音楽教育活動奮闘記

不定調性論からの展開~音楽思考の玩具箱

初級者がDPでOzoneを使いこなすために15〜Ozone12の新機能/リニアフェイズ

前回

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下記をいつでも開けるようにしてください。

Ozone 11 User Guide

Ozone 12 User Guide

 

この記事は案件ではありません。



 

Ozone12にアプグレする?

個人的には11の衝撃が凄すぎて、アプグレ価格(33000円)を見た時、あ、セールの時でいいや、って感じたのが第一印象ですすみません。

ただ、たまたまEverything Bundleアップデートが46000円ちょっとだった(25年9月)ので、そちらで貢がせていただきました。

これまで入ってなかったやつが全部入っていたので、運がよかったです。以前も確か28000円ちょっとでEBにアプグレードさせていただきました。

 

現在円滑な制作仕事ができている人は、急いで買わなくていい魔のツール群です。

 

公式サイトによるOzone12の意義

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まとめると。

・AIではなくユーザー主導でコントロールできるコンセプト

・"不可能を可能にする"を目指しタブー破壊

・魔術ではなく理知的な兵器として活用すること

的に読み取れます。意訳です。

素人目から、もう普通の人の理解を超えたところで音現象を見てる気がします。もうちょこっとミックスしてる程度の人間には感じ取れないところまで操作できるようになっているように感じます。

私などはOzoneに使われてしまいそう。

 

Ozone12の機能感

各新機能の概略はこちらの動画でまとめられています。これはサラッと観ていただき。

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下記がおすすめです。index timelinkを参考に。

世界一わかりやすいOz12解説だと思います。むしろこれだけ観ればいいです。

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<動画index>

Bass Control解説

Unlimiter解説

StemEQ解説

Master Assistant刷新追加機能解説

Maximizer新モード解説

リスペクトを壊すマスタリングの危険

 

青木氏が「人間関係に注意しながら使った方がいいツールになった」と述べています(31:30ごろ)。これは至言だと思います。

 

元のマスターには作曲者の歴史が詰まっており、その音の流れ、音色、音圧、バランスが結集し、そこにすでにアイデンティティとその人にしか作れない価値があります。欠点も美意識もプライドも全部混ぜ合わさったその人だけが作れる完成品です(Ozone使っていたとしても)。

それを全く無視して再構成して、かつ「平均的に時代に合ったもっといいもの」ができてしまうのがOzone12だ、と言いたいのでしょう。

天才たちが作るツールですから、時代の三歩先を歩いていて、私たちは驚き恐れておっかなびっくり使い始めてその力に慄きます。私などのニワカ自称ニキは、"めちゃくちゃいい音なのにつまらないマスター"を作って偉そうな顔ができます。これはまだ微笑ましいとしても、

「もうこれまでの音は古いんだよ(時間ばかりかけてクオリティが低いアナログマスターへの脅迫)」

とか云っちゃうOzone12に頼りまくりでマスター変えすぎパワハラエンジニアにとって悪魔のツールになることは間違いありません。

寿司屋が10年親方について寿司を握ったほうがいいのか、youtubeで寿司の握り方を覚えたほうが早いのか、どちらも個人の信念でやればいいのですが、コスパ・タイパマウントとして他者批判する輩がいるので、本当に「使い方に注意」「使う人間も進化する」必要がある怖いツールだ、と認識すれば、大きな問題ではないでしょう。

 

 

新機能の公式聴き比べページ

使ってすぐわかる新機能感、この辺の商品センスは相変わらず抜群です。

各新機能の試聴コーナーを公式さんが作ってくれています。

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最初にジャンルを選んで、それぞれの新モジュールの「before」「after」を再生しながら切り替えられます。

今回の新機能、ますます普段毎日ミックスやる人しかわからないタイプの「良さ」になっています。

Ozone自体は、"耳のできた人じゃないと使えないツール"であることに変わりはありません。

 

 

Maximizer IRC5

今回これのためにアップグレードする、って人がいてもおかしくないです。

今まで四つだったIRCの5番目のモードです。もう1-4いらないんじゃない?

