音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

十二音技法/不定調性時代における音遊びの究極形4

前回

www.terrax.site

前回まででP(またはO),I,R,RIが揃いました。

あとは作っていくだけ。

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こうやって3つの誘導形を配置して12音が被さらないようにすれば、どの位置でも12音がある程度自在に出てくるような感じしますね。使える音も3倍笑!苦労も3倍!

 

シェーンベルクは早くから、そうした音列自体の関係性を用いようと「結合音列」(後述)として用いています。

 

下記はトロープシステムと言って、音列を順送りにしていくことで被らない音列を作る方法です。最初の音が一つずれる分、後半から持ってきます。

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いっそ音列の前半分と後ろ半分を入れ替えた音列であれば、かぶる心配はありません。

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しかしこれらは別の音列ですから一曲の中で使うことができません。

これを編み出すのに何年かかったのか、一晩で思いついたのか知りませんが、これらを入れ替えた時でも関連性が出る音列を作れば良い、という視点に気がついたことでしょう。

 

そこで下記のようにしてInversionを作っても関連が出るように音を配置し、

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エクセルで音を並べ直して笑

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6音の音列のInversionを作り、

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後半に移動して、ここでは5音上に移調します。

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すると二つかぶせても音が被らない音列が完成します。

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先ほどの入れ替えシステムを"合法的に"使えるよう考えた「結合音列」の作り方の一例です。(作り方わからなくてもいいです笑)

 

ただこのように音を配置すれば、

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それぞれ1-5のように調性音楽を予見させるような響きやオクターブの被りが新たに出てくるので、もし十二音技法の伝統に従いたいなら、音列を配置しているこの段階でよく見極めておく必要があります。

もちろん私的には、こういう時々現れる調性感覚がたまらないので、このまま作ります笑。

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そこでこういう感じのものを作ってみました。

これもまた十二音技法と不定調性のコラボだと思います。

ところどころ同音が連続していたり、古典的前打音的な感じや、意味ありげ(すぎる)和音の提示などが調性音楽っぽいです。

こういったことを排除しようとした20世紀前半と排除しなくても良い21世紀前半。100年でだいぶ音楽の価値観は変わりました。

今イキっている人たちの価値観も、あと100年後には、当時の「これからはセリーだ!」といってる人と同じになるで笑

 

・今回小さい10作品くらい作りました笑。熟達しないと「表現しようとする」ことに追い回され、自己を見失います。だから10−20曲ぐらいは作ってみて自然とやるべきことを前倒しして把握できるまでトレーニング期間が必要です。

・また、あ!ここでdが使いたい!とか、ここでG7が出てきたら面白い!ハモリつけたい!みたいな欲求は一切満たせません。使える音が自由ではないからです(または最初からやりなおし笑)。タイミングよく欲しい音が次に使える状況がないが故に、その思いを変質させて、次使える音の範囲での新たな表現を創造しなおさなければなりません。まるで残りトイレットペーパーが少ないから、ちょっと少なめに使おう、とか思ってしまう感じ。常に二番目に良いアイディアで曲を作り続けるような感じです。自分のアイディアが素晴らしいとは言わないけれど、同じ人間が考える二番目のアイディアが一番目よりいいと思うとするなら、それは直感の否定、自分自身の一番の否定をし続ける、という思いだけが沈殿されて行くからです。

 

これだけでわかった気になるのは危険ですが、これだけやって次のことに着想が至りました。

 

現代において、十二音技法は「相互の音のみに依存する十二の音による作曲法」から

「12の音によるあらかじめ定められた順列が作る旋法性が持つ意味感による作曲法」

となっているのではないか、と私は感じました。

みなさんそれぞれのやり方考え方があると思いますので、ここではあくまで私がこの技法から学んだ使い方です。

 

例えば三つの音列を使うとき、下記のようにcが重なる音列の時、このcがオレンジの音列のcなのか、青の音列のcなのかを楽曲の流れの中では識別することができない、という点が気になりました(楽器別にアレンジされればわかるけど)。

