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音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

M-Bankスティービー・ワンダー楽曲(コード進行)研究レポート公開シリーズ6★★★

スティービー・ワンダーの和声構造

~非視覚的クオリアを活用した作曲技法~

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アルバム7;「Down to Earth」〜太陽のあたる場所〜(1966)

事例13;A Place in the Sun「太陽の当たる場所」

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E♭m7 |A♭7 |D♭M7 |B♭m7 |A♭ |A♭ |D♭ |D♭ |
=degree= (key=D♭)
IIm7 |V7 |IM7 |VIm7 | V |V |I |I |


楽曲全体を通して、この八小節が繰り返される。

クレジットにはRon Miller, Bryan Wellsとある。

ミラーはスティービーの作曲の先生でもある。

どことなくIsn’t She Lovelyに通じるところもある。

Aメロ、Bメロの違いはあるものの、コード進行が同じでも、メロディ構成を変えることで一貫した雰囲気の中で異なるメロディを作る作曲技法が成り立つ事を教えてくれる。
作曲をされる方も一度、この“全体がほとんど同じ進行でありながらメロディを変えてストーリー展開を構成する”という方法論で作曲することを試してみて頂きたい(“Stand By Me”のような作品)。

コード進行というのはメロディの巣であることはもちろんだが、その曲には唯一その進行、と精度を定めているところが多いのではないだろうか。その場合、それ以上のメロディなど生まれるはずもなく、もし二つメロディが生まれたら、それはどちらかをAメロに、どちらかをサビに据えなければならない。それぞれのセクションで最高のメロディを繰り出すには、それぞれのセクションのストーリーにおけるメロディ構成力がないと、だらだらとした曲になってしまう。またそのメロディ変化に合わせた飽きの来ないアレンジも必要であり、シンプルでありながら結構難易度が高い曲構成方法であるといえる。「サビっぽさ」「Aメロっぽさ」のような匂いは多数のヒット曲を聞いて磨きあげなければならない。

 

事例14;Bang Bang

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Abm |Abm |Gb♭|Eb7|

======
Im |Im |VII♭|V7|


ソニー&シェールのヒット曲である。曲中はこの展開をメロディの骨子として、ルンバ調、日本人にとってみれば、演歌調(昭和歌謡調)にも感じられる。

中半以降サビではテンポを上げ変化がつけられている。
この曲も同じ進行で変化がつけられた曲であるといえる。

 

事例15:Thank You Love (CDタイム0:07-) 

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G |F |B♭M7 |E♭M7 |
Cm7 |D7 |GM7 |GM7 |
G |F |B♭M7 |E♭M7 |
Cm7 |D7 |GM7 |A♭M7 |

A♭ |G♭ |BM7 |EM7 |
D♭m7 |E♭7 |A♭M7 |AM7 |

A |G |CM7 |FM7 |
Dm7 |E7 |AM7 |B♭M7 |

B♭ |A♭ |D♭M7 |G♭M7 |
E♭m7 |F7 |B♭M7 |B♭M7 |
B♭ |A♭ |D♭M7 |G♭M7 |
E♭m7 |F7 |B♭M7 |B♭M7 |〜くりかえし
=degree= (Key=G→A♭→A→B♭)
I |VII♭ |III♭M7 |VI♭M7 |
IVm7 |V7 |IM7 |IM7(またはI#M7 |)


冒頭の八小節を用いながら、どんどん調が上がっていく構成がこの曲で見られる。

当分析では最初の段階的転調の曲と言える。

面白いのは早々に三回転調して、それが維持される点である。


この八小節は、主和音以外は、平行短調の和音が利用されている点にスティービーのその後の作品にも良く表れる特徴を見つけることが出来るだろう。

同じコード進行で違うメロディを歌う、ということに対比するように、同じメロディを、調を変えて歌う、という次なる手法がここでマスターされたことになる。


後半が延々と繰り返される曲でもある。スティービーもクレジットされている曲であるが、どの部分なのだろう。

この転調による上昇感と、繰り返しによる情緒的な上昇感は相通じるものがあり、ブラックミュージックの根源にまでさかのぼるような感覚も持つ。しつこいくらいの繰り返し感を皆さんはどのように感じるかは分からないが、やはりこれが“歓び”である、という印象を民族が有しているか(トランス)どうかでこうした構成が可能になってくるのではないだろうか。


また盲目の場合、高所恐怖症というものがない。あるのかもしれないが、説明されない限り足元が危ういという事には気がつかない。

私などの価値観でいえば、三回ぐらい転調したらもういいだろう、などと思ってしまう。足場が危うくなることが怖いからだ。


当然スティービーにはそんな感覚はない。ゆえにどんどん上がっていく。歌のポテンシャルも相まって、なかなかこれが歌いこなせる人もいるものではない。それが個性であり、自分の感覚でもって納得のいく世界が作れる(他者があまりやらない)、と認識したのではないだろうか。このどこまでも上がっていく転調パターン(ゴスペルのスタイルでもある=昇天の暗喩)も彼の得意のスタイルとなっていく。

