2018.4.14⇨2020.3.13更新
F.ショパンの不定調性進行分析
32, 12の練習曲 op.10-1 / Fryderyk Franciszek Chopin
大学生の頃、本格的にショパンの音楽性に興味を持って、全曲集の楽譜を買い、練習曲やバラード、即興曲、ワルツなどをTAB譜にする作業に取り組んだ時、参考にしたのがアシュケナージのショパン全曲集でした。
op10.-1
こちらはキーシン氏の1番。アシュケナージの解釈に似ていて動画としても観やすかったので。。。
旋律から還元したコード表記を書いてみます。
C |C |FM7 |F#m7(b5) |G /F# /E|D |G7sus4(b9) |G G(b13)|
C |C |F/A |F#m7(b5)/A |Gsus4 |G |
Cadd9 |C |FM7/A |Bdim Bdim/A|E7/G# |Am Am/G |FM7 |F7(b5) |Amadd9/E |E |
A7 |D7sus4(9) D7 |G7sus4 |G7 |C7 |Cm7(b5)/Gb |F7 |Abm/Cb |Bb 7(b5) |A |A |
D7 |G7sus4 |CM7 |FM7 |Bm7(b5) |Em7 Am7 |Dm7 G7 |CM7 FM7 |Bm7(b5) |B7 |
E |E G7/D |
C |C |F |F#m7(b5) |G /F# /E|D7 |
G7sus4(b9) |G7 G(b13) |C |C |F/A |F#m7(b5)/A Adim7 Ab7|Gsus4 |G |
D7/F# |F7 F7(b5) |E |E |Dm7 |G7 |C C7 |Cdim7 Ddim7 |C |Ebm7(b5)/G Ebdim7/G |
G7sus4(b9) |G7 |C |C |C ||
下記にコードだけのバージョンも作りました。
chopin op.10-1 | rechord - 演奏もできるコード進行共有サービス
コード進行はあくまで読解者の解釈ですので微細な差異がありえます。
ハ長調、1830年作曲とされています。
時は、徳川 家斉(第11代征夷大将軍)の頃。
華麗で洗練されています。
ハ長調ですが、いきなりF#m7(b5)がすぐ出てくるあたり、近代の扉を叩いています。
C |C |FM7 |F#m7(b5) |G /F# /E|D |G7sus4(b9) |G G(b13)|
におけるF#m7(b5)はFM7とGをつなぐ経過和音的な役割を果たしています。
この陰影こそがショパン。
卒業式などでおなじみの「別れの曲」も同じ練習曲集に入っています。練習曲が卒業式で流れる作曲家です。エモさはお墨付き。
FM7のfを半音上げるとF#m7(b5)になります。このサイトではこの一音動かした変形を掛留概念の拡張等と呼びます。
一音動かすだけなのに、和声の繋がりは印象深くなります。
FM7からF#m7(b5)に移行すると、ステップを一段上がるような、ふわっとしたものがきゅっと締められるような印象を持ちます(個人の心象=不定調性論的解釈)。
続くG7sus4(b9)、これがまた美しく香り立つような流れを作ります。
そしてG(b13)は続くCに向けての経過音d#を持ちd-d#-eと流れます。
Cadd9 |C |FM7/A |Bdim Bdim/A|E7/G# |Am Am/G |FM7 |F7(b5) |Amadd9/E |E |
ポップスのコード進行をラノベとするなら、近代和声は随筆です。
どっちが素晴らしい、ではなく、先人の工夫の文脈に一度触れておくと、それらの経験があなたの表現の背景に置かれ、きっと表現が豊かになります。
Cadd9→C、とか
FM7-F7(b5)とかの微細な変化も陰影が美しいです。
====
FM7-F7(b5)-Esus4-Eは滝の水がスローモーションのように落ちてくる感じ、を得ます。
次にその"理由"が次に示されます。
A7 |D7sus4(9) D7 |G7sus4 |G7 |C7 |Cm7(b5)/Gb |F7 |Abm/Cb |Bb 7(b5) |A |A |
「実はこういう理由なんですよ。」と語っているようですが、夢を見ているようなかんじなので、どんな理由なのかは良くは聞き取れないかんじ、とでも言いましょうか。
こうして自分が実感できるような雰囲気、なんとなくの情感を無理にでも何とか表現にして実感していくようにすること(単語や言語にしなくてもいい)で、その"音楽の流れの意味"をつかめます。音楽の意味は自分で作らなければ生まれません。
また、あなたが意味を作り出せる音楽が、あなたに合っている音楽です。
こうした自身の心象に依拠して作曲していくために、音楽理論を一から再整備したのが不定調性論です。
A7-D7-C7-C7-F7-Bb7-Aはジャズ的な流れですね。
Bb7は裏コード的です。
一気にまくしたてるような進行が続きます。
D7 |G7sus4 |CM7 |FM7 |Bm7(b5) |Em7 Am7 |Dm7 G7 |CM7 FM7 |Bm7(b5) |B7 |
「きっと、その理由を聞いたら、僕も納得する、そんな理由なんだろうな」というような文脈表現を思わされる美しい流れです。聴いているだけで説得させられる不思議な感覚になり、それがこの旋律の魅力であり、聞き返したくなる魅力だと思います。もちろんあくまで私にとっての魅力です。皆さんはそれぞれで好きな音楽で同じような分析をしてみてください(TIP分析)。
Bm7(b5)-B7が新鮮です。
そして主題部分に戻ります。
「だから、僕は最初から、そう言ってるじゃないか」
そう言わんばかりの主題の心象にまた戻って来ます。
つい最初よりも力強く弾いてしまいそう。
この楽曲の"エンディング"を見てみましょう。
Dm7-G7-|C,C7,Cdim7,Ddim7|C-Ebm7(b5)/G,Ebdim7/G|
G7sus4(b9)-G7-|C---|C---||
長いII-V解釈ができます。
ただの文章を、華美な比喩をいくつも用いて表現するようなベートーヴェンの近代解釈語彙力的エンディング。
このCdim7-Ddim7-Cは、Cへの焦らす(ダブルリゾルブ的?)がなんともショパン。
私はクラシックは全くわからないので、あくまでただの感想です。
(追記2023)このような分析方法を、私は近年TIP分析(Technical index properties(頭文字をとってTIP)=技巧的索引を制作することで生まれるアイディア資源)という方法でレポートに落とし込んでいます。
その音楽の本質は理解できなくても、自分自身にとってのその音楽の魅力を書き留めることが出来る分析方法です。誰かに見せる分析結果ではなく、自分が自己表現をする時に参考にする、分析ノートです。非常に強力なツールになるでしょう。
同曲ショパンの楽譜は下記にて見られます。
この楽曲はかのリストに献呈されています。
また実際のショパンの演奏解釈については、必ず専門の指導のもとで学んでください。