音源はyoutubeにて。
コードはこちらを参考に。
この曲のコードについて見解をください、というご質問をいただいたので(不定調性初心者受講生)、拝聴させていただきました。
確かにクラクラするコード進行ですね。
世界の混沌を次から次へと投げつけてくる感じの冒頭、混沌から生まれる秩序ってどこだ!!!と問われている感じ、つわものどもの夢の跡のエンディング。
世界を難しくしているの誰だ!という怒りのような、答えの出ない思いとか感じませんか?
曲の進行とともに少しずつ秩序や荘厳さが生まれ、最後は静けさと野原だけが残る、という極めて日本人的な感性を揺さぶる曲です。戦士の休日の緑酒、のような。
記事表題カッコつけてますが、カッコつけたかっただけなのでご了承ください。
それにしても、諭されるとすごく納得してしまう林檎ボーカルのすごさよ。。
不定調性コードアナライズのスタンス
この曲は、コードのこと、音楽のことを知り尽くした人が作っています。
混沌は混沌でも"シナリオのある混沌"です。素人楽曲のように制御できないところへは向かいません。だから混沌ですが安心して聞けます。
混沌と制御。見えざる手の制裁、みたいな印象も持てますね。
現代曲を従来のコードアナライズ等だけで読み取ろうとすると、逆に楽曲の解釈を矮小化、箱庭化してしまうこともあるかもしれません。II-Vが知りたければ20世紀の音楽で十分ですが、現代曲はもっと冒険がなされています。技法的価値が定まっていない以上、本来は確定的分析はできないはずです。
現代的技法はどれが生き残るかわかりません。だからこの曲なら「緑酒技法」として明確化しておいて、他曲の中の類似部分を調べあげたりしてまとめておくことしかできないと思います。今後彼らを上回るような天才が出てきて技法を理論化して行きます。
現代技法は何(十)年か経たないと重要性が分かりづらいものです。
冒頭は
AM7 |B/A |
この繰り返し進行で作られます。
不定調性論的には「IV-V感」とかなどと表現します。コードを知ってる人なら、
Cメジャーキーで
F |G |F |G |
と弾いてみてください。進行感があり、解決したがっているようでもあり、ワクワクと動き出そうとしているようでもあり。これを「IV-V感」と覚えるんです(進行感作曲法)。難しいコード進行を読解するためにはたくさんのコード進行を知っておかなければなりません。
この曲の場合は続くG#m7がIIIm7に感じるので「IV-V感」としました。
この進行はこの曲では「ざわざわした感じ」「高鳴る不安と期待」そんなニュアンスに感じました。もしあなたもそう感じたら、ご自身の作品でIM7 II/Iを使ってみましょう。
「進行感」を覚えれば、キーや機能に関わらずその進行感を連鎖させていけば、音楽はできてしまいます(不定調性進行)。調に縛られない感じを出すときに有効です。
この音源は
CM7 |D/C |EbM7 F/Eb |BM7 C#/B |DM7 | E |
です。このパターンを4つ繋げた感じです。作りながら"最後はドミナント感が欲しいな"と思いEsus4 Eという処理をしてます。
どうやってこれらのコードを繋げたか?というと「なんとなく」です。
これは不定調性論的作曲法の特徴で、具体的な根拠を出してから作るのではなく、"今の自分にピンとくる連鎖"を採用する、というスタンスです。これを音楽的なクオリアを活用した作曲法(進行感作曲法)と拙論では呼んでいます。
これまで学習してきた根拠を明確にして曲を作るのではなく、散々勉強してきたのだから、作るときは、直感の出てくるままにやったほうが、脳は、より自然に適切な進行を出そうとする、という発想です(もちろん逆にじっくり考えたほうがいいと直感したらじっくり考えること)。
その次の"各種生業 お疲れさん"のところですが、
C#m7 |FM7 A |
と流れます。
ここはメロディがコードに厳密に沿っているわけではないので
「不定調性和声にして難しくしてやろ!」と意図すれば、他にも様々なコード付けが可能です。
本作がどのようにコード付けされたかはこちらでは分かりませんので、用例として不定調性論的なアプローチを一つ紹介します。
