西アフリカの音楽「グリオ」という伝承音楽があります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/グリオ http://en.wikipedia.org/wiki/Griot
世襲制により引き継がれる神聖な職業で、即興的に歌が歌える能力を有している、となっています。 まさにブルース的な感覚。
彼らの先祖にも、アメリカに奴隷として連れて行かれた人達はいたのでしょうか?
西洋機能和声の音楽を聴く黒人たちの耳と、黒人独自の遺伝的音楽観がミックスされた状態でブルースができた、と考えると、この即興的なグリオの音楽のリズム、即興性、旋法の感覚が、教会音楽や労働歌が少しずつブルースを生んでいき、現代の主要な「洋楽」を形成しているわけで、本当に不思議です。
この動画の楽器旋律のイントロのフレーズは、gをセンタートーンとして、d,f,gで構成されています。これは不定調性論ではgの四度領域、Gu4ですね。
教材ではブルース(または各種の民族音楽)は四度領域の音楽としていますから、理解しやすいと思います。
で、歌われるメロディは、Gマイナーペンタトニックフレーズ
g,b♭,c,d,f
に近い音階構成で、やはりg音がセンタートーン(小泉理論における「核音」と考えても良いのでは?)になっています。メロディの始まりの音はd音で、低いg音に帰着します。
合いの手で入ってくる音も平均律ではない音で非常に繊細な唸りのようなハーモニーを作っています。彼らは「同時に歌う」こと全てがハモりです。音程ではなく、自分がどう歌うかが体現できることで他者とハモるのだ、という発想と言えばいいでしょうか。
"ピッチでもリズムでもない。お前らはピッチとかリズムとか言い過ぎる。フィーリングだ"
オーストラリアのアフリカン系の音楽家とスタジオで知り合いよく話すようになったのですが(頭がいいから日本語ペラペラ)、よくこういうことを言ってました。
またグッと叫ぶときにa音が高いところで歌われています。9th音ですね。 彼らが普段どの程度平均律の音楽に接しているかはこの動画からは分かりませんが、非常に聴きやすい現代的な音楽になっているかもしれません。よく聞けばリズムも整っていて、外部発信用に整えられた感もあります。
下記はトーゴのグリオの演奏だそうです。
ここでもリズムと躍動感があります。
ここで歌われる旋律は、Au4の四度領域を成していて、a音がセンタートーンになり、高いc,d,e音と行き来する旋律がランダムに繰り返されます。
後半にコーラスが入ってくると、ここでもb音つまり9th的な音が入ってきます。 偶然でしょうか。 もちろん平均律で聴き取っていますので思い込みがあるかもしれませんが、大変興味深い経過音です。
それにしてもこのリズム、「洋楽」ですね。。日本人が割って入れない時間の刻みかたがあると感じます。攻撃性とか、積極性、訴求感を強く感じます。伝えたいと思う思いや、何かに追われるような疾走感。島国でのどかな日本にはない時間の流れの感じ方があるのでしょうか。
グリオと呼ばれる人がいて、その音楽性や口頭伝承的な音楽文化があって、それが西アフリカの音楽文化の一つである、と分かれば、ブルースが持つリズム、即興性のルーツの一つを考える機会になるのではないか、と思います。
(参考)アフリカの民族言語map
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/49/Africa_ethnic_groups_1996.jpg
アフリカ音楽本が少しずつ出ているのはうれしい!