音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

アラン・ホールズワースの楽しみ方(ソロ編)

www.terrax.site

2017-9-4→2020.3.14(更新)

泣く子も黙る、ホールズワース節。
これほど独自性がある、と思われたフレージングも、いつのまにかギターキッズなら誰でもみんな弾ける??時代になりました。つまりそうなると、いよいよそれがどういう考え方によって生まれているかを音楽スクールで解説ぐらいできないといけない、となります。


概略と観察

僕たち永遠のロック小僧が聴きたいのは、ホールズワースの以下のような演奏です。

 
Jeff Watson/Allan Holdsworth - Forest of Feeling

左chがジェフ・ワトソン、右chがホールズワース。

 

誤解を恐れずどんなに単純なコード進行でも、彼のソロは"アウト"していきます。

 

教則ビデオでもそうでしたが、彼には独自のスケールチャートがあり、それに基づいて演奏している、というのですが、私が思うに、あのチャートだけではあの演奏はできないな、と、当時自分なりに分析しました。

チャートとチャートを一秒後tに切り替えている、と表現してもいいです。

複数のチャートを瞬時に切り替えながら、目的のソロをとる、ということにチャレンジしてみましたが、普通思うようにはソロが組み立てられないでしょう。チャートを脳内で選択しているうちに、弾きたいタイミングを失ってしまうからです。

これを行うためには達人級の判断力やスキルが必要です。長い時間のとんでもない努力も。

だからホールズワースのスタイルを誰でも学べる、というようなレベルで音楽教室のレッスンに落とし込むことは難しいでしょう。空海の生き方を校則にするようなものです。

あのVHSはもーお金ないし、しょうがないから形にしたけど、核心は何も言ってないよ的な攻めた内容なんです笑。あのチャート自体があの企画のために作ったんじゃなか、と思ったほどです笑。

 

彼のソロをコピーしたことのある人なら分かると思いますが、スケールチャートなどあくまで"かすがい"でほとんど即興的にハーモロディクスコンセプトのように音を紡いでいるようにしか思えないフィンガリングが何より大変魅力的です(耳コピしてみて!)。指グセや手グセ(ギター的な動きやすさ、目安となる指の支点)も見受けられるのですが、「ああ、またそのフレーズね」と思われてしまうようなフレーズは意図的に避けられていて、いつも新鮮です。

だからリックばかりの速弾きギタリストとはクリエイティビティの次元が違います。いつも違うことを弾くのだ、というモチベーションに溢れています。本当に即興性の中で自分を戦わせていたのだと思います。その点はオーネット・コールマンの思想に似ています。

 

ちょっと音楽理論的な話をします。

 

協和の拡張~テキトーに弾けること 

たとえば、C△に対して、最も協和するのはc,e,gですね。

そしてd,a,bといった音が「コードトーン/テンション」です。

それからC△に協和するあらゆる音、f#やb♭といった音が次に組み込まれます。

ここまでをまとめると、C△で使用できる音は、
c,d,e,f#,g,a,b♭,b
となります。これはもはやスケールです。
 

これはパーカーらが作りだした「経過音的フレージング」です。ホールズワースを聴くためには、パーカーやコルトレーンのホーンミュージックへのある程度の認識は欠かせません。

彼はギターでホーンのメロディを再現したい、とどこかで述べていました。

 

ホールズワース神は、リックというものをインタビューやビデオでも示しません。
「ex.1」というようなフレーズを作りたがりませんでした。

真の即興系ミュージシャンだったからでしょう。

即興、というのは、つまり、
Aポジション想起→テキトーに弾く→Bポジション想起→テキトーに弾く→Cポジション想起
というようなサイクルがミルクのように混ざり合ってソロを展開していくやり方です。弾き始めてからポジションに当てはめるみたいなこともできたでしょう。

思考構造が完全に一体化してしまっています。頭で描いたイメージを即考えずに絵にするような感じ。

言葉が悪いですが、この「テキトーに弾く」=瞬時の判断で次のポジションへの経過音として指に任せて即興的に弾く、という技術で、ホールズワーススタイルの真骨頂であり、できそうでできない「絶望的なセンスの差」を感じる部分でもあります。

