2019.6.22-2020.2.09更新
<前回>
<第3回>
LCCの教材にある一覧表を観たい!!という人は・・無理して買って頂きたいですね。翻訳本で良いので。
第一章:バーティカル調性引力 (VTG=vertical tonal gravity)レッスン1
コードの「ペアレントスケール[Parent Scale]」の決定
バーティカル・ポリモーダリティ(垂直性多旋法)
=コードをスケールに変換し、代替可能ないくつものスケールを候補として列挙すること
これは概念というより行為に名前がついてる印象です。
簡単にいうと。
Dm7 G7 |CM7 |
であなたがアドリブを取るとき、コードを見て、G7で何モード使ちゃおっかなぁ、とかって考える、その行為のことです。
(元祖ビ・バップの当時のものはあからさまなモード変換を行いません-モードで考えていない-。ビバップはパーカーフレーズを物理的にたくさん覚えて無意識に組み合わせられるまでスキルを磨く音楽です。ですのでここでいうコードのスケール変換の考え方は、バップ以降のコンテンポラリージャズでのモーダルなアプローチと捉えてみましょう。)
:G7 |G7 |G7 |G7 :|
という一発もののセッションのとき、Gブルーススケールっぽいのを使いますよね。
ジャズ研とかになると、Gミクソリディアンとかを使いはじめます。
そしてLCCになると、"Fリディアン"を使うわけです。Gミクソリディアン、て言わないところがLCC。
これは前回までに出した表の
p157の一番上の表を具体的にモードに落としたやつです。左から二列目にG7がありますよね。もうここまで理解できる人は、自分で12調分のリディアン表を作ることが出来るでしょう。
Fリディアン=Gミクソリディアン。
考え方としてG7の中心はfだって話になってしまっているんですよ。。。
ここでもう脳内テロが起きますでしょ?
G7の中心はgだろうが!!!!と。
でも、これは「ラッセル先生が考えた考え方」ですから、どこが中心か、とかスルーしましょう。音楽理論的にG7の中心はfだ、とかっていうことなどこじつければ不可能ではないでしょう。
そしてそれが出来る人は自分で方法論を作る才能があります。
機能和声論もG7の"解決先"がCだ(G7の各構成音は主和音に向かいたがる、という発想)ですから、機能和声もLCCも変態加減はそんなに変わらないですよね。。
機能和声はコード単体で観るのではなく、調性というもっと大きなグループで着地点を見るんですね。それがおおらかで秩序だっていて美しい、と民主主義的にみられたのでしょう。
で、このFリディアンの中にCはないわけです。
なんでないかは、ライセンサーの人に聞きたいですが、モード理論の発想だと、
「Cがあると、Cメジャーキーに引っ張られてしまうから」
でしたね。
モードジャズはあからさまなV7の存在が現れないようにしました。
LCCも同じ発想だとしたら、やはりCの求心力をある意味で認めていたことになります。
そうすると、先も述べましたが、Dm7とかE7(b9)とかでもFリディアンを用いる、という発想になります。コードによって多少アウト感が出ますが、多分これも「それが協和だと慣れるべきだ」ぐらいに言う指導者がいたら、もうこちらは何ともなりません。
LCCは最終的にはそれぞれ12のクロマチックスケールからあらゆる音階を抽出し当て込める、となるので、たとえばBm7であってもいずれ全てのリディアンが弾けることになります。
最初の表対応
これでスケールがどんどん不協和な方向に拡張され、使用音が増え、最後はDクロマチックスケール(同著ではDリディアン・クロマチック・スケール)まで拡大されます。
クロマチックスケールを使う、というよりも、Bm7で使えるあらゆるスケールは、Dリディアンクロマチックスケールから生まれる、という考え方に落とし込むわけです。
当然結論はBm7で全部のリディアンが使えます。
(注;順列はリディアンクロマチックスケールの音階度数順になっています)
とか、これらを組み合わせた結果
Bm7でBエオリアンでも良い。
となり、結果的に、機能和声で普通にやっても「機能和声も実はLCCに基づいていたのだ」的にも言えることになります。Bm7でBエオリアンを使ってもいいが、それはBドリアン(Dリディアンの場合のBからの解釈はBドリアン)に比べると、少し不協和だ、みたいに言うことができます。LCCがLCCっぽいのはインゴーイングの最初の4つぐらいのスケール選択時ぐらいで、あとは機能和声からの代理、としても判別ができないでしょう。
