ビートルズの不定調性コード進行研究
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ビートルコードができるまでを探る〜Past Master/Cover4
アーサー・アレキサンダー (Arthur Alexander)のカバー曲から
ビートルズは1枚目のアルバムで、上記のアーサー・アレキサンダーの「Anna」をカバーしています。
「他のバンドがやらないレパートリーを探してアレキサンダーにたどり着いた」とウィキペディアにはあります。
オリジナルのソウルサウンドが見事にビートルズのアレンジになっています。
ジョンのボーカルがあっていますね。
この曲は展開部で、IVmとII7が出てきます。
つまりサブドミナントマイナーのIVと、ドッペルドミナントのIIです。
D |Bm |D |Bm |
D |Bm |D |Em A7 |
D |D7 |
展開部
G |% |% |% |
D |% |% |% |
G |% |Gm |% |
E7 |% |A7 |% |
~
このGmとE7ですね。
こうしたサウンドがビートルズに当然影響を与えていたはずです。
さて、このアレキサンダーの曲、ビートルズはライブアットBBCなどでさらに三曲ほどカバーが残されています。
A Shot Of Rhythm And Blues
この曲は、Twist and Shout風にアレンジされています。原曲はロカビリー&モータウンのようなサウンドなので、全くビートルズ化されていて興味深いアレンジです。
コードはシンプルなスリーコードの回しなのでここでは省略させて頂きます。
Soldier Of Love
コーラスが豊かに入れ込まれ、ちょっと当時のR&Bを偲ばせます。
展開部の感じがジョンの作る曲に出てきそうなサウンドです。
原曲の「Stand by me」のようなイントロも印象的ですが、コーラスの厚みはビートルズのほうが厚いです。
ビートルズは「原曲より良いアレンジ」をした、というような定評がありますが、これはジャンルや形式という枠を超えて、パンチのある「ポップロックサウンド」にしてしまった、というニュアンスなのではないでしょうか。土着的ではない、とてもワールドワイドに通じるアレンジ力、先進文化圏すべてに通じる西洋クラシック音楽の背景がジョージ・マーティンによって与えられていた、とも言えます。
ロックのビートと、癖の無いコーラス、それからなによりジョンやポールの「カッコいい声」も影響したでしょう。
それでも、奇跡ですね。
where have you been all my life
これもアレキサンダーのカバーです。原曲はロカビリーのベースラインなのですが、ビートルズはシンプルにI-VI-IV-Vにしてしまっています。
確かにこうするとロカビリーのずしっとした感じが軽くなり、より聴きやすくなります。下記はオリジナルです。
Where Have You Been All My Life by Arthur Alexander 1962
ビートルズがこのサウンドに聞いた新しさ、伝統の中にはまらない新しい風を感じた、としたら。
つまり「自分がこれだ!」って思えるものをやるしかない、とその若さで思えた感覚に我々はひれ伏してしまいます。
ロカビリーという伝統ではなく、自分たちの中にある感覚を呼応させてしまったことで生まれた不思議なサウンド=これがすなわちポップロックというジャンルであるとしたら、自分の中にある音楽性を引き出せたこと、というのがその音楽の開花につながっています。
当初はこれをしばらくの間、素人細工と呼ばれ、ビートルズはそれなりに悩みました。自分も含めて今は自分の音楽がどこかアンバランスでコンプレックスを感じているなら、ひょっとするとそれは何かがいまの時代が求めるものよりも1歩新しいのかもしれませんよ。