一小節を分析するのに30分かかる、というのは"音楽分析における音楽の聴き方"です。通例の和声分析もこれに該当します。「一音一音に意味を当てがいストーリーを作る作業」です。
映画の数秒のワンシーンでも膨大な時間がかかっています。それらの特典映像はアイディアや苦労がいっぱいです。
音楽を分析的に聞く行為もそれに近いです。楽曲分析もあくまで音楽制作者のノウハウです。
元々は音楽学のカリキュラムの中に織り込まれてしまったので、音楽を勉強したなら誰でもそれができないといけない、みたいな風潮になってしまいましたが、それができなくても音楽を作れる人はたくさんいます。
私個人的には、 もう少し音楽分析で行う行為が実用的な心象を豊かにするようなスタンスを入れられないものかな?と感じました。不定調性論的思考は「自分なりの分析方法」ができて、それを楽曲制作や社会生活に活用しよう、というスタンスを目指しています。
まだ学生なのにテレビ出演しなければならない芸能人や、社長業の合間に自分のバンドのライブをこなす、といった受講生の場合、あまりに日常が忙しすぎて、とても一般音楽分析学的に音楽を聴く機会などありません。また彼らに要求されることもエンターテインメントとして会社や顧客が要求することに応えられるか?という項目です。
具体的に活動する彼らに役立たない音楽分析学であってはならないと思ったわけです。
アナリーゼと言われる、楽曲分析については既存学習を参考にしていただき、ここでは"そういうことをしている時間がない人がどうやって楽曲を分析的に考える過程になって行くか"、"現代的なより簡潔で実用的な楽曲分析とはいかなるものか?"について考えてみましょう。
具体的には「体感した感覚」をメモして行くという方法です。
拙論でいう「音楽的なクオリア」です。当サイトではおなじみですね。
下記のようにきっちりメモしなくてもいいです。
ただ言葉に出して云うだけでも。スマホにメモってもOKです。
曲と自分の間に起きた心象やシンパシーを書き留めます。
ここで書くのは私がうまくいったやり方ですのでご留意ください。
これらのトレーニングは、
聞いた瞬間に音楽をどこまで把握できるか、というスキルに繋がります。
最初は難しいですが、慣れれば、音楽が見えてきます。
伝統的音楽分析学の学習はそうした実践スキルが身についてからでも遅くはありません。
例えば、
・この曲を聴くと気持ちが燃える
・この曲は昔の恋人を思い出す
とか、音楽が好きな人なら、曲に対してなんらかの心象的反応を持つでしょう(だから音楽を好める)。こうした心象=クオリアを感じたら、まずそれを書き留めます。
そして次にはそれを自分の演奏やステージに活かすためにどうするか考えます。
最初はうまくいきません(こういうことがサクッと最初からうまく行く人が活躍する世界)。
・気持ちが燃えるからいつもより飛び跳ねたらウザがられた
・昔の恋人思い出しすぎてMCが長くなって泣けてきて曲がぐしゃぐしゃになった
みたいな「空回り」をどうしても経験します。
よって何度も何度もこのステップを繰り返す必要があります。
熱くなりすぎず「クールになれ」と云うのは、何度も何度も繰り返した結果できることで、感情的になるな、と云う意味ではありません。
ひたすら感情を込めてトライし続けることで感情の蒸気が落ち着き、上手に体を回るようになります。この試行錯誤中に指導者は非難しない!指導とは我慢!