って思うほど。バランスが良く、聴き心地が良く、Ozone独特のマキシマイザーウェルダン仕様が抑えられています。とにかく自然。私がマスタリングしたんじゃないみたい笑。良くも悪くも「いいね!ってみんながいう音」になります。

 

ただしこれまでOzoneが重かったPCではもうIRC5は走らないんじゃないかって思うほど重いです。IRC3とIRC5の処理量違い。

これだけ重いとパソコンから買い替え、みたいな人もいるかも。でもそれが一番面倒ですよね。

IRC1-4までの詳しくはこちらで。

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+25のジャンルターゲット追加

Ozone 12で新たに25のジャンルターゲットが追加されました。

ただ肝心のメインのミックスセッティングプリセットとかが増えていないので、お得感をあまり感じないのも事実です。

最新のミックスに合わせたプリセットとか欲しいですよねー。

それではあまりにミーハーすぎるのでしょうか。この辺で素人もニワカもプロフェッショナルも全て顧客にしようとしているディメリットをちょろっと感じます。

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この動画でも、真似すりゃいいってもんじゃないよ、っていってますしね。

でも、このデータ。プリセットに反映してほしい!

これらのターゲットはマスターアシスタントとスタビライザー等で主に機能します。

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ちょっと同時翻訳が変で音が流れている時まで翻訳が入るのでビフォアアフターが検討できません笑

大体翻訳がわかったら、音声を英語オリジナルに、日本語字幕でビフォアアフターは聴き比べてください。

でも新モジュールの操作の論理性はこちらの動画がわかりやすいです。

01:00 | StemEQ

05:24 | Bass Contol

13:47 | Unlimitter

17:36 | IRC 5

21:24 |  Master Assistant

 

Bass Contorol

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上の動画と記事でほぼ概略がつかめます。

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上記記事のBass control部分をまとめ、展開すると...

<ローエンドはそもそも難しい>

・20Hz付近以下は耳より身体で感じる感覚が支配的(感覚的になる)

・部屋の音響特性に左右され、モニタリングが不均一になる(解釈が変わる)

・身体で感じる低音体験はヘッドフォンで再現できない(解釈が散漫になる)

<そこでBass Control>

ミックスが難しく集中力を欠く低音域のミックスは、同一曲のミックスをやればやるほど慣れが邪魔して、後で聞くとスカスカだったり、ボコボコになってても、ミックス作業の飽和で気づきづらくなります。

Bass Controlを用いれば、ワンノブ回し、で低域の強調、軽薄がコントロールできるので、疲れた耳でも低域のコントロールを視覚的/聴覚的に短時間でイメージつけやすいため低音域のミスコントロールを修正できる可能性が高まる。

この便利さわかる人、ミックスしてる人ですね。

 

低域のちょうど良さを記事では「Goldilocks Zone」と言っています。これは天文学の用語で、日本語では「ハビタブルゾーン」の方が知られていますね。

これは生存可能領域のことで、ちょうど良い環境を作ることが重要、という例で述べています。とても理知的な用語利用ですね。

Sustain Power

特にスピーカー案件です。微妙な変化はスピーカーで聞かないとなんとも全体像を掴みづらいです。逆を言うと配信ヘッドフォン勢にとっては猫に小判的な印象を与えるかも。ただDeltaボタンで差分が耳でなんとなく感じられるので「あーこの成分追加されてるんだなぁ」って感じてわかる人は、全体をそれで聞き比べて。

Cutoff周波数の値を決めて、Sustain Powerのスレッショルドで白波線を出っ張り部分と平均部分の境目にします。

ここを基盤に15−20%かけてみて、DirtyかCleanの方向に動かしながら、Deltaで差分聴きと全体ミックスの聴き比カーで行ってみてください。

波形での変化でも見てわかるのが特徴的ですが、体感とは全く別物なので、低音についてはスピーカーと股間で感じるのが一番です。太ももでもいいですが...

とにかく低音が伝わる耳以外の場所で変化を感じないとわからないと思います。

防音の部屋がない人は諦めて(?)、っていうツールです(語弊あり)。

 

Dirtyにするとかなり歪みます。小スピーカー環境のみのためのミックスにはこれが重宝できます。

Cleanは微妙にシナモンふりました、くらい繊細なのでプロ仕様です。

 

Peak Control

もうほとんどわかりません。専門家に聞いてください、みたいなノブです。

低音成分専用のリミッターです。すごいよねこれ。

ちょっとなにいってるかわかんない。

このスレッショルドを下げても音を上手に潰してくれます。

だから音を爆音にノリ波形ギリギリまで持って来つつ、ベースコントロールで低音の下品な割れについてはこれで完全に封じ込められるわけです。

遅ればせながら完全ノリ波形製造リミッター完成です。そういう意図ではないでしょうが。

Dirtyにするとプチ歪みを加えてくれます。食べすぎて3kg太った体感わかります?あれです。見た目健康的でいいかんじだけど、元の写真と比べちゅと「うわー太ったなぁ」。その解釈の差って、解釈の仕方以外何も判断材料がない。

