2017.11.17→2019.10.4更新
セロニアス・モンクの不定調性進行分析
52, Introspecrion / Thelonious Monk
モンクが鍵盤の上に指を投げ捨てるように置く弾き方は、完全にピアノ演奏というエレガントさからは対極にあるものだけど、人々の「ジャズピアノ」の潜在意識の奥の方を全部ひっくり返したと思います。
Cm7 Db7(b5) |C7(b5) B7(b5) |
Bbm7 Eb7 |Eb7 AbM7 |
Bb7(b5) B7(b5) |G7(#5) B7(b5) A7(b9)|
DM7 |DM7 Bm7 |
Cm7 Db7(b5) |C7(b5) B7(b5) |
Bbm7 Eb7 |Eb7 AbM7 |
Bb7(b5) B7(b5) |G7(#5) B7(b5) A7(b9)|
DM7 |DM7 |
DbM7 |DM7 |DbM7 |DbM7 DM7 |
EbM7 |DM7 |DM7 DbM7 |B7(b5) |
Cm7 Db7(b5) |C7(b5) B7(b5) |
Bbm7 Eb7 |Eb7 AbM7 |
Bb7(b5) B7(b5) |G7(#5) B7(b5) A7(b9)|
DM7 |DM7 |
DbM7 |DM7 |DbM7 |DbM7 |~solo
通例の音楽分析は形態分析です。
最初のCm7を主和音と考えれば、Im7と理解できます。
しかしこれでは、ナポリタンはオレンジ色である、と述べただけです。
そこに不定調性論の考え方を加えます。そのナポリタンを誰と食べて、誰が作って、どんな思いで作って、どんな思いで受け取って、それを食べて、それからどうするか?
とかも分析に含めます。
そういうふうに音楽を分析すると、自分の音楽観に役に立つ情報が曲の中から得られます。
この曲の時折見られる五度進行には時代背景を感じさせます。
モンクの機能和声への許容範囲がかいま見られて興味深いです。この人はコルトレーンに理論を教えてますからね。ツワモノです。
行ったり来たり、出たり入ったり、という単純な楽想が「Introspecrion」という表題の意味を感じさせます。
「観察、自己内省。」
そうか、これは自己内省している場面をアニメーション化した曲だ・・・という思いが浮かんできます。そうしたらそういう雰囲気になるコードをより深く理解して、実際にイメージしながら弾いてみて「うん、たしかにアニメだ」とか感じながら弾けば、そこで形態論を越えていくことができます。
冒頭Cm7 Db7(b5) の部分で、メロディは後半二拍でDb7(b5)のb5音を使っています。
例えば、
ド-レ-ミ-ファ-ソ~とメロディが流れるとき、普通なら、
C-Dm-Em-F-G
とハーモナイズするのが最も基本としますと、たとえば、勉強が進めば、
C-G/B-Am-FM7/A-Gsus4
とかします。これはそれぞれのメロディ音を持っているコードを用いています。
そしてさらに進んで。
B♭add9-A7sus4-G#7(b13)-G7-F#7(b9)
とハーモナイズするのがコンテンポラリーと言えます。
どんなふうにハーモナイズしても音楽が作れる、ということをモンクらが打ち立ててしまったからですね。
あとはバップ的でないためにアドリブが大変、というのは確かにあります。
このモンクの進行を、
「新しい響きの連鎖を楽しんでいる」
ということが言えると思います。
だから同曲をカバーするときは、モンクのそういうアーティスティックな思いを受け取って、「自分が弾いたらまた新しい感じが生まれないかな?」という思いで弾けばいいのではないでしょうか。
モンクのような弾き方をする必要はないと思います。
メロディが美しいから、人気があるから、弾くとお客さんが喜ぶから、弾く、というのはあくまでファンサービスです。それそのものはあなたの純粋な表現とは言えないかもしれません。
あなた自身が本当に弾きたいこと、表現したいことがあなたのよりどころです。それがあった上で、様々な音楽に向き合うと、とても楽しいですよ。義務で行うことすらも楽しくなってきます。
モンクはレーベルによって残されたから、解釈も自在に行われ、多様な価値も生まれたのだと思います。無理に音楽的にどうこう、などと考えなくても。