2017.10.7⇨2020.9.18更新
スティーリー・ダンの不定調性進行分析
Aja / Steely Dan
ビートルズを音楽理論的に進化させたバンド、
"初心者置いてきぼりバンド"Steely Dan。
今回は「進行感」について考えてみましょう。
不定調性論では個人の「和音の進行感」が音楽を作る骨子になります。
(個人差があります。音楽家でも進行感を特に感じない人もいます)
『彩(エイジャ)』。
「むずかしい」というのが最初のこの曲の私の「音楽的印象」でした。
なんでこんなに難しいか、は今ならその理由もわかります。
いくつもの既存の連鎖感を複数組み合わせて展開しているので、様々な音楽構造を"知って"いないと、ああ、これはあれじゃん!!がわからないバンドなのです。
色々過去のものを知ってないと論理展開できないことってあるじゃないですか。
裁判の判例をどれだけ知ってるか、とか。
いかに過去に数千万の壺を見てきたからで真贋を見極める鑑定士、とか。
バイクを分解してもそれぞれのパーツのことを知らなければ、「うわ!これをここに使ってるんだ!」という驚きはありません。
そういう類の音楽です。
ここではコード構造しか扱いませんが、旋律、楽器の音色、グルーヴ、間、ミックス、商業音楽の知識全部乗りのバンドです。
要点をまとめるために歌部分の背景だけみてみましょう。
BM7 |% |A/B |BM7 EM7 |
Bm7(11) |% |CM7 |% |DM7(9) |% |
E7 |% |GM7 A/B GM7 |G |Gb7 |Eb7 |Ab7 |% |
Bm7 |% |CM7 |% |
FM7 Em7 |3/4 DbM7(b5) |CM7(b5) |% |BM7~
不定調性論では和音の「進行感」に自分なりの一時的な「意味」「脈絡」「解釈」を当てはめて理解を推し進めます。
だから同じ分析にもなりません。
(誰でも同じ分析になる方法論が機能和声論です。)
==細かくみてみましょう====
BM7 |% |A/B |BM7 EM7 |Bm7(11) |% |
A/Bは"VIIbへの進行感"を感じさせます。
つぎのBM7-EM7-Bm7(11)はII-V-I的な進行感を感じます。
不定調性論では、コードマトリックスというコンセプトで、ハイブリッドなII-V-Iを作り上げる手法があります。一つ例を挙げると、Cメジャーキーの
サブドミナント特性音f,a
ドミナント特性音f,b
トニック特性音c,e
を持っているコードがそれぞれの機能となる、と定めると、
BbM7--Eb7(#5,9)--Ab7(b13)
などが作れます。これは確かに特性音を内在させていますから「CメジャーキーのII-V-Iが希少に内在されている解決進行」と言えてしまうわけです。
また「解決進行だ」と感じようと思うと、人は「それなりの進行感」を得られます。
これが「音楽的なクオリア」で理解したあなたなりの感覚です。
印象は作り出せるし、そう感じようとすればある程度感じることができます。
Steely Danの音楽は
「コード進行は全部理解しててまず当然ね、で、それをさらに応用するね?」という雰囲気から曲を聴かせてきます笑。
======
CM7 |% |DM7(9) |% |E7 |% |
ここはVIb--VIIb--I7という形態が作られています。
従来のVIbM7-VIIb7--Imの印象の発展といえるかもしれません。
最初のCM7は、Bm7からの繋がりでBm7-CM7というフリジアンのI-IIb進行感の感覚が代用されていると感じました。
ここでもM7が和声単位(和音のタイプ)として用いられます。
和声単位が統一されると、色彩感が統一され”調的システムとは異なる統一性”を作ってくれます。これも不定調性進行の特徴です。
GM7 A/B GM7 |G |Gb7 |Eb7 |Ab7 |% |
ここでは、G-Gb7においてIV-III7の進行感の印象が転用され、次のEb7は「VIb7に飛んだよう」に感じ、またAb7はその「II7-V7に感じ」ます。
=====
CM7 |Dm7 |G7 |CM7 |
において、CM7 Dm7という流れをあなたはどう感じますか?私は
