2017-9-6→2020-9-8(更新)
ジョン・コルトレーンの不定調性進行分析
同曲については、もう多くの分析がなされています。
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<Giant Steps>
B D7 | G B♭7 | E♭ | Am7 D7 |
G B♭7 | E♭ G♭7 |B | Fm7 B♭7 |
E♭ | Am7 D7 | G | C♯m7 F♯7 |
B |Fm7 B♭7 |E♭ |C♯m7 F♯7 |
B-G-Ebの長三度の激しい施調性(旋回する調性感があること=不定調性論の用語)を持っています。
オーグメントスケールは、Cから考えると、
c-d#-e-g-g#-b-c
ホールトーンスケールは、
c-d-e-f#-g#-a#-c
です。
メシアンによる「移調の制限されている旋法」における第一旋法がホールトーンスケールであり、第三旋法からオーグメントスケールも作ることができます。
メシアンの第三旋法は、
c-d-e♭-e-f#-g-a♭-b♭-b-c
です。これはアラン・ホールズワースが「シンメトリカルスケール」と呼んでドミナントコードで使用しているスケールでもあります(REHの教則ビデオより)。
音楽の基本概念そのものを新しくしようとした。
まず音の歩幅がいかようにも設定できる、ということを知っておくと、コルトレーンチェンジをさらに応用できます。
楽音12音を規定する最初の段階で、不定調性論は「オクターブレンジ」という概念を作ります。動画にても。
倍音列の中の振動数の比の段階的変化に注目してみます。基音がcなら、
第一倍音(基音)=C1
第二倍音+基音の振動数=C2(オクターブ上)
第三倍音+基音の振動数=G2(完全五度上)
第四倍音+基音の振動数=C3(完全四度上)
第五倍音+基音の振動数=E3(長三度上)
第六倍音+基音の振動数=G3(短三度上)
第七倍音+基音の振動数=およそA#3(短三度上)
第八倍音+基音の振動数=C4(長二度上)
足される音は同じなのに、どんどん音程が狭くなっていきます。すべて各音間の振動数差は基音の振動数です。つまり倍音列上は、C1とC2の差も、C2とG2の差も、C3とG2の差も、C4とA#の差も全て基音の振動数で一定値です。
拙論ではこの一定値を「単位」とします。
通例は「半音」が一般的な音楽の最小単位ですね。そうではなく「基音の振動数」を最小単位とすることで観えてくる世界を作ります。引き算で書いても同じです。
第二倍音の振動数-基音の振動数=基音の振動数
第三倍音の振動数-第二倍音の振動数=基音の振動数
第四倍音の振動数-第三倍音の振動数=基音の振動数
第五倍音の振動数-第四倍音の振動数=基音の振動数
これを音に置き換えましょう。
C2-C1(完全八度)=C1
G2-C2(完全五度)=C1
C3-G2(完全四度)=C1
E3-C3(長三度)=C1
「オクターブ」というのは完全八度の事です。基音の振動数を一つの単位とすると、
C
C-C
C-G-C
C-E-G-Bb-C
というようなオクターブのステップが倍音列には見られます。ここで大事なのは、
「同じ振動数を足しているのに、現れてくる音名は変化する」
という点です。これは高い音に行けばいくほど、完全八度の振動数差が拡張していくためです。
つまり「音程」というのは、基音の振動数の見かけの変化、と考える事も出来ます。
たとえばC△は、みかけは長三度、短三度のステップがありますが、基音Cからすると、
長三度=短三度=基音の振動数(M3ステップとm3ステップの差異)
となります。
つまり12音で作られるあらゆる音程が、基音の振動数の変化した姿、と捉えることができるわけです。
ひとつの基音が決まる、とは「一つのステップの存在によって規定されること」と解説することが出来ます。「音程」は、この考え方において、
完全八度=完全五度=完全四度=長三度=短三度=長二度=短二度=基音の振動数差
となります。
私たちの鍵盤は半音の連鎖、すなわちm2ステップの連鎖です。
他の音程も同様に考えることができます。
P5ステップの連鎖→五度圏
P4ステップの連鎖→四度圏
M3ステップの連鎖→長三度連鎖
m3ステップの連鎖→短三度連鎖
M2ステップの連鎖→ホールトーン
m2ステップの連鎖→クロマチック
ですね。
あの五度圏というのは、不定調性論的には、P5ステップの連鎖である、と言えるわけです。
ホールトーンスケールもクロマチックスケールも基音が生み出せます。
オーグメントスケールやシンメトリカルスケールはM3ステップの複合形となります。
ここでようやく本題に戻る
すると、コルトレーンチェンジといわれる長三度連鎖も、M3という「歩幅」をフューチャーしたもの、と考えることが出来ます。
それまでのII-Vは五度や四度が基調でした。P5ステップやP4ステップです。それをM3ステップに変化させた、ということになります。
たとえば基音CでP5ステップを用いると、真っ先にでてくるのは上方のGであり、下方のFです。これで従来のスリーコードができます。
これをP4ステップにすると、基音がCなら、上方のF、下方のGです。
そしてM3ステップにすると、基音がCなら、上方のE、下方のAbとなります。
するとP5ステップが基調の音楽は、
C-F-G-Cがスリーコードの代表的進行だとすると、M3ステップでの代表的進行は、
C-Ab-E-Cであす。
ちょっと弾いてみて下さい。M3ステップによるスリーコード進行。
C△--Ab△--E△--C△
Giant Stepsの響きになってきます。この響きはM3ステップという「歩幅の基準の変わった音楽の姿」というわけです。他のステップも作れます。
教材の中でもいろんな可能性について述べています。
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この曲はさらにII-VでM3ステップのシークエンスを連鎖していきます。
これは「II-V」という慣用句の音楽的クオリアを活用している、と考えて頂ければよいでしょう。
「訳の分からない進行の合間に、よく聞きなれた進行感をはさむことで、音楽的脈絡が構築される」
は不定調性進行の鉄則です。
この律儀なII-V-Iの混在連鎖が、同曲の解釈をややこしくしていたわけです。
たとえば、同曲のM3ステップをP4,P5ステップに戻すとしたら、
Bm7 E7 | Am9 D7sus4 | Gm7 | Am7 D7 |
Gm7 C7 | Fm9 B♭7sus4 |E♭m7 | Fm7 B♭7 |
E♭ | Am7 D7 | G | C♯m7 F♯7 |
B |Fm7 B♭7 |E♭ |C♯m7 F♯7 |
とすることもできます。もちろんこの解釈でメロディも乗ります。
ちょっと抒情が出ます。