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音大生・音楽家のための脳科学入門講義2〜音楽制作で考える脳科学30

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前回 

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音大生・音楽家のための脳科学入門講義

前回の続きです。

 

第3講 脳の記憶システムと学習

<エピソード記憶>

「あの曲を聴くと、あの頃が思い出される」脳科学的理由は脳がエピソード記憶、という方式で出来事、感情、五感などが記憶されるからです。面白いのはそれが書き換えられやすく、書き換えられたことに気がつかない、ということです。

故に過去の記憶は美化されてしまうのだ、とか。

面白いですね。こういうことがわかるだけでもクオリアへの幻想とか、宗教的信教的な価値を無駄に崇拝せずに済みます。

例として映画『追憶』のテーマソングの歌詞などが引用されているあたり、画期的な脳科学音楽本です笑。

 

過去の話や伝説が書き換えられるのも脳に心地よさをもたらす娯楽だ、ぐらいに考えておけばそこまで人を崇拝しないで済みますし、美化されたエピソードに対して「美化されているだろう」と直感することもできます。

そういうことへ理解できる人が増える、というのも21世紀の民度だと思います。

 

私は人生で何度もひどい目にあっているが、なかには本当に起きたこともある。

マーク・トウェイン

 

エピソード記憶の書き換えは、著者曰く「願望」なのだそうです。

目撃情報、っていうのも最近は信頼性を疑ってかかるそうです。

<言語隠蔽効果>音楽理論的根拠は考えない方がいい?

記憶が都合よく書き換わるから。

人生は幻、って先人がいうのが真実味を帯びてきます。

 

脳を切除すると記憶はなくなるそうで、そういう意味で記憶自体も簡単になくなるものであり、それがなくなったら自分の価値はどこで実感するのだろう、と感じたり。

それは死とは違うのか。それとも転生か。

なんだかんだ言って人は過去に支配された生き方になってしまいますね。

どんなに自分が「俺はすごい」と言っても、周囲は過去の実績から私を判断します。そして、過去という認識も脳が作り上げた、認知機能です。人は世界や社会ではなく、脳に支配されている訳です。

 

いつまでもいい曲が作れないと「自分はいい曲が作れないかも」と思ってしまいがちです。また周囲もそう思って接しがちです。記憶ハラスメントですね。

急にすごい曲が書けるかもしれないのに、その可能性は確率的に判断されてしまう。

脳と確率の話は下記でも書きました。

www.terrax.site

www.terrax.site

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脳は確率を正しく理解できません。感情があるから。

 

だから新しいことへ、新しいことへ、自分の記憶を書き換えつつ、実績を積み重ねて厚みを作って自分の価値を発見していきたいものです。

やめたらそこで終わり、って本当ですね。

 

なかなか自分もこだわってしまってそれがうまくできないことに反省しかありません。

 

<手続き記憶の活用>

演奏のスキルや、作曲の手順などは繰り返しその手続きを学習することでそういう回路が脳内に作られます。

だから脳科学的にも音楽理論をやっても作曲は上手くならないし、いい楽器を買ってもいきなり上手くなる訳ではない、と言えます(モチベーションは上がる?)

 

その代わり、精度高く練習してその手続き回路ができれば、頭の中で「練習」もできるし、修正もできるそうです。もうちょっと小指を上げないで弾こう、って思ってイメージトレーニングしていたらそれが実際の演奏にも反映されるそうです。

だから電車や交通機関に乗っている時、お風呂に入っている時、寝る前、などにそうした楽器や歌のイメージトレーニングをするように私も勧めています。

歌などは歌わなくてもイメージで歌うだけで実際に声帯が動くのでかなり有効です。

 

しかしなかなかこれができる人は少ないです。

やはりこれも寝食惜しんでも本当にそれがやりたい、好き、上達したい、と思っていないとできないのだと思います。

 

インフルエンサーの話を聞いても実行できる人が少ないのは、インフルエンサーのそばに集まる人たちが基本は色々な意味で潜在的に楽をしようと思っているからかもしれません。それはインフルエンサーのせいではなく、それだけ実行継続挫折克服が難しい、と解釈したいところです。

何事も綺麗には上達しません。徒労を無くして、回り道や挫折なくして脳の中に効率的な回路は作られないのです。

だから、誰も当てにせず、自分の力でやれるところまでやる、結果が出なければ諦めるぐらい、次にやりたいことへ向かうぐらいの潔さで生きた方が、人生は飽きないかもしれませんね。

 

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昔の練習曲を歌うと、昔の未熟なスキルで歌ってしまう、という声楽家の話が同書に紹介されていて面白かったです。

「以前に身につけたスキル」を再現するからだそうです。

「練習は脳内に精度の高い手続き回路を作るために行う行動」

と宣言した本に出会ったのはこれが初めてです。

実際に「なんのために練習するのか」の答えが脳科学的に出てしまっている点で痛快でした。

 

また逆に、どんどん記憶、体験、を刷新していかないと、子供の頃の「ピアノが嫌い」というイメージだけしかないと、本当は好きになる可能性もあったのに、嫌いだ、と思い込んでいる、ということもありそうですね。

記憶が書き換わり、練習で良い回路が強化されるなら、やはり「努力」で人は変われる、というのも脳科学的な事実なのでしょう。

www.terrax.site