音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

盲目が故にどこまでも上がっていくことに躊躇のない特徴的展開〜スティービー・ワンダー研究レポート6-1

2019.4.1⇨2020.2.12更新

スティービー・ワンダーの和声構造

~非視覚的クオリアを活用した作曲技法~

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アルバム7;「Down to Earth」〜太陽のあたる場所〜(1966)

事例13;A Place in the Sun「太陽の当たる場所」

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E♭m7 |A♭7 |D♭M7 |B♭m7 |A♭ |A♭ |D♭ |D♭ |
=degree= (key=D♭)
IIm7 |V7 |IM7 |VIm7 | V |V |I |I |


楽曲全体を通して、この八小節が繰り返されます。

クレジットにはRon Miller, Bryan Wellsとあります。

ミラーはスティービーの作曲の先生!

どことなくIsn’t She Lovelyに通じてますね。

 

コード進行が同じでも、メロディ構成を変えることで一貫した雰囲気の中で異なるメロディを作る作曲技法が成り立つ事を教えてくれてます。

“全体がほとんど同じ進行でありながらメロディを変えてストーリー展開を構成する”という方法論で作曲することを試してみてください(“Stand By Me”のような作品)。

 

シンプルでも結構難易度が高い曲構成方法ですよね!

「サビっぽさ」「Aメロっぽさ」のような匂いは多数のヒット曲を聞いて磨きあげなければなりません。何でも簡単にはいきません。

 

事例14;Bang Bang

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Abm |Abm |Gb♭|Eb7|

======
Im |Im |VII♭|V7|


ソニー&シェールのヒット曲。

曲中はこの展開をメロディの骨子として、ルンバ調、日本人にとってみれば、演歌調(昭和歌謡調)にも感じられます。

中半以降サビではテンポを上げ変化がつけられます。

この曲も同じ進行で変化がつけられた曲ですね!

 

事例15:Thank You Love (CDタイム0:07-) 

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G |F |B♭M7 |E♭M7 |
Cm7 |D7 |GM7 |GM7 |
G |F |B♭M7 |E♭M7 |
Cm7 |D7 |GM7 |A♭M7 |

A♭ |G♭ |BM7 |EM7 |
D♭m7 |E♭7 |A♭M7 |AM7 |

A |G |CM7 |FM7 |
Dm7 |E7 |AM7 |B♭M7 |

B♭ |A♭ |D♭M7 |G♭M7 |
E♭m7 |F7 |B♭M7 |B♭M7 |
B♭ |A♭ |D♭M7 |G♭M7 |
E♭m7 |F7 |B♭M7 |B♭M7 |〜くりかえし
=degree= (Key=G→A♭→A→B♭)
I |VII♭ |III♭M7 |VI♭M7 |
IVm7 |V7 |IM7 |IM7(またはI#M7 |)


冒頭の八小節を用いながら、どんどん調が上がっていく構成。

スティービー分析では最初の段階的転調の曲です!

面白いのは早々に三回転調して、それが維持される点。何でもありですねー。


この八小節は、主和音以外は、平行短調の和音が利用されている点にスティービーのその後の作品の特徴も感じます。

 

同じコード進行で違うメロディを歌う、ということに対比するように、同じメロディを、調を変えて歌う、という次なる手法がここでマスターされてます。

音の高さが違えば、表現も変わって当たり前ですね。

めっちゃ高度!

 

スティービーもクレジットされている曲ですが、どの部分だろう。

 

この転調による上昇感と、繰り返しによる情緒的な上昇感は相通じるものがあり、ブラックミュージックの根源にまでさかのぼるような感覚があります。

しつこいくらいの繰り返し感を皆さんはどのように感じるかは分かりませんが、これが“歓び”である、という印象を民族が有しているか(トランス)どうかでこうした構成が意味を持ってくるか、来ないか、といった精神性を感じます。


また盲目の場合、高所恐怖症というものがありません。

あるのかもしれないけど。周りの雰囲気から何かは感じるもんね。

 

私なんかが考えると、三回ぐらい転調したらもういいだろう、などと思ってしまいます。高いところに行けば足場が危うくなることが怖い、的なクオリアを感じてしまうから!


当然スティービーにはそんな感覚はない、としたらどんどん上がっていくでしょう。

歌のポテンシャルも相まって、なかなかこれが歌いこなせる人もいるものではないですが。

どの段階で、スティービーはこれが個性であり、自分の感覚でもって納得のいく世界が作れる(他者があまりやらない)、と認識したのでしょうか。

このどこまでも上がっていく転調パターン(ゴスペルのスタイルでもある=昇天の暗喩)も彼の得意のスタイルとなっていきます。

 


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==コーヒーブレイク〜M-Bankロビーの話題== 

スティービーと共に過ごした三浦氏の著書。。ぜひ再販してほしいなぁ。。

f:id:terraxart:20190403163204p:plainM-Bankにあるよ!

 スティービー・ワンダー我が半生の記録―冷たい鏡の中に生きて (1976年)