音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

中心軸システム と 不定調性論(2019)

2017.10.9→2019.9.27更新

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中心軸システム と 不定調性論

 

中心軸システムの存在については、知人の博士号持ちの中にもご存じない方もおられました。結構ローカルなんでしょうか(聞いた話では無視されている、と言うのが現状のようです)読んでいただくとわかると思いますが、なんか納得です。

方法論的にも少しユルユルです。

 

これはシステム、というよりも「短三度グルーピングコンセプト」と読んだほうが意味は近いように感じられます。しかし他人のシステムに口を出すつもりはありません。これだけ若い方に浸透しているのは、それだけ優れた日本語訳による成果でしょう。

 

バルトークの作曲技法 エルネ・レンドヴァイ 著/谷本一之 訳 

音楽の分析や制作思考はどこまで行っても「個人の意志」であり「中心軸システム」もバルトークの作品分析に基づいて「レンドヴァイ個人が考えた方法」です。それは不定調性論も同じです。バルトークの作品分析はもちろん、これを活用する場合はかなり注意して扱わないと諸刃の剣になりそうです。

「独自論」と考えて頂くと楽かもしれません。

 

 =====

「中心軸システム」は機能の拡張解釈のあり方が面白いな、と感じました。

 

このシステムは、トニック、ドミナント、サブドミナントという主要な機能の制限範囲そのものを拡張してしまった方法論です。

今日からこの部署の部長を一人から四人にする」みたいな発想で出世させてくれます。今日から君達全員部長だ、ぐらいに言っても良いかも笑

 

五度圏を。

F-C-G-D-A-E-B-F#-C#-G#-D#-A#

このとき、キーがCメジャーであれば、

F=SD、C=T、G=[D]とサブドミナント、トニック、ドミナントが綺麗に並んでいます。これを三つ単位で展開していきます。

([D]はDメジャーコードと誤認しないための処置です。)

F-C-G-

D-A-E-

B-F#-C#-

G#-D#-A#

と分けると、

SD-T-Dが4回し連続で並んでいる解釈が可能で、

と並んだ四つの調のトニック、C、A、F#、D#が前後にSDと[D]を伴い連鎖していることがわかります。

 

これによりこれら四つを関連させて相互代理可能にしていこうというアイディアです(実際バルトーク分析でそのように示唆されている箇所がある、というレンドヴァイ独自の指摘から生まれたアイディアです、独自指摘は怖いです笑)。

 

早合点しないで頂きたいのは、繋がりがあるなら即代理して良い、という発想になってはならない、という点です。

あなたが用いるべき進行感に本当になっているかどうかをその都度自分の感性で判断する必要があります。中心軸システムがOKって言ってるからOKなんじゃね??と思って自動利用すると「意図してないけどなんかいいのできちゃった」となってしまい制作時期当初は信念が混乱するのでベターな作曲方法とは言い難いです。

この部署全員部長だから誰に許可もらっても稟議GOじゃね?

(怖)

 

<そもそも論> 

そもそも、トニックって何だ?ということをあなたがしっかり持論として持っていなければなりません。それゆえ、なんとなく中心軸システムを鵜呑みにして中心軸システムで作ったコード進行アレンジをあなたが聞いてみると、

「なんかピンとこないけど、こういう感じになるんかなぁ中心軸システム・・・」

というぼやけた印象になるのではないでしょうか。

そして最後には、

「さてと、勉強はこれくらいにして、自分の音楽に戻ろう」

となると思います。

結局あなたの音楽はあなた自身が納得のいく脈絡を編み出し、それによって作られていかなければならないからです。あなたがプロ研究者でないのならば、システムは自分が納得のいくものを作るべきでしょう。

 

===== 

<参考>
「バルトークの作曲技法」エルネ・レンドヴァイ著 谷本一之訳 第17版(2005)

※中心軸システムはバルトークが考えたものではありません。レンドヴァイ先生のバルトーク分析の過程でまとめられた手法です。
P1-2******
Cをトニカ(T)とすると、4度上のFはサブドミナント(S)、5度上にはドミナント(D)である。
====
と書かれています。これはこれまで学んだことと違わないので問題はないでしょう(不定調性論はこの機能存在を疑うところから始まります)。

そもそもこの機能存在そのものが意識に刷り込まれた根拠のない観念です。だからこの時点で刷り込み(ある種の錯覚)が使われていることに注意してください。

 

P2******
トニカと平行関係にある6度上のAがトニカの機能をもつものとすれば、
====

ここに「仮定」が出てきます。伝統的にC=Amは平行調の関係を拡大解釈したものです(C6を転回するとAm7になる等の理由から)。でもここで同書がのべているのはAmではありません。Aです(または単音のaについて述べている)。C→Aは「平行短調の同主長調への転調」です。このAをあなたはトニックCと同類とすることに本当に同意しますか?ここをスルーしてはいけません。自分で考え、決めるのです笑。

 人とマウスのDNAは99%類似しています、だからといって「人とマウスは類似である」というふうに言われたら、納得のいく部分といかない部分があるでしょう。それが「人の印象」です。ここに微妙な違和感を覚えるなら無視してはいけません。その違和感を追及してください。