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これは何より、我ら一般人には、音列自体の性格を把握しきれていないからだ、と思います。

 

例えば機能和声においてなら、下記の青のf#はfのほうが(不協和であったとしても)良いのではないか、統一が取れるのではないか、ということがわかると思います。

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前回の絶対音感を持った歌手たちのような存在であれば、十二音技法の音列の性格を把握し、慣れてくるかもしれませんが、私などでは到底無理です(高いレベルの人はセット理論などの先の挑戦に向かいましたね)。

 

つまり、その音がどういう存在で、そうであらねばならない意味がわからない以上は、作っていてもふわふわとした信念で続けなければならない分、がっつり作ってる感がありません。

 

これをなんとかしようとしなかったのは、十二音技法が全く歴史の中で"浮いてる"技法ゆえに放って置かれたからでしょう。

シェーンベルクのような優れた作曲家が作ってしまった技法なので、人類の98%は了解しきれないまま廃れてしまいました。

 

相対性理論だって幼稚園児向きの本が出てるのですから、

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十二音技法だって「じゅうにおんぎほう」という絵本があっても良いでしょう。

 

つまりもっとシンプルな状態から順列による作曲法を行なって、頭の柔軟体操だと思ってやってみると、十二音技法の意義を拡張できるのではないでしょうか。

そんなふうに思ったのでやってみますね。

 

例えば、次の5音を三つ使うとします。

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オクターブ変えてもOKです。便宜上オクターブを分けて書いてあるだけです。

それで次に流れを適当に考えます。

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そしてこの流れに沿ってメロディを作ってみます。

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どうでしょうか。こうすると

・なんか、そこ、そうじゃない方がいい

とか、ツッコミ入れたくなると思います。

 

そのあと、ラインとかの指定をせず、3回使用ルールはそのままに、自分でラインを考えながらおいてゆけば、ちゃんとしたものになるかどうかはともかく「音遊び」ができます。

ルールにしたがって音を並べて遊ぶ、それを表現として、作品として確立する、という作曲遊びです。

 

もっと簡単にしましょう。

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この1音だけを使って、マス目に「がんばってね」のリズムを作ってみましょう。

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または「が」と「ん」を2音とするなら、

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でもいいでしょう。「っ」を1音にしたい、という人もいるでしょう。

それが個性です。

 

そして音を増やして

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この三音で、歌うような「がんばってね」を作ってみましょう。

となると、

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こうなるでしょうか。でもこれだと元気付けてない感じがするので、

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こっちがいいのでは?という人がいたりして。

 

人によっては、この三音よりも、

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「勇気付けるならこっちの3音のほうがいいです」ていう人がいたなら、絶対この人音楽の素養がありますよね笑。これを12音技法に置き換えると、

「勇猛さを表現するなら、その音列より、この音列の方がこれこれこういう理由で的確である」

なんて言ってしまっているようなものです笑。天才現る。

 

"シェーンベルクのこの曲のこのフレーズがちょっと曖昧で嫌い、あそこのファはファ#にすべきだよ"とかいきなりは言えないと思います。

でもこうした簡単な音列からの音遊びだったら、意思を反映させやすいと思います。

 

そのさきに

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この7音を使って、ラブソングを作りましょう、同じ音を何度使ってもいいです。という遊びになっていく、とも言えます。

 

そしてその究極発展系が十二音技法だ、としてみてください。

つまり十二音技法は、音遊びから旋法的作曲に至る究極形だったわけです。

 

今回私が作った『Lemon』もその途中の段階の私自身のトレーニング、と言えるかもしれません。

youtu.be

...El Món〜不定調感的十二音技法 / 独自スタイルの在りようを客観してみる

 

この12音技法は、こうした音遊びの究極形であり、音を限定して遊ぶ、稚拙な音遊びも、その最果ての地に十二音技法がある、という歴史文脈を見いだせれば、ちょっとした音遊びも立派な教育となりえます。

