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音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

発展!神秘和音の作り方~不定調性論

神秘の神秘和音。
これ名前勝ちですよね。この和音をポップに考えてみましょう。
→ギターの神秘和音タブ譜はこちら↓

www.terrax.site

   

 



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そのまえに。
2014.5.18日本音楽理論研究会第24回例会プログラムでの佐野光司先生の発表資料を参考にいたしますと、

Society for Music Theory of Japan


最初に「神秘和音」と名付けたのは、音楽評論家のサバネエフ先生だそうです。以下、佐野先生の資料からの引用です。
===
Sabanejew ".Prometheus von Skrjabin" in "Der Blaue Reiter"Munchen 1912, Repr. Piper & Co 1967 p.119
「神秘的和声 "die mystische Harmonie"」
ここでは神秘和音を高次倍音列(8,9,10,11,13,14: c,d,e,fis,a,b)から選んだ音を 4 度に組み立てたとしている。
この説はその後長く通用した。 Hull, Eaglefield "A Greate Russian Tone-poet : Scriabin " London 1916 もこの説をとっている。
===引用以上。

さらに引用。
===
2)神秘和音の性格
神秘和音の構成音は、全音音階の中のどれか1音を半音上げれば出来る。従って全音音階で書かれた作品には、偶発的に生まれることがある。
リストDer Traurige Monch(悲しき修道士)1860 の14-17 、32-35 小節にすでに現れている。
《悲しき修道士》はリストが全音音階を主体にした書いた和声的に画期的な作品。
=====引用以上。
まさに専門分野は専門家に聞け。ですね。発表当日は「講義と違って、とても緊張している」と仰っていたのが印象的でした。

===さらに引用。
3)神秘和音の解釈。
サバネエフを恐らく知らずに, ハルは『近代和臀の説明と應用』(小松清繹創元社1952)
Hull "Modern Harmony its Explanation and Application 《'London 1914 の中で、第5 音下行変質の属9和音であることを指摘している。まだ神秘和音の名を用いていない。
しかし前述の1916 年の"Scriabin" で、サバネエフの「神秘和音」の説明を読んで倍音列説にしたように思える。
*戦後はスクリャービンの特別な和音として扱われ、合成和音として音階としても和音としても扱われる和音として解釈された。
佐野光司『ロマン派音楽における和声の一断面~後期のリストとスクリャービンを中心として』(『フィルハーモニー』1964 年1,3,4 月号,NHK 交響楽団)/『スクリャービンの音楽語法ー10 曲のピアノ・ソナタから』(音楽芸術(音楽之友社) 1972 年12 月)

*新しい解釈の道を開いたのはデルノヴァ。
Dernova, Varvara " Garmoniya Skryabina'、Lenigrad 1968(ロシア語)
英訳Guenther, Roy James "Dernova's Garmoniia Skryabina : A Translation and Critical Commentary " Dissertation The Catholic Univ. America 1979
デルノヴァの本をギュンサーより早く読み、簡略に説明したのがBowers, Faubian" The New Scriabin ; Enigma and Answer" New York 1973 邦訳『アレクサンドル・スクリャービン』佐藤泰一訳泰流社1995
===引用以上。

神秘和音は最初は属和音の中で用いられ、「倍音等を解決しないまま用いる和声法にあったと思われる。」そうです。
そうしてスクリャービンの5番「プロメテ」で「基本的な主題の和声は殆どが神秘和音で構成されている。」ということです。(「」内も佐野先生のレポートの引用です。)
===最後にまた引用。
Ex.10. Op.58 譜例音MD
これは23 小節という小品だが、すべて神秘和音でのみ書かれている。全体はH 主音と考えられる。
だがスクリャービンがその後の作品を全て神秘和音で書いた訳ではない。むしろ属7,属9系の和音を主体として,自由な和声法を用いている。
また1911·12 年の間は、MTL による旋法的な和音の用法が特に目立つ。
===引用以上。
(ブログ主注記;「MTL」とはメシアンによる移調の限られた旋法"modes à transpositions limitées"のことです)

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一部ですが、佐野先生が当日配布した先生の書き込み図ありの参考譜面を掲げます(個人の書き込みはありません)。
ここまでの引用不足のため解釈を誤らせてしまったらすみません。
ご興味のあるかたは先生の原レポートをご覧ください。日本音楽理論研究会にて公開されたものです。本部までお問い合わせください。またはわたくしに連絡頂いても構いません。

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さて本題です。
この和音ですが、cから考えてコードネームにすると、
C7(b5,9,6)
です。cのホールトーンスケールを考えると、
c-d-e-f#-g#-a#
ですから、確かに。ここからg#を半音上げればできます。

この響き、聴いてみてください。

www.youtube.com

 