 

これは従来の主調転調であり、CのキーからAのキーに転調しただけであり、それならCからDに移っても同じです。

これはあくまでレンドヴァイ先生が仮定したものであり、あとはこの仮定にあなたが同意するかしないか、というだけで進んでいく話です。

あなたは不定調性論に同意するか?という問いと同じである、と考えてみれば分かると思います。

 

あなたが考えるべきは、いかなる理由で

CとAは相互に関係付けられているか、です。

これを、

"レンドヴァイ先生がそう言ったから"

という理由だけで認めてしまうと中心軸システムはあなたの音楽の中で真価を発揮しないでしょう。意味が解らず鵜呑みにしたまま使うからです。

 

 

中心軸システムではE=e,g#,bという和音がドミナントの機能に類別されます。これはなぜですか?

この和音にはg音は入っていませんから展開してもドミナントの要素を与えることはできません。ジャズ理論では、ドミナントになるためにはトライトーンを持つ必要があります。G7であればf,bという音を持っているのでドミナントとされます。

しかしこのE△はf,gを持ちません。ジャズ理論体系とは一緒に考えられない、わけでです。

E△がドミナントの要素を持ちえる、とするならば、別の「ドミナントとできる条件」を付け加える必要があります。

たとえばAマイナーキーにおけるVはEmですが、これを「ドミナントマイナー」、このEm→AmがE7→Amになると「ほら!!Eはドミナントだよ!!」ということができます。ドミナントという機能を持つ権利が拡張されてしまっています。

やはりあとはあなたがどこまで同意できるか、です。

余談ですが、この「ドミナントマイナー」ですが、「弱いドミナント」です。サブドミナントマイナーというのも「弱いドミナント」というニュアンスと言われたりします。

つまりサブドミナント=弱いドミナント

なわけですから、トニック以外は、すべてドミナントの性質を持った和音、ということもできます。

 

中心軸システムのサブドミナント軸の

f-a♭-b-dは構成音をまとめるとG7(b9)のルート抜きであると言えます。この集合そのものはドミナントです。 

「その機能になるために持つ和音の性質」についてのルールがそもそもあいまいであることを利用して中心軸システムはその曖昧なところに切り込んでいったわけです。

不定調性論では機能ではなく「進行感」という学習法を活用しますので機能による組み合わせは用いません。

 

続きます。
P2*******
ここでDTS(ブログ主注「ドミナントートニカーサブドミナント」)のパターンが繰り返されていることに気づくが、この周期的繰り返しを五度圏全体に拡げてみると、中心軸システムの構成が明瞭になってくる。
====
とあります。
五度圏でc-g-d-a-e-という流れをT-D-S-T-D-と流れている、という指摘です。これはすでに「トニカと平行関係にある6度上のAがトニカの機能をもつものとすれば、」という仮定がすでに確定されていますから、その仮定の吟味が曖昧である以上、本当はここには論を進めることはできないのです。

あくまでレンドヴァイ先生の仮定を信じる者、共感出来る者のみが進んでいける段階です。

 

P3-4******
1つの軸の極点の音、いまそれをCとすると、その対極点の音Fisは他の軸の音、例えばAよりも強い機能的近親関係にあることに注目しよう。極点の音は常にその同軸上の対極点の音とその機能を変えることなく入れ替えることができる。
====
いわゆる裏コードの話、としていける部分、とされています。つまり、
G→C

Db→C
とすることができる、という発想です。
これ、単音で成り立つ、というのは100歩譲って良しとして、これをいきなりV7とIIb7という和音の関係にまで持っていくのは飛躍である、とも感じます。

どこにも和音の話はまだ出てきていません。あくまで単音の関係性だけを述べていただけです。

これについては最後に再度述べます。
V7のその他の構成音はどこから来たのか、どのように発生させたのかが明確ではないので、これも「慣習の流用」になってしまうからです。

 

だからV7→Iの機能と意味を疑うところから学習は始めなければならないのです。

例えばT-S-D-Tのバリエーションで見たとき、
key=C durとして、
C |F |G |C |

C |D |G |F# |
これらの各位置の和音は中心軸システムからの転回、となります。
機能解釈はそれでも良いですが、よく弾いてみてください。
「その音楽が"言っていること"」はまるで違うと思います。
つまり代理できたとしても、表現しているニュアンスが変わり、音楽的メッセージが変わってしまいます。これはただの転調である、と言われても仕方がありません。

 

ということはここで二つの音楽理論が発生してしまうことを意味しています。

自由に代理して良い、という方法論と、この代理を禁ずる方法論です。。

これを判断するのは誰でしょう。もちろんあなた自身です。

お気に入りのプラグインを挿すように自在に中心軸システムを使ったり、モーダルハーモニーを使ったり、でも最後は出来上がったものを「あなたなりに直す」はずです。

 

中心軸システムを信望していても、いつの日か作った曲の

「あ、この和音だけ、こっちに変えようかな」

と思う日が必ず来ます。四つしか代理和音がない中心軸システムを、必ず越える日がきます。

その時、あなたは自分の方法論を確立していなければなりません。ただ好みで変えていくと、元に戻ってしまうでしょう。

 

==== 

和音は「機能で連鎖」しているのではなく、「雰囲気が連鎖」しているのです。

例えば、
C |DmM7 |G7M7 |F# |
こうなったらどうですか?あなたはどう分析しますか?

