音楽教育活動奮闘記

不定調性論からの展開~音楽思考の玩具箱

私以前の【不定調性】用語について(2026)

私が「不定調性」という用語を使う以前にこの用語を使った人がいて、その先人が定めた用語利用の範囲を私が逸脱してはいまいか?(先行研究チェック漏れ)、という思いからこれまでいろいろ探しておりましたが、昨年ついにそれそのものの文字列を見つけました。

国会図書館デジタル版検索システム、非常に充実して便利になってきました。

topから検索すると、私が日本リズム学会(当時日本リズム協会)に提出した会報の内の発表原稿における「不定調性論」の「不定調性」のみが検索されますが、デジタル版の方では、どんどんデータ化が進み、文脈まで検索できるようになり、ありがたい限りです。今後も楽しみです。

なお不定調性論(Theory of Tonal Indeterminacy)という語自体はまだオリジナルであり続けていますので流用の文脈においてはご注意ください(学術用語ではありません)。

 

古い順から、

岩波講座 世界文学 第8回1 -

岩波講座世界文学 第8 - 国立国会図書館デジタルコレクション(「現代の音楽」辻荘一33ページ目相当)

昭和7年(1932)刊『岩波講座 世界文学 第8』に、「不定調性(Atonalität)」という表記が一箇所だけ出てきます。検索ではこの一箇所だけ出てきました。書き方は「日本語+括弧で欧文」の形式なので、著者の命名というより、Atonalität の訳語として採用されたものと考えられます。
「定調性の意識が不定調性へ移行する」という概念の対比として用いられています。無調に向かっていく調の破綻または複雑化を意味するような「無調的なatonality」をより精彩に汲み取った訳語の設定の工夫を感じました。

 

次に、

音楽構造の研究 上巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション

諸井三郎『音楽構造の研究 上巻』(1991), pp.468–469.(画像参照) p.468–469)では「不定調性」が、調性が崩壊へ向かう直前の状態として説明されてます(上中下通して12回言及)。諸井氏は不定調性を「調性そのものの崩壊」とは見なしておらず、定調性も不定調性もこれら二つの一段上に位置付けられる「和声的調性」という整合性の枠の中にある意味で用いている点が重要ですね。

これに対して「無調性」は、調性自体の崩壊として扱われていますので、両者は概念的に別な次元に置かれています。

 

諸井氏は柴田南雄氏の作曲の師匠ということもあって、いろいろ間違いはないんじゃないかと思いますが、ポイントは諸井氏は、前記の辻荘一氏の翻訳については触れず、自らそれを名付けた、というニュアンスで書いている(という印象を私が受けただけですが)点です。

また諸井氏の著書より前に出版されている高知大学学術研究報告(1985)における吉田孝氏の「調性概念に関する基礎的研究」の中に出てくる「調性不定」という類語とのリンクも記載がありません。

こちらの資料では、調性は「音階システム/機能システム/旋法/調子/調」がすべて特定できたときに確定できる、と整理されています。これらの概念の一部が特定できない場合、調性も確定できません。この状態を「調性不定」と呼ぶ、と述べられています。一般に「無調性」と呼ばれる場面でも、「無い」と断じるより「確定しない」と捉えるほうが適切だ、という立場です。この時も32年の資料について、その類語性について触れられているわけではありません。ここでの表記も吉田氏による資料内における命名というニュアンスを感じます。

 

しかしながら、当時の出版時代の条件を考えれば、先行研究探究不足を断じる必要はなく、当時そこまで厳密に相互に用例を網羅して整合させることなど困難だったでしょう。

要は私がここで整理するまでは、現状「不定調性」という用語の定義は「未整理であった」と言えます。

 

もちろん私自身も、私が「不定調性」という語を使い始めた時点では、これらの文献を参照できてはおらず、上記の議論を踏まえて命名したものでもありませんでした。今後もデジタル処理された様々な論文や著作を検索しながら、用語が出てくるたびに、このページに網羅し、その違いや私以降の「不定調性」のニュアンス、私以外の方が用いる際に齟齬がないように努めて参りたいと思います(私に特別な所有権があるわけでも使用権限があるわけでもありませんので、皆さんが自由に使っていただく-私を無視してOKという意味で-ことができますが、今のところ音楽活動の主体として扱っているのはこの国でも私ぐらいですので、私自身が齟齬の原因にならないように注意を図りたいという意味です)。

 

<不定調>の利用〜tonalityに関連するもの

世界大音楽全集 [第1] 第75巻 (器楽篇 日本器楽曲集) 堀内敬三 等編 1960 118コマ

最新名曲解説全集 第10巻 (協奏曲 3)