「ああIIm7に流れるゴワっと上がった感じだなぁ」と覚えています。
上がる、というのは"ポジティブ"のメタファーです。
この抽象的感覚を「進行感」として活用するわけです。
CM7|Dm7|EbM7|Fm7|GbM7|Abm7|---
こうした流れがある種の規則性と音楽的な脈絡を作っている、と感じるのはあなたがそれらの一つ一つの進行感/連鎖感を覚えているからです。
進行感を慣用句にして連鎖していくんです。
またDm7に続くEbM7は、下記の印象感と重ねて理解していきます。
:Am7 |Dm7 |Am7 |Dm7 Em7|FM7 |FM7 :|
この進行で、Em7--FM7の流れに「飛翔した感」とか「リリースされた感」というようななんらかのイメージを受け取りませんか?この感覚を覚えておくんです。
”半音上のM7って飛ぶよなぁ”
と。
これもメタファー。
あとはそういう進行に出会ったら、「あ、半音上のM7に行った感だ」と理解できます。
これが「進行感」への理解です。
この感覚があれば、機能和声感覚から解放されます。
この世に存在しない独自の言語を作るような感じです。
"ロード オブ ザ リング"で有名なトールキンは独自の言語を作ることで有名で、映画でもそのシーンが見られます。
Legolas - All Sindarin-Elvish Language Quotes/Scenes (LOTR Trilogy)
言語が感情を作るのではなく、俳優が話す感じによって感情が作り出されます。
それが独自な言語であるかどうかは関係がありません。
きっと皆さんもコード進行にある種の「聞いたことある感」を求めてしまうでしょう。それが普通です。
中には、その先に行きたくなる人がいるんです。
Steely Danのそうした姿勢はイノベーティブですし、ポップス言語そのものを進化させてしまった変異種だったわけです(ジャズ・フュージョンではよりマニアックに極め尽くされていたが表舞台には出てこなかった-Steely Danハブルボードのチャートにも現れた商業的にも成功したバンドです)。
Bm7 |% |CM7 |% |
FM7 Em7 |3/4 DbM7(b5) |CM7(b5) |% |BM7~
Bm7-CM7は先に述べたIm7-IIbというフリジアン進行的です。
そしてまたFM7でCにおけるIVに飛んだように感じさせます。
これを作るとき「どんな流れになっても、俺は歌頭のBM7に戻ってみせるぜ」というぐらいの意気込みが持てるまで訓練は必要です。
当ブログではユーミン氏もこの感覚がすごいですね。
"どこに行っても主調にカッコよく戻して見せるわ感"
を感じるコード進行に、なんかロマンのようなものを感じました。冒険者が「必ず生還してみせる!」と叫ぶようなコード展開です。わお!と感じます。
それからダイアトニック進行的に、ベースラインが下降していきます。
Fm7-Em7-Dm7-CM7といってしまっては、調が明らかになり過ぎるので、
FM7-Em7-DbM7(b5)-CM7(b5)-BM7~
という流れになっています。
このDbM7(b5)は、DbM7の変化系です。
<CM7(b5)について>
ふつうにCM7にすればいいのに、と思うところですが、この和音、聴き比べてみてください。CM7よりもCM7(b5)のほうが"潤い"というか、"湿ったかんじ"がありませんか??
もちろん各位の感じ方でOKですが。
ゲームでは経験値が大切なように、ミュージシャンにとっても耳の経験値の向上によってこうした「普通の人が使えない武器」を使えるんですね。
たとえば、
Dm7-G7-CM7
Dm7-G7-CM7(b5)
Dm7-G7-CM7(#5)
Dm7-G7-Csus4M7
など、いろいろケーデンスの部分で試してみて、それぞれが自分の中にもたらす色彩感、印象の変化を確認しながらどんどん使ってみてください。
そして大切なのは今この曲のメッセージと同期しているか?です。
マニアに行き過ぎる人は商業音楽では苦労するでしょう。
逆に「みんながわからない響きを作っても仕方がない」と思える人は絶対にヒット曲が作れますので頑張ってください。
Steely Danこそバンドスコアを見ながら討議すると面白いバンドです。