2018.5.11⇨2020.3.6更新
エリック・サティ”Vexations”(1893)
52拍のメロディを840回繰り返す曲。「ヴェクサシオン」。

上記の分析モデル図の見事な対称性は、偶然か、意図したものか。
現代音楽作曲家は特定の曲を、自分で構造解説してもらうと、もっと人に理解してもらいやすいと思います。
12音連関表を用いた分析
人間の共感覚においては、「東」が上の人も、左の人もいます。「赤」が北な人も南の人もいます。言葉とイメージってそれぞれ違います。それを集合社会が統一しようとしているだけです。
実際は個人差があり、少数派は声を上げづらくなります。
不定調性論ではそうした個人の地図をしっかり描いてそれで理解できる世界を作ろうとしています。
不定調性論は12音を12のエリアに分けて、数理で関連付けた12音連関表、というモデルがあります。これにより12音がどんなに不規則に動いても、絶対に何らかの関係性が生まれるようにしてしまうことが可能です。
下記の、右側三つの立方体の列は表記を全て省略していますが、12のキューブはすべて同じ性質を持っています。ここでは中心はcです。

古典和声はこの左の列の表面部分(黄色縁取りの文字部分、G,C,F)だけを用いて作られています。それを拡張し四つの領域にまで広げたのが不定調性論です。「人によっては東が上になっても混乱を引き起こさないシステム」を作るわけです。
中心軸システムやシェーンベルクのregion表もこれらと同様のモデルを持っています。
それぞれ微妙に根拠や性格が違うのは、こうしたシステムは結局個人の思想のモデル化に過ぎないからです。
みなさん各位もご自身が感応するポイントをうまく拡張して自分のやり方を作ってください。
分かりやすく上をD、真ん中をT、下をSDと機能和声的に置き換えてみます。
この立体的配置からみると、この繰り返されるテーマは、
T-D-T-D-SD-T-D-SD-T-SD-D
と連続してその領域を変えていきます。色分けで記述していますが、バランスよく各領域を行き来しています。

このテーマに二つのセクションがあり、それぞれが大きな機能進行(表裏の基音を主軸にトニック領域から上下の領域への拡散⇒安定から不安定へという流れが13拍の大きな流れ)を与えることができる、というのも自然なバランスが取れているようで興味深いですね。。これはこういうふうに意図した、というよりも、サティがもつ 、音楽のバランス感覚が無意識のうちに示されている、と考えたほうが良いように思います。
これが意図したものであれば、素晴らしいバランスです。
結論は自分で見つけてください。
自分で見つけたものがあなたに最もフィットした何かです。それは曲が持ってるものではなく、"自分が見たいものしか人は見ない"からです。しかしそこから自分だけの啓示が見つかるものです。
音楽分析学の盲点は、そうした「個人の嗜好」の値の基準が曖昧に放置されている点です。でもそれがこの美学そのもの、という見方もできます。真理を探究する人は嫌がるでしょうが。
「このモチーフを連続して840回繰り返し演奏するためにはあらかじめ心の準備が必要だろう もっとも深い沈黙と真剣な不動性の姿勢によって」
英語版にはより詳しい分析がなされています。
なんでこんなに現代に残ったか?といえば、840回繰り返すことが、修行というか、悟りへの道、みたいなことをインスタントに経験できるからではないか、とも感じます。何かを祈りながら演奏したら必要な言葉は見つかるのかもしれません。
それかバカバカしさで作ったのだとしたら、浅はかです。
後世の人は、先人の作品を大切にするので、 バカバカしさで演奏できる人が少ないと思います。
また、ポップに行くならいっそ、
840回繰り返して演奏すると、目の前に天使か悪魔が現れ啓示を授ける。
とか書いてくれたほうが「弾くモチベーションが上がる」し、その期待と共にサービスの実行が容易になります。もし誰も現れなかったら「なにかしら演奏に問題があったからあ」とか(840回繰り返していればなんらかの事故がある)いえばいいわけだし。
「果たして今年こそ悪魔はか天使は現れるのか?」とか淡い期待が。
サティ先生だったら「840回演奏後、私が現れる」とかでもいいですね。
色々書いてしまいましたが、現代の現代音楽に通じる概念の追求がなされた作品です。