2017.9.1→2020.10.7(更新)
倍音マトリックス
当記事は多数アクセスがありますが、所詮独自論(私にとっては大変やりやすさを提供してくれるもの)ですので専門の方はご注意ください。
基音をcとしたとき、下記の図のような関係性を配置することができます。
このチャートには基音がcならc#とb以外の音はすべて出現します(詳細は教材にて)。
この図の元を作ったのはピタゴラスです。下方倍音が成り立つ原理自体は紀元前から知られていたわけです。
ラモーより盛んになる和声論は下記のc,e,gの範囲を拡大解釈することだけで展開してきました。伝統音楽理論においては下方倍音列を用いる必要はなかったわけです。
下記質問に答えてみてください。
「C△で使える音はどれですか?」
あなたは教科書で学んだ通り、以下のようにコードトーンとテンションと答えるかもしれません。
コードの構成音c,e,g
一般的スケール音d,(f#),a
しかしそれはあなたのシステムではなく、バークリー校のシステムです。
「バークリー校の独自論」と言ってもいいです。不定調性論と同じです(暴論すみません)。
最終的に「12音全て使えます」と云うかもしれません。
では、あなたは本当にそれを信じていますか?あなた自身の音楽でそれを使っていますか?あなたが実際使ってみると、あ?この状況でこの音は使えないかな??と感じる時があると思います。それなのに本当に12音使えると言えますか?
つまり「個人によって、状況によって変わる」わけです。
そこであえて12音使える、などと言わずに、「自分が使いたいと思った音が使える」という極論を作ってみませんか?あなたの独自論です。
不定調性論はこの倍音マトリックスを活用して
「どこまでを自分が協和する(親和する)と、決めるか?」
を選択判断し、C△に親和する音を自分で決める、という段階があるんです。
もちろん機能和声や一般コードスケール論などがその対極にあります。その辺りは不定調性論の基本のスタンスをご覧ください。
例として、不定調性論では上下8倍音までを用いて和音をつくる、としました(ここから拡張して数理親和音モデルまでしよう音拡張モデルがあります)。
これらの音の組み合わせを用いる理由は、それらの音集合であれば基音の特定ができるからです。基音cであれば、上下8倍音までですから、
cから順に並べると、
c,d,e,f,g,g#,a#
という7音になります。
これらが基音cに親和する音である、とするわけです。
ここから楽曲のジャンルによって、「上方のみ」とか「下方のみ」とかTPOに応じて使い分けます。
機能和声論は下方領域を用いず、理論の土台を上方領域だけに固定して展開しました。結果新時代の音楽であったジャズ、ブルースを分析するには不都合な部分が生まれてしまいました。
ここからさらに親和性を広げると、
表全体の音に拡張できます。
つまり、
c,d,d#,e,f,f#,g,g#,a,a#
の10音集合です。
あとは同様にTPOに分けてどこまでを用いるか、を考えます。これについては、より簡素化した「数理親和音モデル」で発生音を書き出すことができます。
あとは「これらの音からどの音をcに反応させるものとするか?」とその都度考えます。
この10音には基音cから見た
d#=e♭=m3rdのブルーノート
f#=g♭=♭5thのブルーノート
a#=b♭=m7thのブルーノート
も現れています。
つまり、C△において、
「倍音マトリックス全体を"反応"させれば、C△の上でブルーノート(現代)が使える」
という理屈が確立できます。
d♭もa♭もカラートーンとして「現代的ブルーノート」と解釈しながら"ブルーノート"というアイデンティティを変質しすぎないように書いているつもりです。
本来不協和になる音を和音の上で用いるための理論的根拠、として不定調性論は、数理の連関表である、この倍音マトリックスを限界値として用いて、「あとは"どこまでを反応させるか"を個人がその都度定める」という考え方になります。
この辺りの「明確な選択要素がある方法論」としてはリディアン・クロマチック・コンセプトが有名です。
では、どうやって自分でそれを定めるのかという疑問にたどり着くでしょう。
それは理論的根拠ではなく、最後はあなた自身の確信感覚です。
つまり、あなたの脳がそれを良しと判断する、何らかの確信感覚を自分の中で得た時、それはその判断が自分に許諾されたことになるという意味です。
これを直感と言ってもいいです。
現状ではこの直感が脳の判断力として、それなりに優れているという前提があります。
また、同時に、この直感はさまざまな認知バイアスを含みます。
では、将棋の棋士が直感的に次の一手を打つ時、その直感が素晴らしいものであったとしましょう。
では普段、そういった直感をどのように鍛えれば良いと思いますか。
作曲であれば無知な状態でも構わないので、ひたすら作っていくという過程の中で脳に判断材料を提供し続ける必要があります。でもこれは分かりきったことだと思います。学校で学ぶほどのことでもありません。
学校に行く時間がもったいないと思ったら、とにかくひたすら作ってください、寝る間も惜しんで作ってください。あなたにの直感は必ず磨き上げられ、あなたに素晴らしい旋律を生み出させてくれるでしょう。
設問では、この直感を「音楽的なクオリア」と表現しています。それが降ってくるとき、あなたはストレスなく次の旋律を自在に生み出すことができるでしょう。
音楽の苦しみとは、まずここまで行ってからではないでしょうか。
私自身も全然まだまだ鍛錬中です。
他の記事もお読みいただければ幸いです。
当ブログの一般楽理関連記事目次はこちら
(追記2021)
この倍音マトリックス画期的ですぎて自分で発見して驚いたのですが、必ず先人が作っているはずだ、と思い資料を当たっていたら、見つけました。
最初に見たのは、
星界の音楽 神話からアヴァンギャルドまで―音楽の霊的次元
ジョスリン ゴドウィン (著), 斉藤 栄一 (翻訳)
のp299、「ピタゴラス表」として記されていました。
ピタゴラス テーブルなら、いわゆるマス目に数字が並んだ表とか、知っていたのだけど、それの倍音版、みたいな感じなのでしょうか。
この中で、アルベルト・フォン・ティムスという、肩書きは政治家!で、日本でいう衆議院議員を務めた人です。古代の和声理論にかなり精通していた、という変わった知識人です。
このさらに大元は古代シリアのイアンブリコスという哲学者の書物でした。ピタゴラスの生涯を記しているところから、ピタゴラスの影響も大きく、当時からラムダの文字の形に数字を配置した図を書いていました。
https://t.co/NK2dUPPKP1
— M-Bank_STUDIO (@M_Bank_STUDIO) September 24, 2021
ラムダ文字の形の表、って言ってるから16とかの図かな、、
ティムスはこの図を発展させ、ピタゴラス表も記しています。
同書には、
ここでその議論を追う必要はない。その起源が何であれ、このピタゴラス表は、宇宙的かつ形而上学的諸実在に関する象徴を用いての説明や、可能な限りの解明をするための手段として、思弁的音楽にとっては他に類例がないほど役に立つものだからである。
とあります。
このディムスの影響を受け継いだのが音楽学者のハンス・カイザーで、カイザーの学生にシェーンベルクがいます。
そして「星界の音楽」には、あのネガティブ・ハーモニーで日本でも著名になったエルンスト・レヴィが共著で1983年に書いた「音楽形態学」という本の230ページにこのピタゴラステーブルが書かれています。倍音マトリックスを16倍音まで拡張した表です。
この本の原著は、下記のアーカイブ図書館サイトで全て見ることもできます。
もちろん私は、不定調性論を作るにあたり、レヴィの著書を知りませんでした。
しかし、このレヴィ先生が同様なコンセプトに気がついていないはずはありません。
ぜひ、ご参考になってみてください。