音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

Lemon / 米津玄師(1・コード進行編)

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Lemon / 米津玄師

米津玄師「馬と鹿」

Flamingo / 米津玄師_Lemon(コード進行あり)のその先の質感を考える

TEENAGE RIOT/米津玄師 モーダルインターチェンジと質感とか構造

 

そんなに「Lemon」っていい曲ですか?っていう意見があります。

それは感じ方が逆です。たくさんの人が聴くことで曲は良くなります。またそれまでに沢山の人が米津ナンバーを聴いていたことで、lemonへのリスナーの聴感が仕上がったんです。だからこのヒットは起きるべくして起きたヒットでした。

lemonで起きたか、灰色と青で起きたか、パプリカで起きたか、の違いだけです。

だからこの曲がそれほどでもない、と感じる人は、あなたの感性に合った曲、アーティストを探せば良いだけです。食事の味の好みと同じです。あと天邪鬼気質の人は、自分が気がつかないうちに嫌いなところを探してしまうので、ご注意ください。音楽の怖いところです。音楽自身は「あなたの感覚正解です」とはいってくれないので、良い意見も悪い意見もまかり通ってしまいます。音楽は自分の好みをとことん楽しむほうが良いと思います。

 

そのモノトーンの歌声の質感と、冒頭にdimがあるから」

コード弾き語りやったことのある人なら。「やられた」って思いませんでした?

歌声の質感の存在も大きい、コード進行は真似できても声は真似できない。

 

冒頭から「あ、それずるい」って思いました。

分かっていても避けられないボクサーのパンチ「米津dim」です。

 

この記事はちょこっとコードが弾けて一般的な楽理の知識がある、という前提です、ご了承ください。

 

米津玄師 MV「Lemon」

<参考>

日本型短調の権化;根音省略型dim
日本的で陰鬱、霊的に突き刺さってくる和音。日本人しかわからないコード?かも。
怖いコード。短調が醸し出す畏敬。
 
Lemon
     G#m       F#                 
 夢ならば どれほど   
    E                      B
よかったで しょう
    E            B           
未だに あなたのこと  
Fdim                   D#
を              夢にみる 
 
Fdimです(歌メロ2オーラス目はベースラインがdーfと流れるのでDdimとも解釈できる)。
ここをこうしてみましょう。
G#m |F#  |E |B|
 E  | B |A#7   |D#|

これでもメロディーは歌えます。でも「夢に見る」感じが出ません。A#7ですと少し淡い感じがして、私には優しいジブリ感。ちょっと香りが弱まり、ハッとさせません。

で、これをdimにすると、ハッとさせられるわけです。
(米津楽曲にはdimやm7(b5)が時折スパイスのように出てきます。アーティストの雰囲気に合っていますよね。)
 
ではさらに次のようにしてください。
   G#m    F#             E          B
   E           B         A#7(b9)        D#
どうでしょう。これで少し近づきましたね。
 
A#7(b9)=a#,d,f,g#,b
です。
Ddim=d,f,g#,b
=Fdim,G#dim,Bdim
とされます(dim7は四つ同じ、という捉え方はジャズ理論の慣習として用いてます)。
ここでは曲中でdをベースに扱っているので弾き語りを想定しDdimとしました。
 
このDdimは、A#7(b9)の根音省略系なんですね。
つまり
A#7(b9)=Ddim/A#
です。
 
(参考なぜ7thコードにb9thのテンションが乗せるか?)

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このdimは、半音で次のD#△に結びつきます。

B=b,d#,f#

Ddim=d,f,g#

D#=d#,g,a#

構成音の流れが綺麗。d#--d--d#。

半音での連鎖は、ちまちま動いているようで、実は一番ダイナミックに感じる動きなんです。パワーコードでがーん!がーん!というダイナミックさが男性的なら、半音の変化は美的で繊細な女性的ダイナミックさです。

 

この人のミステリアスさはある種の両性具有さ、無性さ。

それでハイヒールか?とかまで感じてしまう。

 

===Dimの補足です。コードマニア以外読まないでOKです。===

例を挙げます。楽曲とは直接関係ありません。

 CM7   |Dm7   |Em7   |Am7  |

みたいな進行で、セカンダリードミナントに任意に置き換えてみます。

ex1

CM7   |B7(b9) |Em7  |Am7  |

ex2

CM7   |Dm7   |E7(b9)   |Am7  |

 ex3

CM7   |Dm7  B7(b9)  |Em7  E7(b9) |Am7  |

で、dimコードはX7(b9)の省略形ですよね。だから

ex1'

