ユーミンの不定調性コード進行研究
ユーミン歌詞・コード考 / アルバム「THE DANCING SUN」1
歌詞については掲載しておりませんので
こちら等にて確認ください。
砂の惑星
(ユーミンレポートより)
Aメロ(アルバム収録タイム 0:29-)
Gm Cm Dm |Gm Cm Dm |F |Gm E♭ F |×4
Bメロ
Gm|Gm |Fm |Fm |
B♭m |B♭m |Am(Adim?)|D7 |
このBメロはこれまでにないマイナーコードの連鎖によって、異世界的、不条理的な感じを演出している。最後のAmのところはコードが判明せずAdim7のようにも感じられたので、各位で確認いただきたくこのように表記した。ときおりこうした不思議な効果を持つ部分というのは出てきてしまう。レコーディングの偶然によって生まれたり、極端な例では、ミスをしたことが、または偶然起きた追加音が効果的で採用される場合などである。
楽曲の歌詞世界の意味に通じる世界観を、既存の音楽進行ではない進行で造り上げなければならない、というアーティストの気概を感じる。この真新しい進行感に、地球でないどこかの砂の惑星の物語りを感じさせる。
Bye bye boy
サビ始まりともいえる、Am7→FM7がとても切なさを倍増させています。
これはIm7→VIbM7ですから、切ない代表みたいなコード進行ですね。
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GET AWAY
(ユーミンレポートより)
Aメロ(アルバム収録タイム 0:28-)
E♭m |A♭m |D♭ |G♭ |
Gdim7 |B |F7 |B♭7 |×2
Bメロ
A♭m |A♭m/G |A♭m/G♭ A♭m/F |
B♭ B♭/A♭|Gm7 A♭ B♭
サビ
E♭ |B♭/D |A♭/C |A♭ B♭/A♭ |
E♭ |B♭/D |A♭/C |A♭ B♭/A♭ |~Aメロ
Cメロ(2:29-)
Cm7 |F7 |Cm7 |F7 |E♭7 |E♭7 |A♭sus4 A♭ B♭7sus4 B♭ |
AメロはE♭マイナーキーで始まり、BメロでIVmのラインクリシェのようにしてA♭mのセンター感を作り、調を曖昧にしてサビでE♭メジャーキーで進行していく。
Cメロで新しいサウンドが響いている。このCm-Fはドリアン進行と言えるのでオーソドックスだが、続くE♭への進行が、少しブルージーに響く。これはブルージーにしたくてこの和音を探していたのか、弾きながら演奏している時、この和音の感じに音楽的脈絡を感じたからなのか分からないが、ブルースの持つ独自の色合いを「ブルース」として独立させるのではなく、通例の和声連鎖と同じ「進行感」である、として用いることでこの進行に対するポップス的脈絡も別途できよう。ブルージーだから何でもかんでもブルースにすることはない、という発想の転換である。
Hello, my friend
叱っておくれよ系の歌詞がここにも登場しています。
(ユーミンレポートより)
Aメロ(アルバム収録タイム 0:14-)
E E/D# |C#m C#m/B |AM7 G#7 |C#sus4 C#m |
AM7 E/G# |F# F#/E |F#/D# F#/C# |Bsus4 B |×2
サビ
F#m F#m/B |C#m C#m/B |F#m F#m/B |C#m C#m/B |
F#m F#m/B |D#m7 G#7 C#m |F#m7 F#m/B |Esus4 E |
Cメロ
FM7 |FM7 |Em7 |Em7 |
FM7 |FM7 |Esus4 |Esus4 |~
ベースラインが下降していくというコンセプトが、とうとうと伝えるメッセージになっているような音楽的脈絡を感じる。
サビでも分数コードが巧みに使われているが、基本はF#-C#を行き来しているだけである。同じ進行で異なるメロディを乗せる、と言う発想と、異なるメロディに同じコードを乗せる発想がここにあるといえる。
またサビの進行を、
F#m7 G#7 | C#m |F#m7 G#7 | C#m |
とした場合、フォークソング的なサウンドになる。ユーミンのパステルカラーのサウンドは、F#m7/Bとして生まれているのがわかる。
"もう二度と会えなくても 友達と呼ばせて"
の部分で現れるD#m7はVIIm7である。そのままII-Vを組みVImに流れる。この変化感も絶妙である。この部分で印象的なのは、背景のラインにあるc#-c-bというラインである。このラインがコード進行のダイナミックな流れの中で繊細で切ない流れになっている。
「悲しくて 悲しくて 帰り道探した」という歌詞は不思議な響きを持っている。
そしてCメロではリリースされ、飛び立つようなII♭M7の響きになっている。
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Aメロの
E--E/D#--C#m--C#m/B--AM7--G#7--C#sus4--C#m--AM7--E/G#--F#--F#/E--Bsus4--B
の降りていくラインをじっくり聴いてみて下さい。
この和音の連鎖をあのメロディとあの声で聴くと、「うんうん」とうなずきたくなる(下がってくるラインがメッセージの説得力を増している)ような情感を持ちませんか?
"ユーミン"という音楽ジャンルですね。
RIVER
(ユーミンレポートより)
Aメロ(アルバム収録タイム 0:21-)
Fm7 |E♭ |D♭ |E♭ Edim7 |
Fm7 |E♭ |D♭ |E♭ E♭/B♭ |
Bメロ
C#M7 C#M7/C |B♭m7 B♭m7/A♭ |
E♭/G E♭m/G♭ |Fm7 Fm7/E♭ |
D♭M7 |Cm7 Fm7 |B♭m7 |C7 |
このアルバムはベースラインの活用が目立っているように思える。この曲でもコードに対するベースラインの動きが印象的である。調はFmで展開し、コードもシンプルであるが、ベースラインが変化していくことで、シンプルなコード進行の連鎖する雰囲気がまるで異なることが分かる。
春よ、来い
エオリアン進行( V-VIb-Im )です。
F#6 G# |A#m |
という進行でこのVIbM7がVI6になっている場合があります。
これには理由があります。
F#6の6thはd#音です。このd#音はG#の5度音です。つまり、
F#6 G# |A#m(11) |
とかとなると、ずっとトップノートでd#音を保持できます。
ではなんでF#に6を乗っけるのでしょう。
演奏上の流れもありますが、日本人的な感覚で言うと「残り香」と表現すれば良いでしょうか。
余韻、とか、夢の跡、です。
そういうのに、侘び寂び、興しみ、を感じます。
この曲では、Aメロ後半で
F# G# |A#m A#m/G# F#sus4 F# |
というsus4がまた効果的に使われています。
これもやはり「残り香」効果を持っていると思うのです。
そしてBメロで
F#6 G#/F# |F#M7 ~
というように、ベース音を保持して、同じように淡い色合いのグラデーションを作っていると思います。
歌詞を書いたあとで、このコードアレンジがあったのか、コードアレンジがあって、そこに歌詞を乗せたのか、想像できませんが、参考にできそうなスタイルだと思います。