クライアントも聴き比べられないレベル。

 

Cleanは本当に小さくクリーンなポツポツ音で加工してくれます。

こちらは筋肉質になるかんじ。見た目健康的で体脂肪無さそうですね!って褒めたくなるんですが、すごく肉感的な女性と比較すると、あ、やっぱり色気で言ったら...みたいに感じちゃうかんじ。これも比較しなければ体型なんてどっちだっていいじゃん、と言う感じでとってもセンスに振り切った難しいノブです。

このSustain PowerとPeak Controlは大人数でスタジオで、責任者もいて、みんなであーだこーだいって

「今回はとりあえずoffっておこうか」となるノブ代表です(ちょっと言い過ぎが)(土台前提が変わりすぎるので)。

こういうノブに適切に指示が与えられる人がいるチームって強いですね。

 

またこの低音域の処理についてマルチバンド処理である、と明言がありません。

これは商業的に余計なお世話ですが、ヒントがありました。

youtu.be

こちらの動画ぼ7:40ごろで、

izotope得意のデジタルアナログいいとこ取りのマルチバンド処理について考える時のマニュアルページに出てきます。

私たち毛が生えただけのようなエンジニアには関係ないですね。任せておけばいい的な最適ハイブリッドフィルターがあるようです。bass controlがマルチバンドなのかどうかが気になって、クロスオーバーの変化感を感じたい人は、この話から察していただければ。マルチバンド処理って言われるだけで、クロスオーバーの歪みを聞き取れない私たちは構えてしまいますからね。明言されないのもなんとなくわかります。

合わせて「ただのマルチバンド処理とは違う」みたいな言い方もされてて、もう企業秘密なやつじゃん...です。低域成分を分けて別途処理する全く新しい処理システム、的に言うので、対策がまったくわからないです。聞き分ける能力もないので「なんか低音簡単に上がったうれし〜」で終わる...ヘラヘラ笑いながらbass control使ってたら絶対プロのエンジニアに怒られるやつじゃん、、



Unlimiter

このアプローチは、リミッティングをサンプル単位のゲインカーブとして再定義し、それを反転させるという考え方です。つまり、リミッターが信号のゲインを下げる瞬間に、ニューラルネットワークが逆のゲインを予測し、波形を復元できるのです。この研究は、リミッターの隠れたゲインを反転させることで、驚くほど良好にダイナミクスを回復できることを示しました。

引用先

www.izotope.jp

www.youtube.com

RXの"割れた音を再現します"に続く衝撃です。この衝撃自体、エンジニアしかわかりませんね。

世に出る時は全て整っているので、こういう機能のありがたさ自体が世間には知られていません。

ミックスで潰しすぎちゃった部分を元にある程度戻せるかもツールです。

焼きすぎた肉の食感だけをミディアムレア感に戻せます。

専門的にはニューラルネットワークの仕組みを使った数理モデルで、人間の感覚に即した復元が可能にある計算に基づいて音を再想像しているようです。元の音とは言えないまでも、不自然になったダイナミクスデータを付け加えることで、アンリミットする、と解釈すると良さそうです。音を巻き戻すタイムマシンではなく、やはりどうしてもダイナミクスを若干補強しなければならないときの最後の手段、と言えます。

ja.wikipedia.org

初級者だったら、Learn Thresholdを押して、自動計算してもらい(自動計算の設定するラインを眺めながら適正値を学ぶかんじです)、amountをあげながら、Delta(モジュールの前と後の差分を聞くことができます。)で聞いてみてください。
ノイズのような音がamountを上げるとどんどん音楽的な音になって追加されるのがわかります。

 

amountが200%というのは、元の計算量の二倍にできるとあって、もはや音量すらデカくなります。

ただ、もちろん最初からこんな具合に「割れててもいいんだよ!」みたいな音源は一旦RX De-Clipで割れてる部分を補正してからやるといいと思います。

例えば、こういう爆裂音源は、

De-Clipですこーし頭を撫でるようにして。QualityはHighです。

その後に、Unlimitterですこーし補修してあげると、割れた音も再生、かつダイナミクスも再生できます。

焦げた肉...を食べてみると、食感はミディアムレア。魔法。いや魔術、いや詐欺、いや錬金術。

我らニワカ的にはこのへんもすごい。De-Clipだけでもすごかったから。

右上+0.9dBとは追加されたゲインです。その場所によってゲインが変わるので、よくチェックしてください。再マスタリングの時のリミッティングが少しでも楽になるように。

