セクションごとにコード耳コピして書いてます(すみませんこちらと少し違っているようです)。
ご本人たちがどこまで考えて作っているかはともかく、こういう風に捉えられるからすごくないですか?という記事です。
70−80年代の日本のフュージョンは本来こうなるべきだった、とか我々は思ってしまいます。
当時は洋楽の凄さが、我々世代のコンプレックスとあいまって結果「80年代フュージョン」を生み出しました。あれはあれで最高だったけど。
でも現代は日本人が日本人の音楽に自信を持ってきたように思います。Youtubeなどの媒体で海外からの評価が受けやすくなったのも自信になる度合いがまるで違いますよね。
野茂選手がアメリカに向かって活躍してから日本人は自信を持ちました。
自信とともに育ってきた世代の音楽は、我々世代のような遠慮もありません。
その前の世代はいわゆる「不良」になることで相手を近づけないようにしていました。近寄られるとこっちの弱さがバレるから。
新しい若い人の部類であるKing Gnuのサウンドはアートロック=ArtRockともいえる「穏やかな反抗」を感じました。かっこいいし、浅くない。
具体的に何が?っていう話ですが、評論家ではないので、ここでは音楽構造が作る「らしさ」をいくつか紐解いていきたいと思います。
ジャズ由来のコードの使用が作るハイスペック感
<pickup Intro>
key=Fメジャー/Dマイナー
F |Gm7 |Am7 |A#dim7 |
Bm7(b5) |C |C#dim7 |Dm7 |
F |Gm7 |Am7 |A#dim7 |
Bm7(b5) |C |C#dim7 |Dm7 |〜Interlude、Aメロまでこの繰り返し。
C#dim7は「パッシングディミニッシュ」です。ジャズ由来です。
A#dim7のほうは本来A#M7にならないといけません。しかし
F |Gm7 |Am7 |A#M7 |
Bm7(b5) |C |C#dim7 |Dm7 |
F |Gm7 |Am7 |A#M7 |
Bm7(b5) |C |C#dim7 |Dm7 |
としちゃうと"フツー"なんです。このフツーにするのも結構勉強が必要です。
しかしこれだと例えば「なれやしないよ」の「や」がA#M7(BbM7)の#11になります。
「なれやしないよ」
のなんとも言えない悲壮感はBbM7(#11)よりもディミニッシュのほうがしっくりきます。私の意見ですが、逆にこのA#dim7はこのコード進行が先に出来て、その響き感からイメージしたメロディと歌詞をあと乗せしたのかな?とか想像しています。
そういう風に一歩上のセンスにジャンプできるあたりがアートロック。
昔のロケンローだったらこういうことはしません。相手を殴って黙らせた時代なので小手先の技はいらなかったんです。だからこそロケンローが輝いた時代でした。
今はそうはいきません。
パッシングディミニッシュ=全音離れたダイアトニックコードの間に挟むことで「接続感」、「疾走感」が出ます。
米津楽曲でもよく出てくるサウンドです(最近みんな使ってる)。
こういうサウンドがパンク的楽曲で出てくること自体が少し前までは不自然でした。
これが当たり前になっているのは良いことです。
「コードなんてカンケーねーんだよ、理屈はいいから聴けよ!」という時代が終わり、いつのまにか「ディミニッシュとか知らねーやつ、音楽やんじゃねーよ」的になっている格好良さが、"民度が上がった"ということもできます。アートロック。
もはやあまりにも無知では若者は音楽がやりづらいはずです。
dim7の用法は理論をやる人は学校で勉強するコードの一つでもありますので、ちゃんとこういう展開感や疾走感の曲でこのコードを出してくれるKing Gunの音楽性に興奮すると思います。実際井口様、画面でずっと疾走してるし。
このm7→#dim7はギターだと下記のように、移動が比較的容易です。
だからI-IIm-IIImときて「ああ、このままBbM7(IVM7)じゃつまらんなぁ」と感じる時に、こういうことをしたりします。この話はもう後でもう一度出しますね。
=メモ=
