音楽教室運営奮闘記

音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

ハーモロディクス理論とは?;オーネット・コールマン「ジャズを変えた男」5読書感想文

前回

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今回の記事だけではまとまらなかったので、後実践編というのを作ります。

 

コールマンと付き合いの長いトランペット奏者、ドン・チェリーの言葉も書いておきます。チェリーがハーモロディクスについて述べた言葉です。 

 

楽器を扱うテクニックを磨くのと同時に、耳をしっかり鍛えるのが基本だ。実に、奥が深い。……コードの仕組みを完全に理解しなくてはいけないし、音程もすべて分かっていなければならない。そのうえで演奏に入る。私が"ド"の音を出して、それを主音として頭に入れておけば、その流れで進んでいく。ホ短調かロ長調のコードだと音階が上がっていくから、音の性格が変わっていく。

 

ハーモロディック理論では、結局、どの音も主音のように聞こえるという境地に達する……

 「コードの仕組みを完全に理解しなくてはいけない」ことは先に述べました。理屈が分からないまま弾いても「ただミスフレーズのように聞こえ」てしまうからです。

「私が"ド"の音を出して、それを主音として頭に入れておけば、その流れで進んでいく」

これも「まずアイオニアンで行こう」とプレイヤーは決断して指を置いてからどのスケールにも、どのポジションにも移行が出来ます。ただ自分が何をしているかある程度経験からイメージできていないと、「いつダサいミスが起きるか分からないまま弾いてる」ことになり、びくびくした演奏になるくらいなら音楽理論を猛勉強してトレーニングしろ、となります。

「ホ短調かロ長調のコードだと音階が上がっていくから、音の性格が変わっていく。」

ちょっと意味が分かりません。ただ「ホ長調かロ長調」なら、ドは、スケール音がド#になるので半音「上がらないと」音階音になりません。Cメジャーキーではcは主音ですが、Eメジャーキー(ホ長調)においてcはb13thになります。キーがホ長調いなれば、ただのcもオルタードテンション感のある音となり「音の性格が変わり」ます。

たとえばE△でcを聴いて「b13thだ」と分からないと話にならないし、そこからフレーズを構築することができない、という意味かなと。もちろん「b13th」だと分からなくても、b13th独特の「こすれ感」「しのぎ感」を反射的に感じれば同じことができます。

本人の勘違いか、訳の解釈か、それとも私の解釈ミスです。

これはジャズでは初歩的な話で、「あ、b13th感だ!」と反応して、オルタードフレーズ的な質感をさっと出すか、スケールアウトな速弾きに展開していくか、すぐ対応できないと音楽が「間違い」に思われ、そうなれば観ている人もやっている側もモチベーションが落ちてしまい、大変難しい、「実に、奥が深い」と言っているのかな??と捉えましたがいかがでしょう。

 

この辺が具体的な指摘が少ない(一般のライターでもわからない)ので「思想」化してる、と感じました。

   

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コールマンの発言もそれを助長しています。

ハーモロディクスには豊かな多様性があるだけでなく、個性をも尊重する。何も私のように演奏しなくても、十分にハーモロディックであり得る。自分らしい演奏をすればいい

「個性をも尊重する。」

は、個人個人の着想が音になった時(個人個人が、これで音楽を作ろうと欲して音を発して、それが重なり合ったとき)、初めて新しい解釈が生まれ、新しい音楽が生まれるからでしょう。 

人にはそれぞれの音楽があると信じていた。お互いを排除し合うやり方には反対だった。この考え方は、「ハーモロディック理論」にもはっきりと表れている。人が自分の感情や自分自身を音楽を通して表現する方法として、彼が考え出したのがこの理論なのである。

「人が自分の感情や自分自身を音楽を通して表現する方法」

ハーモロディクスの場合は、特に材料の指定がありません。

あれをやっては行けない、あれを用いるべし、というのがないのでプレイヤーはそれまでの音楽姿勢のままきます。そのまま現場で皆でフリーにやったら、混沌となるでしょう。「新たな表現」として一つの音楽にするためには、メンバー間が互いに理解が不可欠です。人種がちがえば、ノリも間の取り方も全部違うので、「それなら、普通にブルースやった方が盛り上がるんじゃね?」となります。

コールマンのアプローチ(コードの捉え方、ソロの着想の仕方)は、長年鍛えられた独自の脳の状態に関わっているので、何回かレッスンを受けただけで実践はできないでしょう。USTを作曲で使え、と言われてもなかなかできないのに似ています。

 

