音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

和声の機能を賞味期限切れさせるコンセプト〜ビートルズ楽曲topic

2017.11.8⇨2020.6.16更新c

ほぼ全曲ビートルズのコード進行不定調性考察「Magical Mystery Tour」3(2017)

全ての記事はこちらから

www.terrax.site

ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー - Strawberry Fields Forever

歌い出しの部分です。

open.spotify.com


A |A |Em7 |Em7 |
F#7 |F#7 |D F#7 |2/4 F#7 |
6/8 D D/C# |4/4 A |
変拍子が凄いです。

まずコードが二小節に渡っている点から考えてみましょう。
Aを二小節、Em7を二小節、F#7を二小節。
結構長いですよね。
こうするとどんなことが起きるように感じますか?

このような長い拍数での使用は、コードの機能が独立すると思うのです。
最初のAはトニック的だとしましょう。暫く1コードが長いと、機能や調の感覚から離脱してきます。

そのあとEm7が来ると、一瞬Vm7ぽいですよね、変化した瞬間は。

でもそれらがまた連続すると、どんどんまた機能感が剥離し、独立していくように感じられます。Vm7感がどんどんIm7の感じになっていきませんか?

 

そして、F#7が来た時には、Em7=Im7の時のII7感、またはEm7がDメジャーキーのIIm7で、F#7がそのIII7的な感じがする方もおられるかもしれません。

コードは長く鳴らせば、その響きが独立し、機能感や連鎖した印象をまた変えることができる、又はそう感じる人がおられる、ということですね。


ジョンがこうしたことを意識していたかどうかは問題ではありません。

そう感じることでそれを「自分の用法」として咀嚼し、どんどん自分なりに活用すればよいのだと思います。たとえ「間延びする」「機能感がなくなる」「なんかへん」という意見を言われた時、それが常識に基づく偏見なのか、この曲に不必要だ、という意見なのか、しっかり見極めていく、ということです。ビートルズのメンバーはそういう意見は言わなかったでしょうが。

 

ちょっと試してみましょう。
例;
CM7 |% |Dm7 |% |BbM7 |% |FM7 |% |
Em7 |% |F#7 |% |Bm7 |% |Am7 |D7 :|
不思議な感じだと思います。
"言い出せない男"みたいななんとも、あっちへふらふら、こっちへふらふら。という感じです。

 

また、

CM7 |CM7 |CM7 |CM7 |

CM7 |CM7 |CM7 |CM7 |

FM7 |FM7 |FM7 |FM7 |

FM7 |FM7 |FM7 |FM7 |

こんなに1コードを続けたらさすがに機能が賞味期限切れを起こします。

こうした価値観が成り立つかもしれない、ということを無視してFM7を

「CメジャーにおけるIVである」

とただ断定して書いてしまったとき、それは常識に囚われた狭い意見となってしまいます。

 

また、「どのくらい続けたら機能がなくなるか」という発想も個人の価値観です。

 

だからこそ一般概念を学習した先に、自分のやり方を想像していく必要があります。

 

 

こちらの記事に

 たとえば、松平頼暁の「Gradation」という曲。VlnとVlaとオッシレーターがユニゾンでDからAまでグリッサンドで10分半かかって上昇し、急激にDまで下降するというT-D-Tという構造をもっている。おそらく誰にもこうは聞こえないです。なぜ? 時間軸上に拡大しちゃうと機能が解体しちゃうんです。(山下邦彦・坂本龍一音楽史より)

 

という解釈が掲載されています。山下氏は優れた形態分析の主(『チック・コリアの音楽』読了)ですので、どこまで作家の意図かは分かりませんが、そういう解釈をしている人がいる、ということを添記させていただきます。 

ペニー・レイン - Penny Lane

open.spotify.com


このアルバムの頃は、凄く転調感覚に対する意識が高まっているような感じがします。この曲も激しい転調をスムーズに行っています。
マジカルミステリーツアーあたりから起きたこの雰囲気の変化は、当時の彼らの作曲技法マイブームだったのでしょうか?

歌い出しの部分~です。
B |C#m7 F#7 |B |Bm7 |
G#m7(b5) |GM7 |F#7sus4 F#7 |F#7sus4 F#7 |
B |C#m7 F#7 |B |Bm7 |
G#m7(b5) |G |F#7sus4 F#7 |E |
サビ
A |A |D |D |
A |A |D |F#7 |~

一段目のB→Bm7のトニック転調はポールの得意技。

そこからG#m7(b5)→GM7の展開です。
このコードの流れは、ギターだと、ベ-ス音が下がるだけなんです。
G#m7(b5)=G#,B,D,F#
GM7=G,B,D,F#
でG#→G音の移動があるだけで、簡単に演奏ができます。

それでもこの憂いを持った進行感は、私などは「ペニーレインのあれ」で通じます。スタンダードジャズなどにも出てきますが、ポピュラーでどのように使い、どんな雰囲気を作れば良いか、をビートルズも示してくれています。これがまた半音でF#7sus4に降りてくるところがビートルコードですね。

 

こうした和声変化を不定調性論では、動進行と静進行という考え方で分類します。機能や調の分類で考えることはしません。そうした瞬間全てを機能和声で考えないと説明できなくなるからです。そしてそれは常にそうではあり得ません。

 

これで、そのままサビに行かず、F#からVIIb感を持つEに一旦行き、がらりと変えて続くAメジャーキーのV7の印象をこのEにおいて作ります。弾いてみて体感してください。機能マジックですね。

 

そしてサビに行き、今度はIVであるDから、VI7であるF#7に向かい、次にF#7をBメジャーキーのV7にしてしまうんですね。

 

「ドミナント感」という誰でもなじみのある進行感をベースに、ジグソーパズルでも作るかのようなコード進行がポップに使われています。

単純に"知っているコードをどの程度自由につなげて、音楽的脈絡を作れるか"という問題ですが、これを「センスがいい」と言ってしまうと彼らに失礼です。これはビートルズを世界的にしよう!と思った全てのメンバーが彼らの意思と、自分たちのできることを合致しチーム一丸となって互いを尊重しあい高めあったからこそ生まれた成果です。こうしたチーム力を持っている組織はなかなか歴史的にもないものです。

組織がいまいち頑張れないのは、個人の才能の有無ではなく、個人を超越した協力意欲と相互理解意欲の有無であることが多いものです。