メロディを観察すると、
C#m7 |F#m7 B7 |(VIm7 |IIm7 V7 |)
という通例のII-Vでもこのメロディーは歌えることは歌えます。先にこちらで作った可能性もあります。そこから和音を崩していく方法を「変格リハーモナイズ」と言います。
元曲C#m7 |FM7 A |は根音の長三度が「一歩」に設定されていますね。
c#⇨f⇨aの動きは長三度です。
それに対して通例のII-VはC#m7 |F#m7 B7 |は四度(c#⇨f#⇨b)で動いてますよね。
この根音の動きの"単位"を完全四度から長三度にしてみてください。すると
C#m7 |Fm7 A7 |
となります。
あとはメロディに合わせて構成音を変えて歌えるコードにします。
このように根音の「歩幅」を変えると響きが極端に不定調になりますから、混沌感が増します。
C#7 |FM7(b5) Adim7 |とかでもメロディに合えばOKです。
感覚だけでコード進行を作っても良いですし、ネガティブハーモニーにしても良いです。
C#m7⇨G#m7
F#m7⇨C#m7
B7⇨C#m6ですから、
G#m7 |C#m7 C#m6 |なります。合わないことはないけど...。
楽曲の前後の脈絡としてどうなのか。。曲の冒頭ですからダイナミックに動きたいですしね。その辺りは、作曲者が音楽を知り尽くしているほど、不恰好にはしないものです。
<音程の歩幅についてはこちらのページで>
その後半"選んでは取り入れ 最終形態を拵(こさ)える"
のところも、本来
C#m7 |F#m7 B7 |D#7(#9) G#7 |これでも歌えます。
でもこれでは昨今の事変サウンドではありませんね。
後半はD#7-G#7-C#m7と流れる代わりにIIbM7であるDM7に流れます。
これも「IIbの飛翔感」を知っている人は難なく使えます。これもまた進行感です。
なおDM7は、GメジャーキーのIVですから、ディグリーで無理くり振り分けようとせず、不定調性論的一時解釈で考えたほうが応用が利くでしょう。IVに行こう、と思わず「なんとなくこの辺かな?あ、これIVか」っていうような感じでも作曲家というのは曲を作れます。このコードをおこう!と思ったその着想は、「音楽的なクオリア」なんです。それを理屈で考えるとテンションが下がってしまうので、思いついたコードでなんとかやろうとしていくと意外とクリエイティブにいろんな答えが出てきたりします。
考えてしまうと自分の知識の範囲に止まりますが、直感をうまく活用することで昨日よりも一歩先の自分の感覚に出会えますからオススメです。ヤマカンとは違います。脳がそういう風に働くんです。その感覚をつかむまでがアマチュアのトレーニングです。
映画「マトリックス」に例えれば、ネオが目覚めるまでがこのトレーニング期間です笑。または野球選手が160km/hの球を打てるようになるまでがトレーニングです。
それだけたくさん音楽を聴いて、作ってきたからこそ出てくる脳回路が生み出す直感的感覚です。
”気付いたら違ってた バトンタッチが済んで”
はDM(9) C#m7ですから本来はC#フリジアンがメロディ使用音になるところですが、「が」の音がd#でDM7上でb9thになっています(一瞬でギターがちょうどアームダウンプレイを行なっているところで不協和がまぶされています)。たくみ!。
C#フリジアンにせず、ドリアン/エオリアン系で押し切っています。
"コードスケールに合わせなければならない"という原理原則は確かに学習前半で学ぶ基礎です。本来理論学習は、コードスケールを例にとるなら
1.基本のコードスケールを身につけよう
2.コードスケールを考えない方法論の意義を身につけよう
の二つの段階があります。
しかし大抵は1.のさわりまでしか学校ではやりません。退屈だからです。
むしろ1.もろくに行かなかった人のほうが、束縛がなく自由だったりします。
だからどうせ音楽理論やるなら踏ん張って2.まで行ってください。
また2.については不定調性論的思考が最左翼だと思っていますので、当サイトもご活用ください。