Cメジャーでダイアトニックコードを並べると、
CM7 |Dm7 |Em7 |FM7 |G7 |Am7 |Bm7(b5) |
となります。ここで全音で接続しているところに半音上のディミニッシュを挟むのがパッシングディミニッシュです。
CM7 C#dim7 |Dm7 D#dim7 |Em7 |FM7 F#dim7 |G7 G#dim7 |Am7 A#dim7 |Bm7(b5) |
また下行してくるときは、♭表記するのが慣習とされる、と学びました。
Bm7(b5) B♭dim7 |Am7 A♭dim7 |G7 G♭dim7 |FM7 |Em7 E♭dim7 |Dm7 D♭dim7 |CM7 |
楽譜作るときの参考に。
弾ける人は楽器で弾いてみてください。
<上記コード進行の音が聴けるよ!>
passing diminish | rechord - 演奏もできるコード進行共有サービス
さらにA#dim7からBm7(b5)に流れます。
これもギターでいうと下記のように。
このBm7(b5)を普通に分析すると、ジャズ理論では、IV#m7(b5)となり、これは
IV#m7(b5)=VIm6の転回形
となり、ここではキーがFなのでVImであるDm6の転回形になります。つまり平行短調のトニックマイナーの代理コードです(『lemon』でも出てきたねー。この界隈の流行りなんでしょうか)。
Aメロ終わりまで約1分、この進行で突っ走ります。まさに走る20代。
あえて王道でサビを作る
<サビ>
Dm7 Am7 |Bb F |Dm7 Am7 |Bb C C#dim7 |
Dm7 Am7 |Bb F |Dm7 Am7 |Bb C |
EDMで王道とされる、VIm-Vm-IV-Iです。
そこにしっかりKing Gunの代名詞と言っていいのかC#のパッシングディミニッシュが光っています。
ここはコード云々より、今の世相では「何がノリノリか」を象徴する進行をサビにもってきた、という印象を受けました。
「こういう感じだろ?お前らのノリノリって」って言われているよう。
昨今の王道進行が昔と変わったか、について、
ここでやってるLiveのコード進行の作り方が一役買っていると思います。
コードを知らない人がコード進行を作るとこうなります。
DAWの機能を活かした作り方。ヒップホップも音楽理論を知らない人がサンプルを張り付けて作った音楽。
必要のないコードが意味を持つ
今回一番すげーって思ったのが、2サビ前の「B」です。
MV1:53ーの
Gm7 F |Eb |Gm7 F |Eb |Dminor penta FILL |B |
この最後のBです。「煌めきを探すよ」のところですね。
"髭dan"さんなどでも見られる「挟む無意味」です。
もちろん"無駄な無意味"ではありません。分析学上の無意味、というニュアンスです。
続くサビはD#マイナーキーですから、ドミナントを置くならBではなくA#7またはA#△でないといけません。でもそれではいかにも「半音あげるよ」というネタバラシですからそれは逆に100%却下です。
半音上げ転調の元々の意図は「盛り上げるため」でしたが、洋楽でだいぶ以前から「ダサい」とされ始めている印象を受けます。
ディズニーぐらいのクオリティの曲で年に1度やるのはいいけど、それ以外でやるのは「古い」という感覚??です。
半音転調は、高音が生かせれば十分に盛り上げ引き締め要素は出るわけですが、自信のある世代の考え方は違います。
別に「俺たちの曲、最初から最高だろ?最後だけ盛り上がるってどういう意味?ダサくね?」
です。
こうした表現はやはりEDMなどでも効果的に使われています。
サンプル貼り付けなどで起きてしまう現象に似ています。
現にBからD#m7は「半音上がりました」感は全くなく、"今っぽいな、このキメ"ぐらいにしか感じません。
あげたと思わせない感じで半音あげる、というのが今の考え方です。
昔のセオリーはやはり通用しなくなっていますね。
若い方から学びたいと思います。
==コーヒーブレイク〜M-Bankロビーの話題==
騙されるな。これはちゃんとアート。