hzの音を出しています。これは紙に触れる回数が、その距離感(紙と音叉の振動の接触)で実際の音叉の振動の半分ぐらいだったりするから、という説明です。下記の紙(青い線)に触れた音だけが鳴ってると考えてみてください。振動数は半分になるわけですから、音程もオクターブ下がります。

f:id:terraxart:20220208140532p:plain

音叉自体の振動なのか、手で触れるときの微妙な距離感がブレるからなのか、とにかくこれで原音より低い音が出せるわけです。

音叉だけでなく、触れる紙も微妙に振動するので接触回数が半分ぐらいとかになっているのかもしれません•́ω•̀)?

 

これ自体は下方倍音現象というよりも、演奏テクニックによる低音の生成です。こうした低音を下方倍音とは呼ばず、サブハーモニクス、と表現するのがポップなようです(表現の差自体に深い敷居はありません)。

しかも、サブハーモニクスは弦の長さに応じ1/2、1/3倍音などがランダムに鳴る、と説明しています。

これはどこまで意図的にコントロールできるのでしょうか。

 

専門的には「ヘルムホルツモーション」またはスティックスリップという現象らしく、弦の振動現象を利用した演奏法が発生原因である、としているわけです。

mindfulcellist.wordpress.com

下記ページ中段にヘルムホルツモーションの解説があります。

en.wikipedia.org

www.weblio.jp

www.youtube.com

弦の毛が滑ってひっかかることで振動数が減少し、結果低い振動数となり、低い音になって現れます。

 

脳が下方倍音的存在に親和性を感じるから現実味が存在する

またニーリーさんも述べていますが、脳は欠けた倍音を補う能力を持っています。

例えばシンセサイザーで自然倍音の2倍音以降c-g-c-c-e-gを弾くと、演奏していない低い基音cが耳の中=脳の中?では感じられます。EQでも出ていない音が耳に確かに聞こえます(差音?の可能性もある?=その場合、EQで確認できる場合もできない場合もあります。弱い差音の実音自体も耳の中で増幅されている可能性ありです)。特に倍音たっぷりなFMシンセ的な音に顕著です。それはスピーカーも鳴らしていない脳の中で作られた基音です。

WAVESはこの特許も持っていて、それをMAXXBASSなどのプラグインに応用した、ということです。下記は同プラグインマニュアルより。

However, the harmonics of the bass guitar are indeed coming from the speaker, and your ear interprets these harmonics and creates the “missing fundamental” inside your head. This is a well-known psychoacoustic phenomena. MaxxBass takes this phenomena to the maximum, and gives you control of it.
Using this principle,MaxxBass can extend the perceived frequency response of a speaker about two octaves below its physical limitation.

しかし、ベースギターの倍音は確かにスピーカーから聞こえており、耳はこれらの倍音を解釈し、頭の中に「欠けている基本音」を作り出します。 これはよく知られた音響心理現象です。 MaxxBass はこの現象を最大限に活用し、コントロールできるようにします。
この原理を使用して、MaxxBass はスピーカーの知覚周波数応答を物理的限界より約 2 オクターブ下まで拡張できます。

なんでそんなことになるか、というと、そもそも人類の音楽文化自体が、脳の空気振動認識構造に適した形で進化してきたからです。どちらかというと楽器もDAWもシンセも脳内が倍音を上手に聴き分けることを活用して作られているので、脳(または必要な聴覚関連器官)は自動的に倍音を生成(補完的に?)し、楽器の音色を聞き分け、脳内で生み出される倍音を勝手に聞いてしまっている、ということです。

https://m.media-amazon.com/images/I/71CdBNDDf-L._SL1280_.jpg

「豊かな倍音」みたいな言い方をしますが、そもそも耳は倍音構造でしか音を認識できません。

上記のような著名な著書にも、脳自体が倍音を感じ取る能力により現在の音楽(音色)文化が成り立っている、という方向に解説がなされています。

人の聴覚器官や脳が倍音を選別/聴取する機能に優れた組織だから、現在の音楽文化のような形態になった、というのが実際のようです。

 