 

この「テキトー」というのは、経験によって支えられており「今ぱっと弾いても、意味のあるソロがいつでも弾ける」というスキルがないといけません。かつ彼の場合リックがないので、いつも「初めて弾く、初めて聞くフレーズ」に聞こえるところに尋常でない努力とか、気質を感じます。

 

ホールズワース氏が素晴らしいのは、この「テキトーに弾く」に弾くところの、摩訶不思議なシークエンス的な組み立て方や、高度な運指の横移動のセンスです。

あれがもしその場で即興的に生み出されていたとしたらとても真似できませんし、あれが作られたものであったとしたらその圧倒的努力に手をあげるしかありません。

コツを覚えてもいきなり200kgのダンベルを持ち上げられないように、圧倒的な基本的な違い、積み重ねてきたものの違いを感じます。

 

テキトーに弾いたときの罪悪感と興奮

皆さんの経験でも

「あ、今、俺テキトーに弾いちゃった、でもけっこういい感じだったなあぁ。。」

って思ったことありませんか?

ちょっとむず痒いですよね。「テキトー」って。自分の経験が作り出してはいるんだけど、脳からリリースする前に指を勝手に動いちゃって弾いちゃっているので、なんだか自分で出したフレーズ感がなく、なんとも歯がゆいものです。

でも、これは先進国の音楽教育がそう思わせているだけで、そのフレーズはあなたが繰り出したフレーズであり、あなたが責任を持たなければなりません。

言うなれば、「考えなくても最高のフレーズが弾けるまで練習しろ」というところが本当のホールズワース神が言いたかったことだと思うのです。

反射神経と言えばいいか、160kmのボールをバッターが打つあの感覚で、自在にフレーズを繰り出す能力が求められます。プロ野球選手しかできないあのレベルの能力を求められているのです。

アマチュアが160kmの球を打てないのは、その訓練が足らない、と考えてみてください。どんなトレーニングが必要かイメージしてみてください。

 

普通はミストーンを生じます。

ホントかウソかホールズワースはレコーディングが近くなるまで練習しない、と言っています。これは晩年の話ですが、若い頃は違ったと信じたいです。もし練習しないなんてことだったらちょっとお手上げです。「なんだただの唯一神か」で終わります。

 

テキトーに弾いていく事に慣れないと、どうも顔に自信がない、フレーズに力がない、とということが表に出ます。それではエンタメとしても魅力がありません。

「感覚で指を動かしていかないと追いつかない」ので、いかに流れで自分が描いたものを出せる脳の回路を作れるか?という発想に切り替えてみてください。

 

オーネット・コールマンがそうであった通り、形式を求めず、感情をむき出しにして、表現する、という状態で、弾きたいフレーズを出すには、やはり相当な覚悟、自信、トレーニングが必要かと思います。本当のフリーは捨て身の攻撃、です。

 

ようは、自分の経験と実績を信じて、考えて弾くのではなく、"感を得て弾く"を堂々と行える即興的ミュージシャンになる、を目標にするわけです。練習して上手くなる、という次元の一つ二つ上をいく感じ?でしょうか。やっぱりプロ野球選手だ。友人にプロ野球選手何人います?それがあなたがホールズワースになれる確率です。

 似たようなことができるはもう誰でもできると思います。だって先例があるんですから。そうう話ではありません。何もないところを自分で1から作れる人間になれるか?という話です。

 

いちいちスケールを考えない

考える前に指が動く。そういう脳の研究結果も出ています。

「意識による判断の7秒前に、脳が判断」:脳スキャナーで行動予告が可能|WIRED.jp

内面から湧き起こる抽象的な動機をまるで射撃や弓道の的に当てるがごとく集中してあのスピード感の中で出してしまう。

フリージャズの真の精神がそこにはあります。いまフリーがつまらないのはコールマン級に人生なげうってジャズをやる音楽になりづらいだけです。

 