 

Master Assistant

こちらについては、下記の記事部分に書きました。

Ozone12 カスタムマスターアシスタント機能について

 

Stem EQ

www.youtube.com

この辺はRXを持っているIzotopeがブッチぎりの技術ですね。

ボーカル、ベース、ドラム、その他の楽器にそれぞれEQがかけられます。私などがこれやると、その後の細やかなバランスが崩れそうなので、あまりやらないと思いますが、とりあえずできることはできます。これも非常手段的なツールですね。

このQuick Acapellaでボーカルだけ残す技術が聞けます。

このMute The Vocalでオケだけ残す技術が聞けます。

このボタンはリセットボタンです。気をつけて。

 

現状ではRXの技術の方が遥かに上のように感じますが、どうなのでしょう。

Ozoneはマスタリング用ですから、RX並の極端な処理は必要ないように思うのは思い込みでしょうか(DAWでのエフェクタ並列処理など、再生中に必要以上に処理が重くなって、DAWが強制停止しないように、みたいな配慮もされているように感じるのです)。

11よりも分離がさらに精度を上げてきているので、そこにさらに精密に楽器ごとのEQ非常手段が可能になった、と理解しています。

 

また公式にも質問があり、同じような内容をより専門的に解説がされています。

7:16あたりくらいからご覧ください。

www.youtube.com

 

Codecプレビューについて

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こちらにも書きましたがAACプレビューがなくなっています。

AACプレビューどうしてもしたい方は11必須ですね。11ではまだ使えます。

ただ発売当初、AACもできる的な風に書いてあるので。はて。様子を見ましょう。

 

飲み屋の話題〜線形位相フィルタ(FIR)とは

フィルタとEQ

EQの話が以前ざっくりすぎたので、ここでまとめます。

フィルタといえば「コーヒーフィルタ」「空気清浄機のフィルタ」とかです。
「必要なものを通して、不必要なものをブロックする道具」。

高い音だけ通したい → ハイパスフィルタ(ローカット)

低い音だけ通したい → ローパスフィルタ(ハイカット)

中音域あたりを抜き出したい → バンドパスフィルタ

ですね。コーヒーフィルタとEQが違うのは、いつでも自分の好きなものだけ選んで通せる、です。

 

アナログとデジタル/デジタルの中のアナログ

アナログフィルタとデジタルフィルタの違いは、

「ハードの部品で作ったフィルタか、0と1だけで作った仮想のフィルタか」です。

アナログフィルタはコンデンサやコイルなどの実際の電子部品(コンデンサ。コイルは電気をためたり一気に放したりする部品。それぞれの帯域に設置されたコンデンサは、それぞれ通しやすくする周波数が設定されています。)で回路を組み、電気信号をそのまま加工します。



物理的な遅延がアナログEQの質感を決め、太くなったり暖かくなったりします。

山口くんと田中くんにそれぞれ2000Hz、400Hzを処理してもらう時、それぞれで仕事のスピードが変わるので、全部終わって、部長に提出する時みんなが出してもらった仕事の出来栄え、スピード感で仕事の出来栄えも変わります。誰にも頼まず、そのまま素通りすれば、音は変わりません。

「挿しただけで音が変わるEQ」とはそういう特殊な癖のある回路になっているだけで、DAWなどのEQはそもそもEQ挿しただけで音が変わることはありません。変わったと感じるだけも。

 

Ozoneで使われいてる「アナログEQ」は、これらの伝統的なEQ回路を"わざわざ"模した(模してかつ、ディメリットをより良い感じに修正した)ものです。

 

一方デジタルフィルタは、音をマイクなどで取り込んで「0と1」の数字に変換し、コンピュータが計算して処理します。

アナログEQもデジタルEQも「マルチバンド処理」ではありません。マルチバンド処理が有名になって、Izotope製品はみんなマルチバンド処理のなんかすごいやつ、みたいなイメージ出てきましたが、多分それは「マルチバンド処理」がなんだかよくわかっていないだけだと思います。

iZotopeのOzone EQは、各バンドをなだらかなカーブで調整するパラメトリックEQです。クロスオーバーで帯域を完全に分割するマルチバンド処理ではありません。

当たり前のこと書いてしまって、なんか初心者的ですみません。

そう言うところがよくわからなくなっちゃうことがあるのがこのアマチュア界隈でして。

 

