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音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

パステル転調・明るい短調の使い方・下降進行のクオリア;ユーミンレポート4

2019.3.26⇨2020.3.25更新

アルバム目次はこちら。

ユーミンレポート全楽曲目次 

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アルバム2;『MISSLIM』(1974)より   

生まれた街で

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エンディング前サビ(アルバム収録楽曲タイム2:38~)

A♭M7 |Gm7 |A♭M7 |Gm7 |
Fm7 Fm7/B♭ |E♭ |
A♭M7 |Gm7 |A♭M7 |Gm7 |
B♭m7 B♭m7/E♭ |A♭M7 |

エンディング(フェードアウト)
D♭M7 |Cm7 |D♭M7 |Cm7 |~
=degree=
(Key=E♭)IVM7 |IIIm7 |IVM7 |IIIm7 |
IIm7 IIm7/V |I |
IVM7 |IIIm7 |IVM7 |IIIm7 |
(Key=A♭)IIm7 IIm7/V |IM7 |
エンディング(フェードアウト)
(Key=A♭)IVM7 |IIIm7 |IVM7 |IIIm7 |~

一貫してE♭メジャーで、最後の最後でA♭メジャーキーのIIm7=B♭m7が現れ、II-VでIVM7であるA♭M7に帰着して(つまり四度転調)「浮遊感」が現れます。

IVM7にII-Vを設けただけとも言えますが、メロディ音は同じなので、一瞬聴いただけでは新たなIM7か元のキーのIVM7判別できない工夫がされています。

・転調していないように思わせる転調(パステル転調)

・華麗な無理転調(ビビッド転調)

転調には大きく二つの効果があります。ここでは前者です。
エンディングは、曲がそれ以上続くこともないので、本来自由な展開が可能です。主調に戻る必要もないし、いっそ大きく展開したいと思うなら、この曲のように、最後で転調を試みるのも面白いでしょう。

同アルバムでは「あなただけのもの」もエンディングでの転調が発生しています。

 

瞳を閉じて

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I-IIm-IIIm-IV


のダイアトニック進行は「着実に」「少しずつ」という印象を持ちます。

いつも見ている海、毎回見ているんだから、どこにどんな島があるか分かっているのに、霧が晴れて高いところに立っても、新しい島なんてみえるはずがない、というのが現実的思考ですよね。

 これも歌詞の手法がですね。 

例;「今日、あそこのパン屋さんに行って、店主の機嫌がもし良かったら、カレーパン一個おまけにつけてくれるかもしれない」

というようなことを詩的に表現してみてください(笑)。

"明日になれば、きっと物事は良くなっているはず"

根拠のないことを願うことは歌の中では許されます。歌を歌いましょう。

 

やさしさに包まれたなら

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このサビの部分、平行短調、つまり暗い曲調なんです。

こんなに明るい曲なのに、何でサビが暗いんでしょう。

 でもこれがこの曲の良いところですよね。嬉しさを感じると切なくなる時ってありませんか?

それを表現してるんです。天才だと思いません?

またこのユーミンの声が、等身大すぎて泣けます。全部計算されているとは思えないけど、そういう奇跡的な曲だと思います。

 

このサビは、
D#m |B |D#m |B |
B |G#m7 |A#m7 |D#m |
B |G#m7 |G#m7/C# |G#m7/C# |
です。せつない!これを、
例;
F# |B |F# |B |
B |G#m7 |A#m7 |D#m |
B |G#m7 |G#m7/C# |G#m7/C# |
としてみてください。ただの少女の歌になります。

目に見えるものはメッセージのはずだ、それを受けとってみよう!
と子供の頃の自分が大人の自分に訴えている、そんな映画のような光景が目に浮かびます。

またサビが過ぎるとまた明るく戻っていくところとかも「開けた感」がすごいです。

カタルシスを感じます。やっぱりがんばろー!!って感想で思いませんか?