   

事例16;Be Cool,Be Calm(And Keep Yourself Together) (CDタイム 0:22-)

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A♭ |B/A♭ |D♭/A♭ |A♭ |
=degree= (key=A♭)
I |III♭/I |IV/I |I  |


ビートルズ的不定調性進行の楽曲である。スティービーもクレジットに記載されている。

これはA♭-A♭m7-D♭-A♭という進行が発想上の基本進行と言える。

これもまた高揚感のある進行となっており、スティービーもヒートアップする様も魅力的である。この曲もまた同一進行の中でストーリーを積み上げていく楽曲となっている。


同アルバム曲「Angel Baby (Don't You Ever Leave Me)」

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も同様な進行が用いられている(キーはD♭)。まさにこのスタイルが、いま最もホットだ!と言わんばかりの用いようである。

 

事例17;Sylvia (CDタイム 0:11-) 

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B |E |D♭7(#5) D♭7 |D♭7(♭5) D♭7 |
G#m |G#m/F# |E |E |
E7(♭5) |E7(♭5) |A |F#m |
G#M7 |C#m7 F#7 |B |〜
=degree= key=B
I |IV |III7(#5) III7 |III7(♭5) III7 |
VIm |VIm/V |IV |IV |
IV7(♭5) |IV7(♭5) |VII ♭ |Vm |
(key=G#)IM7 |(Key-B)IIm7 V7 |I |〜


Thank You Loveと同じクレジットでスティービーの名前も入っている。

彼はこのとき、まだ15歳である。

それでもこの展開はいかにもその後のスティービーらしい要素が詰まっている。

このアルバムは彼のその後の作曲スタイルに大きな影響を及ぼしたのではないだろうか。

五度変化した7thコードや、五度のラインクリシェなどが見られる。

E→E7(♭5)での段落展開などは、地味であるが、単純に四度進行するよりもその独特な停滞感がとても面白い。

そして後半のG#へのメジャー終止もスティービーの曲に見られる陽転である。

陽転と書いたが、これは解決先の変化である。


例)
Dm7 G7 C
よりも
Dm7 G7 A
のほうが陽転感が強い。

 

またさらに、
Dm7(♭5) G7(♭9) A
だとさらに強い。こうしたII-Vと解決先のコンビネーションを後は応用するだけである。
Dm7 G7 B

Dm7 G7 A♭
などの展開が自在にできるようになり、それぞれの進行感が歌詞のストーリー、音楽的な脈絡を備えていればコード進行がマンネリ化する事はないだろう。

つまり機能感を拡張する、とか、あらぬ方向に転調する、という発想ではなくて、これまでに感じたことのないフィーリングを与えてくれるコードはどれかを探す、という発想で見つけてみてはどうだろう。


直感であるが、この辺りの作品の和声感、作風、雰囲気などが「これだ!」という後のスティービーの作品の礎になっているような印象を持った。つまり彼の持って生まれた音楽観にマッチした要素が具現化されている、という気付きである。
このころはまだ具体的に、なんで自分がそういうものが好きなのか、分からないまま使う、という感じかもしれないので、しばらくは楽曲の傾向をこのまま見ていきたいと思う。

 

事例18;Hey Love (CDタイム 0:00-)

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CM7 B♭/C |×Xtimes
FM7 E♭/F | FM7 E♭/F |G7 |C7 |
FM7 E♭/F | FM7 E♭/F |G7 |C7 |
CM7〜
=degree=
(Key=C)IM7 VII♭/I |×Xtimes
(Key=F) IM7 VII♭/I | IM7 VII♭/I |II7 |V7 |
IM7 VII♭/I | IM7 VII♭/I |II7 |V7 |
(key=C)IM7〜


単純なI-VII♭/I進行が穏やかな地表を作り、展開部でそっくりFメジャーキーに移行し、II7を挟んでいる。コーラスの最後にV7を明示しないような状態であっさりCメジャーキーに戻れている。


この曲もスティービーがクレジットされているが、どのような部分を彼が作り上げたのか定かではない。こうした作風が作曲家それぞれの特徴を表していると共に、一番近くにいたスティービーもまた作風のバリエーションとして大いに刺激を受けていたのではないだろうか。

X7(♭5)のような不思議なコードについても、先輩ミュージシャンに質問攻めをした、というようなエピソードが参考文献にも書かれていたので、現場で、様々なミュージシャンの技、音からそうした技法を自分なりに昇華していっただろう。このドミナントを用いず戻る、というのもスティービー作品に時々見られる。

ビートルズがHELP!の冒頭で、やったような効果、と云い直しても良い。まるで聴き手が予測するから、あえて挟まない、と云ったフェイント技=ミス・ディレクションテクニックである。


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==コーヒーブレイク〜M-Bankロビーの話題== 

スティービーと共に過ごした三浦氏の著書。。ぜひ再販してほしいなぁ。。

f:id:terraxart:20190403163204p:plainM-Bankにあるよ!

 スティービー・ワンダー我が半生の記録―冷たい鏡の中に生きて (1976年)