以前話した和声の分子構造表の応用の話、その2です。
不定調性論では12音の関連はこうなっていますね(12音連関表)。
ここからさまざまな音の変化の組織性、パターン、組み合わせを考えることができます。
例えば、これはcがc#とbに変化した場合の動きを示しています。
こんなことしなくても「cが半音上がった」「半音下がった」と表現すればいいわけですけどこの動きには領域的な対称性が見られます。この動きの幅や長さなどに注目して、音の変化を考えてみましょう。
例えば点対称のように回転させていくと、この関係には、c#,f,g,bという関連音が現れることになります。
C△
またこの逆L字型を一つの「型」とすると、
Am
Dm7omit3、D7omit3
Dm7omit5
Fm
Ab△
Cm7omit5
C7omit3,Cm7omit3
こういった関連が作られます。連関表の形が変われば、表出する和音も変わるでしょう。
またより複雑な対称性を探そうとすると、CとCmなら
このc,gを中心に回転する中に存在する和音を探すと、
c,g,e
c,g,a
c,g,d
c,g,f
c,g,g#
c,g,d#
c,g,a#
c,g,b
などが同回転範囲内の和音ということも言えます。
こうした一つの和音の関連性を図形上で展開して導き出す和音を「転和音」としましょう。
C△とCmとGsus4、Csus4などが同じ関連性を持っているかどうかは、こうしたモデルの中で考えないとなかなか見出せません。
個々人の作ったモデルの中にも無限の対称性、類似性、関連性が眠っています。
逆に言えば、音集合の変化に対する美意識はこうした幾何学的な変化の
美意識に対する感覚と言えるかもしれないのです。
この変換を公式化してみましょう。
これらは平均律の振動数比の関係で下記のように書くことができます。
しかしどの音の何倍音かで表現できる数値が変わるので住所化してみましょう。
上方は3倍、下方は1/3倍です。
s=表面 w=側面 h=裏面 wh=側面の裏面の意味です。
さらに便宜的に下方を負の符号化します。
符号が付くなら、係数はいらないので上記のようにまとめることができます。
基音sがどの音に変化したかを下記のように表現可能です。
例えば、c,e,gという集合をcから作る場合は、
sの+変(ぷらすへん)と+側裏変(ぷらすそくりへん)した音を集合化した和音、ということができます。
また前回の記事のように逆L字型の方で考えて、
そのまま上に変異すれば、G△、D△と現れますし、cを固定すれば、
c,b,d
c,f#,a
という集合を作ることもでき、これらもいわば、領域の変換、と考えることができます。
同様にそれぞれの斜め方向に変異させたり
左右にスライドして新たな音集合を作ることもできます。cの位置を動かしてもいいですし、cだけ固定しても良いでしょう。
このような変化の自在性を「反応領域」の考え方で説明するのですが、数学が得意な人は、より数学的な規則の中に真理を見出しても面白いでしょう。
これらはいわば行列の変換のような作業です。
つまりC△→G△は、
上方変換という言い方で表現できます。
これらは音の写像というか、集合論理の変換、というか、とにかく「和音進行」とは少し異なる、振動数という数値的存在の変化について表現したものです。音楽にも必要ないし、実用的でもない、まるで数学基礎論のような、音の関係性や音集合の抽象的表現論です。
人が生み出した、人の感性による音楽の美意識の中には音の数値的変換の理に潜んでいる自然美の姿や有り様も含まれています。音楽文化の中で不都合と言われたものの中にも数学的に美しい対称性などを有している音集合を作ることもできます。
ここには、
C△、F△、G△、Am、Dm、Em、Cm、Fm、Gm
などがまとまっています。人が平行調、同主調といっているものは、数理的な美意識の規則を含んでいる、ということもわかります。こレは振動数という音の規則が、自然の中の数規則、というよりも人の耳の近く構造とリンクしているからです。
自然が人間にフィットするように作られている、というよりも、自然の一側面を理解する時に、人は人が理解しやすい世界観で理解するようにできている、ということができます。あとは既存の音楽方法論とは異なるその周辺のフォルムをどのように個人が個人の音楽性で理解するか、どう扱うか、どう感じるか、によって個人の音楽方法論はよりフラットに作られていくのではないでしょうか。
12音が自由である以上、あとは、既存の美意識とは別の「本来の知覚可能な美意識全体の世界観」から個人個人が、どのような美意識を優先順位として音楽表現を作っていくか、理解の仕方を創造するか、にかかっていると言えないでしょうか。