音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

滝本氏の#11th;海にうつる月、むし、ワルツおぼえて / たま

www.terrax.site2018.10.4⇨2020.9.26更新
たまの不定調性進行分析

海にうつる月 / たま

https://www.youtube.com/watch?v=1EEHPgLscQI

メジャー2ndアルバム「ひるね」からの一曲です。
奇麗ですね。夜の幻影という印象です。

Aメロ
|CM7 Bm7|F♯m |CM7 Bm7|Esus4 E|
|CM7 Bm7|F♯m |CM7 Bm7|Esus4 E|
Bメロ
|FM7(♯11) |Dm6 |Am Am7/G|D/F♯|
|FM7(♯11) |Dm6 |Am D |G |
====
サビ
|CM7 Cdim|Bm7 E7|Am7 D |G |

この最初のCM7、「暗!」って思いませんでした?
CM7ですよ?CM7っていったら、明るく洗練されたサウンドのはずです。

 

イントロもAメロと同じ進行です。

これはEsus4-Eが、この曲をEのキーのような印象を持たせ、CM7がEのキーのVIbM7のように響くからですね。

 

Cメジャーキーでいえば、
C△-C△-AbM7-

と流れる時のAbM7は「VIbM7の感覚」です。ふわっと飛翔する感じを覚えませんか?ちょっと切なく、でもダイナミック。

この辺は作曲やらないとなかなかつかめない感覚ではあるかもしれません。

 

コード進行をいくつもたくさん弾いていくと「ああ。そこに進む感じね」とわかってきます。

不定調性論的コード進行はこの「そこに進む感」をいくつも連続させて音楽を作ります。雑誌や新聞の文字の切り抜きを貼り付けて文章を作るような感じです。

f:id:terraxart:20201212153537p:plain

一つ一つはまるで違うのに、繋げると文章になり、そのフォルム全体が醸し出す雰囲気がまた新たに生まれます。脅迫文の脅迫感もまた切り抜いた文字で作るから生まれる独自な緊張感がありますよね。あれはフォントが持っているものではなく、切り抜かれた文字が連続されることによって生まれる新たな印象感です。コード進行も同様です。

 

また、
|CM7 Bm7|F♯m |CM7 Bm7|Esus4 E|
のF#mへの流れも独特ですね。

次のF#m-CM7という増四度進行が、何とも言えない陰鬱さを出しています。

本来進んではいけない方向に進んでも「あなたが何かを感じたなら」進んでみてください。その辺は人生と同じ笑。

 

|FM7(♯11) |Dm6 |Am Am7/G|D/F♯|
何度も出てくるこの「滝本さんの#11th」も、このサウンドのことをよく知っている人でないと使えません。


FM7(#11)、皆さんにはどんな響きに聴こえますか? 

そして次のDm6もじつは前のFM7(#11)同様、増四度を持っています。
滝本楽曲にはこの増四度というサウンドが実に効果的に使われています。

 "何となくわかる気がする"、という人が多いのもこのサウンドの不思議な特徴だと思います。

このサウンドは特殊でもなんでもなく、ポップスの歴史において使われ続けたサウンドだからですね。

このサウンドが持つ不思議感がたまの持つ不思議感とマッチングしているところが、このバンドの魅力をただの色物ではなく、音楽的に輝かせていると言っても良いのではないでしょうか。

むし / たま

https://www.youtube.com/watch?v=0iTqmL0axGE

メジャー2ndアルバム「ひるね」からの一曲です。
Aメロ
G9 |% |Gm9 |% |
G9 |% |Gm9 |% |
Dm7 |% |Am |% |
Dm7 |% |A |% |
Bメロ
Em |B |E |A |
Am |D |D |
Em |B |E |A |
Am |D |D |Em7 |D |

 

このセンターコード転調の技法G→Gmはビートルズも用いていました。
ここではそれに輪をかけてつぎのDm7-Am、Dm7-Aのセクションでも同様な効果が見られます。

 

景色だけがめまぐるしく変わっていくような印象、「早い雲の流れ」にあわせた太陽と光の風景の陰影のような「風」を感じさせます。感じませんか?

