音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

進行感分析の方法〜不定調性論的進行理解の方法2

前回

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いくつかやってみましょう。

C   |G  |D  |A  |

C   |G  |Bb  |F  :|

この進行が二回繰り返されます。ビートルズ的な特殊進行です。これを進行感で分析してみてください。

C   |G  |

G   |D  |

D  |A  |

Bb  |F  :|

まずこの四つはI→Vですから、単品での進行感はシンプルですね。

これを「I-V感」とします。五度進行感覚。もっと自分なりに分かりやすい表現でもいいです。

 

この感覚は下記のような進行を聞くことで、覚えられます。

C   |G  |Am  |F  :|

聞いたことがありますか?この最初の部分のC-Gでこの「I-V進行感」を覚えるんです。

このC-Gが流れるたびに「あーこれがI-V感だよなぁ」と覚えるわけです。

 

ただ次の

G   |D  |

と流れた時、あれ??という感じがしませんか?

これは前のCとの絡みで聞いているためにDがなんか少し外れた感じがします。

でもこれはこれで「ドッペルドミナント=ダブルドミナント」として知られるコードで、下記のようにIIやII7を使って進行感を作ったり聴きまくっているとすぐ身についてきます。

C   |G  |D  |Dm7  G7 |

C   |F  |D7  |G F Em7 Dm7 |

C   |Gsus4  G   |D  |Dm7  G7 |

C   |D7  |G7  |C  |

なぜそのコードが使えるかではなく、それを使ってみた時、あなたに既視感、または辻褄などを感じるかどうかで判断してみてください。上記もそれぞれに聞いた感じがあり、なんとなく「あぁはいはい」 という感じを覚えると思います。

これを「II感」「ドッペルに行った感」「少し飛び上がって明るくなった感」みたいに覚えるわけです。

 

この辺を覚えてしまうと、

C   |G  |D  |A  |

C   |G  |

ここまではいけると思います。またこのAも人によってはcから見た「VI感」として捉えてもOKです。この

C   |G  |D  |A  |

 はそもそも

C   |G  |Dm  |Am  |

からの変形と考えてもいいです。下記を聞いてみてください。

C   |G  |Dm  |Am  |

C   |G  |Dm  |A  |

C   |G  |Dm7  |A7  |

C   |G  |D  |A  |

この辺をいろいろ弾き回しているうちに覚えてしまう感覚なんですね。 

さっきマイナーだったところが次にメジャーになる(伝統技法で云うところの"ピカルディの三度")、というのも王道です。明るく道が開けるような心象を与えるからポピュラー音楽にうってつけです。逆にメジャーからマイナーにすれば憂いや不安を増す進行も作れます。

このように、理屈を知ってから弾くよりも、だれかの曲で必ず出てきますし、時に作曲時にコードを1フレット間違って弾いたりして「これがいい!」なんて思ったりして、聴感覚にどんどん和音進行を聴き馴染ませてください。理屈ではなく、まずその「進行感」を覚えるわけです。自分なりのイメージでいいです。自分なりのイメージがなければ自分で使えません。

それが「音楽的なクオリア」になって、作曲時に漠然とした様々なモチベーションになります。間違っても弾いても「わ、これいいかも!」と思える、いわゆる社会が求める柔軟性を獲得できます。本来の"アート思考"です。

この時、コード理論や音楽の音声の機能といった感覚は必要なくなります。

機能論が不必要だと言っているのではありません。音楽を制作するある状況においては、そういった概念自体が必要なくなる時がある、というだけです。

 

C |G  |Bb  |F  :|

それから最後のこれですが、これも同じです。

この進行も、ギターでは

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同じポジションのコード移動をそのまま2フレットずらして繰り返せばいいだけですから、アイディアとしてはギタリストは早くから気がつく方法です(さっきのC-G-D-Aも同様ですが)。

ニルヴァーナがそうですね「Smells Like Teen Spirit」。

この時、G→Bbの斜め移動感がスリルあると思います。ニルヴァーナの曲だけで十分かもしれませんが、ウチの記事ではリヒャルト・シュトラウス 2つの歌曲とかもあります。1895年から既にこの短三度の長三和音移動があります。もっと古くからあるでしょう。私個人的には、Bon Joviの「Keep the Faith」とかBlondie「Call Me」そしてかっこいいな、と思った「Please Please Me」(メジャーコードが連鎖するコード進行を考える)などの和音進行で体に入っています。

モータウン音楽などではよく出てきたイメージです。それを聞いたビートルズが"かっこいい"と思って採用しただろう、ことも頷けます。

 

という感じで、他の和音連鎖も同様です。

進行感についてなんとなくその存在を把握したら、ヴォイシングなどの勉強をして行くとさらに面白いです。

CM7  E7(III7感)

C DbM7 とか E7 FM7(IIbM7上昇感)

FM7 Em7 とか Bb7 Am7 (IIIm7下降感)

Am7  G とか CM7  Bb  (VIIb感)

Dm7  DbM7 (ルート半音下降感)

CM7 C#m7(b5) (半音上ハーフディミニッシュ感)...etc

こういう名前などつけなくていいですから、様々な常套句進行の持つ

「進行した時に感じる"あの"感じ」

を覚えていきます。そして作曲する時もこの「進行感」を頼りに作業を進めます。

人類は様々な音楽で様々な進行感を獲得してきました。

C  |DbM7  |がフラメンコ的、とか。

C7  |F7 |はブルース的、とか。

CM7   Gm7 C7 |FM7 はジャズ的とか。

C  Cm  |C  |Cm |(主和音転調)とかCm   |Abm   |Cm    |Abm  |とかCm   |Ebm  |Cm  |Ebm  (クロマチック・ミディアント)はSF映画の火星の夜明け的、スターウォーズ的とか。。。。