つまり12音しかないのだから、どんな法則を作っても、誰でも「今有効な機能和声理論はすべて私の考えた方法論から考えたほうが良い」的なことを全員が言い出せるわけです。それではラッセル氏の言う『世界の平安』は訪れず、方法論の争いだけが起きます。そこで拙論も、基本的に慣習で広く用いられている機能和声論をベースにしたうえで、逸脱していくその外縁部をどう考えるか自分なりの発想を書く、としています。
この辺は音楽の方法論を作っていれば、痛いほど分かります。
こういう表現が「趣味が悪い」みたいに言われる部分かもしれませんが、この法則を発見したラッセル先生の衝撃を勝手にイメージすると、なんとなく気持ちは理解できます。拙論でいう「反応領域」の考え方を発見した時みたいな、もう深夜にマクドナルドを買いに行き、ビールを飲んで朝まで自分勝手に盛り上がる状況です。
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建前としては、あとはそれぞれのリディアンがどの程度Bm7に協和していて、どの程度不協和なのかの序列を知っている必要があります。
結果、機能和声においてアイオニアンを土台にする、という発想と、リディアンを土台にするっていう発想は、協和度の解釈の違いだけ、となります。
こういった解釈が可能である点がLCCが「自由過ぎたのが問題」みたいに言われるところでもあろうかと思います。
これを決めるための動機は「その人の心象と印象と動機」ですから、不定調性論は、「自分自身がそう思うことで行われる行為自体がその人にとってのアート」と認めざるを得ません。方法論ではなく、最終的にはその時々に固執される着想、渇望をベースに具体化できるような方法論を構築する、という考え方です。
たぶんLCCもそういうことが言いたいのだと感じるのですが、どうでしょうか。
P128
メジャースケールというのはある意味で哀れです。
みたいな文章の印象が、既存の音楽は間違っている、と強く主張する攻撃性みたいに思われるのかもしれません。時代の表現なのか、どことなくアレイスター・クロウリー的な当時のneoオカルティックな主張に似ていると感じられたとしても仕方がないかな、という印象もあります。
こういうところは差し引いて読んで自分にとっての本質を捉えましょう。
第一章:バーティカル調性引力 レッスン2
ペアレント・スケールとリディアン・クロマチック・スケール
ある一つのコードは必ず10のスケールを用いることができる(やがて12音全部になります)としています。さっき書いたポリモーダリティの意味です。
スケールの拡張です。ラッセル氏がジャズのモード解釈の拡張をLCCでも行いたいと考えたからでしょう。
G7でGホールトーンとか、Gオルタードとか使うと、アウトサイドになってカッコいいですよね、あれをLCCでもやれるべきだ、、っておもったのかな、と。着想の正体まではわかりませんが。
以下の順に、コードによく響く感じから、どんどんアウトサイドな響きになっていきます。
※表記は原著訳書より抜粋
1.リディアン
i-ii-iii-iv#-v-vi-vii
2.リディアンオーギュメント(リディアン#5)
i-ii-iii-iv#-v#-vi-vii
3.リディアンディミニッシュ(リディアンm3)
i-ii-iiib-iv#-v-vi-vii
4.リディアンb7(リディアンドミナント)
i-ii-iii-iv#-v-vi-viib
5.補助オーギュメント(ホールトーン)
i-ii-iii-iv#-v#-vi#
6.補助ディミニッシュ(ホールハーフディミニッシュ)
i-ii-iiib-iv-vb-vib-viibb-vii
7.補助ディミニッシュブルース(ハーフホールディミニッシュ、コンビネーション オヴ ディミニッシュ)
i-iib-iiib-ivb-vb-vibb-viibb-viib
8.メジャースケール
i-ii-iii-iv-v-vi-vii
9.メジャーフラットセブンススケール
i-ii-iii-iv-v-vi-viib
10.ブルーススケール
i-ii#-iii-iv-vb-v-(vi)-viib-vii
これらの取りまとめとして
リディアンクロマチックスケール(クロマチックスケール)
i-i#-ii-ii#-iii-iv-iv#-v-v#-vi-vi#-vii
があります。
ところで、これらのスケールどっから出てきた?根拠はどれ?