 

コードの機能が変わると、当然印象が変わります。
ちょっと試してみましょう。

CM7-Dm7-G7-F#m7-GM7-G7-F7-G7-AM7

ここにいくつもG7が出てきますが、それぞれで異なる印象があると思います。
こうした効果を機能の多解釈効果、として不定調性では機能超越の一つの理由、としています。

機能を感じるというよりも、和音の連鎖が作る雰囲気そのものを感じるだけで、音楽を感じることができ、楽しむことができるっていうことを教えてくれます。

 

CM7-C7-CM7-CM7(11)-CM7-C7-Csus4-C(b9)

というような進行で、メロディを乗せるトレーニングをする、というような自主課題も良いです。

 

またあえてコードを動かさない、というのもこの曲では使われています。

Em |B |E |A |
Am |D |D |

Bメロのこうしたチェンジは、コードのエコですね。
敢えて停滞感を出して、曲のジメっとした雰囲気を作っています。

 

コードの機能破壊のテクニックとして次のような考え方があります。

CM7-Dm7-G7-CM7において

CM7=c,eをもつ+Cメジャーキーの音。
Dm7=fをもつ+Cメジャーキーの音。
G7=f,bをもつ+Cメジャーキーの音。

だから機能印象が成り立っている、と考えてみましょう。

すると、
CM7-Csus4-CM7(11)-CM7
これでもそれっぽい流れはできていることになります。

Csus4=fをもつ+Cメジャーキーの音。
CM7(11)=f,bをもつ+Cメジャーキーの音。

で、理屈は同じです。

機能和声論だけではこういうことができないので、そうした周辺応用テクニックを使えるようにするために、不定調性論的思考がどうしても必要になると思います。

 

ワルツおぼえて / たま

https://www.youtube.com/watch?v=fprLZ6FptrI

Aメロ
F | Esus4 E |Em |F |
F | Esus4 E |Em |F |
Bメロ
D |Am |D | C#m F# |Bsus4 B |Bbsus4 Bb |
Cメロ
Dm |EbM7 |Dm |A |
Dメロ
Cm F |Bb Gm |Cm F#dim7 |G |
Cm F |Bb Gm |Cm F#dim7 |G |
Eメロ
F(b5) | C#m F# |C#m F# |C#m F# |Bsus4 B |Bbsus4 Bb |

これまた激しい旋調性(調性が旋回している=拙論用語)。
キングクリムゾンを思わせるsus4波状攻撃。

 

F | Esus4 E |Em |F |
をみてみると、
F→Esus4はキーCメジャーの時の
FM7--Esus4-E7-Am7
という流れの時のIV-IIIを感じさせます。これも「コードの進行感」を知ってないと使えません。知識ではなく体で知っている必要があります。

 

そしてE7に行かず、Emに行くことでCメジャーキーのIIImに流れた印象を持ってきます。そのあとFに行くとIVに向かった時のような、またはAmキーでのVIbに飛んだような感じを与えます。「進行感のオンパレード」です。

ビートルズのコード進行が全部理解できるよ(体に入ってるよ)、という人はこっちの世界に行けます。

 

それぞれのパートへの転調感が全く異なるストーリーを描いた群像劇のように展開していく、そういうコンセプトなのでしょうか。

 

D |Am |D | C#m F# |Bsus4 B |Bbsus4 Bb |


ここでもD=IとしたときのVmであるAmへの進行感を契機に、VIImであるC#mへの流れも追加して、不思議感を出しています。

これがBsus4へのII-Vになっていて、そこからsus4連鎖です。

 

このsus4連鎖にはどんな印象を皆さん持ちますか??

Csus4-C-Bsus4-B
とか
Csus4-C-Dsus4-D
とか
Csus4-C-Bbsus4-Bb
などなど、いろいろな印象を自分に与えると思います。

sus4の解決進行は、良く知られた印象ですから、強烈に何かを聞き手に感じさせます。

 

Cm F |Bb Gm |Cm F#dim7 |G |
ここは「枯葉」的です。この四度進行は、求心力が強く転調しやすい進行です。1キーに収まっているようで、いつでも調を飛び出せる進行なんです。

F(b5) | C#m F# |C#m F# |C#m F# |Bsus4 B |Bbsus4 Bb |
このF(b5)は解釈が異なるかもしれませんが、滝本さんの#11th、だと思います。

(#11th自体を巧みに使うアーティストはたくさんいますがそれぞれにツボが違います)

滝本さんの#11thは、コード進行において「こう使えばいいのか!」と膝をたたかせる、分かりやすく効果的なサウンドになっていると思います。

 

たま情報提供;マーサ
シンガーソングライター マーサ(大櫛雅子)のブログ♪