で、このEQの特性を考える時、出てくるのがリニアフェイズか、ミニマムフェイズかみたいな話。

旧来EQはミニマムフェイズ一択で、頑張って耳で聞いていい感じにするのが全てでした。でもリニアフェイズ処理が可能になったことで、帯域の境目の処理について考えざるを得ない状況が出てきました(聞いてもよくわからない耳しか持っていない私とか)。

 

また、もともと「マルチバンド処理」の問題の中で一番難しいのは帯域の境目周辺の音の処理でした。この境目処理自体をできる限り問題を少なくするためのリニアフェイズ、ハイブリッドフィルター的な処理がOzoneを持つことで知ることになり、なんだかマルチバンド処理も、EQのフェイズ処理も似たような問題意識を持って処理しないといけない的な感じになり、マルチバンド処理の考え方がどこにでも反映されたような感じになって、実力の及ばない技術と知識を我ら初級者がOzoneを持つことで、何がなんだかわからなくなってしまっているんです。

 

そして何より「マルチバンドEQ」みたいな言い方しますもんね笑

色々紛らわしいんです。

 

マルチバンドEQはマルチバンド処理とは違います。

 

Ozoneで言えば、下記のように帯域を分断して処理できるモジュールがマルチバンド処理です。

 

しかしきっちり分かれているのではなくて、ちょっとダブった感じなんです。だからこの辺の音って、どんな処理されてるんだろう、ぼやけないかなぁ、って私でも感じます。この辺の帯域に対して適切な処理対応をしていくのがマルチバンド処理の主要問題で、Ozoneはそれに対しても、知識がなくてもなんとなくうまくいくようなフィルタ処理がされています。「Learn」ボタンで微妙な部分を読み込ませて最適な区分けを提案してくれたり、とかです。

 

逆に自由度が高く、視認性が良いため、帯域分けたら全部なんかしなくちゃ、みたいな渇望を覚えたりしてそれはそれでまた危険です。結果的に「やらない方がいい音」になりがちです。耳が悪いからです(体験談)。

とにかくOzoneはある程度耳が良くないと本当のマスタリングツールとしては使えません。私などは"マスタリングごっこ"をさせられている感じです。

だって耳で聞き分けら得ないのですから。もうずっと黙っていたい。

・ちゃんと帯域を分ける(中途半端なところで分けるとトランジェントが崩れる音が出てくる)

・アタックのある楽器の帯域わけ処理は要注意(分け方や分割後の処理が下手だと、しっかり一階を作ったけど、2階に上がったら、床の高さが寝室の真ん中でずれてた、みたいになるので)

初心者にとって、マルチバンド処理って、もうミックスに戻れないなら、最後の手段、みたいな感じじゃないですか?マルチバンドの変化をちゃんと聞き分けられるほどなら、ミックスに戻った方がいいし、ミックスに戻れなくてもEQでなんとかなる腕前を持っていると思います。

 

なので、マルチバンド処理については専門家の意見を聞いていただくとして、ここではEQに特化して、以前雑に説明したフェイズの話をまとめておきましょう。

 

今話した、アナログEQの挙動を模したのがIIRフィルタ(無限インパルス応答)です。

初期のEQのデジタル処理の仕組みで、今話したコンデンサやコイルが周波数をカットしたりブーストするカーブが生み出す波形を計算して作り出してゆきます。「この無限」というのは極端ですが、IIRフィルタは「現在の入力サンプル=入力音データ」だけでなく、今計算した結果(過去の出力)をもう一回、新たな入力サンプルの計算に活用し(フィードバック)て波形データを作っていきます。それが音が減衰して0に近づき、PCの性能で0に丸め込まれるまで計算が無限に続いていく(自然界も似たような感じ=部屋の残響とか)ことから来ています。自然の減衰モデルに近いんですね。

 

それからパソコンの性能が上がってFIRフィルタ(有限インパルス応答)が生まれました。IIRのように過去の出力値を参考にしないで力技で計算し、EQで変調した波形を作っていきます。こっちの方が計算量が多くて、シンプルですが、旧来のパソコンでは計算しきれなかったんですね。

 

IIRフィルタ(緻密に過去を参照するベテラン社員)
ベテラン社員がいて、「今計算した記録」や「今計算した成果物」を参照しながら、次々と注文(音入力)に成果を活かします。だから新しい作業は少しの労力で済み、効率的。