だから、実際の世界には人間が聴取できる存在以外に、振動現象を構成している何らかの現象がある可能性も当然あります。

例えば、ある音を思い切り鳴らし、壁などで反響する音と正確に打ち消し合うことが出来れば、振動数は半減し、1オクターブ低い音が生まれる、なんて可能性の世界もありえます。

ヘンリー・カウエルの下方倍音に対する考えはこの空気共鳴による下方倍音の発生の可能性を指していると考えられます。ようは振動波を打ち消し合う環境があれば、基本振動数より低い音が生まれる、という考え方です。

<参考>

ヘンリー・カウエルの音楽理論と実践― 『新しい音楽の源泉』における新たな音響素材の探求―

 

実際に鳴っていない音存在も知覚できる人間の耳の性質は日常の音楽にも知らず知らずに使われているでしょう。ゆえに厳密には「下方倍音は鳴っていない」とか「下方倍音は存在しない」という言い分は「そうだろう、今のお前の中ではな...」という程度の話になります。なぜなら相手の頭の中で響いてしまう音、相手の視聴環境によって聞こえが変わる存在を全て考慮したらこういった一元的な見方で結論したところでなんの解決にもならないからです。

「存在しないかどうか」は限定的な条件を組み込んだ際に、「耳の外では存在しない」とか「無響室では存在しない」とかいうことができる程度です。

 

脳内が下方倍音列的存在をその場の音響現象に関係した何かの拍子に感じたり、仮想的に作り上げることがあったとしても、不思議ではありません。

何を持って「存在しない」と決めるかが曖昧、なのが現状です。

EQの上で反応しなければ存在しない、というのであれば、人間の耳の中で勝手に作られてしまう音についてはどのように排除すれば良いのでしょうか。 

50代以上になると12000Hz以上の音が聞こえませんし低い音も聞こえづらくなります。そして若い人の意見も聞こえなくなります笑。

 

そうやってあらゆる可能性に知覚を開くと、じゃあ自分はどういう感じ方を主体にしようか、どういうスタンスで自分は音楽をやっていこうか、を選択/創造する必要が出てきます。

 

下方倍音の問題は存在するしないとかはどうでも良いのです。

その振動数比が持つ数学的関係をどのように理解し、どのように現状の音楽(理論)に組み込むか、それぞれの表現者が考えるところに面白さがあるんです。

その感じがアマチュア研究家向きなテーマである所以かもしれません。

 

そしてまず

音自体が外界には存在していない

を忘れてはいないか???

(音高/音色として実感するあの知覚感覚は動物の耳と脳が作り出している創造物です)

これについては後でもう一回述べます。

 

不定調性論における倍音数理の基礎

拙論でも、音現象で考える前に、比率に見られる関連性を独自論に活用しました。

 

ピアノの低いほうのc(ドの音)を仮にc1としましょう。

c1よりオクターブ高い音をc2とします。

f:id:terraxart:20200923234223p:plain

そしてこのc1を、基準となる音「基音」としましょう。

 

実際のホールで実際の生ピアノのc1をがーーーんと弾いた時に、空気中に伝搬する振動の波が人間の耳の中の鼓膜を同じ数だけ振動させます。様々な反響と一緒に高いキーンという音(振動)が感じ取れるはず(脳内で鳴ってしまう音も含め)です。これらの自然に混じってしまう振動数を、「自然倍音(上方倍音)」といいます。

 

c2=65とすると、これは鼓膜を1秒間に65回振動させる、とイメージしてください。人はそこに音程を感じる(鼓膜から脳へ電気信号として送られ音程情報に変化させ、脳が認識できる「音」に変換して認識する)訳です。

この振動数の単位がHz(ヘルツ)です。

c2は65Hzだ、とか言います。

 

では次にこの65を比「1」とします。

比2であれば、65×2=130Hzですね。オクターブ高いc3です。

では比10なら?65×10=650Hzです。「65のcの10倍音=c10」と理解しましょう。

普通の生ピアノでこのc2を弾くと、整数倍の振動数音が自然発生します(空気中の波の共鳴、とピアノの中での弦の共鳴パターン、部屋の音響によって別の空気振動が発生する)。

