音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

...El Món〜不定調感的十二音技法 / 独自スタイルの在りようを客観してみる

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米津玄師氏の『Lemon』の現代音楽方法論的カバーというものを作ってみました。

なんか大そう偉そうな題名をつけて本当に申し訳ありません。これも仕事の一環なのです。

 

前半と後半は特に旋律のリズムがほとんどそのまんま反映されていると思います。

 

十二音技法、今や誰も使うことのない手法、ですが、どこかやり忘れたところがあるんじゃないか、と感じさせる方法論です。今回も謹んで使わせていただきました。何か可能性があるのではないか、と信じて。12音技法の記事は別途書かせていただいています。

 

使用した理由は、仕事の上で十二音技法の制作感を確認しなければならなかった、という点と、曲は無調的でも、聞いたことのある心象が浮かぶ楽曲が意識の上に上がってくると、きっと無調はもっと違う無調へと意識の上では変質するのではないか?という実験をしたかったからです。

一つの楽曲に対して持つ記憶が、聞き手にどれだけ影響されるか、を試したかったからです。

 

何を持って「調性」というのか、に個人の解釈を含めないとすると、それは料理の味を客観的に述べたものと同じだと思います。

カレーの味。きっと一人一人最近食べたカレーの味と、思い出のカレーの味と風景が蘇るはずです。そこには一切の一般性は入り込みません。あなたの思い出とあなたの体感とを、料理評論家が述べる言葉とリンクさせるだけであり、答えは評論家の言葉にあるのではなく、あなたの中のクオリアとリンクしたなんらかのイメージがあなたにとっての答えのはずです。

学問的な調性の定義が一つに確定された、としても、あなた自身の答えは自分で生み出さないといけません。Cメジャーキーとは何か?と言われたら、教わった風景とか、先生の顔、インターネットのページの色合い、Cメジャーとして知っている曲、Cという文字に対する共感覚的な意味合い、などなど様々なイメージが学問的定義とは別に生まれるはずです。これを「音楽的なクオリア」としてください。

 

だからクオリアだけだと人に通用しないし、学問的定義だけだと頭でっかちになります。ぜひこの二つの世界があることを認めた上で音楽と付き合っていただければ、独自の世界観が作りやすいのではないでしょうか?また他人の理解に対する理解も進むのではないでしょうか。

 

それらを含めて、『Lemon』を知っている人がこの曲を聞いたときに浮かぶ、"苦いレモンの匂い"があるのではないか、と思います。そして曲は無調でも心のどこかで学問的定義のできない"調性の思い出"の存在があることも確認したい、そういう意図を感じたので今回カバー作品に挑戦しました。1コーラスだけですが。

 

心象は不定調性論の専売特許で、音楽制作は、それとの戦いでもあります。

 

1:20ぐらいまではメロディのラインだけ、下記の音列で作りました。

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この音列を移調したり、反転したり(inversion)、逆行させたり(Retrograde)逆転させて反転させたりして使っていい、というのが12音技法の作曲方法です。

十二音技法 - Wikipedia

 

十二音技法の音世界に、やってみてすぐ、違和感がありました。方法論と方法論のぶつかりみたいなものです。

そこで一挙に計画の変更を迫られ、メロディだけセリー(音列のこと)を使うことにして、伴奏や合間の合いの手は自分の不定調性感覚でのアレンジにすることにしました。

 

ブリッジ部分は、下記のように、メロディを含んだラインを最初に配置して、和音を厚めに作り、必要に応じておかずを入れてゆきます。

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やっぱり自分はこのやり方が好きだな、とか変なこだわりを持ってしまいました。

勉強が足りていません。

このやり方は、単音概念とか、マザーメロディ、という考え方で記事では紹介しています。その他の音楽理論でも似たような手法はあると思います。

 

途中の

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これはおまけです。果実の切れているところだけを音にしました(G7(b9,b13)的なサウンドです)。他は別トラックで作って表示だけされて、音は鳴りません。鳴らしても良かったのですが、なんか表現したいことがごちゃっとするのでやめました。

 

後半は何度かメロディを弾いて、クオリアが降ってくるのを待ってました。

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いくつか作業していたら、あ、不定調ブルージーにしよう、と思い立ち、リズミカルで、ブルーなノリでまとめられています。

ノリノリで気に入っています。

 

やっぱり自分は、システムの中だけで音楽を作る、ということはできないな、と改めて思い知らされました。これは個性か、逃げか。逃げないように今回トライしたつもりですがやっぱり出戻りしてしまいました。

多分まだまだなんだ。

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最後のこの緑の音。

作っていたら自然とメロディに近くなっていたのに後から気がつき、わざと寄せて直して色を変えました。

 

...El Mónは「世界」という意味なのだそうで、elは女性名詞につく冠詞なのだとか。

詳しくはないのですが、とても気に入って、題名として使わせていただきました。文法的に正しいかは無視しました。そこには今はもっと大事なものがあるように感じたので。

Lemon、という単語自体、米津氏の曲の中ではもっと違う価値のある存在を示しているような気さえするからです。

 

DPは今回用にカスタマイズしました。フリー画像サイトのデザインが気に入ってしまって。ちょっとお茶目なDPになりました。