2017-12-08-2020.6.30更新
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I am the walrus
イントロ
B ||2/4 B |B A | G F |E |E7 |D |D7 |
Aメロ
A A/G |C D E| A A/G |C |D |A |~
A'メロ
A A/G | D F G| A A/G |F |B |B |~
サビ
C |D |E |
これを1コーラスとして見ていきましょう。
まずは機能和声的に考えてみましょう。なるべくシンプルに書きます。
最初オルガンがB△的なのでキーは一瞬Bメジャーに感じられますが、このBをIIと解釈すると、全体が都合よくAキー解釈できます。最後D7をIV7のSDmと解釈しました。
次、メロディがiv#音を持っています。基調Aリディアンと解釈もできます。
最後のAでivがメロディに現れます。AリディアンからAアイオニアンへの同軸モーダルインターチェンジといってもいいです。
次、迷うとこですが、メロディにリディアン的な要素が残ったまま、同主短調和音をそれまでのパートに追随して使っています。
こういうのは、関連させて使った、というより、一回使った和音の整合性から使いまわした方が面白い、と考えたほうが私には自然です。
イントロで指摘したVIbからのドッペルドミナントともいえるIIへの増四度進行が奇妙感を演出しててウォルラス感、"マジカルミステリーツアー感"爆発です。
コードを二小節続けることでII7というよりもV7感、I7感が増します。
ビートルズが後期よく使った、機能感を創出していきたいところへ行けるようにしてしまう和音、の使い方です。例えば。
C |Dm7 |G |G |G |G ||
やたら最後のGを伸ばすとGが独立してしまい、脳内でIに変えることができる人もおられるでしょう。なかなか画期的な機能破壊技です。
これらのやり方はSteely Danなどにも受け継がれてより変態的に使われていきます。
1コーラス最後、Bから半音上がったCはIIIbというよりもIIb感、VIb感があろうかと思います。
これもコード連鎖の既視感を利用して繋げていきます。
「どっかで聞いたことがある進行だなぁ」と感じる進行は、ちょっと違和感があっても受け入れてしまうものです。このような「心象」を不定調性論では「音楽的なクオリア」と呼んでいます。これでまた見事に2コーラスめのAにつなげていきます。
曲がVで終わることで、「ああ!もうどーにもならん!」という気持ちになって、また2コーラス目にいくことで「今度は失敗すんなよ」みたいなイメージを聴き手に潜在的に与えます。
「オレ、知ってるコード弾いてりゃ、メロディが勝手に出てくるんだ」
と、もしジョンが言い放ったら、今行った分析は単に「機能和声言語への翻訳」にすぎず、ジョンが語りたかった精神性とか技法を適切には伝えていないことになります。
だって彼はサブドミナントが云々とか、って考えていないわけですから。
それはビートルズを分析した、と言えるでしょうか。
では違う考え方をしましょう。
"おはようございま~す!"
にメロディを付けて歌ってみて下さい。すぐできますよね。
「まーす」で音を上げますでしょ?
それでは、なぜ今あなたは語尾をあげたのですか?
機能和声理論的に考えました?
否、それ、感覚でやれてませんか?
そうなんです、作曲作業では「自在に生み出されるあなたの感性」を鍛え上げるべきなんです。もちろんこれは私の主観ですが。
では、理屈ではなく、
「自分が今知ってるコードで気持ちよく感じる流れを作っていく」
と考えてコードを並べてみてコード進行を作ってみてください。この方法、逆に
そんなの朝メシ前だよ
て思う人もいるでしょう。
これはオッカムのカミソリだと思うのです。
"その人にとってのシンプルな答え"こそが"その人の真理"に近い。
不定調性論ではこうした同一和音(この曲ではメジャーコード)の連鎖を「和声単位旋律」と呼びます(コンスタントストラクチャーと呼ばれますが、少し拙論のやり方は異なります)。
同じタイプの和声だけを並べていくことで「音楽的脈絡」をつくる方法です。」その時の「連鎖させる動機と脈絡」は、機能でもダイアトニックの法則でもなくあなたの感性のみです。ただし鍛え上げられていることが重要です。
スティービー・ワンダーなどは同じことをm7でやったりしています。
またこうして和音をつなげてメロディがうまく出てこない人は、一度レッスンをしてもらって自分の可能性を確かめるといいでしょう。
<不定調性論的に考える>
この曲、例えばイントロから作ったとしましょう。
その時Bコードをジャーンと弾いたとします(こういう作曲の起点となるコードを「センターコード」と言います、キーや機能には関係なく、あなたが起点としたという意味において、です)。「さあ作るぞ!」っていうときに弾いた和音がセンターコードです。ここから展開していきます。