FIRフィルタ(記憶を持たない毎日新人写真)
その社員は毎回新人何もかも初体験。毎回ゼロからスタート「さっきやった記録?そんなの知らない!」

だからその時々の注文(音入力)に応じて、ひたすら計算をこなして成果物を仕上げる。今出した成果を再利用することもないので、仕事が終われば完全に終了。

効率が悪く、計算量が膨大になる。

 

みたいな感じです。これだとIIRフィルタ最高やん!となりますが、IIRフィルタがいつも最良の選択というわけではありません。
ベテラン社員が過去の成果物を参照し続ける仕組みは効率的ですが、その「参照の仕方」で周波数ごとにわずかな誤差や歪みが最終的なアウトプットの反映され、微妙に音が変わります(位相ズレによる音質・定位の変化)。つまり音が変わっちゃうんです。

アナログEQなんて通しただけで音変わりますね。

 

一方、FIRフィルタは非効率に見えるものの、必ず安定して動作し、線形に位相の遅れを配置して、適切に音を構成します。EQによる変化によって位相ズレやテイのズレはもちろん、音の質感を変えません。

新人なのでマニュアル通り、しかしこの新人優秀で根気強く、ブレない結果を作り出してくれるんです。

 

だからミニマムEQ=IIRフィルタはミックスなどで、リニアフェイズEQ=FIRフィルタはマスタリングや音響測定のように、正確さ、波形保持が重視される場面で不可欠です。

 

プリリンギング

このプリングルスみたいな名前の現象、聞いたことありますね。これはリニアフェイズEQで生じる現象です。なぜ起きるかというと、通常のEQでは周波数帯域ごとに回路を通過する時間が異なり、それぞれバラバラの遅延が生じます。そのズレが、結果として「アナログらしい質感」として出力に現れます。
一方で、リニアフェイズEQはその名のとおり、周波数ごとの遅延を一直線に揃えることができます。

これにより、EQ処理を行っても余計な遅延が発生せず、位相のずれも起こらないため、ステレオ感や音の定位が崩れないまま音を仕上げることができます。

つまり、EQで指定した帯域だけを変化させ、それ以外の部分にはほとんど影響を与えない、非常にクリーンな処理をしてくれるわけです。

ポイントはこの遅延を一直線にして音を遅延させない仕組みです。

この遅延させない=音を変えない計算の副作用として現れるのがプリリンギングです。波形を前後対称に保つため、EQ処理の前にあたかも予兆のような小さな振動が生じ、実際の音よりも少し前に「影」が聞こえるような現象として現れます。

例えば、普通なら、電車の一両目と二両目は駅に到着する時間が変わります(二両目がEQで変調した帯域)。もし二両目と一両目が同じタイミングで駅に到着するとしたらどうすればいいでしょう。

リニアフェイズEQは、全ての車両が同じタイミングで駅に着くように調整します。ところが、二両目を一両目にぴったり合わせるには、電車全体の到着を「過去にさかのぼって」並べ替えるような処理が必要になります。

その結果、まだ到着していないはずの車両の「影」のようなものが先に見えてしまう。これがプリリンギングで、実際の音より少し前に小さな揺れが現れるわけです。

例えばFIR計算上の一塊のサンプル(カーネル)の遅延がこんなふうだったとします。これらの帯域のEQをいじってカットしたり、ブーストしたことで処理時間の遅れが出るわけです。

FIRはこの波形のズレをこんなふうに前後対称の形を計算で仮想し、中央から遅延分のデータを取得します。そしてどのくらい遅れているかを計算して、結果的に出音を揃えることができるのだそうです。

この仮想データは実際のデータとしてどうしても鳴ってしまうのだそうです。これがリニアフェイズのトレードオフですね。上の図の左緑色の部分がプリリンギングです。
いずれは「デプリリンギングリニアフェイズEQ」とか出てきそうですが、それは二律背反的に無理なのだとか、私は信号処理も素人なので伝聞で書くしかないのですが。

 

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古典ですが、基本はこれです。。。いまだによくわからないのですが、年々勉強していく内容の範囲が広がって、なんとなく実感としてわかるようになってきました。

 

結局何が言いたいか、というと、リニアフェイズは元音を変えない、という点で、ミックスよりも、依頼されたマスタリングのような原音尊重の作業においてより有効です。

マスタリングではほとんど微細な変化しかつけないので、カーブの量によって(カットでもブーストでも)大きくなるプリリンギングは、カーブの変化が小さければ小さいほど目立たなくなります。

冒頭はドラムから始まる曲やアカペラがあるような曲などではプリリンギングは目立ちやすいので、ミニマムフェイズを使うみたいな発想は私でもわかります。