ジョン・コルトレーンの不定調性進行分
naima / John Coltrane~コード表記・解釈問題について
John Coltrane - Naima (Album:Giant Steps) 1959
曲中BM7-AM7(#5)-BbM7(II♭M7-VIIM7(#5)-IM7)、「naimaのII-V」です。
key=B♭メジャー となっていますが、実際にB♭メジャーキーのダイアトニックコードで使われているのは、Cm7とB♭M7だけです。
メロディ音を低音から並べ直すと、最初の四小節は、
b♭-c-d-f-g-(g#)・・・Bbメジャーペンタトニック+P4,#5
次の八小節は、
c-e♭-f-g-(g#)-a・・・Cマイナーペンタトニックの一部+#5,6th
です。
これらを加えると、
b♭-c-d-e♭-f-g-(g#)-a
ですから、B♭アイオニアンorB♭ミクソリディアンとなります。
ゆえにBbメジャーキーがほぼ確立されています。しかしダイアトニックコードが出てきません。不定調性進行してますね。
かつペダルトーンがありますから、それを根音とすると、1-4小節はV系のコードの流れ、5-12小節はII系のコードの流れとも解釈できます。
これで解釈してコードを書き直すと、
Cm7/F-Fm7/F-BM7/F-AM7(#5)/F-BbM7/F
DbM7/C-C7/C-DbM7/C-C7/C
C7(#9)/C-DbM7/C-BbM7/C-GbM7/C
Cm7/F-Fm7/F-BM7/F-AM7(#5)/F-BbM7/F
となります。しっかりした構造がありますね。
ここから分数を取ってコードネーム化します。
F7sus4(9)-Fm7-F7(b9,11,#11)-FM7(#5,#9)-BbM7/F
DbM7/C-C7-DbM7/C-C7
C7(#9)-DbM7-C7(9,11,13)-C7(b9,11,#11)
F7sus4(9)-Fm7-F7(b9,11,#11)-FM7(#5,#9)-BbM7/F
AM7(#5)/Fというコードは当然「AM7(#5)/Fを特定できる要素の和音が常に鳴っている」わけではありません。コードネームは還元された「代理表記」です。
流れる音楽の一部分を断片的に切り取ったとき、たしかにAM7(#5)/Fになるかもしれないが、それがその小節を表現する全てでは無い、です。
コードネーム表記はあくまで「分析者が一時的に解釈した、楽曲のその部分のある一時的解釈」であるにすぎず、明解な正解は究極的にはあり得ません。
不定調性論は分析学ではなく、作曲について考える方法ですから、まずこうした曲を創るにはどうすればいいかを考えます。
そこで、和音の使用レベルを段階別にして表にしています。
少ない和音から徐々に使用可能な和音を増やし、自由につなげていきます。
その過程で、既存理論に寄ったりしても構いません。
機能和声の基本、ジャズ理論の基本は押さえてあればなお良し。
下記もそうした表の一つです。不定調性論には機能がないので、それぞれのディグリーで使用できる和音を表にしていきます。
Level3(メジャースケール7モード内コードの抽出)
I 類・・・CM7、Cm7、C7、Cm7(b5)
II♭類・・・DbM7
II類・・・Dm7、Dm7(b5)、D7
III♭類・・・EbM7、Eb7、Ebm7
III類・・・Em7、Em7(b5)
IV類・・・Fm7、Fm7、F7
IV#類・・・F#m7(b5)、GbM7
V類・・・G7、Gm7(b5)、GM7、Gm7
VI♭類・・・AbM7、Ab7
VI類・・・Am7
VII♭類・・・Bb7、Bbm7、BbM7
VII類・・・Bm7(b5)、Bm7
アイオニアン、ドリアン、フリジアン~の7モードのそれぞれの7つのコードをまとめていくと、これだけの和音が出るよ!という表です。level2はもっと和音が少なく、level4はもっと和音が多い、です。
これらを自由につなげて1コーラス創ってみて下さい。
naimaはコルトレーン氏の解釈であり、氏には氏なりの方法論とイメージ、色彩感に基づいていることでしょう。
ここではこのlevel3の和音を発展させて、naimaのメロディに別の和声をのせてみました。
<level3のBbメジャーキー化>
I 類・・・BbM7、Bbm7、Bb7、Bbm7(b5)