名曲の事典

アプサラス : 長広敏雄先生喜寿記念論文集

ベートーヴェンの作品 下巻 A

ウィーン古典派音楽の精神構造

「不定調」という用語が用いられている文献を列挙しました。
いずれも文脈上の日本語表現として「意味は通じるだろう」という推測のもと使用されている、定義性未系列の用語利用と感じました。

上記の段階では「不定調性」とも無関係の用語利用と感じました。

当然ながら、これまで引用したすべての利用を同じ意味として統一された利用がされている、とは言えません。日本語として自然な表現用語としての共通認識が前提になって用いられている、とも感じました(わざわざ定義が必要な用語ではないという認識があったのではないか)。



26年時点でのまとめ

現時点で確認できる限りでは「不定調性」は時代や文脈によって異なる輪郭で用いられており、相互参照も十分に整備されていません。

そのため、同語を用いる際に皆さんが定義の混乱、用語利用の躊躇が起きやすい状態です。よって万一学術的に「不定調性」という用語または「調性不定」というニュアンスで用いる際には、どの時代の先行用例を自分の定義の起源にするか決める必要があります。

・(1932)Atonalitätの訳語として「不定調性」が書籍に登場 辻荘一氏により

・(1985)音階システム/機能システム/旋法/調子/調の一つでも特定できない場合、調性が確定できない状態に陥る状態を「調性不定」と呼んだ 吉田孝氏により

・(1991)『音楽構造の研究 上巻』にて「不定調性」が、調性が崩壊へ向かう直前の状態を指す用語として登場 諸井三郎氏により

私見ですが、「不定調性」という語について、少なくとも日本語圏の音楽理論文献において概念的区別(例:定調性・無調性との区別)を伴って運用されている用例として、諸井三郎『音楽構造の研究 上巻』(1991)を参照し、必要に応じて該当箇所を引用することが適切と思います。

しかしながら、この当時の用例だけではポピュラーミュージックの文脈においてそのまま用いることはできないと私は感じています。そこでこの用例を発展させて、現代的な音楽表現に、より広く該当させられ得る定義に拡張する必要を私が感じて、現在私的用語として用いている、という構図が出来上がります。

 

私的定義2026

これらの用語事例を通じて、私は「不定調性」という概念を拡張して提唱していたことになります。

不定調性=「調的整合性が崩壊に流れる楽想状態」という諸井氏の用語利用を発展させ「調性組織を前提とせず、調的感覚を自在に扱う楽想状態を指す語」とします(2026 寺内)

不定調性論=調性組織/慣習を前提とせず、かつ身体に記憶した調的感覚を自在に扱う音楽創作法を含む総説(2026 寺内)

と新たに定義文を形成できることになります。「身体に記憶した〜」とは、この文化圏に生まれた人は、大抵生まれてからポピュラーミュージックを聴いて育っていくので、自然と調性的感覚が身に付いてしまっています。よって調性を無視すると言うこと自体が困難であることから、身体的に記憶している自然な調性音楽感覚の利用を認めることで、逆に音楽的自由さ=自分にとっての嗜好と既存感覚の組み合わせを自覚しやすくする目的があります。

 

この定義については、今後も引き続き、過去の文献の中に見られる用語利用を調べながら、このページで毎年まとめて参ります。

 

私以後

なお、2002年以降における「不定調性」の利用(少なくとも2009年までのネット情報は消えてしまったが)は、今度は私が彼らより先に言及した位置付けになります。よって、私以後の用語利用は、利用した人の先行研究に対する解釈や流用範囲の指針に委ねられることになります。世間に公開した、という証拠が消えてしまった以上(当時のhtmlデータは保持していますが)、私が必要以上に言及できる根拠が薄く、また研究者でない以上、定義を言及する権利も優先されませんので、このページの情報も巧みにスルーいただき、利用者の自由裁量に委ねます。私自身も感知しません。

 

私的補足

無調:調性を持たない

汎調性:全ての調を包含する

多調/複調:調が複数同時に存在する

調性不定:調性を確定できない(音階・和音の機能・keyが定まらない

不定調性:従来の調性システムが揺らぎ、さまざまな音楽表現の慣習が複合した調性崩壊の直前段階(諸井氏定義)→(私の用いる定義)調性組織を前提とせず、調的感覚を自在に扱う楽想状態を指す語