このG7M7というのはチック・コリアも用いるコードとして私たちは学びました。不定調性論ではG7M7を「苦く痺れるコード」などと自分で表現を作ります。「厳しいドミナント」とか既存の用語に沿ったものでも構いません。そしてそれを覚えます。一つ一つの解釈が進むと、どんどん瞬間的に音楽を自分に向けて翻訳できます。

雨の樹素描 1-1 /武満徹(2017)

 

あなたが頼れるのは最後はあなただけです。

中心軸システムは四つの軸に独自の関連性を与えて組み替えの規則を作った点が素晴らしいと思います。そして現代においてはその先、さらに不可思議な和音を使うか、使わないか、使うならどういう根拠か、と考えなければなりません。

 

同書にこんな表記があります。

P9******
註3)古典の和声では7度上の和音(H-D-F)が、ドミナントの機能をもつとされるのには若干問題がある。リーマン(Rieman)はこの和音を属7の和音の根音を省略したものに過ぎないとしているが、しかし、いまH上に減3和音の代わりに、H上に長3和音や短3和音を考えると判然としてくる。それが独立した役割を持つ場合には、Hは明らかにサブドミナントの機能を持っているのである。
====

この手の認識の差異を示すのは当時のやり方です。現代の超多様性の中では、発信しても反論する人が2秒後には出てきます。「自分は自分のやり方で進まないと進めない」ということを知ります。

 

例えば、
C |B |Em |Am |
を弾いてみてください。
C→Bでは、皆さんは何を感じますか?「ドミナント感?」「サブドミナント感?」
B→Emではドミナントの解決感を感じるのではないでしょうか。
では、
C |Bm |E7 |Am |
ではどうでしょう。Bmは「サブドミナント感」を得ましたか??
不定調性論では、ここに「個人差がある」と考えます。だから「サブドミナント感」などと定義しません。そうあなたが感じるならそうでしょうし、だけど人は同じようには感じませんよ?ということです。
だから「CがBに行った感」という感覚を自分なりに捉え、それが音楽の表情的に「どんな感情を表出しているのか」を各自が汲み取り、それがソロをとる際のコード進行なら、どんな風に自分のソロで表現しようか、を各自が考える、ということに重点を置きます。何の機能か、何の代理か?とはもはや考えない、という意味です(学習は一般知識習得のために必要です)。

 

機能の解釈の違いは歴史的な観点の違いであり、あなたには関係ないんです。あなたにはあなたの観点があり、それを曲作りに活かせば良いだけです。
だから「中心軸システムはこう定めているから、この進行は正当だ」というのは逃げ。です。

あなたの感覚を真ん中に置く、というのはすごく勇気がいります。

それをし始めた途端、もっと人前で演奏しなきゃ!自分を見てもらわなきゃ!!ってなるはずです。それが音楽学習のゴールであり永遠のスタートです。そのスタートラインに辿り着く距離をできる限り最短距離にすべきなのです。


故にHのコード(VIIのコード)が、どんな機能で言われようが、あなたには関係がないんです。レンドヴァイ先生の意図をくみ取ったら、あとはすぐに「自分はどう考えるか」「どう使うか」に移行し、行動を移していただきたいわけです。

また観点を変えれば、レンドヴァイ氏のこのアプローチこそ「自分のやり方」の極致だと思いませんか?この研究してる時楽しかったんじゃないかな?と思います笑。

===== 

最後に問題提起。

V7の、v以外のvii,ii,ivはサブドミナントな領域音ですが、構成音比率サブドミナント:ドミナント=3:1でもV7はドミナントなんでしょうか?
機能ってそもそも和音のどこにある、どんな要素なの?、、、って思いません?

またc-e-g-b♭-d-f#-aってC7(9,#11,13)だけど、これはドミナントでしょうか。

ドミナントの要素=g,b♭,e

トニックの要素=c,f#,a

サブドミナントの要素=d

 

ブルースではC7はトニックになりますが、既存論ではドミナントです。この矛盾をスルー出来るのはなぜですか?

それを最後に決めて行動するのは誰ですか?

 

結局あなた自身だと思います。

 

あなたの感性の鍛錬こそが音楽をより自身を納得できるものにしてくれる、というわけです。だからできる限り勉強は現場に出ながら、実際に仕事を受けながらしていってください。最初は苦労しますが、最短距離だとわかります。

 

おわりに

調性論;12音は「いかようにも関係性を作ることができてしまう」ことを上手に活用しましょう。

あなたがどんなにその方法を信じても、それは「主観」ですから、提示するだけにとどめ、どんどん作品制作を進めましょう。

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