ということが書いてあるのは、
P122からの「調性組織におけるリディアン・クロマチック・コンセプトの理論的基盤」です。ここから先に読みなさい、的な指示があることは先にも書きました。
リディアンクロマチックスケールは、下記のような「調性引力に基づく序列」が恣意的に決められています。
I V II VI III VII IV# V# II# VI# IV I#
完全な五度順列ではありません。
5度の積み重ねから提供される順列の8番目の音がスキップされていないと、メジャーb9th、メジャー3rdを伴うマイナー・コード、メジャー7thを伴うセブンス・コード(例えばGセブンス)等が生じる結果になります。このようなコードは、バッハの作品を除いては19世紀末まで用いられることはありませんでした。調性引力の順列の8番目が-IIの音階度数になっていると西洋和声の発展の歴史と矛盾する事となります。
これは当然西洋和声の発展の歴史を「ラッセル先生が一時解釈した感じにおいては」という理解をすればよいと思います。不定調性論だと、調性引力はないので、五度圏の数理的序列をそのまま使う、という発想になるでしょう。5度圏の順番変えていいなら、なんでもありじゃん、リディアンを調べるとき、
C-G-D-A-E-Bときて、
次のF#は機能和声では、C#に結びつく属音になるので、よりcに親和するfにして
C-G-D-A-E-B-F
としよう、って言う話とどう違うんだ、と言うことになります。
これを詰めると、喧嘩になります。
そう、だからこれは「ラッセル先生はそれが良いと考えた、あなたはどう??」で済ませることができます。
LCCはこれにより、さきの7つのスケールを作ります。
Cで考えてみましょう。
C G D A E B F# G# D# A# F C#
ですね、
C G D A E B F# G# D# A# F C#
赤字部分の音集合がCリディアンです。
C G D A E B F# G# D# A# F C#
次のG#を加えると、Cリディアン#5= 2.リディアンオーギュメント(リディアン#5)
となります。このときGを何で省略・交換するのか、みたいなことが気になる人もいるでしょう。これも素通りされています。慣習的に自然だからスルーできる、短二度は連続させない、という解釈に違和感がないからだと思います。
次のA#にすると?
C G D A E B F# G# D# A# F C#
これはCリディアンm3=3.リディアンディミニッシュ(リディアンm3)
です。
そして、
C G D A E B F# G# D# A# F C#
これはご想像の通り、4.リディアンb7(リディアンドミナント)です。
その他、
5.補助オーギュメント(ホールトーン)
i-ii-iii-iv#-v#-vi#
6.補助ディミニッシュ(ホールハーフディミニッシュ)
i-ii-iiib-iv-vb-vib-viibb-vii
もここまでの音種類で作成できます。
7.補助ディミニッシュブルース(ハーフホールディミニッシュ、コンビネーション オヴ ディミニッシュ)
i-iib-iiib-ivb-vb-vibb-viibb-viib
だけ最後のi#が用いられます。12音のこの序列をベースに、リディアンから恣意的に音を選び、一般的に使われているスケールを作っていった、ということが分かると思います。
これらは、12音が一つのトニックに引力が集中する、という仮定のもとに作られた集合です。
C G D A E B F# G# D# A# F C#
とすることでメジャースケールも作れる、とするわけです。便利です笑。
この12音の引力と構成については、こちらの講座で詳しく学習できます。Tone Orderという発想になります。
・c-f#の集合は基本的にはトニックを特定できないシンメトリカルな音程
・同様に、c,e,g#、c,e♭,f#,a、c,d,e,f#,g#,a#などもシンメトリカルな音程でこれらの数号はトニックを特定できない。
・最後にクロマチックスケールも同類のシンメトリカルな存在と同定すると、そこにc#とfが加わる。このときc#とfは同時に現れるのでc#とfに序列はない、とする。
これらの赤字音が現れる順番を書くと
c g d a e b f# g# d# a# f c#
と言う謎だった順番表が明らかになります。
c=lydian tonic
g〜e=penta tonic(半音を含まない)
b,f#=Ingoing Tonal Gravity Level(半音が連続しない)=リディアン=Seven Tone Order
g#,d#=Semi Ingoing Tonal Gravity Level(ここまででmaj min aug dimが全て現れる)=Nine Tone Order
a#=Semi Outgoing Tonal Gravity Level=Ten Tone Order
f,c#=Outgoing Tonal Gravity Level
等となるようです。これらのシンメトリカルな存在はトニックが指定できないため、これらの音が入り込むとcのトニックがどんどんトニックを志向しない音になり、中和されてゆく、と考えるそうです。逆にcというトニックが明確であれば、それらの音もcに従順する、といえ、結果として12音の集合はcを中心とできる、という思想になります。この辺は巧みです。
考えなければならないのは、
