ここからは教材第六章の主要部分をかいつまんでまとめておきます。
149,初期ジャズの旋律的構造
(参考)
ウインスロップ・サージェント『ジャズ―熱い混血の音楽』
ガンサー・シュラー『初期のジャズ』
山下 洋輔 『ブルーノート研究』(『新編 浮雲ジャズ帖(平凡社ライブラリー)』(研究発表そのものは『音楽芸術』1969年5,6月号にて)
濱瀬元彦氏の『ブルーノートと調性』によって提示されたもの、無視されたものを、本書でさらに追求し不定調性論の考え方で読み返す作業ともいえます。
<旋律編>
基音をcとする。上部と下部のテトラコードにおいてブルース旋律は、似たような動きをする。これらの旋律的動きを二つのテトラコードで合成してみてみると、
中心に集まる音を「核音(一次)」とされます。
※核音の指定については、山下氏の論考を引用しています。
さらに短調の概念がここに加わることで、低い方への解決も行われ、結果としてもう一つの核音が現れます(二次)。
そして二つの音階の形状ができます。
この辺りの詳細な解説は教材をご参照ください。
つまり♭5thのマイナーペンタトニックは、アフリカ的音階と、西洋の長調と短調の概念が加わることによって、生み出されたスケールであり、ブルーノートである、と考えることができます。
150,初期ジャズの和声的構造
・サージェントの同著書
「黒人の西欧の和声進行に対する感覚は抜群である」
「純粋の黒人のポリフォニーは、大人数の歌い手のグループが、黒人系の調音を備えた異なる諸音を同時的に歌う結果として、たまたま成立するものに過ぎないように思われる。」
「格別に黒人系の曲が、音楽の素養があって芸術的な自覚に富む黒人たちの手で、しだいにその原始的な性格を剥奪され、白人の讃美歌の規格化された外観を付与されるようになった。世に知られた霊歌でこうした変化をこうむらなかったものがあるであろうか」
こちらは初期ブルースのケーデンスの例です。テンションサウンドが印象的です。ギターなどの楽器の押さえ方の結果生まれたとも言えますし、彼らのサウンド感覚の良さが作り上げたとも言えます。
こうしたコード進行の感覚を得た彼らが、独自のコール&レスポンスの呼応を詩にして歌に歌うようになったのでしょう。
では、ブルース進行の肝である、I⇨IVの流れはなぜ生まれたのでしょう?
この辺りは、この記事でも既に示唆していますが、彼らには上部のテトラコードと下部のテトラコードがあったために、低い方で歌い、次に高い方で歌うことによって感情の高ぶりを表現できたと言えるかもしれません。
これだけで全て推測になってしまうので、次回、先人の研究例を参考に並行音程の考え方を紹介しましょう。
最後にシュラーの著書から引用しておきます。ジョーンズとは、もちろんアフリカ音楽研究家A.M.ジョーンズです。
われわれはここでもジョーンズを参照しなければならない。(中略)アフリカのコーラスの歌唱が斉唱か2部唱であり、後者の場合にはオルガヌムで歌われることである。つまり(中略)2声部の歌唱が並行音程で歌われるのである。ジョーンズの第二の観察は、並行のオルガヌムで使用される音程の種類と関わる。彼の指摘によれば、「アフリカの和声は、並行4度、並行5度、並行8度、並行3度のいずれかで歌われる」。「アフリカ人が並行4度で歌う場合、低い方の声部はつねにサブドミナント音を高めにとり、そのようにして3全音の4度を回避する」。
この並行声部の作成癖もまたブルースのI-IVの展開を産んだのでは、と考えていくわけです。
アフリカ音楽本が少しずつ出ているのはうれしい!