そうして自然と頭の中に入った「進行感」を使うようにするわけです。それらの進行が音楽理論的にどう説明されるかはあまりどうでも良いんです。それを感じる人にとっては。

この進行感論=心象連環分析、が自分にとっては最も有用でした。

 

C |E7  |FM7  |Bb7  |

Am7 |AbM7  |Gm7  |F#M7  |

FM7 ||

例えばこういう進行。

C |E7=(III7感)|FM7=(IIb上昇感)  |Bb7=(五度進行変化感)  |

Am7=(IIIm感) |AbM7=(VIb感) |Gm7=(IIIm感)  |F#M7=(IIb下降感)   |FM7=(IIb下降感)  |

 

無理やり名前で呼んでいますが、特にそういう概念で聞いているのではなく、その和音をつなげた際に、連続している流れの辻褄が合っているか、ということだけを考えます。

C →E7(すこし引き締まって)  |FM7(解き放つ)  |Bb7(それでね...)  |

Am7(実は) |AbM7(遠い昔のこと)  |Gm7(ちゃんと話そうか)  |F#M7(そこから解放されて)  |FM7(生きたいから) ||

例えばこんな風に物語性が感じられれば、もう曲はできます。 

ストーリーの脈絡を文字にすると変になるかもしれませんが、文字は関係ありません。あなた自身がしっくりくる感情を得ていれば、それがあなたにとって今必要な進行感と解釈するのです。

あとは先例をいかに活かすか、みたいなことが仕事制作では入ってきます。好き勝手には自分のイメージだけでやれる時ばかりではありません。

 

メロディも和音と流れの雰囲気を紡ぐように載せていきます。

 

この記事の冒頭の

C  |Eb   | F   |Ab  :|

も。

C  |Eb(m3上昇感)   | F (IからのIV感)  |Ab(m3上昇感)     :|

というコード進行感を感じていて

C  |Eb(勇気)   | F (証明する)  |Ab(飛躍)     :|

みたいになんとなく感じるので、この進行は「自分の湧き上がる想いを証明して自分を飛躍させるような曲」で使いたくなります。

少なくとも酔っ払って二日酔いでどうにもならないことを歌う歌では使わないかも。

あ、でも、二日酔いで勇気を振り絞って冷蔵庫まで這っていく、それには勇気と根性がいる、みたいなことを歌いたいときは、ちょっとカッコいい系コード進行でくだらないことを歌う、という意味で面白いかも、とかも思います。打首獄門同好会的楽曲ですね。

 

こんな感じでなぜその和音が次の和音につながったか、を人間の頭の中の習慣、思い出しやすさ(ヒューリスティック)、関連性、感情とのメタファー、そして音楽的なクオリアを総動員して意味を当て込むから「使える」と思って使うのだ、と考えます。

それが音楽理論的にどのように解説されるか、は考えません。

考える必要がないからです。

CM7→E7→FM7

ってよく出てくる、と思うんですが、E7がAm7に行かず、FM7に行った理由が偽終止だろうが、代理コードだろうが関係なく(渡辺貞夫氏の「ジャズ・セオリー」ではこれはAmキーのVIbであり、トニックの代理とされているので普通にこれはケーデンスとなってしまう)

「そう連なった時、それを感じる」

かどうかで音楽を捉えるわけです。

 

つまり伝統的な

I,IV,V,IIm,IIIm,VIm

の間をぐるぐる回る進行以外は、ナントカ進行の代理、とか、偽終止などと考えず、毎回それぞれの「進行感」で考えることでそれが自分にとって使えるのか、使えないのか、だけを判断する、という考え方が不定調性論的な和音連鎖の理解法です。

たくさん曲を弾いてる人はそれがわかるし、たくさんインプットして、たくさん試している人は、どこで使うべきか、誰がどんなとき使ったか、を把握しているので、理屈がわからなくてもその"自分では理論的に説明できない流れ"が自分の音楽で使える、わけです。

 

音楽理論に詳しい人はE7→FM7を理論的に説明してみてください。必ず最後は「じゃあ、自分みたいな人はいつそれを使えばいいの?」という話になり「曲の最後でさ、感情を過去の向こう側に投げたいときとかに使えばいいんだよ!」とか笑、それはつまり理論的解釈ではなく、進行感を知っていれば使える(心象連環分析できれば使える)という話をこの記事ではしたわけです。

 

人によって難しいコード進行をどう使うかはそれぞれ方法論があるでしょう。

ここで述べたやり方はあくまで私が使ってきたやり方です。

 

このやり方を応用して、

ありえない和音→ありえない和音進行も

ノイズ→ノイズという時間進行も

静寂→静寂という時間進行も「進行感」を創造して当て込んで行くことで、"鑑賞"できる、とします。

 

座禅とか組んでても、静寂が意味を持ってくるからダメだよね、我々は。音楽は煩悩そのものなんだ、とか思っちゃう。音楽家は悟りを開くことなどが諦めて、人々の煩悩を優しく包んであげる理解者になって救済すれば良いと思います。

 

次は「融和感」について話すよ!

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