前回の続きです。
コンポジット・モード=合成旋法
現代は様々な呼び名があるかもしれませんが、要は「独自な音階」です。
バークリーはコードスケール発祥の地ですから、モードについても気合が入っています。"特殊なハーモニー付けをする際に、旋律に特別な色彩を添えたい時"などに独自のモードを作成する必要がある云々と言った解説を学びました。
後で感じたのですが、これではいかにもその小節が必ず何らかのモードに特定されないといけない感があります。
つまり、常に特定のモードを用いなければならないなら、ギターソロの最後でギターに火をつけて爆発させることはできません。理性的な音楽を良し、とする彼らの校風が伝わってくるようです。
つまりこれもバークリーシステムが作った理論性の肥大した価値観である、と言うこともできます。またある意味で、ここまで理論的に行えば、いつそこから外れていけばいいか"才能のあるものはわかるはずだ"という音楽エリートの目線を基本にした主義も感じます。
学んでおいて全く損はありませんが、やはり自分を見失わないように理論学習は細心の注意を払いながら行うと良いです。
コンポジットモードの作成法
原則があり、ハーモニーを作りやすくするための制限を設けています。
・なるべく七音にする。
(五音では単調になり、六音では一部の跳躍が目立ちすぎる、八音以上になるとモードの性格が短い時間でうまく表現できない)
・半音の連続は避ける
モードの性格があいまいになるから
・八音以上のモードをうまく性格づける方法として、2オクターブモードや上行形下行形で異なるモードになるようシステマチックに組めば良い。
c-c#-d-e-f-g-a-a#-b
というモードなら、
c-d-e-f-g-a#-b-c#-d-e-f-g-a-b
という2オクターブモード(上行下行で分けても良い)であるとすれば、「二つの性格を併せ持つモード」として認識し、それぞれの特徴が出るように旋律や和音を組むことができる。
メロディから音階を作る
たとえば「チューリップ」の冒頭のメロディから自由に音階を作ってみましょう。
c-d-e c-d-e g-e-d-c-d-e-d
というメロディとします。
このメロディからどれか中心音を定めて低い方から並べます。ここではcにしておきましょう。
c d e g
です。この間を半音が連続しないよう作ります。
c d e f# g a b♭ c
これはCリディアンドミナントスケールでAメロディックマイナー のIII番目のモードです。
特殊な音組織を用いることで特殊な和音付けも可能です。ちなみに同モードは、
C7 D7 Em7(b5) F#m7(b5) GmM7 Am7 BbM7(#5)
という四和音を構成できますですから、これを仮にモーダルハーモニーの理論で扱う場合、
C D (E---) (F#---) GmM7 Am7 D/Bb
BbM7(#5)はそのままでも良いが、D/Bbというスタンスで用いることでハイブリッドなコード進行の可能性を持たせています。augやb13thのイメージが出過ぎないように用いるための工夫です。
といった感じを用いながらちょっと奇異なチューリップの冒頭を作ってみましょう。
音楽理論学習の魅力は、その才能如何にかかわらず、理屈通り作れば、取り合えず求めるサウンドが作れる、という点でしょう。たとえ体が貧弱でもモビルスーツを着たような気持ちになります。
コンポジットモードの和音
特性音の設定
単純にいうと、基本の特性音と「変な音」が全て特性音です。
二つに分けると良いと学びました。
ドリアンぽいけどこの音があるのでドリアンではない、その音が一次特性音、です。
・既存のモードとは違う音が一次特性音です。
ドリアン#4のようなモード
c-d-e♭-f#-g-a-b♭-c
であればf#が一次特性音でe♭、aが二次特性音です。ほんとは二種類に分けず、複数の特性音を考えるのがバークリー式っぽらしいです。
この三音を組み合わせることでドリアン#4の感じが生まれます。
ドリアンなのかな?とおもわせておいて#4を使う、などが好例です。
#4は♭5thでもあるので、ブルーノート的にも響くのでなかなか面白いモードです。
・モードの中に通例のdo-re-mi-faまたはso-ra-si-do、つまり全全全半の構造があれば、主音とそれら全全全半を構成する以外の音が特性音になる可能性が高い。
→これも全全全半が既存モードをあまりに想起するから生まれたルールでしょう。
・独自モードのテトラコードは特性音にしない
→特性音としてテトラコードを含む和音を用いてしまうことで調性を感じさせる状況を減らすためでしょう。
・主和音にテトラコードが含まれる場合は、主和音のi度、iii度、v度いずれかにたいして増音程、減音程をなすものを特定音とする。
バークリー発らしい厳密なルールです。
c-d♭-e-f#-g-a-b♭
というモードを考えてみましょう。
主和音はC7ですからテトラコードを含みます。特性音を主和音の構成音との関係で見てみましょう。
cに対してf#が増四度です。
eに対してb♭が減五度です。d♭が減七度です。
gに対してd♭が減五度です。
共通しているのはd♭なので、特性音はd♭、となります。またf#を追加しても良いでしょう。bフラットは主和音でドミナント7thを形成するので避けます。
このモードはc-d-e-f#-g-a-b♭ならミクソリディアン#4でメロディックマイナーのIV番目のモードです。だからそれらと区別をつけるd♭が特性音になりますので、上記の見つけ方でなくても各種モードを知っていれば判別可能です。
コードの分類
主和音=Iの上にできる和音
