音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

実験的コード進行が現れる野心的アルバム「青春の軌跡」レポート公開シリーズ12-1

2019.5.22⇨2020.7.26更新

スティービー・ワンダーの和声構造

~非視覚的クオリアを活用した作曲技法~

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アルバム14;「When I'm Coming From」〜青春の軌跡〜(1971)

事例49Think Of Me As Your Soldier (CDタイム0:12-)

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Aメロ

E♭ |A♭m6 |B♭sus4 |A♭m6 |

E♭/B♭ |Cm |Gm C |F7sus4  B♭7 |

E♭ |A♭m6 |B♭ |A♭m6 |

E♭/B♭ |A♭m6 | E♭ |E♭ |

Bメロ

Fm7  |E♭M7 |Fm7  |E♭M7 |

Cm7(♭5)  F7 (♭9)|B♭M7  Gm7 |

Cm7  F7(♭9) |B♭sus4 B♭ |

=degree=

Aメロ  Key=E♭

I |IVm6 |Vsus4 |IVm6 |

I/V |VIm |IIIm VI |II7sus4  V7 |

I |IVm6 |V |IVm6 |

V |IVm6 |I |I |

Bメロ

IIm7  |IM7 |IIm7  |IM7 |

(key=B♭)IIm7(♭5)  V7 (♭9)|IM7  VIm7 |

IIm7  V7(♭9)  |Isus4 I(Key=E♭のVとして) |

いよいよスティービーが全曲にわたりコンポジションを行うアルバムになってきます。

この曲でもIVm6の響きが活用。

スティービーの曲の独特の“灰色の陰り”的な印象が私は好きです。

色ではなく「光」の概念を感じるその度合いが彼の感覚表現担っているように感じます。

また同曲はE♭とB♭の近親調転調が用いられてますが、近親調の転調は、色合いが似ているぶん、移行しやすいがダイナミックな効果が薄いです。

CメジャーキーとGメジャーキーでは、

CM7 Dm7 Em7 FM7 G7 Am7 Bm7(♭5)(Cメジャーキー)

GM7 Am7 Bm7 CM7 D7 Em7 F#m7(♭5)(Gメジャーキー)

ですから、Cメジャーキーを中心に書き出すと、

CM7 Dm7 D7 Em7 FM7 F#m7(♭5) GM7 G7 Am7 Bm7 Bm7(♭5)

というバリエーションが一曲の中で使えることになります。

こうしたグルーピングを不定調性論では、“モーダリティーモーション”といいます。複調的な音楽の構築法です。

D7はCメジャーにおけるドッペルドミナントとなり、GメジャーキーのD7ではなくなります。またF#m7(♭5)はAm6の転回形で、Amの一種として使えます。

関連性が新たに出来上がるわけです。

そしてGM7が中心になったら、また新たな秩序ができます。

 

またこれらの発想を展開して、

例)

CM7  |GM7  G7 | CM7  |GM7  G7 |

CM7  |GM7  G7 | CM7  |GM7  G7 |

というような音楽構造も作れます。

通常の明らかな転調構造の場合は、教材のほうでは“トーナリティモーション”と言ってます。

 

同アルバムの「Do Yourself A Favor」はスティービーと当時の伴侶シリータとの共作。E♭7(E♭マイナーペンタトニック/ブルーススケール)のワンコード/ワンモード的な楽曲の題材として参考になります。

   

事例50Something Out Of The Blue (CDタイム 0:20-) 

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Aメロ

Fm7 Fm7/E♭ |B♭/D  |A♭ |E♭/B♭ |

A♭m  |E♭ |A♭m  |D♭ C7 |

Fm7 Fm7/E♭ |B♭/D  |A♭ |E♭/B♭ |

A♭m  |E♭ |A♭m  |E♭ |

Bメロ

B  |B(E♭m7的)  |A♭m7  |A♭ |

Fm7 |Dm7 |Gm7  |C7sus4 C7 |〜Aメロへ

=degree=

Aメロ Key=E♭

IIm7 IIm7/I |V/VII  |IV |I/V |

IVm  |I |IVm  |VII♭ VI7 |

IIm7 IIm7/I |V/VII  |IV |I/V |

IVm  |I |IVm  |I |

Bメロ

B=I  |I  |VIm7  |VI |

Fm7=I |VIm7 |IIm7  |V7sus4 V7 |〜Aメロへ

実験的コード進行。

IVmが怪しい雰囲気。

スティービーのIVmの感覚はここ数枚のアルバムで特に研ぎ澄まされているような印象を受けませんか?

Bメロにおける短三度移行のm7連鎖も過去に使用例あり。

 

 

事例51I Wanna Talk To You (CDタイム 0:15-) 

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C 7(blue feel) |F7sus4  F7 |B♭7 |E♭ G7 |〜

センターコードをC7として、展開していく。

blue feelというのは、ブルージーなペンタトニック的フレーズとなっているという意味です。

 

ここでCをIとすると、IV7sus4が響くことになります。

ユーミンの場合は、主和音に7thを乗せないことでIVsus4を繰り出す荒技があったが、この曲の場合は主和音(センターコード)でC7を提示しているので、F7sus4は必然的に関連性のある和音となります。

 

またそこからのG7への流れの脈絡は見事にブルージー。

風が吹くような感じのするIV7sus4。

風は目がみえなくても感じるでしょう。

肌にあたる風が彼に惹き起こすクオリアはどんな世界なんでしょう。

 

 

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