正式(?)なジャズ理論=自分が学校で教わったバークリー系ジャズ理論、におけるアッパーストラクチャートライアド一覧と用例を掲載いたします。
アッパーストラクチャートライアド(Upper Structure Triad=UST)とは??
基本のコードサウンドの上に、コード構成音やテンションを使ってトライアドを作る声部配置のこと。
高音部に別の三和音が乗ることで、二層の和音になっているのが特徴。
この二層を保つためには、二つの構成音を混ぜないように配置することが大事。
例えば、D△/C△という和音なら、
d,f#,a
---
c,e,g
という6和音です。
上部下部を混ぜると、下記のようにC6(9,#11)となりただのテンションコードです。
これはUSTコードとは言わない、というわけです。
もちろんテンションコードの場合は5度の省略などが当然起きます。
USTの場合は、原則的には省略はありません。トライアドをしっかり作ります。
まあ、そういうイベントだと思っていただいて。
ピアノでサウンドを確認するときは、左手でC△、右手でD△と理解して弾くと、テンションコードとは違い複雑な和音も押さえるとき把握しやすいです。
でもこれをそのまま演奏で使う際には低音部が濁らないようにそれぞれの音を弾く強さ、ずらす感じなどをTPOに合わせてご確認してください。
例えば、エンディングでよく使います。
Dm7 |G7 |D△/C△ ||
このようにタイミングを分けて弾くことで、ヴォイシング的にはそれぞれのトライアドをしっかり鳴らすことができます。
通常のcヴォイシングでは低音が濁ってしまうため、左右の手で双方トライアドを同時に弾くと和音全体が濁ってしまう場合があります。
濁らせるため、理論的には成り立つが厳しい響きをつくるため、という目的がない限りいきなり演奏の中にUSTが入ってきても「は?」ということになりがちです。
ちょっぴり扱いに繊細さが求められる和音形式です。
あとは
Dm7 |Eb△/G△ |CM7 |
ドミナントコードで使うのが人気(?)でしょうか。
ちなみにEb△/G△はG7(b9,b13)omit7と同じです。
D△/Cや、五度の省略などが当然行われたものも便宜上、USTと呼ばれることもあります(理論の先生は分母が単音の場合は「ハイブリッドコード」というかも)。
また和音/和音はポリコード、複層コードなどとも言われます。定義もあるのでしょうが、互いに行っていることが理解できて音楽的なコミュニケーションができれば現場で問題になることはありません。
<UST生成の基本的ルール>
(私が学んだ)ジャズ理論に基づくルールです。
・三和音はMajor、minorのみ。コード機能に合致したテンションとコードトーンを用いる。
・声部は基本六声。五声にするなら、五度を省く。四声ではニュアンスが出ずテンションコード的な硬いサウンドになる。重複音が加わる七、八声も可。
・冠状部と基部の重複音があっても良い。冠状部に三度、七度の音を置く場合、基部に五度を配置しても良い。
・各音の間でb9thが生じないようにする。ただしドミナント7thコード、フリジアン、ロクリアンスケールが適用されるコードでの短二度などは除く。
・それぞれ転回形も可能。開離配置も可能だが、広がれば広がるほどUSTとしての意味合いは希薄になる。
・稀に冠上部にトライアドを配置するためにテンション以外の音を使う時がある。
例;リディアン時にB△/C△=冠状部にd#音を追加してトライアドを作る慣習がある。これはf#やd#は基底部のC△構成音e,gの半音下の音であるから不協和にならない、とする発想から⇨トニックディミニッシュ的サウンドにつながります。
<有用なUST群>
ダイアトニックコードとテンションが全て諳んじられないとUSTを即興的に使うことはできないでしょう(そんなプレイヤー滅多にいないので体系としては浸透していない笑)。
IM7で使えるUST=V△、VIm、IIIm
(解説)
例えばCM7=IM7なら、コードスケールはCアイオニアンですのでc,d,e,f,g,a,bが使えますね。
アヴォイドノートはfなので、それ以外の音でトライアドを作ります。
cでできるのはC△=c,e,g
eでできるのはEm=e,g,b
gでできるのはG△=g,b,d
aでできるのはAm=a,c,e
d,bはなし
よってUSTはEm、Am、G△の三つ、となります。
(Em=IIIm、G△=V△、Am=VIm)