さらに次のセクションですがコードサイトでは
DM7 |FM7 |A |C G |B | |〜の不定調性進行となっています。
もはや曲がウェルダンになっていて"沸騰したSteely Dan"みたい。
聞いた感じでは、
DM7 |FM7 |A |C G/B|B |B |〜
かな、と私は感じました。
実際どのような解釈で演奏しているのかわからないので、上記のコードならどうなのか、ということで考えます。
ここはベースが短三度移動と長三度移動のメジャー系コードによる「和声単位」を固定した王道的な不定調性進行です。
これを作る際にも、キーや機能を考えるのではなく、連鎖するコードタイプを何となく決めながらあとは先ほど同様に感覚/心象/進行感でつなげていきます。
この部分の使用メロディですが
D△、F△、A△で出てくる音はb,c#,eでC#マイナーペンタトニックのままですので、和音の動きがそこまで歌いづらいものではありません。
ただC△がa-g-f-eでちょっと歌いづらい!です。a-g#-f#-eで歌ってしまいそうです。
サビではC#mに行くのではなく、C#メジャーに流れて陽転して晴れ晴れ天晴れなサビになります。
分かりやすくサビをCメジャーキーに移調還元しますと、
C |D |Em |Fm |
C |D |Fm |Bb ||
C |Dm |C |Fm |
と表記できます。
このようなコードの組み合わせによる作曲方法は、もちろん慣れ、なのですが、学習ステップを作ることもできます。
こちらのページにlevel3の作曲コード表がありますが、
こちらの表の中からコードを選んで作曲する、というような課題でいろんなコード進行を試す機会を得ます。
これが難しければ、 この前にlevel2の表も拙論教材にはありまして、
このくらいの量から始めてもOKです。
作曲のトレーニングで使うコードをどんどん増やしていくわけです。
これらのコードだけを使って8-16小節の音楽を作っていきます。
これは先のlevel2のコードだけを使って作っています。
CM7 |Bm7(b5) Em7 |Am7 AbM7 |Dm7 G7|FM7 |Em7 /A |AbM7 |Bb7 ||CM7 |
という流れです。
「緑酒」にはEb7(II7)が出てきますからLevel3の表でトレーニングしないといけません。Level3ではM7だけでも
CM7 DbM7 EbM7 FM7 GbM7 GM7 AbM7 BbM7
こんなに使えます。
それぞれの「コード感」「進行感」を知っていないと扱えません(この時モードは使いません。 作曲で使用するコードを拡張するためにモーダルダイアトニックコードを活用しているだけです)。
不定調性進行は選んで作っていると選びきれません。集中力も切れてしまいます。
そこで直感的に進行感を把握できるぐらいまで様々なコード進行を体に入れるトレーニング期間が必要です。
サビ、ラストの
Bsus4 B |Bbsus4 Bb |Asus4 A |Absus4 Ab |
などは、当サイトで"アルティメットクリシェ"みたいな言い方をしている不定調性進行の一種です。拙論の言い方で言えば、
静進行⇨動進行⇨静進行⇨動進行⇨静進行⇨動進行...
と流れます。
ジリジリドッカン!ジリジリドッカン!という流れがピストンのようにダイナミックな心象的イメージを与えますね。
当サイトではスティービー・ワンダーの曲で出てきました。
スティービーは上がっていきますが、「緑酒」では下がってきてます。
私が知らないだけでフュージョン系ではたくさん出てくるのでご自身の文脈を作ってください。
間奏などの男性コーラスもクイーン的で大きな世界観を感じました。
不定調性的和音付けは、理論学習と並行して身につけていかれると良いかなと思います。www.terrax.site
東京事変は少し前からこうしたコードレスなサウンドが作られています。
もはや東京事変言語になっています。皆様が習得した理論によって一時解釈を施し(それをどんどん深化させる)、自分の音楽表現に活かすようなアナライズをしてみてください。
美味しいお酒のことを言うんですね。初めて知りました。