それでもこうした環境とニーズが収まることはなく、彼は教壇に立ちます。

「何人ものオーネット・コールマンを作りたくはなかったから、教えることには関わってこなかった。だが、私の知っていることをだれかに伝えたいとは思っていた」 

彼から学んだ人は、いろんな意味でのプラシーボ効果があったでしょう。

まあ、言ってみれば、ロックされちゃったドアの鍵をオーネットが渡してくれたようなものだ 。

                         ジョン・スナイダー

                                                                     ジョン スナイダーとは - コトバンク

 

音楽に対する基本的な姿勢についても教えてもらった。私はギターを持って彼のロフトを訪れた。彼の前で弾いてみせると、インプロヴィゼ―ションのやり方について、いくつかのヒントを与えてくれた。ハーモロディック・システムの理論的なことがらについても、書き抜いてくれた。だが思うに、これはシステムとか理論ではなく、自分の音楽に応用したり活用できるアイデアの集大成、と言う方が当たっている。とにかく、それほど厳密なものではない----メロディ、ハーモニー、リズムを同等に扱うこと、そして楽器の種類に関わらず、この三つの要素をすべて表現すべきだということだ。----気持ちの持って行き方と言ったらいいだろうか、つまり、実際に演奏に取りかかる前に考えるべきことである。

                           ピエール・ドルゲ

                    Pierre Dørge - トピック - YouTube

ドルゲの言葉は一般向けには最良かもしれません。 

同書によると、ハーモロディクスの実践す初歩は、オクターブの違いを自由にする、というところから展開していく、と読み取りました。

メロディのどの音をオクターブ変えてもいい、というわけです。

   

しかしそれ以上の話は音楽の専門家でないと分からないので一般書には掲載されていないのではないか、と感じます。コールマンはコードを熟知していたので、もっと具体的な指示を生徒には述べていたのではないか?

 

PREPARED GUITAR: The Harmolodic Manifesto by Ornette Coleman

上記ページ文のように、コールマンの分析から独自にハーモロディクスを展開・活用して書かれたものもあります。

しかし、これらは現代のジャズ教育をしっかり受けたプロミュージシャンならほとんど知っています。要約すると、ハーモロディクスの思想は通例の変格的リハーモニゼーション(調からの逸脱を含む和声改編)のセオリーの中に組み込まれている、といえます。不定調性論も同様なアプローチを持っています。

 

例えば、c音がメロディであるとき、曲のキーがハ長調なら、通例CM7、Am7、Em7等を用いて、機能を変えていくならDm7、Gsus4、FM7も使えることになります。これを拡張すると、C#M7やF#7(#11)でもc音があります。「汎調性」です。

コールマンが文書で残していないだけなのかもしれません。

 

ドルゲが言った「アイデアの集大成」をコールマンはもっと具体的なリハモの手法等でドルゲに述べていたのかもしれません。当時は学問としての浸透が弱かった分「突飛なアイディア」とされていたかもしれません。

ハーモロディクス理論を「スピリットだ」というのは一般的なイメージが固まっているだけかもしれません。

 

PREPARED GUITAR: The Harmolodic Manifesto by Ornette Coleman

こちらのページに、コールマンのインタビュー風景が掲載されています。

Interview with Ornette Coleman - YouTubeパート2も上記サイトに掲載されています。

著作権の関係で、Youtubeに飛んでご覧ください。

2000年になる以前は、こういう"雰囲気インタビュー"が主流でしたよね。今見ると宗教的な教義を語っているかのようです。この手の印象がハーモロディクスを「スピリットだ」と言わせる遠因になっているのかもしれません。

しかし、逆を言えば、これだけイメージが具体的に表現ができるからこそ、感情によって音の翻訳が可能だったのかもしれません。

 

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下記の情報も置いておきます。

英語版ウィキペディアでは、

 The only other known explanation of harmolodics that was written by Coleman is an article called "Prime Time for Harmolodics" (1983).

とあります。

「コールマンによって書かれたハーモロディックに関する他の唯一の既知の説明は、「Prime Time for Harmolodics」(1983)と呼ばれる記事です。」

ということです。だいたい訳しますと、ハーモロディック理論とは、

自分自身のやり方で、フィジカルなフレーズ、感情的な演奏を、一人またはグループによって実行し、音楽的調和の音楽的感覚をもたらす。ハーモニー、メロディー、スピード、リズム、時間、フレーズはすべて等しい。

引用:コールマン、オーネット。ハーモロディクスのプライムタイム。ダウンビート、1983年7月、pp。54-55

 「Harmolodicsはあらゆる調性から音楽作品を解放しようとしている、伝統的な緊張と解放の概念に依存しない調和的な進行を可能に。armolodicsは、大まかに言って、調和、音の動き、メロディーがすべて同じ価値を共有する音楽の表現として定義される。」