この五つの認識も、私の認識です。

現代ポピュラー音楽まで含めた定義を考えると、不定調性的状態は調性音楽に触れて育ってきた人が自由展開した結果の方法論である、と捉えるのが現実的です。

そこでは音楽の中に調性音楽の慣用句、概念や断片がランダムに入り込むことが暗黙のうちに容認されます。それは「調性を作りたい」という意図ではなく、自分が今その流れが必要だから、それまで既存曲から親しんだ響き・概念・旋律感を入れ込んだのです。「前後の無調感と挿入された調性感のギャップが生む調性不定感」を楽しむ目的が優先されるでしょう。「なんかエグい感じがいい」程度の質感を感じるだけでも素養豊かな作曲家は元曲を完成させられるものです。サンプルが膨大に手に入るようになり、サブスクにより膨大に音楽が聴けるようになり、自分が好む音楽以外の音楽サンプルを巧みに取り入れられる時代になったからこそ新しい定義が必要なわけです。

 

そのような意味で汎調性音楽、多調・複調音楽の調性不定状態の中には、こうした直観的制作、または偶然性のうちに作られた不定調性状態が現れることも多々あるでしょう。そうした概念が混沌と入り混じる状態も、この不定調性と言う用語で便利に説明ができます。

「不定調性」は私たちの多方向音楽時代の解釈に、非常に便利な用語だと考えています。ラップやブルースなどの調的整合性を度外視した音楽も総括できますし、説明の仕方も変えられます。

分析者の音楽的解釈によって、そこに調的整合性があるかないかのみで断ずるのは、作曲者の根本的な音楽的表現欲求のほとばしりを打ち消すような行為になってしまうと思うのです。"何も考えずに作った"とか、"好きな曲を真似て自由に作った"とか、そういった表現の翼が広がる様を「不定調性」は記述できるのです。

楽曲の外観に確かに調的慣習を確認できることはあるでしょうが、それを伝統的調的構造との接点として比較する分析行為はまた別です。作曲家が感覚的判断で、無意識の中の音楽的断片と囚われのない自在な音利用が化学反応することで、結果として不定調性状態が現れているのであり、それを「不定調性状態」と呼ぶことは、作曲者の意識状態を代弁することであると私は思います。

 

私が個人で探求しているのは、その中で生まれるさらに独立性の高い不定調性音楽であり、そこにはまた別の音組織利用に関する方法論が必要になりました。それらの方法を一からまとめたのが不定調性論であり、それは私自身の独自論として機能しています。

 

不定調性拙論資料 1995(?)年から〜

知人のアドバイスに基づき、私が先行して利用した不定調性に関する資料を並べておきます。

 

「不定調性」という用語自体は1995年末には用いていました。

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07年PDF化した"遺跡"レポート(96-98年作成?)。外部発表はありません。

02年HP公開時は自分が正しいと信じてました。やがて自分が少しずれていた、と悟り公的な研究発表後、「独自論」指向になりました。

 

独立後、教材執筆。2010年に教材完成(第1版)。

2010年にはメール講座での受講申込記録が残っています。

 

2011年、MIXIでもコミュニティ公開。アイコンが"理論"のままですね。

上記は12年度版教材、まだ「理論」でした。

 

X(旧Twitter)では2012年5月24日が現存している最古のツイートになるようです。この時はすでに教材はできており、方々で盛んに発信していました。

なお、不定調性作品の制作は「方法論ができた後にやっと作り始めた」という感じです。12年から作品をアップロードしていたようです。

www.youtube.com

日本音楽理論研究会では2013年に発表した「Autumn Leaves」のジャズアレンジで不定調性進行を紹介した原稿が初出です。その後、ビートルズ、ユーミンの不定調性進行について発表しました。

Society for Music Theory of Japan(リンク元)

Dropbox - 寺内克久9.16.pdf - Simplify your life

(オリジナル音源資料)不定調性和声のコンセプトによる"枯葉"の様々なバリエーション

 

14年には現かねこメディアさんで連載シリーズを書きました。

音楽のクオリア~不定調性論の挑戦~ (目次)

 

14年度簡易版連番付きを知人・各音楽教室等に無料宣伝配布しました。まだ持ってる人います?

 

 

不定調性論=Theory of Tonal Indeterminacy

学会機関紙掲載の折、 川本聡胤准教授に英訳頂きました。独自性を高めるため、この語自体は英語論文でも定義として使われる語としては出てきません(不定調性=Tonal Indeterminacy、またはIndeterminate Tonality)。海外の論文等では邦訳すれば曖昧な調性、不安定な調性感と邦訳できる表現の利用は1900年代から見つかりますが、特定の概念を示す用語ではなさそうです(慣習語)。

 

 

公式発表レポート

不定調性論の和声理解に基づく、音楽空間のリズム的変化とそのストーリー

スティービー・ワンダー楽曲研究 : リフとハーモニックリズムが作る音楽的クオリアと作曲技法 

ジャズ即興演奏時における旋律型にみる和声解釈拡張の可能性

twitter配布レポート

ユーミンレポート(廃盤→ブログにて更新連載中)

スティービー・ワンダーレポート(廃盤→ブログにて更新連載中)