練習の際は、スケール練習などとっとと済ませて、感覚でソロを弾くトレーニングを積んでみてください。今まで考えていた思考回路をすっ飛ばしてもそれが弾けるようにするんです。多分脳の違うところを使っていることに気がつくはずです。

「考えてなくても起動する脳の部分が動いてる感じ」

を得れば良いわけです。

目的のフレージングを「考えないで出せるようになるまで」ひたすら弾きましょう。

キーとかスケールとか、コードとかポジションとか、そういうところで音楽をやっていてはいけません。遠回りも無駄なことも全部やって、あーそうか、そういうことかを掴んでください。アドバイスする人もいると思いますが。1から全部自分でやらないと必ずマネになります。そしてそういうふうに独自性を育てられる人は、最初から人に学びません。誰かにヒントを教えてもらおう、って思った時点でホールズワースにはなれないんです。多分。気質/性格/性分もあると思います。

 

 

野球選手に会ったらなんで160kmの球が打てるようになったのか聞いてみてください。「次元の違い」を感じましょう。マラソン選手でも、陸上選手でも、棋士でも、騎手でもとにかく一流の技術を持ってる人に出会ったら、どうやってそれができたのかしつこく聞いてください。宣伝用の文句ではなく、自分も目指したいのだ、と伝えないと教えておらません。もし彼らが自分の努力してきた内容を公表したら、叩かれるレベルで変態だからだと思います。

飲み会誘われたらお腹痛いって言って帰って練習した

とか

親の葬式にいかなかった

とか

何人かの人生を犠牲にしてここまできた、

みたいなことでないとちょっと身につける、とか無理な技術です。

じゃあお前でできるのか、と思った方、あなたは無理です笑。

それができる人はここにはきません。やることわかってるのに人の話聞くなど時間の無駄だだからです笑。

 

「崩れ」の絶妙な間の取り方

C△でどんな音を使ってもいい、のは分かっているが、C△が見えなくなってはいけない、しかし、だからといって、ちょっとやそっとアウトするような感覚(ただの退廃したフリージャズ)では「飽き」がきます。魂が飽きます。神に飽きられます。自分への裏切りに押しつぶされます。

 

最初は意識する、無意識でやる、をある程度繰り替えす「崩れ」という手法でトライします。

型→崩れ→型→崩れ→崩れ
という手法によって、「型」ではコードスケールポジショニングに沿い、「崩れ」の部分で、自由な演奏を試みます。

このスタイルはジャズには当てはまらないのでホールズワースはジャズをやらなかったのでは?と感じます。これに比べたらジャズは形式に縛られすぎています。

 

簡単な例で

CM7 |CM7 |CM7 |CM7 |Dm7

という中で「崩れ」を使うとき、

CM7 |G7(alt) |CM7 |A7(alt) |Dm7

と、CM7やDm7前を勝手にV7化します。演奏はCM7ですから、厳密には、

A7(alt)/CM7

という複層構造になります。

 

こうすることで、CM7上でAオルタードドミナントスケールなどを使えば、自然とアウトしながらも、旋律上はビバップのアウトフレージングのようになり、綺麗にDm7に繋がります。コルトレーンがやろうとしたこともこういうことです。トレーンはホーンで和音的な連鎖を作ろうとしたわけです。とてつもない速いフレーズでCM7のアルペジオを弾けば、それが和音的な存在と等しくなるのでは?という発想です。

でもオルタード使っていたらただのジャズです。

独自の音連鎖を発明する必要があります。

今まで変に勉強してきてしまった人は、それを捨てられますか?