Em/C△=ただのCM7だからわざわざUSTとして用いられない。
Am/C△=これもただのC6なので、USTとしての独自性に欠ける
G△/C△=CM7(9)だが、テンション解釈になる和音はUSTとして比較的捉えやすい。
同様に書き出します。
<リディアン系>
IVM7,VI♭M7,II♭M7=V△、VIm、II△、VIIm、IIIm
<エオリアン系>
Im=Vm、VII♭△
<ドリアン系>
IIm7=IIm、Vm、VII♭△
<フリジアン系>
IIIm7=IVm、VI♭△
<ドリアン系>
IVm7=VII♭△、Vm
<ロクリアン系>
IIm7(♭5)=VI♭△、II♭△、VII♭m、V♭△
<各種ドミナントスケール系>
V7(オルタードドミナントスケール、コンビネーション・オヴ・ディミニッシュスケール)=III♭△、V♭△、VI♭△、VI△、Im、II♭m、III♭m、V♭m
V7(ミクソリディアン)=Vm、VIm
V7(リディアン♭7スケール)=II△、Vm、VIm、III♭△
V7(フリジアン#3スケール)=II♭m、VI♭△
V7sus4=II△、IV、VII♭△
(メジャーかマイナーかでもっと詳細に分けられますが無駄に煩雑になりますので独習で探ってください)
<ディミニッシュ系スケール>
I#dim7=属するkeyのI△、VI△、VIm
III♭dim7、IV#dim7=属するkeyのII△、VII△、VIIm
V#dim7=属するkeyのV△、III△、IIIm
となります。
CM7 |A7 |Dm7 |G7 |CM7 (9) ||
このパターンで少しUSTを乗せて色々と遊んでみましょう。一部禁則を破っていますので、その辺りも探ってみてください。
なんとなくUSTを作った例です。下降してくる感じですね。
パズルのように作ると面白いです。
さらにパズル感を増したもの。
上部でメジャーコードを半音ずつ下げてみました。最後だけ全音下げです。
そこで、下記のように最後だけ変えます。
最後がEb△となり、完全に半音で降りてくるパターンです。
こちらの方が「トニックディミニッシュ的」に響くのがかっこいい!と感じる方もおられようと思います。音楽を横に聞いていると、これが自然に思えたりします。
C△のうえでE♭△が綺麗に成るのは、e♭が下のeの半音下の音なのでb9thを組まないためです。これを活用したのがCdim7/CとかB△/Cとかの怪しげな終わり方をするトニックディミニッシュ的なサウンドとして用いられます。
ジャズアンサンブルのライブでエンディングのコードだけやたらダークにすることで雰囲気が逆にクールに盛り上がる印象を与える時があります。
https://youtu.be/40BpaypwA7o?t=647
レイ・チャールズのライブを例にすると。
上記リンクは10:43からの「Oh, What A Beautiful Morning」の冒頭に飛びます。
曲最後15:10ぐらいから聴いてみてください。
この和音はトニックディミニッシュではないのですが、最後にクールにダークになる感じ、カッコよくないですか??トニックディミニッシュはこのような雰囲気を作るために用いられたりします。
その他の曲でもチャールズは不協和音を最後に叩きつけてます。
これは私の推測ですが、盲目なので最後適当なサウンドを叩いても終わった感が出るようにこういうダークなコードにするエンディングを好んだのではないか?なんて思ったりしています。
この辺はスティービー・ワンダーなどの研究からも感じたことです。
(技法的には前時代からよくあります。)
これは同じ主音でメジャーとマイナーを繰り返せるものを探して当て込んだものです。
ビ・バップはゲーム的側面があり、夜な夜なミュージシャンがお互いのスキルをぶつけ合う音楽でもありました。
こうしたことを遊び(セッション)の中で揉んでおくことで様々な現場での発想を産んでくのだと思います。
アッパーストラクチャーの概念をこじらせて噛み砕いて、吐き出して毎日それを食べる、というのを繰り返していたら下記のような作品ができました。メジャードライアドを積み重ねてそれだけで作る、という作品です。動画の後半ではDAW画面で音が確認できます。
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ここから以降は不定調性的拡張を行います。
さらに、上部四和音まで拡張したのがマルティプルハーモニー(拙論造語)です。
参考