 

またその後のトータル・セリエリズムは大勢の人員と巨大なホールと大きな予算を使った壮大な音遊びです。

こうしたことはクラシックの先生方は皆常識として理解されておられると思いますが、私は自分でこれを知ったので、私の視点で書かせていただきました。

 

12音技法を、限定された順列の中で自分が思いもつかない表現/旋律を見出す、掘り出す、という視点から、音遊びからの最終形としての十二音技法の位置付けの構図が少しご理解いただけたら嬉しいです。

 

"リディアンでソロとってみ?"っていうのも表現が限定された旋法技法です。リディアンのInversion(Fロクリアン)とか同時弾いて「インバージョンによるアウトサイドだ」とか言っても良いでしょう。またFリディアンではなくAbリディアンを弾いて「P4誘導形によるアウトサイドだ」とか言っても現代では十分成り立つと思います。

 

こうした感覚は、「自分にそういうやり方が合っている」人には大変有効です。

こういうことはジャズスクールでは学ばない発想の展開だと思います。

現代は十二音技法を経て、不定調性時代です。そう言ったアプローチは「面白いね」でそっと容認されます。20世紀のような拒否はされないでしょう。

もちろん、十二音技法が醸し出す、不可思議さ、混沌さ、葛藤感、混乱、絶望、といった雰囲気をゲームミュージックやアニメ、効果音的に活用することもできるでしょう。

https://youtu.be/agRNcNXBUZo?t=247(トムとジェリー「Puttin' on the Dog」)
ネズミが犬のマスクを被って走り回る効果音は 12 音技法的な書法を用いたもの。作曲者本人が公言している例として。

出典;wiki"十二音技法"

ただこうしたことは現代においては12音技法でなくても、作曲能力のある人はイメージで考えただけでもできてしまうわけですから、それでもあえて12音技法を使うかどうか、というと確かに微妙なわけです。

 

色々書いてきましたが、12音技法が持つ技法的特徴と、制作時の葛藤、誘導形の存在意義、音遊びと旋法性...etcこの辺りから何か皆様に新たな示唆が与えられることを祈っています。ぜひブルーオーシャン、いえ、死の海に飛び込んでください。

(本記事参考)

 

(追記)

www.youtube.com

くしくもすぎやまこういち先生、島岡譲先生が同時期にご逝去されました。不定調性論形成にも関わりのあった先生方でもありました。船橋ファンファーレを応募する際、すぎやま先生の中央競馬ファンファーレには震えました。あれこそ日本が誇るファンファーレです。島岡先生には日本音楽理論研究会で大変お世話になりました。ご自宅まで何度も足繁く伺えた機会があったことは何より光栄でした。

謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

 

この同じ時期に話題に出たすぎやま先生の作とされるこの12も音を用いる旋律、この記事をお読みになった方はわかると思いますが、十二音技法時代には確立されていなかった、この技法が持つ映像音楽的な「怪奇性」「不可思議性」「危機性」「魔術性」に昇華したメロディを構成しています。これがまたゲームサウンドにこれほどマッチするとは...まさに先駆者、ですね。きっともっとこれから研究されていく作曲家であると思います。

 

氏のいくつか面白いのは純粋な十二音技法ではなく、

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これらのように下降を基調にフレーズ音を紡いでいくところです。上記動画後半でも、鍵盤通りに音を作っていくという内容が書かれており、とても面白いと思いました。

こうした下降ロジックをベースにオクターブを上下させて作っていこう、と言うようなスタンスは私はセンス、だと思います。むしろ"12tone method of SUGIYAMA"とも言うべき一つの技法になっています。

このやり方だと音の並びに不規則さを出しながら、徐々に下がっていく感じの切迫さ、緊張感が生み出せるので全体に"乱暴さ""適当さ"が生まれません。

例え先生が2分で作ったとしても、やはり基本的音楽的取り組み力の違いを感じさせ、凄みを覚えました。