サンクコストエフェクトに負けないで。


さらに、4小節目が「崩れ」であると決めれば、もはやV7である必要はありません。下記を試してみてください。

CM7 |CM7 |CM7 |テキトーに弾く |Dm7

これでも似たような効果が出るでしょう。

スケールポジションを弾くのではなく、オルタードを弾くような心持でアウトしていく「イメージで弾く」わけです。直感とアイディア、経験が頼りです。

この解釈でライブ終了まで集中力や音楽性を保つのは相当な精神修養ですね。

そこに興奮できるタイプ、というのはもう努力というより歪んだ性癖と言ってもいいです。

あなたには十時間やってても興奮から冷めない性癖はありますか?それがあるなら、そっちの方が人に勝る能力を開発できる可能性があります。

努力を努力と感じないわけですから。

 

リズム感もその過程でついてきます。リズム感を良くしよう、ではノリは出ません。一つ上の段階で音楽をやれるようにしましょう。ちょっとした迷いがリズムのずれになり、それはメンバーに伝わり、メンバーの集中力を欠き、音楽がダレます。または観客に伝わります。会場がダレます。結果音楽がダレます。

そうならないようにタイム感、リズムの持って生き方も即興的に整えられるようになるまで訓練します。ほら、ブログ読んでる暇なんてないでしょう?笑


アウトするためには当然、Cメジャースケールを完全に把握していなければなりません。フレットボードは隅々まで覚えておかないといけません。他のキーの他のポジションも全て。

CメジャーキーとDメジャーキーを合わせたポジション弾けますか?

C/E/G#メジャーキー  | A/E/Bメジャーキー |

と1小節ごとに複数のポジションを合成したポジションを想定し、その中で延々ソロを取ることはできますか?できなければ、ポジションが体に入っていません。または頭を使わない訓練ができていません、またはそういう訓練自体が足りません。これを90分のライブの間維持できて、初めてホールズワース的土台の完成です。

 

「レガートスタイルはどうやって弾いてるのか」という質問に、ホールズワース先生は型通りの答えをメディア用に用意していたことでしょう。だって真の答えは「弾きまくって極めるだけ。コツなどない」ですから。そんな答え雑誌社に笑われます。

「もっとなんかあるでしょう?はぐらかさないで。」

説明の仕方、なんて考える必要がないのに、それっぽい説明を求められるストレス。

 

 

さらにこの「崩れ」を緊張感のあるものにする工夫も個人で必要です。
C△でe♭をカッコ良く使うためには、e♭→eというように、用いればブルーノート的にカッコ良くなります。これを発展させて、
c→e♭→c→e→c→e♭→c→d♭→d→c
としたり、これを高速で行うことによって「スリリングな崩れ感」を出すわけですね。むしろこの型のない感じは「和風」でもあります。

ホールズワースが日本で好まれるのも、この崩れた感じに詫びと寂びを感じるからではないでしょうか(考え過ぎか)。桜が散っていくような、はらはらと舞っていく協和の崩れ感がどこか武士道です。

 

それから。

速弾きはあくまで結果論です。それだけ練習していたら早くもなるわな、アウトするなら早く弾いた方がいいもんね。スタイルの結果であり、早く弾かなくてもアウトの独自性は求められます。

 

ホールズワーススタイルは「フリージャズのその先」です。言い換えるなら、考えられたフリーです。完全に即興で行うことに慣れてしまって、弾く前から大体どんなことをするか想定できてしまうので、もっと高い負荷を与えるために「激しいコード進行」を用いている、とイメージしてください。

フリージャズはコード進行がないので、本当に適当に弾いても問題はいないでしょう?でも全編難解不可能なコード進行があったらどうでしょう。より大変じゃないですか?

そのためにも感性を真ん中に置く不定調性論のような方法論を援用して、さらに皆さん独自のアプローチや「意識の使い方」を探し出してください。

 

また私がいくら述べても説得力はないと思いますので、この話を覚えておいて、凄腕ギタリストに聞いてみてください。

 

ハーモニー編はこちら

www.terrax.site

ソロ編2はこちら

www.terrax.site

 

 

<参考>
■ALLAN HOLDSWORTH RESHAPING HARMONY
■REH VIDEO Allan Holdsworth Booklet
■Melody Chords For Guitar by Allan Holdsworth

アイドロン~アラン・ホールズワース・コレクション