ご自身でも弾いてみてください。
私の最初の印象は「鋭い銀色」。

で、この和音を教材では次のように書いてみました。

 

f:id:terraxart:20170831104907j:plain

(これはg音を中心しています)これは「和声の分子構造」での表記なのですが、意外と対称的じゃないんですよね。でも対称的じゃなけりゃないで「ああ、なんか確かに不安定ですよね」みたいに言っちゃうこともできるんですけどね笑(クオリアは自由にコントロールできる)。

まあ、倍音が流行りだった当時の音作りにおいては最先端な解釈でも解釈できちゃう和音であったことは分かります。「飛行船こそがこれからの乗り物だ!!万歳飛行船!」みたいな勢いとでも言いましょうか。

事実はどうあれ、この和音はもうスクリャービン先生に使い倒して頂いたので、ほぼもうその新鮮な果汁もすべて吸い尽くされた感があります。
で、不定調性論では、十二音連関表がありますから、これに今度は神秘和音をかぶせてみます。

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先だっての中心軸システムでも話題のこの表ですね。
見てください、このなんともかゆいところに届かないアンバランス笑。

ああ、aじゃなくてg#だったら完璧だったのに。とか思っちゃう(それじゃただの全音音階)
またはf#じゃなくて、g#でもいいよね、とか、
a#じゃなくてd#でもいいよね、とか。安易に対称性を作りたくなる。

で、
黄色く塗った和音→神秘和音C7(b5,9,13)
白いままのセルの和音→G7(b5,b9,b13)またはFm7(b5,9,b13)

コード進行ができます。
C7(b5,9,13)→G7(b5,b9,b13)またはFm7(b5,9,b13)
これって、すべての音が移動しているから、激しい移動になる「完全動進行」としているものです。どうでしょう。。。
教材ではカッコつけて「12音完全領域変換」とか言ってます。

これらの和音弾いてみてください。
C7(b5,9,13)もG7(b5,b9,b13)もFm7(b5,9,b13)もみんな神秘和音みたいに感じませんか?その響き。

これ全部Cにして弾いてみてください。
C7(b5,9,13)
C7(b5,b9,b13)
Cm7(b5,9,b13)

神秘和音は倍音だとか、全音音階だとか、なんかそういう「拠り所」があるので、"ひときわなんか神秘な感じ"を覚えていましたが、実はその他の似たような和音も、「結構それっぽく響くなあ」とか「これはこれでなんかそれぞれ印象深いなぁ」なんて、感じる方おられると思います。
これ大事な感覚だと思います。
「神秘和音だけが神秘じゃない」

そうなると、いろいろ探してみたくなります。

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神秘和音は辛うじて、自然倍音的なところからの発展を根拠にする向きから(それが自然の神秘、的なニュアンスがあった)属和音ぽかったですが、不定調性では協和不協和に限界がないため別に属和音ぽくする必要はないので、連関表から自在にピックアップすることで対称性という神秘さ?を持つ和音を作ることができます。でもこれも自然倍音の展開ですよね。
もちろん倍音や、数理的必然性から和音を作っても構いません。
ここでは連関表で配置した神秘和音の配置にインスピレーションを受けて、この連関表から類似した和音を作ってみたいと思います。
黄色いセルの和音、それぞれ弾いてみてください。気に入った和音があれば「自分だけの神秘和音」にすればよいですし、使い倒せばよいと思います。
=====
おまけとして、神秘和音は対称性がないのか、というとそうでもないです。
十二音連関表はどんどん拡大できますので、下記を見てください。

 

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eをダブらせることで対称性は獲れます。神秘和音にeをオクターブで二つ加えたら"安定する"のか、"神秘じゃなくなる"のかは知りません。
平均律の12音の関係性自体が完全に比の関係で出来ているので、いかようにも関係性を作ることができるんです。

この12音の配置を「機能」「調性」におかない不定調性論は、あらゆる和音を自由な整合性で作ることができます。
これはcという基音からの振動数の比の関連性を図にしたものの配置から創る、ということでもあります。

もちろん12音の配置はこのよう「面」だけではなく、立体モデルもできるでしょうし、らせん状にもできるでしょう。
十二音連関表や中心軸システムの12音の配置は、実はある形式にのっとった一つのモデルであるにすぎないことに気が付きます。
なにより

「自分が音楽的に理解しやすいモデルを作る」

事が大事だと思います(真の体系化は後世に行われます)。
そこに個性や新たな知恵が入って、またそれを参考に新たな音楽が生まれ続けていくと思いますし、在野研究の一番の魅力です。

三度堆積、四度堆積など既存の和音作成の方法で出来る発想には限界があります。

ここでは神秘和音的な未知な和音を数理や行列的な配置から作る一つの方法を示しました。
オリジナル楽曲の和音、時には自分の発想で作ってみませんか?