CM7   |D#dim7 |Em7  |Am7  |

ex2'

CM7   |Dm7   |G#dim7   |Am7  |

ex3'

CM7   |Dm7  D#dim7  |Em7  G#dim7 |Am7  |

ってなるんですね。その曲のメッセージにあったコードを自由に使ってみてください。

似たようなものに、パッシングディミニッシュっていうのがあります。

これはちょっとまた違って、定義としては、

「長二度根音が離れたダイアトニックコード間に置かれたディミニッシュコード」です。 

 だから、

CM7   |Dm7   |Em7   |Am7  |

であれば、

CM7  C#dim7 |Dm7 D#dim7 |Em7  |Am7  |

とかです。置き換えるんじゃなくて、「挟む」んです。

この和音も米津楽曲に出てきます。

<テンションは適度に乗せる>

乗せすぎたテンションは無駄になる、という話です。

同曲でのdim7コードはII7(b9)=ドッペルドミナントにb9を乗っけた7thのディミニッシュです。キーAmでやってみましょう。

Am   |Bm7(b5)  E7  |Am

これがダイアトニックのII-Vですね。

でこれをII7にします。

Am   |B7  E7  |Am

ちょっとエスニック、というかスパニッシュというか、辛味が効いて、しつこくなりますよね。これをさらにしつこくします。

Am   |B7(b9)  E7  |Am

 きゃーしつこい。これを薄めるには逆にテンションをまぶします。

Am7(9)   |B7(b9)  E7(b9,b13)  |Am7(9)

テンション=張りが立つ、というような意味ですが、本来は使い込むことによって全体のテンションが上がって、逆に平らになるんですね。コンプ使いすぎた音源みたいな感じです。

===== 

 

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この"Lemon"のディミニッシュの辛味/ノスタルジーは、マイナーキーでのII7の辛味なんですね。みんな大好き短調のII7。民族的で、粗野な色彩、内在する本能的な感覚、みたいな。

 

m7(b5)の教科書的利用

この曲にはもう一つ匂うようなコードがあります。

C#m7       G#m       E   F#      Fm7(b5)
の「帰れないコード、Fm7(b5)」です。これもいろんな曲を勉強してないと使えないコードです。
 
これはジャズ理論ではIV#m7(b5)でトニックマイナーの代理コードとされています。
m6コードの転回形だからです。
つまりこの曲のマイナーキーの主和音G#mをG#m6としたときの転回形です。
だから
E  F#  G#m6
って流れてる、と解釈してもいいです。
でも「帰れない」んです。
そのままE---F#---G#って行かないで、fに戻ってしまうんです。E---F#---Fって。この感じが「帰れない」感じしませんか?
 
問題は、このm6コードをいつ使うべきか、です。
今こそm6を使わなきゃ!!!
って作曲してる時に思えなければ、いくら覚えても意味がないですよね。
前の行でG#m使ってるから、繰り返し使うのはつまらないなぁ、とか感じられる感覚、大事です。また歌詞のニュアンスと連動したコードなので、さらにカッコ良い。
 
 
結果、この二つのコードDdimとFm7(b5)が、私にとっての
「胸に残り離れない苦いレモンの匂い」
でした。「レモンの味」ってしないところが素敵だな、って思います。
え?苦い?苦いって言われると、"酸っぱい"が軽く感じますね。レモンの清純さの裏の顔、みたいな。青春の裏。
 
あれ、レモン関係ないじゃん!ってわかるのはしばらくしてから。レモンに象徴される概念について歌った歌なんですね。きっと。
 
 ユーミン楽曲の「ルージュの伝言」の歌詞には「紅い」って言葉は一回も出てこない(ルージュ=赤)けど、聴き手には口"紅"しか浮かんでこない、っていう技法と同じです。
何を強調して、何を言わないか、フェイントを絡めたサッカー選手の巧みなドリブルみたい。
  

皆さんもぜひ自分の好きな曲をとことん語ってみてください。自分の好きが明確になります。好きが明確になると生きる指針が見えます笑。

 

 

 

 

その2に続く。
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