音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

<ローゼンタール効果>ヒット曲が連続する理由?〜音楽制作で考える脳科学7

余暇を利用して、最新の脳科学の研究やトピックを題材に少しずつ音楽や作曲に応用した記事を作っています。

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前回

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参考にするのは「自分では気づかない、ココロの盲点 完全版 本当の自分を知る練習問題80」です。

 

研究室の学生たちに、ネズミ2匹を

 

一方は血統的に賢いネズミ、もう一方は劣ったネズミ」

 

と説明しながら与えました。

 

実は、これはウソの説明です。(中略)本当は同じネズミたちです。

 

さて、ネズミの学習テストを行った学生たちは、どんなデータを出してきたでしょう。

 

①両方のネズミが等しい学習能力を持っていることを示すデータ

②賢いと説明されたネズミは、たしかに学習能力が高いことを示すデータ

③賢いと説明されたネズミは、実は学習能力が低いことを示すデータ

 

もちろん答えは2です。賢い、と言われると、学生たちはネズミを丁寧に扱うから、ネズミもストレスが少なく高い成果を出しやすくなる、そうです。

逆に劣ってると言われたネズミは、無意識に雑に扱われ、ネズミへのストレスも丁寧に扱われたネズミよりも高くなるため、成果が出にくくなる、のだそうです。

 

ヒット曲を作ると、持て囃され大事にされます。周囲も集中して仕事をします。

依頼する側も丁寧に依頼し、受ける側も気持ちよく仕事を開始できます。

故にヒット曲が生まれやすくなります(そう単純ではないでしょうが)。

 

周囲も期待し、本人も自信を持って自己評価し、仕事に臨むからでしょうか。

 

このような効果が出た場合をローゼンタール効果(Rosenthal effect)またはピグマリオン効果(pygmalion effect)というそうです。

 

次も期待する!良い曲を作って欲しい!というような効果が集団心理になることで起きるのでしょう。ある意味では怖いです。

 

ピグマリオン効果については、以前以下の記事でも述べました。

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誰でもヒット曲をどんどん生み出すような人に憧れます。さぞや自己満足が高いだろう、などと思います。また自分もそれに向かって頑張ろう!って意欲を持つこともできます。

ちなみに映画などで復讐に燃えた主人公がついに悪人を倒しても虚しさだけが残る、というような効果を「持続時間の無視(Duration Neglect)」「インパクト バイアス(Impact Bias)」と呼ぶそうです。

交通事故に遭って体が不自由になると、どんなに不便か、と感じますが、当人には上記のような効果が働き、自分が予測したほどのショックは受けないそうです。これも「心理学的免疫システム」というそうです。人によるのでしょうが。

情動減衰バイアス(Fading affect bias)感情が時とともに薄れること。特に不快や嫌悪は早く消える。 

これは過去の経験が美化されていく「薔薇色の回顧(Rosy restospection)」「レミニセンスバンプ(Reminiscence bump)」と言った傾向にもつながるようです。老人が過去を振り返るのは自慢したいからではなく、10-20代の記憶をよく覚えている傾向が脳にあり、かつ過去が美しく見えるから、であるとしたら。

 

「売れる」、ということはもちろん成功とか達成とか自己実現とか様々な「理想郷」のように感じますが、脳はとにかく安定を好むので、当人の悩みやストレスは誰でも同じなのでしょう。

 

また周囲にどんどん追い抜かれて焦って悩んでいる、というのも脳が仕掛けるもの、というだけで、みんな脳内の悩みは同じ、だとしたら。

 

成功してもそれに酔える時間は短く、失敗しても思ったほどくじけない、のが人の機能だとしたら。

本当に人生は、酔狂のようなものだとしたら。

これは楽しんで酔った方が良さそうです。

一生懸命遊ぶように働く。仕事が頓挫したり、夢が中断されても、確率的には全て五分五分だそうです。「調子がいい」みたいなのは錯覚(クラスター錯覚-Clustering illusion-)なのだとか笑。

スポーツの試合の中にも確率的には「流れ」などなく、「今がチャンスだ!」みたいなのは錯覚で、それを皆が思い込むから、ピグマリオンエフェクトが起き(相手チームにはその逆のゴーレム効果-Golem effect-)、実際に結果が出る(実際に点が取られる)、と言えるのかもしれません。

一流のプロスポーツ選手ですらそういった脳の性質に流されるのですから(ある意味で利用し)普通の人ではわかっていてもなかなか冷静に理解することは難しいのでしょう(脳は冷静な時に興奮した時の自分をシミュレーションできない)。

 

夢が叶うと「あれがしたい」「これがしたい」とかいろいろ計画しても長期的には頓挫するそうです。脳が安定を好み、現状維持を好むので、そうした自己実現は今以上に努力、忍耐がのしかかってくるのでそういうのはなかなか常人には大変です。

テレビで一線で活躍している人たちの努力、というか、頑張りは凄まじいものなのでしょうか。

同書には、頑張れて長く続く一つの秘訣を教えてくれています。

 

好きだからやっている。これでいいのです。

 

好きには勝てない、のですね。

一線の人たちの「血のにじむ努力」がただ「好き」に支えられているなら、義務や社会的動機でやっている人は逆立ちしても勝てません。

アンソニー・ロビンズは自分が決めた行動習慣について「自分とは交渉しない」という名言があります。やると決めたことはやる。なかなか鋭い視点ですね。

 

好きに理由はいらないのだそうです。

同様に「嫌いにも理由はいらない」のかもしれません。

 

学校では色々な志や社会への責任を果たすことを目標にさせられますが、結局そういった目標は頓挫し、「好きだから」というそのシンプルな「内発的動機付け(Intrinsic Motivation) 」が一番ということです。

 

これで全てが解決、というわけではないですが、教える立場にいて、ヒット曲を作りたい!社会貢献したい!反対した親を見返したい!家族のために頑張りたい!いろんなモチベーションを伺います。

そうした志高い社会的動機よりも「好き」が勝る、としたら。

これは恋愛の時の「好き」とは違って(冷めてしまうタイプの"好き")、やはり「生来得意」という側面が呼び起こす個人にとって普遍的な"好き"だと思います。

「好きだけでは続けられない」のも事実なのでしょうが、まず「好き」でなければ続かないと思います。

 

いろいろ考えさせられますね。みなさん一人一人で考えていただく方が良いと思います。

 

またこうやって自分が音楽の側面から物事を見ようとしてしまう傾向なども

専門バカ偏向(Professional deformation)」という名前がついています笑。

また次のようなことも。

ニューロリアリズム(Neurorealism)

「あなたが〇〇なのは、脳の仕組みが〇〇だから」と説明されると納得してしまう傾向。

そしてこれらすべての類型化が「確証バイアス(confirmation bias)」という「自分の考えに一致ししてしまう情報ばかりを集める傾向」につながっていくわけです。

 

 いよいよ我々がいかに「脳認識から自由でない」ことを考えさせられます。

逆に「脳が仕掛けること」と思っていれば、「人を憎む」ということも減りそうです。まさに、罪を憎んで人を憎まず、ですね。 

ともかく自分もこの仕事が好きなので、何をさておき頑張れてしまいます。

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