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「下方倍音列理論」という音楽の理論が明確に存在するわけではありません。
当ページは私個人が用いている下方倍音的存在の活用方法ですので、専門研究の方は内容にご注意ください。
ここに書かれている引用先表記のない内容は、私の独自論です。このブログや私の関連教材以外のところで、同一の内容を見た場合には出典にご注意ください。
これから3ページにわたり周辺の概念や考え方について説明しています。下方倍音周辺の基礎知識は大体網羅できると思います。
歴史的に音楽家がどのようにそれを用いたか、定義してきたかについては、各音楽家/音楽理論家の著書などを細かくご参照ください。
<前置き>
ピタゴラスによるピタゴラステーブルを応用すると下方倍音列の概念が生まれます。
古代哲学者時代からその存在(?)は概念として知られていたようです。
哲学者イワンブリコス(ランブリコス)はピタゴラスの研究家でしたが、彼がその本に下方倍音列の元とも解釈できるアイデアを書き記しています。
そもそもピアノを鳴らしても物理現象として根音より低い音は自然には鳴りません。(差音による低音、耳の構造の中で仮想的に構成される音(?)の認識が感じられる可能性はあり得ます。また演奏技巧として「サブハーモニクス」等の手法もありますが、これは下方倍音"現象"ではありません。)
またたとえ何らかの複合要因でいわゆるサブハーモニクスが偶然(部屋の反響、共鳴、前出音との振動の関係性)鳴っていたとしても可聴範囲にない音であれば聞こえません(20Hz周辺以下)。
より正確に述べれば、弦の原理的には基音よりも低い音は存在できませんが、楽器の要因、環境の要因、音色セッティングの要因で、たまたまサブハーモニクスと言われる、基音よりも低い音が生み出されてしまう場合がある、と考えるのが現状は一般的です。
この記事で下方倍音列の意義をほとんど説明しますが、下方倍音列の理屈を知らない人こそが「得体の知れないもの」の代名詞のような扱いをするのでしょう。
現代人の価値観を用いれば、そこまで怪しい存在ではありません。
なお、演奏技巧における"低い音"については、上記で"anomalous low frequency vibration=ALF"異常な低周波振動、などと呼んでいます。木村まりさんの演奏技巧が著名のようです。
Subharmonic Partita, by Mari Kimura
先の"サブハーモニクス"については、上記アダム・ニーリーさんの動画にて音叉を紙に触れることで440Hzより低い200Hzの音を出しています。これは紙に触れる回数が、その距離感(紙と音叉の振動の接触)で実際の音叉の振動の半分ぐらいだったりするから、という説明です。
音叉自体の振動なのか、手で触れるときの微妙な距離感がブレるからなのか、とにかくこれで原音より低い音が出せるわけです。
音叉だけでなく、触れる紙も微妙に振動するので接触回数が半分ぐらいとかになっているのかもしれません•́ω•̀)?