倍音 - Wikipedia

 

ギターの弦で一番低い音よりも低い音が鳴らないのはそれ以上弦を長くできない、そして弦が細すぎるからですね。

弦の長さを短くすればするほど高い音は出ます。振動の折り返しによってその弦の上でより短い振動節がどんどんできるため高い倍音は自然発生します。

音を低くしたければ、元の長さよりも長い弦が必要です。

だから下方倍音は自然には鳴らないわけです。

人が作った音を鳴らす仕組みにおいて基音より低い音がならないようにできています。だからシンセサイザーでなら下方倍音を生成し鳴らすことができます。

 

また自然倍音は楽器の音色としても認識されています。

「ピアノの音」であるか否か自然振動数の含有量/比によって判断できます。

この振動数とこの振動数、この振動数を幾つの割合で混ぜて鳴らすとピアノの音色ができる、という考え方です。人にとって、倍音とは「音色の素」です。

シンセサイザーでピアノの音色を作る時は、これらの振動数パターンを真似て作ります。

 

少し変な例えですが、手拍子を1秒間に3回叩いたら「手拍子3回」と言う情報ですが、1秒間に440回叩けたら回数ではなく「全体のトーンの高低」でその情報を認識するのが脳の特色、と言えます。人が生存していくにあたり、「多い振動回数」を空気の振動の回数ではなく「音程をもつ一塊の現象」として情報認識するほうが素早く認識でき判断に有利だったためでしょう。

"今1秒間に空気が100回振動したからきっとこれは雷が鳴っているんだ..."というふうに人は感じないで、あのゴロゴロゴロという「音」として危険を即座に認知できるように進化したわけです。

ライオンの鳴き声を聞いて、その咆哮が空気を打ち鳴らす回数でその音の情報を判断しようと考えていたら、喰われてしまいます。

あの轟音のような音が聞こえたら、すぐさま逃げろ、と感じる性能に進化した訳です。

振動数の組み合わせという数理的認識ではなく、音色による感情への訴えでその空気の振動がなんであるかを判断するようになったわけです。進化すげー。

 

だから本来雷も「音」ではありません。

音自体は幻影なんですね。「鳴って」はいないんです。

空気の振動を音楽として感じること自体が、実はオカルトなわけです。

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宇宙人の中には音を色や空気の圧力、温度や風力、光や波長で感じ取る種族もいるかもしれませんね。

現実にその音が鳴るというよりも、脳がその振動数の割合で響いた現象に対してピアノの音を感じるようになった、というのが科学的な事実の表現に近いかと思います。

 

研究では、耳の中では原音よりも低い音が作られているとされます。これがベース音に安定を感じる人の感覚そのものである、と言えます。自然と基音を補ってしまう性質からバスという概念があるんですね。バスがあるから安定するのは、音楽の真理ではなく、人間の聴覚構造における真理であり、自然を人間主体で捉えようとする見方によっては傲慢な行為とも読み取れます。この辺の感覚を下方倍音と結びつける人もあろうかと思います。

 

また、複数の音が鳴ると二つの音の振動数の差音が音程となり混じっていく場合もあります。

自然倍音列(上方倍音列)を順に書き出してみましょう。
c2=65とすると、
2倍音=130
3倍音=195
4倍音=260
5倍音=325
となります。これを順に列していくのが「倍音列」です。

 

===

平均律の振動数。

音名= 振動数
c4= 261.6256
c#/d♭4= 277.1828
d4= 293.6648
d#/e♭4= 311.1276
e4= 329.6276
f4= 349.2282
f#/g♭4= 369.9944
g4= 391.9954
g#/a♭4= 415.3047
a4= 440.0000
a#/b♭4= 466.1638
b4 = 493.8832
c5 = 523.2512
いろいろ掛け算して計算してみてください。

 

ちょうど、オクターブ上のc5はc4を二倍した数になります。
261.6256×2=523.2512

 

その2に続きます。

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倍音についての参考記事

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