Off Minor/Thelonious Monk - YouTube
この人の楽曲は、楽しみ方があると思うんです。
そして、この音楽を聴いて楽しむために「モンク専用の耳とモンク専用の音楽鑑賞観」を起動させなければならない、そのことを楽しみにできるかどうかではないかと思うのです。
音楽の良し悪しではなく、あなたの許容量の問題。
つまらなければ歴史には残りません。モンクは面白い。公園の芝生で座ってたら頑張って生きているカマキリを見つけてじっと見ちゃう、的な面白さがあります。
ただ誰もが会いたい人だけど一日付き合ったらしばらく会わなくてもいいかな、というタイプの人。奇想文学的面白さ。
これは1947年の作品。
コルトレーンのデビューは46年。
これを47年の音楽として聴くと違和感がありますね。即興パートはどうしても時代の音楽(バップ進行的様相)が反映されてしまいます。
モンクのコード進行には、「いびつな脱落感」や「カクカク動く壊れたようなフレーム感」というか、"物置の奥にしまってあったものだけを使って自動車作ってみました"みたいな、どこか異様で創造物感があって、"美女とスチームパンク的"な匂い。
とりあえずこんな音楽作る友人が居たら、とりあえず一緒に何かやって録音して残したくなりません?売れる売れないとかではなくて、なんか人生の記念に。
そう思わせるすごい吸引力。音楽表現の目的を再発見させてくれるアーティスト。
この人の音楽は劇伴のようで、テーマだけでいろいろな映像シーンで使えるサウンドトラックです。情景的というより抒情的、というか痴情のもつれ。
昨今の映画と比べても、ようやくメディア文化がやっとモンクに追いついた、って感じがします。
コードを見てみましょう。
Gm7 |C#7 F#7 |Bm7 Bb7|EbM7 D7 |Gm7 |
Bb7(b9,b5,13) |D7(b9,b5,13) |D7(b9,b5,13) |
DbM7 D7 |Bbm7 Eb7(b5) |Bm7 |E7(b9,13) |
Em7 |Em7 A7 |D7(b9,b5,13) |D7(b9,b5,13) |
Gm7 |C#7 F#7 |Bm7 Bb7|EbM7 D7 |Gm7 |
Bb7(b9,b5,13) |D7(b9,b5,13) |D7(b9,b5,13) |
最初のセクションはGm7でくくったような不定調性進行です。EbM7-D7がGマイナーキーのVIb-V7の感じを微細に放っていてかっこいいです。
最初と最後を決めておいて演奏のアクセントにすれば、途中はどんなに適当にやってもそれっぽくなります。ポストバップ的に調的な重力の流れを観念的な存在にしているんです。
それぞれの連鎖はV7-IやIIb7-Iというバップ語で連鎖しています。
きっとGm7--C#7という論理的ではないチェンジ感(ビ・バップでII-Vに細分化した時現れるi-iv#のチェンジ...kay=C FM7-Am7を分解して、FM7-Bm7(B5)-E7-Am7等)が珍しいチェンジであることをモンクもわかっていたのではないでしょうか。コルトレーンに理論教えた人だし。
またBb7(b9,b5,13) やD7(b9,b5,13)ですが、スクリャービンの神秘和音のようにも聴こえます。あれは1908年ごろです。神秘和音をコード表記すると、X7(9,b5,13)です。ちょっと似ています。Cに統一して比較すると、
モンクの神秘和音

不定調性論での表記例(S/RG)として、
C+laV
または
Chq⊕E..
または
\C0c/
または
C0c145.
等で示せます。色々な旋回性・対称性を見つけることができる和音です。
スクリャービンの神秘和音

不定調性論での表記例として、
/ClaV
です。
短三度上がって同じサウンドに進む、というのもなかなかえぐいです。確信犯。この理知的なテロリストみたいな音楽性もモンクの魅力です。無表情で銃を撃ちまくれる人。
不定調性ではこうしたテンションサウンドも和声単位の結合、または「反応領域の拡大」という考え方で作ることができます。
この二つのコードをCに置き換えると、
C7(b9,b5,13) やEb7(b9,b5,13)となり、十二音連関表の上方と基音領域の音を網羅することになります。
<連関表の音をピックアップ>
上方G-Bb-C#-E
基音C- Eb-F#-A
下方(F -Ab -B -D)
これらの音が下方の音へ移行すれば移動感があります。
つまり、f,a♭,b,dを持つ和音ですね。
こうした変なサウンドは、前の和音で用いられていない音に移行すれば移動感を与えます。
これもまた通例の和音連鎖とは異なる考え方です。
「おまえたち、ちゃんとした流れだけが音楽の流れをつくると思っとるじゃろ..」
(孫)「おじいちゃん、さっき聞いたわよ、それ言いたいだけでしょ。。」
たとえば12音を全て用いるようなコード連鎖を作ることもできます。
和音1を
上方G-
基音C- Eb
下方 F-A♭-B
と階段下半分を取り、
和音2を
上方Bb-C#-E
基音F#-A
下方D
と上半分を取ります。すると、
最初の和音1は、
CmM7(9,11,b13)で次の和音2は、
BbaugM7(#9,#11)となります。
モンクに負けない変なコード、
CmM7(9,11,b13)-BbaugM7(#9,#11)
というコード進行は12音を全て使って作られています。だから移動感は大変激しい進行になります(dだけが重複)。
CmM7(9,11,b13)

S/RG*1=|Cwlp
cが中心で展開すると仮定すると、下記のように書ける。

S/RG=/Ch+qV
下記はB♭が中心となる場合

S/RG=\B♭-ua\
DbM7 D7 |Bbm7 Eb7(b5) |Bm7 |E7(b9,13) |
Em7 |Em7 A7 |D7(b9,b5,13) |D7(b9,b5,13) |
ここはまさに不定調性ですね。これって逆から進むと、
Em7 A7 D7
Bm7 E7
Bbm7 Eb7
D7 DbM7
みたいになるわけで、II-Vの動きをさかのぼったような進行になっています。
ビバップをさかのぼってやる・・なんてこの人考えそう。
それでもこのテーマにはストーリーを感じます。異様さを物語るストーリーがしっかり作られています。
この「モンクの神秘和音」D7(b9,b5,13)は金属の壁が崩れ落ちるような印象、off minor...まさに「マイナーからの離脱」「II-Vという約束からの離脱」というニュアンスが感じられます。
不定調性教材でも逆循環逆進行について触れています。
Dm7-G7-CM7などを
Dm7-G7-CM7-G7-Dm7 ||
として終わすようなメロディを考えてみたり、
Dm7-Em7-FM7-CM7-G7||
というドミナントで終了させるような、メロディ感覚を考えてみます。
慣れ親しんだ進行を覆す意識をもってみる。
ぬるま湯から抜け出るような冒険心。
巨匠達の時代にあって名を残した所以、彼らとの差別化とも言える孤高なクリエイティブが、今でも「本当は何をすべきか、ハートを奮い立たせてくれる」からモンクの音楽が好きなのかもしれません。
*1:拙論表記の略として