これ自体は下方倍音現象というよりも、演奏テクニックと極めて物理的な現象による低音の発生です。こうした低音を下方倍音とは呼ばず、サブハーモニクス、と表現するのがポップなようです。
しかも、弦の長さに応じ1/2、1/3倍音などがランダムに鳴る、と説明しています。
これはどこまで意図的にコントロールできるのでしょうか。
専門的には「ヘルムホルツモーション」というらしく、弦の振動現象を利用した演奏法がこのALFの発生原因である、としているわけです。
下記ページ中段にヘルムホルツモーションの解説があります。
またニーリーさんも述べていますが、脳は欠けた倍音を補うようにできています。
例えばシンセサイザーで自然倍音の2倍音以降c-g-c-c-e-gを弾くと、演奏していない低い基音cが耳の中では感じられます。EQでも出ていない音が耳に確かに聞こえます(これこそ差音の場合も=その場合、EQで確認できる場合もできない場合もあります。弱い差音の実音も耳の中で増幅されている可能性もあるからです)。特に倍音たっぷりなFMシンセ的な音に顕著です。それはスピーカーも鳴らしていない脳の中で作られた基音です。
なんでそんなことになるか、というと、実は音楽文化自体が、脳の空気振動認識構造に適した形で進化してきたからです。どちらかというと楽器もDAWもシンセも脳内が倍音を上手に聴き分けることを活用して作られているので、脳(または必要な聴覚関連器官)は自動的に倍音を生成(補完的に?)し、楽器の音色を聞き分け、脳内で生み出される倍音を勝手に聞いてしまっているんです。
「豊かな倍音」みたいな言い方をしますが、そもそも耳は倍音構造でしか音を認識できないというだけです。
上記のような著名な著書にも、脳自体が倍音を感じ取る能力に優れているから現在の音楽(音色)文化が成り立っている的解説がなされています。
人の聴覚器官や脳が倍音を選別/聴取する機能に優れた組織だから、現在の音楽文化のような形態になった、というのが実際のようです。
だから、実際の世界には人間が聴取できる存在以外に、振動現象を構成している何らかの現象がある可能性も当然あります。
例えば、ある音を思い切り鳴らし、壁などで反響する音と正確に打ち消し合うことが出来れば、振動数は半減し、1オクターブ低い音が生まれない、とは言えません。
ヘンリー・カウエルの下方倍音に対する考えはこの空気共鳴による下方倍音の発生の可能性を指していると考えられます。ようは振動数を打ち消し合う環境があれば、基本振動数より低い音が生まれる、という考え方です。
<参考>
ヘンリー・カウエルの音楽理論と実践― 『新しい音楽の源泉』における新たな音響素材の探求―
なお、下記は空気柱共鳴による下方倍音の発生可能性について述べられている、ということです。
・Rossing, T. D., Moore, F. R., & Wheeler, P. A. (2002). 「The Science of Sound」 Addison Wesley.
・Hall, D. E. (2015). 「Musical acoustics」 Cengage Learning.
・Fletcher, N. H., & Rossing, T. D. (1998). 「he physics of musical instruments」 Springer Science & Business Media.
ゆえに脳内が下方倍音列的存在をその場の音響現象に関係した何かの拍子に感じたり、仮想的に作り上げることがあったとしても、不思議ではありません。
ゆえに何を持って「存在しない」と決めるかが曖昧、なのが現状です。
EQの上で反応しなければ存在しない、というのであれば、人間の耳の中で勝手に作られてしまう音についてはどのように排除すれば良いのでしょうか。 50代になると12000Hz以上の音が聞こえませんし低い音も聞こえづらくなります。
自然倍音は、ラモーの時代に流れていた自然回帰の精神から音楽の基本として位置付けるのがトレンドでしたが、それは「脳」が、自然の倍音を根拠にする、という性質が当時の自然科学のトレンドとマッチしたためでしょう。
不定調性論では、音現象で考える前に、数理上(比率)で関連性を作り上げ、そこから音楽を作る独自論を設けました。
<自然倍音(上方倍音)について考える>
ピアノの低いほうのc(ドの音)を仮にc1としましょう。c1よりオクターブ高い音をc2とします。
そしてこのc1を、基準となる音「基音」としましょう。
実際のホールで実際の生ピアノのc1をがーーーんと弾いた時に、空気中に伝搬する振動の波の一秒間の振幅回数が「振動数」を考えましょう。
これが人間の耳に伝わり、耳の中の鼓膜を同じ数だけ振動させます。
c2=65とすると、これは鼓膜を1秒間に65回振動させる、とイメージしてください。人はそこに音程を感じる(鼓膜から脳へ電気信号として送られ音程情報に変化させ、脳が認識できる「音」に変換して認識する)訳です。