短調から抜ける長調が引き起こすクオリアをこの曲は的確過ぎるほど的確に曲の効果で使っています。 

 

海を見ていた午後

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"ソーダ水の中を貨物船がとおる"

絵が感情とともに浮かぶ詞。きっと頭をもたげて、けだるく外を見ているんだ・・とかって想像させます。その視線の高さに頭がないと貨物船はコップの向こうで通りません。いやいや、手に持ってウキウキしながら泡を見ていたら向こう側に船が見えたのさ!・

主人公の感情に興味を抱くことが出来た時代の思考のテンポ感がいいですよね。

 

たぶんあなたはむかえに来ない

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Bメロ(アルバム収録楽曲タイム0:42~)
D♭M7 Cm7 |B7 A♭m7 |G7 E7 |E♭sus4 E♭ |
=degree=
(Key=A♭)
IVM7 IIIm7 |III♭7 Im7 |VII7 VI♭7 |Vsus4 V |


この部分、1コーラス目での歌詞は

「心はもうホームにすべり込んでいる」、

同部分2コーラス目では

「心はもうとっくにくやんでいるのに」

「あぁあ」という女性の溜め息が、聴こえてきそうな和声進行になっています。

ベースラインが下降(D♭-C-B-A♭-G)していく感じが感情表現に沿っています。

下降=感情の沈下のメタファーですね。

 

B7 A♭m7 G7 E7という流れは一瞬A♭メジャーキーから乖離しています。

IVM7からの下降を進めながら、響きを感じながら、流れが持つ意味を見失わないコード展開を保ちつつ元に戻す必要があります。

逆に上がっていく和音進行を考えてみましょう。

Cメジャーキーから始まり、一旦Cメジャーキーを離れ、また戻るように考える。
用例
CM7 C#m7(♭5) |DM7 D#dim7 |EM7 FM7 |F#m7(♭5) F/G :|

音はこちらで聴いてください。

rechord.cc

どんな印象を受けましたか?霧が晴れていく感じ?みたいな印象を感じました。

フルートとかのメロディが乗りそうですね。こんなふうにイメージが固まれば何をやるかも見えてきます。

 

旅立つ秋

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Bメロ~Aメロ(アルバム収録楽曲タイム0:46~)
CM7 |Em7 Bm7 |Em7 Am7
CM7 |Em7 Bm7 |Em7 E|
Aメロ
Am7 Em7 |FM7 |Dm7 Em7 |Am7 |
=degree=
Bメロ(Key=Em)
VI♭M7 |Im7 Vm7 |Im7 IVm7
VI♭M7 |Im7 Vm7 |Im7 I|
Aメロ(Key=Am)
Im7 Vm7 |VI♭M7 |IVm7 Vm7 |Im7 |

Bメロ、

「明日あなたのうでの中で 笑う私がいるでしょうか」

「明日霜がおりていたなら それは凍った月の涙」

における"明日あなた「の」うでの中で 笑う「わ」たしがいるでしょうか"は、Aドリアンのナチュラル6thがメロディ音として使われています。


よってAマイナー→Eマイナーの交換は、AmのIのAmから、EmのIVのAmに変化するモーダルインターチェンジとも解釈することが出来ます。
このモードの変化と、微細な転調感、歌詞とメロディと歌声の淋しさの印象ゆえに

「ゆらゆらと微細に揺れる陽炎のような人の思い」

「その地に残された残留思念に影響を及ぼされてそういう気持ちになってしまうかのような印象」

を感じました。

ラブソングなどのような派手な印象はありませんが、本来音楽が作り出す「機微」というのはこのくらい微妙なものです。中学時代に読んだ古文のような、現代文のような、そういう音楽を、大人になった今ならきっと深く楽しめます。 


おまけ;
CM7 |GM7 |CM7 |Em7 |
FM7 |CM7 |D7 |Dm7/G :|
=用例参考degree=
(Key=G)IVM7 |IM7 |IVM7 |VIm7 |
(Key=C)IVM7 |IM7 |II7 |IIm7/V :|
GメジャーキーとCメジャーキーを微妙な色合いで行き来する例です。パステル転調ですね。

音はこちらで。

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参考<基礎>pivotコードを考える - 音楽教室運営奮闘記

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