どう感じて、どうやろうと思って、実際やってみて録画録音して、反省会をして、またどう感じたか...を繰り返す。
やることはシンプルですが時間がかかります。
この過程の中で感情と実践の間に深い回路を作ります。
この「回路」とはおなじみ、脳の中の回路です。
ピン!と手を伸ばさなければならないのではなく、伸ばすことで自分の気持ちがスッとする感覚を持つまで
エイトビートをしっかり刻むのではなく、タイトに刻むことによってこの心象が表現されるまで
練習します。最初はどのくらいでできるようになるかわからないので、半年ぐらい余裕が欲しいです。その次は四ヶ月、次は二ヶ月、次は二週間...とどんどん勘が良くなります。
そういう練習の中で、
この曲のここの部分、自分はグッときます。
となった時に、音楽理論的な理由を説明できれば音楽理論の講師の役目は十分です。
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音楽をちゃんと勉強していない彼らはこう感じています。
「ちゃんと勉強してないのに人任せでライブやらせてもらって恐縮する」
とか
「ちゃんとした音楽教育/トレーニングを受けていないのにテレビに出ている」
といったことに引け目を感じています。これがミスやしょぼさにつながったりします。
"ちゃんとしていなければ、ちゃんとしたところにいてはいけない"
が大きなプレッシャーなのです。
それを取り払うには「自信」「確信」に基づいた「無心=自動的に心象がパフォーマンスに繋がるまでの練習をこなした証拠としての無心」を手に入れるしかありません。
楽な方法はないんですねーーー。
<実践例>
話は以上ですが、弾き語りができる人は、ちょとトライしてみてください。
この曲をカバーしてギター1本でライブで弾く、練習の時間が二週間でのべ10時間しかない。ギターも5年ぶり。さてどうしましょう。
そうなると理屈やノウハウを入れる時間がありません。
ギターならちょうど二週間後に指がボロボロになります。皮が厚くなり掛けの時期です。個人差もあります。いずれにせよ10時間しかなければ、問題は指の先との戦いです。
講師はゴールと過程が全て想定できるようにしてください。想定していなかったことが起きた時対処できません。
人によっては指にセロハンテープを貼ってうまいことできたり、最初の5時間くらいは優しく触れて弾きましょう、みたいなことが器用にできる人もいます。
爪を伸ばしている女性にはもちろんギター弾き語りなど勧めません笑。
こういうことは分析学ではどうにもなりません。
そこでそうしたことも全て「楽曲理解」と結びつく行為で、指を痛めても弾くことで表現できるあなただけのコードフォームを発明するしかない、といった気持ちの切り替えができるような人は、短期上達、短期発表ができます。
私は、そういうことが人の才能である、と感じました。
理屈云々より、コードと歌詞と演奏、歌をとにかくひたすら繰り返しやって「今回できるベストなカブトムシ」を模索していきます。
ギター一本にしてもそんなに簡単に弾けるわけがないんです。
自己流になってしまって構いません。
解釈が間違っても構いません。
弾きやすいように、歌いやすいように、多少オリジナルと変わってしまってもOKです。
余裕があれば、残った時間でそれを補う作業を追加します。
先生のアドバイスも1分以内で笑 グダグダ話すのは練習時間の邪魔。
指が痛くなってきたら指サックをしたり、セロハンテープを貼ったり、セメダインを貼ったり、色々やったことがあります。セメダインはやめたほうがいいです笑。
そして弾き方を覚えていただき、寝る前には頭の中で弾くようにします。
脳は手で弾こうが、イメージで弾こうがあまり変わりません。
10時間のうち6時間ひたすら弾き、1曲4分として、アドバイス1分、休憩1分として6時間で、60回弾けます。あとは個人差です。
完成が見えることで本人も落ち着きますし、余裕が出てきます(これ大事)。
その後で余裕があればピッチとリズムと表現を録音して軽くチェックします。
ライブなら、出ハケから、水を飲むタイミングとか、MCとかも合わせて繰り返しやります。衣装も当日の衣装でやります。服の素材によっては弾きづらいこともあります。
ライブハウスの椅子の高さが合わなくて全く弾けない、ということもあります。慎重な人は自分の椅子を持って行ってください。とか。
「もし間違ったら笑顔で、堂々と少し前から弾き直して。曲が止まると、人はまた逆に聞きたくなるから、。ミスったら切り替えて「聴き直してもらうチャンスだと思って」
と伝える。
ミスは長い目で見たら本人とってのアドバンテージです。
こう言って理解いただくと、ミスをしてもだいたいはなんとかできるものです。
あとはやるだけ!ってなった前日に、人のタイプによっては、この曲の音楽方法論的な重要な部分とか解釈を伝えたりします。ここはクリシェって言って、みんな大好きだから。とか。そこでそういうのが頭に入る人も居ます。タイプによります。
音楽分析の内容は、そのくらい"初心者には難しい知識"です。
「全く音楽理論はわからないけど売れてます」という人が「音楽を分析できていない」 わけがなく、またそれもまた「音楽分析」という学問の一端である、と思っていただくと、「よしまず和声分析できるように勉強やらにゃ!」となる前に、上手に弾けるように、思いが表現できるように練習する、ほうが時間がかかるし有意義で人に伝わりやすいです。弾けるのが先、分析は後。