パット・メセニーの不定調性コード進行分析
(2013-06-08⇒2016、2018改)
Sirabhorn / Pat Metheny
Pat Metheny Songbook: Lead Sheets
何とも云えない、ふんわりとしたやるせなさ、というか、まるで"うわのそら"で独り言を話しているようなギターの雰囲気が好きです。
この曲を聴くと○○○○が浮かぶ、という心の動きを拙論では「音楽的なクオリアの相起」とか言います。もちろん何が心に浮かぶかは一人一人違います(人生経験に依存)。
その印象感がなんとなく自分で理解できるような表現に落とし込んでいくのが「不定調性論的な楽曲の理解」です。また、それらの印象は一年後には変化してたりします。
明日には変わってるかも。
その都度新たに感じようとすれば音楽は飽きません。機能和声分析的に楽曲を一度定めてしまうと、改めて聞く時に以前より深く楽曲を聞こうとしないことがあることも覚えておくと良いでしょう。何かを見定めたいという人の欲求もわかるのですが、一方で定まらぬものを見続けたいという気持ちもあるので、後者の感覚も大切に豊かに聞いた方が音楽に対する柔軟な気持ちを育めるような気がしてなりません。
C |Bbm |Gb |Em |
B |G#m7 |E |Dm |
GbM7 |Fm7 |GbM7 |Fm7 |
DM7(#11) |% |% |% |
と続きます。
センターコード=Cとしてみますと、
I |VIIbm |Vb | IIIm |
VII |VI#m7 |III |IIm |
VbM7 |IVm7 |VbM7 |IVm7 |
IIM7(#11) |% |% |% |
(※「%」は前の小節と同じ、という記号です)
当然1つのキーには収まりそうもありません。
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メロディ最初の四音でCコンビネーションオブディミニッシュスケール(cコンディミ)が使われています。音階構成音は、
C-C#-D#-E-F#-G-A-A#-C
ですね。
また、
GbM7 |Fm7 |GbM7 |Fm7 |
はシークエンスを作っています。スティーリー・ダンなども得意でしたね。
このように同じ進行形態を繰り返すことで脈絡や意味が出来上がりやすくなります。調性に縛られないコード進行で意味感を作りたいときに便利です。
DM7(#11) |% |% |% |
これは1コードでモーダルな雰囲気です。前半部分のまとまらない印象を、このコードでがっちり定着させています。この辺がメセニーが小難しくなりすぎないところです。安易に無調で攻撃しすぎず、不定調性の微妙なグラデーションのセンスが抜群です。
余談ですが、先のcコンディミ(C-C#-D#-E-F#-G-A-A#-C)から音を拾って和音を作ってみましょう。
C(c,e,g)ができます。さらに、
Bbm=A#,C#,D#も
Gb=F#,A#,C#も作ることができます。
冒頭の三つの和音ができます。
何かしら関係ありそうですよね。
メジャーコード⇒マイナーコード
という連鎖のシークエンスが統一されています。
また、こういう進行では三拍子が扱いやすいです。
三拍子はどこか滑稽で可愛らしく、見たこともない妖精が踊っているような感じも受けます。これは三拍子という拍子から感じ取るクオリアかもしれません。
テンポよく和音が変化してくれるので、四拍子のときよりも和音の繋がり感が強まる印象があります。
「自分、この曲の何が好きなんだろう?」と思索できる人は音楽家です。
パットのギターの音色だったり、フレーズの抑揚だったり、必ずあなた自身がそう感じた理由を探り当てることができると思います。
そして更にそれを自分で実践しようと思えたら、もう立派なクリエイターです。
以下は拙論による解説です。
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この曲は私は、「普段いかないところ(コード)に行ってみる」進行のアイディアの連鎖によって出来上がっているのではないか、と感じました。
C |Bbm |
私のこの進行の印象は、
ある曇り空の下で、なんだか不思議な郷愁を感じ、立ち止まった経験…
を思い出しました。
今でも、急に街を歩いていて強烈な既視感にとらわれ、"知らない記憶"に襲われる時があります。なんの前触れもなく。
あの感じです。
もしギターで作曲しててC→Amを弾こうとして、1フレット誤ってこの進行を弾いたらこれだ!!!!って感じて、「なんかこれ、使えないかな?」って思うかもしれません。
不定調性論では、
このような進行を動進行と言います。
メセニーのような進行を印象感覚でなんとなく理解できるような感じがしたら、不定調性論の様々な理屈に飛び込んでみてください。