II♭類・・・BM7
II類・・・Cm7、Cm7(b5)、C7
III♭類・・・DbM7、Db7、Dbm7
III類・・・Dm7、Dm7(b5)
IV類・・・Ebm7、Eb7
IV#類・・・Em7(b5)、EM7
V類・・・F7、Fm7(b5)、FM7、Fm7
VI♭類・・・GbM7、Gb7
VI類・・・Gm7
VII♭類・・・Ab7、Abm7、AbM7
VII類・・・Am7(b5)、Am7
Dm7(b5) |G7(#9) |Cm7(b5) F7(#9) |AbM7(13) :|
Ebm7(13) |FM7 |Cm7 |Gb7(#9) |
Fm7 |Bb7 |Am7(b5) |Ab7(13) |
Dm7(b5) |G7(#9) |Cm7(b5) F7(#9) |AbM7(13) |
皆さんも自由にやってみて下さい。
こういうのをやっていると「自分、こういう響きが好きかも」とか分かります。
自分がどんな響きが好きか分かれば、だいたいの得意なジャンルが分かります。
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(インプロヴァイズの場合)
BM7/F≒F7(b9,#11)、AM7(#5)/F≒F7(#9,b13)
ですから、
Cm7/F-Fm7/F-BM7/F-AM7(#5)/F-BbM7/F
は
Cフリジアン-Cフリジアン/F-Fオルタードドミナントスケール-%-Bbアイオニアン
とします。このCm7をフリジアンにすることで、下記と統一性を与えます。
DbM7/C-C7/C-DbM7/C-C7/C
C7(#9)/C-DbM7/C-BbM7/C-GbM7/C
これにおけるGbM7はBbマイナーキーのVIbなので、
Cフリジアン+M3-%-%-%-%-%-Bbアイオニアン-Bbエオリアン
とします。すると用いるモードは、
Cフリジアン
Cフリジアン+M3
Bbアイオニアン
Bbエオリアン
Fオルタードドミナントスケール系
という形になります。もっと減らせるとは思います。これは一つの例です。)
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<その他の事項>
①FはB♭メジャーキーでのVにあたり、Cは同IIに該当する。この二つの機能は、V=ドミナント系、II=サブドミナント系。この二つの音がペダルトーンになっている同曲は、ドミナント領域⇒サブドミナント領域を交換しながら進む大きなII-Vの楽曲になっているともいえる。機能進行をマクロ化した試み。
②BM7-AM7(#5)-B♭M7はハイブリッドなII-V-I
BM7はII♭M7なので、機能はSDm、ペダルF音が付くので、IVm/Vの代理コードの拡大解釈となる。非常に薄いサブドミナントである。不定調性論で「希機能進行」と呼ばれる和音である。
AM7(#5)の構成音は、A,C#,F,G#であり、これらをFをルートに考えると、
M3,♭13,root,#9となり、オルタードテンションとなり、さらにペダルF音がつくため、この和音はF△(#9,♭13)となる。よってB♭M7をIとした時のVとして十分機能する。
この進行の原型となるのは、 IIm7(♭5)-V7-IM7であるといえる。
③C7(#9)はCm7+C7といえ、この楽曲で出てくるIIm7とII7を合体させたコードで、サブドミナントとダブルドミナントを合成したような和音。試みを感じる。
④G♭M7は続くCm7/Fに半音で結び付くような(II♭M7)印象を与える。印象化の拡張による機能感の演出。
⑤全体的に半音での移動を活かしたII♭-Iというフリジアン的な流れの関連性が見受けられる。このじりじりとした停滞感と半音でのドラマチックな領域変換がダイアトニック的な四度、五度進行とは真逆の進行感を感じさせる。コルトレーン氏が「何を試みたいと思ったか?」という答えをこうした和音の解釈に求めることができるかもしれない。
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こういうことを楽譜と音源から各自が読み解いたら、それはあなたの中に埋もれている音楽性と感応した内容が拾い上げられた、って考える方が良い、ということです。
下記はnaimaの別の視点をまとめたものです。眺めてインスピレーションになれば。