B ||2/4 B |B A | G F |E |E7 |D |D7 |
Bから始めて全音ずつ下がっていきます(変拍子はジョンがこの頃こだわったテクニックだと思います)。ギターなら2フレットずつ下にずらすだけです。このシンメトリー、パターン、を不定調性論では「模様感」などと形容します。なんとなく規則があることで音楽的な脈絡を感じる人のための形容方法です。あなたが「いいね」って感じたら、それは理論的根拠にかかわりなく容認される、という拙論ならでの思考です。
そしてFのあとEにいくのはギターだとそのまま全音下がってE♭を弾きづらかったから、かもしれませんよね(Ebはギターだとハイフレットに移動しなければならない)。
これがピアノで作曲だったらE♭に行っていたかもしれませんね。行ったら行ったでまた別の音楽ができます。こういう恣意性がとても重要です。楽曲のアナライズではこういう「作曲した楽器の特性」にも触れるべきです(半音下げギターとかピアノで作ってたらごめん笑)。
Aメロ
A A/G |C D E| A A/G |C |D |A |~
A'メロ
A A/G | D F G| A A/G |F |B |B |~
このときはAが意識の真ん中、センターコードになっているようにも思えます。
A'メロの最後にはF-Bという増四度進行が見られます。これは「ちょっとこの辺で、普段絶対行かないところ行って作ったろ」と思ったのかもね(これは分析ではない笑)。
イントロで全音ずつ降りてきて、歌い始めも全音下がるの、なんかマンネリじゃね?とあなたが思ったら、変えればいいんです。
いや、この曲はひたすら全音下がりでいく!と決めたらそれでもかまいません。
結果どのような思考をとってもあなたが音楽的脈絡を感じるなら、それを今のあなたにとっての正解としなければ、信念など生まれません。全国民の支持を得られる作品を作ることは不可能です。
だから作品は社会の上での不完全、認証不十分でまず成立していきます。それを成り立たせているのは、それを作った人とそのチームの強い意志とクオリアのみ。完成するのはあなたが発信した後です。
あとはコード進行のパターンが作る脈絡を知っていること、です。
A-A/GはI-I/VIIb
C-D-EはVIb-VIIb-I
D-E-AはIV-V-I
これらは様々なところで見かける「機能和声進行の断片」です。
これが弾かれた時、ちゃんと自分なりの心象、印象を感じられるのであれば、それはあなたにとっての意味を持ちます。たとえば、
|:C |C/Bb |C |C/Bb :| テンポ130,ハネ
音源はこちら
この進行にあなたはどんな「印象」を感じますか?
わたしは「白い壁の回廊を緊張感を持って歩く」というイメージを持ちました(明日は変わるでしょう)。これを心象連環分析としましょう。音楽的知識で音楽を捉えるのではなく、まだ未解明な人間の感性の何らかの機能が反応しているその効果によってあなたの心の上に浮かんでくる様々な心象をが曲の理解の助けにし、それらの材料をも飛び異聞で曲を作っていこう、という考え方です。
もちろんテンポを変えればまた変わるでしょう。だからその都度、あなたは感じないといけないんです。テンポを2あげたら怒られた、という経験とかのある人がいるでしょう。
機能和声はこれを、
CはトニックのI、C/BbはI7の転回形、またはVIIb7(9,#11,13)のアッパーストラクチャートライアド。
などと解説するかもしれません。
この説明は、あなたがいつ、どんな時にこの進行が利用可能な説明だ、ということを述べていません。
それよりもあなたがこの進行に対して「ふわっと浮いたような進行感」「固いどっしりとした基底部と、柔軟な上部の揺れ」とかって自分の言葉で理解できれば、この進行をラブソングの冒頭で使おうとしたら
"変わりそうで、何も変わらない毎日に"とかってメモ歌詞とメロディを作り、「あなたが現れたのだ」何てつなげる導入部かな?
とか
やっぱり「この進行はBメロで使って、あなたに出逢って、揺れ動き始めた私の心を表現する、みたいな感じかな!!」と"理解"できます。
それをいつ使えばいいか、曲を作りながらインプットされていきます。
「そのコードがどんなイメージを自分に与えてくれるかがわかったら、他の曲でもそういう状況においてそれを使えばいい」
となります。
また、
「こういう声に、このコンプのこのプリセットを加工して使うと、マッチしてとてもしっとりとした印象になる」
と知ることでそれがノウハウになります。
不定調性論的思考はあなたが一人いればいつでも活用できます。
自分の言葉で考えて構築して行くことを恐れないでください。
自分が感じることを真ん中に置いて考える不定調性論的思考と、伝統やセオリーで考える機能和声的思考をバランスよく身につけてください。