I類
特性音をトライアド部分に含むM7、m7コード
ただし特性音を含む和音がm7(b5)、aug、Dimになる場合は、それ以外のm7またはM7をI類コードに昇格する。m7もM7もない場合は、メジャートライアド、マイナートライアドをI類コードとする。
II類
主和音、I類以外のM7、m7。m7、M7がない時はメジャー/マイナートライアド
II類が存在しないモードもある。
コンポジットモードのテンション
ドミナント作用を生じない、M6、M7、9th、11thまたメジャートライアドに対して#9thなどが使用可能。
コンポジットモードの特性進行
主和音とI類コードを用いて作る。
しかし実際にはそれだけで「あ、変わったモードだな」と認識することは難しい。
c-d-e-f#-g#-a#-c-d-e-f#-g#-b-cという2オクターブモードで考えましょう。
主和音は、c,e,g#,bで作ってCM7(#5)としましょう。
特性音は機転を効かせて、2オクターブ見渡し、f#-g#-a#-bが全全全半になっていることに着目すれば、特性音はそれらとI以外のd,eと定めることができます。
するとI類コードは、d,e,を含んだ和音ですから、
e-g#-bのE△
b-d-f#-a#のBmM7
となります。
それ以外はII類コードとなります。
このモードの特性進行は、
CM7(#5)、E△、BmM7で作ることができます。
CM7(#5) |BmM7 |なんて良さそうですね。
こんな風にバークリー式はどこまでも理詰めで考えることができます。これに慣れすぎてしまうと、あいまいな日本的幽玄なる美意識を失いかねません。日本的な美は、いつも"その間"から滲み出るからです。
イニシャルボイス
コンポジットモードは聴き慣れないモードから作るコード進行となり、モード自体のキャラクターを聴感上で示すことは難しいです。
そのためモードの特性を表す音を網羅した和音連鎖を頻繁に用いることで、モードの外観よりも、そのモードが作る特徴的な構成音を提示し続ける行為が、モードの体現につながります。
それらの和音はイニシャルボイス(Initial Voice)=幹和音などと書かれたいたりします。コード分析時にはI.V.と表記します。
この考え方はモード理論のずっと後の時代に出てくる考え方です。つまり主和音、I類でモードを体現する、ことが難しい、という教育的認識を持った状況で取り入れられた古典的手法でしょう。
c-d-e-f#-g#-a#-c-d-e-f#-g#-b-c
で再度考えるなら、特性音は確かにd,eですが、
c-d-e-と弾いてもこの和音がこのモードを示している、とは言えません。そこで、
c,d,e,bというオーソドックスな部分と、
f#-g#-a#というイレギュラーな部分を自由に足し合わせてこのモードを表現するわけです。
このとき、
・メジャートライアド、マイナートライアド、M7、m7などの平凡な和音に分析されないような構成音にする、というのがポイントです。
例えば、
c-d-g#-a#
とか
c-e-f#-b
とか
c-f#-a#-b
などです。
にわかには和音の性質が曖昧で、その響きを聞けば、何やら通常ではないことをしているな、という主張が伝わります。
こうした主張は、はっきり伝えたい作曲家と、曖昧にしたい作曲家のそれぞれの性格が反映されます。理論にはこれらの特性進行を作り、曖昧に示すタイプと、I.V.を用いるはっきりとした手法が紹介されます。
あとは使い手がどの"魔法"を使うか、ですね。
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もともとこうした音楽は天才作曲家の頭の中にあったサウンドが音楽理論家によって分析され、バークリー方式のような「独自方法論」になり、誰でも天才の音楽みたいな音楽の外観を作ることができる、として学習されるものです。ただの知識です。
方法論はその論理感覚に対して、自分がより原始的な悦びとして興奮できなければ、その感覚を自分の表現に活用することはできません。
私が学んだバークリー方式でも指摘されていたのですが、こうした独自音階は、つい音階の感じが中近東風になったりします。作り手の能力が安易であると、十分に天才の思考を扱い切れないからです。独自音階の起源は民族音階の使用からです。どうしても"西洋的でなければ良い"という思考が潜在的に働く場合があります。しかしこれでは「独自音階」を扱う意味がありません。独自音階ですから、既存の雰囲気ではなく、自分の音楽的なクオリアをはっきりと提示できなければなりません。その提示が中近東風になるなら、あなたは独自音階を扱うのに向いていいない、と判断すれば良いでしょう。
この自覚が大切です。それがわかれば、あなたにとってのコンポジットモードはちょっと変わった中近東風の奇異な音楽を作るときに使える技法、となります=不定調性論的な一時解釈。
そうすることで理論を用いない人よりもご自身の方法論に早く辿り着けるかもしれません。
自分の才能やスキルが、社会的にニーズの少ない音楽を作るタイプの作品を作る能力に長けている、とは認めたくないという気持ちが若い時は働くかもしれません。
とにかく様々な技法的知識と、自分の直観的表現欲求を繰り出して「現状の自分がたどり着いた有様」を認め、その状態から何かを生み出してください。
このコンポジットモードの扱い方の方法論は、モードの性格をどう捉えるか、どう表現するか、ということの思考法を上手くまとめています。
レッスンで少し触れたのでここに参考資料として公開させていただきました。
出典:MESAR HAUS theory IX