前回
このブログに来るようなみなさん"イキスギコード"はご存知ですね?
Dm7 |Gaug/C# |CM7 ||
がわかりやすいですね。
Gaug/C#=Baug/C#=D#aug/C#と捉えて表記する場合もあります。
ちょと展開してみましょう。
Dm7 |Gaug/C# |CM7 |Aaug/D# |
Dm7 |Gaug/C# |CM7 ||
元のコード進行は、
Dm7 |G7 |CM7 |A7 |です。これを
G7→Gaug/C#
A7→Aaug/D#
としています。
どこか擦れたような、焼きつくような、ドミナントテンション感を私は感じます。
このイキスギコードをみなさんは聞いてみて、どういう風に捉えましたか?
「掠れたような」とか、感じましたか?
それともゆゆうたさんの顔が浮かんだりしましたか?
それとも「灼熱スイッチ」のPVでしょうか。
「灼熱スイッチ」の場合は、むしろサビの頭で本来がつん!と来るサウンドのところで「崩れ」を作ることでスリリングになっています。
これが女性ボーカルと一緒に歌われるからかっこいいんですね。
みなさんそれぞれに音に対するイメージがあると思います。
その曲が使われた元曲箇所を思い出す、という人や、単品で独立して和音の感触を感じられる人。特にAugが好きな人は、augの香りを感じるでしょう。
また、この和音は
Gaug(#11)
という書き方もできます。この♭5th感(#11)を感じる人もいるかもしれませんね。
とにかく和音一つにも色々な印象を持つと思います。
この記事では、和音の印象そのものから考え直すことにします。不定調性論の根幹でもあります。
まず基本に戻ってCM7のサウンドを考えてみましょう。
この和音は、c,e,g,bという構造ですが、いろんな分解ができます。
C△+Em
C5+E5
C△+G△omit5...etc
不定調性論では結合領域和音と呼ばれる和音です。
前回の話とダブるところもあります。
次の音源を聴いてみてください。
C |Em |CM7 |
Em |C |CM7 |
これを聞いて、音楽に詳しい人は二行目のEmが鳴った時、これを"IIIm"に感じた人、または"Im"に感じた人、いると思います。名付けて「ディグリー酩酊体験」です。
コード進行ドランカーの症状によって違うと思います。わけがわからなければいまは無視してOKです。
同じ音を聞いていても人は違う捉え方をしている、と考えておいていただいて。
世間の見解を統一しようという人もいますが、生命が生き残るためには、いろんな頭脳、嗜好、理解の方法が共存していなければいけません。
それが生命の自然な競合です。
CM7がCとEmの合成であることは視覚的にわかるとして、それを耳で確かめようとすると、どうしてもどちらかをはじめに弾いて、どちらかを次に弾いて、その上でCM7を弾かなければなりません(最初にCM7でもいいけど)。
つまり和音で順々に確認しようと思うと、前回示した「進行感」が生まれてしまいます。調性感を感じたりしてしまいます。
CM7=C△+Emというのは机上で、または楽器の上で視覚的に判断する以外ありません。
そこで不定調性論では、机上ではCM7は確かにC△とEmが合成された和音ではあるが、音になるとそれぞれは違う存在になる可能性が高い、と考えます。
まあ、当たり前といえば当たり前です。
音楽の中で用いられる場合は、それぞれの音楽的な意味が変わります。
表記上の記号は同じですが、その単語の意味が異なる、といえばいいでしょうか。
「可愛い」と「愛している」の「愛」は含みもつニュアンスが違う、みたいな。
C |Em |CM7 |
におけるC→Emにはストーリーがあると思います。
Em |C |CM7 |
同様にEm→Cにはまた違うストーリーがあります。
わかりやすくキーを変えてみましょう。
C |Em |CM7 |
Bbm |F# |F#M7 |
これはキーが変わりましたが、どちらも
I |IIIm |IM7 |
IIIm |I |IM7 |
です。今度は明らかに後半のBbmのほうを、
Im |VIb |VIbM7 |
に聞こえる、という人もあるでしょう。
ただ、
C |Em |CM7 |
この時のEm→CM7は流石にサウンドやヴォイシングが似通っていることもあり、
「あまり代わり映えがしない進行だなあ」
と感じましたでしょうか。
これはEmにcが加わってできた和音の流れが、
こんな感じでほぼそっくりだからですね。
もちろんこうすると違いますが。
当たり前ですね。でもコードネームは同じ、Em→CM7で書かれます。何が違うんでしょう。
そうヴォイシング(声部配置)です。
この和音進行を正確に表記するなら、
Em |Em/C△ |
と表記すべきです。二つのトライアドが明らかにみて取れるからです。原理主義の人が好きそうな論理です。
次にカノン進行を見てみましょう。
C |G |Am |G |F |C |F |G |
こちらと、次。
C |G/B |Am |G |F |C/E |F/D |G |
この二つでは微妙に流れているストーリーが違うように感じます。
後半の方は、最後のF/DはいわゆるDm7ということになります。
細かく述べると夜が明けてしまいますから、最初の二つに注目してください。
C |G |
と
C |G/B |
不定調性論では、この二つのコードは「異なる意味を持つコード」として理解します。
数学的、組合せ論的、トポロジー的、にはもちろん構成音が同じですから同じ「G」コードです。でも「音楽の世界観」から考えるとこの二つは全く持っている意味が異なるコードです。
C |G |
は力強く、少し威圧的に説得を試みてくる印象があります。
C |G/B |
こちらはどちらかという穏やかに「流れるに任せるように」とうとうとつたう感があります。
そうなると、「俺はこうなんだ!」って訴える時は前者の進行を使い、「あの日のことを話そう」と老人が語る時、後者になるでしょう。
人によっては逆かもしれません。
この「いつ使うか」のイメージが不定調性論でいう「音楽的なクオリア」です。
前回述べた「進行感」です。これをあなたがどう具体的に感じるか、どうかで作曲に対する向き合い方が変わります。
もっと抽象的でもいいです。
C |G |
は真っ赤。
C |G/B |
はグリーン。
と感じても、前者はより力強い時、夏、意欲がある時、後者は、春/秋、優しさ、軽さを表現したい時、と使い所を判断できます。
コード進行を勉強してしまうと、これらは同じコード進行だ、あとは好み、と思ってしまいそうですが、全く音楽的に言っていることが違うのだ、ととらえておくと、あとは自分がいつそれを使えばいいかについて思いを巡らすようになるので、選択するその過程にオリジナリティを反映させやすくなります。
続く