音楽教育活動奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と...旧音楽教室運営奮闘記。

常套句に頼らないことで、必要なコード空間が見えてくる~ビートルズ楽曲topic

2018.2.11⇨2020.7.23更新

ビートルズの不定調性コード進行研究

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ビートルコードができるまでを探る〜The Silver Beatles 5

アイ リメンバー ユー -


The Beatles - I Remember You (Subtitulos en Español)


これもヴィクター・シャーツィンガーによるスタンダードナンバーのカバーですね。とってもお洒落です。
で、アレンジはと言うと、ビートルズ時代のLove Me Doのようなハーモニカアレンジとドラムリズムが印象的です。

まず原曲のコード進行です。コードは「青本」を参考にしています。
(通常のアレンジ=スタンダードアレンジより)
GM7 |C#m7(b5) F#7 |GM7 |Dm7 G7 |
CM7 |Cm7 F7 |Bm E7 |Am D7 |

GM7 |C#m7(b5) F#7 |GM7 |Dm7 G7 |
CM7 |Cm7 F7 |G |Dm G7 |

CM7 |F#m B7 |E |F#m B7 |
E7 |A7 |D7 | % |

GM7 |C#m7(b5) F#7 |GM7 |Dm7 G7 |
CM7 |Cm7 F7 |Bm |Bbdim7 |Am7 |
D7 |G ||
です。

で、ビートルズはというと、全部のコーラスを歌っているのではなく、後半部分の歌詞をアレンジしています。レコードデータによれば、フランク・アイフィールドのバージョンを参考にした、ということです。たしかにアイフィールドのバージョンと良く似ていますが、それでもアイフィールドは歌詞の頭から歌っていますが、ポールは中間部~同じ所を繰り返し、後半の転調部に突入しています。キーはAです。
A |Bm E |A |A |

D | C# |F# |C# |
F# | B7 |E | E7 |

A |G#7 |A |A |
D | Dm |A |A |
A |Bm E7 |A |A |

ラストのコード A6

 

まず一行目はサビの後半の最後のフレーズを一回持って来て、
D | C# |F# |C# |
F# | B7 |E | E7 |
この部分は、原曲で言う、
CM7 |F#m B7 |E |F#m B7 |
E7 |A7 |D7 | % |
ここになります。原曲をビートルズのキーに合わせると、
DM7 |G#m C#7 |F# |G#m C#7 |
F#7 |B7 |E7 | % |
です。なんとなく簡略化された感じが分かるのではないでしょうか。

で、
A |G#7 |A |A |
D | Dm |A |A |
A |Bm E7 |A |A |
この部分は、
GM7 |C#m7(b5) F#7 |GM7 |Dm7 G7 |
CM7 |Cm7 F7 |Bm |Bbdim7 |Am7 |
D7 |G ||
になります。これもAに転調してみましょう。
AM7 |D#m7(b5) G#7 |AM7 |Em7 A7 |
DM7 |Dm7 G7 |C#m |Cdim7 |Bm7 |
E7 |A ||
後半はちょこっとはしょっていますが、前半のコードアレンジの感じが原曲のジャズの進行をこの時点で、「ビートルコード化」しているのが分かると思います。

ジャズではII-Vの連鎖をしっかり行うことで流れを作っていきます。
メロディに要不要を考慮なく、常套句として用いられる場合もあります。


それがビートルズの進行では、常套句ではなく、「メロディに必要な最低限のコード」に絞ることによって、独自の進行をこの時点で生み出してしまっています。

つまり、

常套句に頼らないことで、必要なコード空間が見えてくる。

です。


たとえば、D#m7(b5)-G#7はジャズのII-Vですが、歌う場合には、G#7があれば十分、と判断したのでしょうか。ジャズをぶん殴りに行ってます。

そのあと原曲では、続くDM7に向かうための準備進行としてのII-VであるEm7-A7が用意されていますが、これも必要ない、と判断したんでしょう。
このII-Vの名残はアイフィールドのバージョンにもみられます(いくつかのII-Vは省略されている)ので、ひょっとするとビートルズはアイフィールドが行ったコードの簡素化をさらに押し進めて、ビートルコードスタイルの原型をスタンダードジャズを「ビートルズ化」することで作り上げていったのかもしれません。

この曲でみられるD-C#-F#といったメジャーコードへの進行は、No Replyのような展開です。
あの手のビートルズならではのロックは、こうしたスタンダードジャズをカバーすることによって生まれていったのかもしれませんね。