となります。これはこれまで書いてきたことですし、不定調性論の音楽制作のあり様にも類似しています。

またリディアン・クロマチック・コンセプトの書評にはコールマンを一言寄せています。

ここに書かれた音楽的知識は私が今までに体験したどれをも凌駕している。

互いに影響を受けあっていたことは間違いありませんが、やはりそれぞれが個々の方法論に辿り着いています。

   

これらを考えると、現代においてはジャズ理論マスタークラス(三年目とかのハイクラス内容)でコールマンの手法は網羅できるのではないか、と感じました。

リディアン・クロマチック・コンセプト(以下;LCC)でいうなら、使用モードがリディアンから解放されるところまでマスターすれば、それはコールマンのハーモニーに対するアプローチと重なります。なんでもOKだが支配はしている、という状況です。

しかしLCCでリディアンにハンドルさばきを頼り切っていた学習感覚がリディアンモード感から解き放たれた時、果たしてすぐにコールマンのような"目隠し手放し運転"ができるでしょうか。脳の働く部位が微妙に違うのではないかと直感します。車が運転できても、目をつむっても運転できるかは全く別です。

ギターならソロはフレットとモーダルなポジションから繰り出しますが、フレットがが無くなってチューニングが変わっても同様に音楽的なソロが取れるか?という問いです。

誰から何を教わり、どう理解して、どう頭を使うか、で行動は同じでも質が変わるように思います。

 

学生さんは学習段階で様々な方法論を勉強すると思います。

でも、最後は自分がどうやるかを自分で決断しなければなりません。

ラッセルのように書物として完成させる人もいれば、コールマンのように完全に体の隅々まで浸透してしまい他者に伝えることすら難しくなってしまった人もいます。

それでもどちらもそれは「方法論を作った」ことで同義です。

自分の作品でその存在を証明しています 。

 

楽譜が読める、理屈が分かるということは二次的で、やはり、自分からアウトプットしたものが自己の意思や方法論によって成り立っている、という自覚(自分にしか分からないこと)の有無が大切なのかな、と今回改めて感じました。

テストの点数ではなく、それを実生活で活かせるまでになったかどうか、まで見てから採点をすべき、

ということですね。

教育の根本を揺らしてくる話に辿り着きました。

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今回色々読んでみて、遠大で曖昧過ぎて「ハーモロディクスは思想だ」と言わざるを得ない風潮が良く分かりました。でも現代ジャズメンはすでにその領域を一回回って、新しい汎調性的アプローチをすでにしているのでは?と今感じています。

 

open.spotify.com

これをコールマンの代表作とかとすると、話がこじれると思います。これはハーモロディクスに至るあくまで過程(出だし)でまだまだ粗雑な思想状態、と感じます。

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その後のこの曲のほうがコールマンの「Free Jazz」をより表現している(一般には分かりやすいという点)と感じました。テーマという枠組みを設けることで形式、メロディ、モード、ハーモニー、リズムの解放が実践されています。

完全即興って誰も見ていない、何も住んでいない海で、目的なく四方八方に泳ぐようなもの、ですもんね。

 

それも好みかもしれません。こうした思考だからこそ自分には不定調性論という形ができたのだ、と改めて自分のバックグラウンドを気づかされました。結局嗜好か・・。

 

また時間を作って考えてみます。

ジャズを変えすぎて、後世に一週戻されてしまってリアルタイムで理解されずらかった男、という印象でした。それでも現代ジャズの教科書を見れば見るほど、コールマンなしにはだいぶ非現実的な手法が沢山あるなあ、と感じます。

形式を極限まで極めた男=パーカー

形式がない事で出来ることを極限まで極めた男=コールマン

という位置づけがしっくりきます。

 

<参考>

各ページは英語ですが、ggoogle翻訳で意味はなんとなく捉えられます。ハーモロディクス理論を「これはスピリットだ」とあなたが断言するときの具体的な根拠となってくれるでしょう。私もまだすべて読み切れていないので、折に触れて読解してまいります。

PREPARED GUITAR: The Harmolodic Manifesto by Ornette Coleman

https://colingodbout.com/musical-essays/global-guitars/

https://wesscholar.wesleyan.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1095&context=etd_diss

https://www.questia.com/library/journal/1P4-2066568009/derrida-coleman-and-improvisation

The Dead, Ornette Coleman, and Harmolodics | gettingonmysoapbox

http://soundamerican.org/sa21ornette.html

 




 

 

==コーヒーブレイク〜M-Bankロビーの話題== 

この人の場合、"ジャズを変えた男"という文字面以上の意義を感じました

オーネット・コールマン―ジャズを変えた男