少し変な例えですが、手拍子を1秒間に3回叩いたら「手拍子3回」と言う情報ですが、1秒間に440回叩けたら回数ではなく「全体のトーンの高低」でその情報を認識するのが脳の特色、と言えます。人が生存していくにあたり、「多い振動回数」を空気の振動の回数ではなく「音程をもつ一塊の現象」として情報認識するほうが素早く認識出来判断に有利だったためでしょう。
ライオンの鳴き声を聞いて、その空気を打ち鳴らす回数でその音の情報を判断しようと思っていたら、喰われてしまいます。
あの轟音のような音が聞こえたら、すぐさま逃げろ、と感じるようになるための認識機能として、音を感じるという性能が人には備わっています。
だから本来雷とかも「音」ではありません。
音自体が幻影なんですね。
空気の振動を音楽として感じること自体が、実はオカルトなわけです。
宇宙人の中には音を色や空気の圧力、温度や風力、光や波長で感じ取る種族もいるかもしれませんね。存在するのは空気が振動するという現象だけです地球上の生物の耳の構造や脳が音情報として認知できるように進化しました。
この振動数の単位はHz(ヘルツ)です。
c2は65Hzだ、とかと言います。
では次にこの65を比「1」とします。
比2であれば、65×2=130Hzですね。オクターブ高いc3です。
では比10なら?65×10=650Hzです。「65のcの10倍音=c10」と理解しましょう。
===
普通の生ピアノでこのc2を弾くと、整数倍の振動数音が自然発生します(空気中の波の共鳴、とピアノの中での弦の共鳴パターン、部屋の音響によって別の空気振動が発生する)。
単音で振動させる時、基音より低い振動数は安易には発生できません。だから基音より低い下方倍音はほぼ観測しづらいわけです。
ギターの弦で一番低い音よりも低い音が鳴らないのはそれ以上弦を長くできない、そして弦が細すぎるからですね。
弦の長さを短くすればするほど高い音は出ます。
音を低くしたければ、元の長さよりも長い弦が必要です。だから下方倍音は自然には鳴らないわけです。
人が作った音を鳴らす仕組みにおいてそれが大方不可能なだけです。
これらの自然に混じってしまう振動数を、「自然倍音(上方倍音)」といいます。
静かなスタジオやホールなどでピアノの低い音を思い切り打ち鳴らせば、様々な反響と一緒に高いキーンという音(振動)が感じ取れるはず(脳内で鳴ってしまう音も含め)です。
また自然倍音は楽器の音色としても認識されています。
「ピアノの音」は自然振動数の含有量によって決まっています。
この振動数とこの振動数、この振動数を幾つの割合で混ぜて鳴らすとピアノの音色ができる、という考え方です。人にとって、倍音とは「音色の素」です。
シンセサイザーでピアノの音色を作る時は、これらの振動数パターンを真似て作ります。
現実にその音が鳴るというよりも、脳がその振動数の割合で響いた現象に対してピアノの音を感じるようになった、というのが科学的な事実の表現に近いかと思います。
研究では、耳の中では原音よりも低い音が作られていると確認されています。これがベース音に安定を感じる人の感覚そのものである、と言えます。自然と基音を補ってしまう性質からバスという概念があるんですね。バスがあるから安定するのは、音楽の真理ではなく、人間の聴覚構造における真理であり、自然を人間主体で捉えようとする見方によっては傲慢な行為とも読み取れます。
それならば本来含まれるべき可能性も全て考慮する音楽こそが、自然への可能性を提示した音楽である、とも言えます。下方倍音の理屈の排除には、人間の傲慢が隠されているかもしれない、と述べておきましょう。本来、自然の世界で存在している振動現象は人間が聞こえるものだけのはずがないと考える方が、より自然です。
また、複数の音が鳴ると二つの音の振動数の差音が音程となり混じっていく場合もあります。
自然倍音列(上方倍音列)を順に書き出してみましょう。
c2=65とすると、
2倍音=130
3倍音=195
4倍音=260
5倍音=325
となります。これを順に列していくのが「倍音列」です。
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平均律の振動数。
音名= 振動数
c4= 261.6256
c#/d♭4= 277.1828
d4= 293.6648
d#/e♭4= 311.1276
e4= 329.6276
f4= 349.2282
f#/g♭4= 369.9944
g4= 391.9954
g#/a♭4= 415.3047
a4= 440.0000
a#/b♭4= 466.1638
b4 = 493.8832
c5 = 523.2512
いろいろ掛け算して計算してみてください。
ちょうど、オクターブ上のc5はc4を二倍した数になります。
261.6256×2=523.2512
その2に続きます。
倍音についての参考記事