c,f#、c,e,g#、c,d#,f#,aという集合ではそれぞれトニックを指向できない(全て中立)とするなら、例えば
・c,e,g#ではcを指向するためにd,g,a,b等が必要
で、
・c,e,g#ではcを指向するためにd,g,a,b等が必要
・c,e,g#ではeを指向するためにf#,b,c#,d#等が必要
・c,e,g#ではg#を指向するためにa#,d#,f,g等が必要
ですから、
・c,e,g#ではcを指向するためにdとaが両方必要(一方だけではdimまたはwhole toneの可能性もある)
ここでの問題は、dだけがあっても、慣習的にcを指向する水平的な調性があります。
この場合、何のためのトーンオーダーという取り決めなのか、理解が難しいと思います。
そこで「心象論」の登場です。
「今自分はcに中心を感じる」
と感じたら、それを感じた人にとってはその中心はc、それを感じない人にとってはそうではない、という理屈が成り立ちます。おそらくLCCも「解釈は人それぞれ」という考え方を理解すると思います。そしてこの方が話が早いです。
そこで心象をベースに音楽方法論を組み替えたのが不定調性論、となります。
(なおこちらの講座では、Modal Tonicという同著にも書かれた概念が「感覚的、選択的に認識れるTonic」という表現で示されます。先生も経験によって備えていく感覚的に表現されています。これはすなわち同著にある「感性による判断」かと思います。ただ同著のモーダルトニックに説明ではそういう表記はなく進んでいきます。この「感覚で」という部分は、経験、慣習。脳科学的、認知科学的。錯覚、バイアスなど総合した個人の人生をかけた判断として認識されます。拙論では「音楽的なクオリア」と言っています。そして拙論では、そこのみを根拠とする方法論になっており、それを鍛えるために、勉強は知識として、あとは全て感覚的、直感的判断で下し、それが良い結果を生み出すために全ての訓練を費やす、としています。LCCを学んでも最後は感性による判断であなたが行うとき、それは不定調性論的な思考を活用している、と言えなくもないわけです)
拙論では、音の重力も人の意識が観念に基づき引き起こしたもの、としました。
c-g-c
も
g-c-g
も
C G7 C
も
G7 C G7
も感じ方を変えれば、どちらも重力を感じることが出来るとしました。
つまりあなた自身がどのような12音の序列を作るかで、LCCの主要スケールとは違うスケール群を作ることができます。
たとえば、Cに両側から集中するモデルを作れば、
...Eb Bb F C G D A...
→→→→ ←←←
すると、この集合はCドリアンです。
...Eb Bb F C G D A E
とすればミクソリディアンになります。
.Ab Eb Bb F C G D A...
これでCエオリアンの完成です。
本来の序列はこうなのだ!!!という人がいてもまあおかしくありません。
LCCだとfが出てくるのが一番最後になるので、
G7→C
を表現するのにリディアントニックの変化と考えないとfが導き出せない弱点があります。fがcの中に含まれる音ではない、とするからです。
ここも拙論でよく考えました。
和音がトライトーンを持つか否か、で判断することで、G7→CがG→Cの進行感補強系だ、としました。自分にとってはそれがしっくりきたからです。
長三和音、短三和音、減三和音、増三和音を作り出すためにこのようなトーンオーダーを作った、と考えることもできます。これは方法論作りでやる"慣習の取り込み法"です。拙論では基音の分解能というところで扱っています。
この辺の感覚はLCCが機能和声を根底から作り直そうとしているような欲求が伺えます。
これらにより、LCCでのスケール解釈も、そこに現れるコードの解釈もこの序列からできる音集合に基づいて割り出しているので、その順序選別そのものが特徴的であり、この選別法を一つのスタイルとするならば、根気さえあれば、第二第三のLCCが創れてしまうわけです。
とりあえず、LCCの七つのスケールとコードの関係を列挙してみました。
(コードの解釈に齟齬があるやもしれません)
コード表記が独自なので正確な解釈ではないかもしれません。しかし、これらのコードでもこのスケールは弾ける、という解釈が出来てしまう方法論なのでご自身で必ずチェックしてください。
c,d,e,f#,g,a,bで考えると、ダイアトニックコードは
CM7 D7 Em7 F#m7(b5) GM7 Am7 Bm7
です。ここに三つのm7があります。表ではm7はAm7しか出ません。こうすることで、Am7はCリディアンに含まれていて、Am7はCリディアンを弾けば良い、同様にBm7であれば、次のDリディアンの表のVI番目に現れるので、Bm7ではDリディアンを弾けば良い、となります。そこでEm7が現れるところも解釈を変えてこれはEm7ではなくCM7(9)/Eなのだ的に解釈していき、Em7はCリディアンに現れない、と決めたわけです。
これによりEm7はEm7がVIに現れるのがGリディアンですから、Em7の時はGリディアンを弾く、というようなシステムにラッセル氏がしたんです。
こうすることで、スケール選びの初期段階はすごくシンプルになります。
まあ、最後はクロマチックスケールも使えるよ??みたいに言っちゃうので最後は途方もない選択肢の海に放り出されるのですが。
次回この表をもう少しコンパクトのしたものを公開します。