音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

ルールは一つ、"ルールはない"~『すばらしき映画音楽たち』

音楽がダメならどんな映画も台無しだ。

-ジェームズ・キャメロン

 

 

2017年の作品です。

映画音楽のみならず、映像と音楽が感動をもたらすもの、音楽的なクオリアが人に及ぼすもの、映画音楽の歴史と現状、作曲家の言葉、貴重な映像、映画関係者の言葉がぎっしり詰まっています。

 

映画音楽は「狙った通りの反応を引き出す"感情の潤滑剤"さ」

1895年から、映写機の騒音を消すために映画と音楽はいつもセットでした。どの映画館にもピアニストがいてオルガンがあったんですって。

 

「映画音楽にオーケストラだって?」

1933年「キングコング」の初のオーケストラ演出は画面に想像以上の効果を与えました。

「欲望という名の電車」(51年)で映画音楽にジャズが取り入れられてから、007まで、当時作られた音は今でもスタンダードですね。今定着しているスタイルも、誰かが行った、当時の人から見れば狂った伝統やぶりから始まりました。

 

「ほとんどの映画監督は感情を音楽に変換できない。だから作曲家はセラピストのように監督の言葉から意図を掴む必要がある。」

-ジェームズ・キャメロン

「選ばれたことに私は有頂天になる。"これに参加できるのか"とね。でも皆が帰ると一人で青ざめるんだ。どうすればいいか分からない。その後電話で断りたくなる。"ジョン・ウィリアムスに頼んでくれ"とね。楽譜は真っ白のままで都合良く発想なんて生まれない。だから常に恐怖心と戦っている。」

-ハンス・ジマー 

 

結局作品を作れる人と作れない人の差は工夫と努力と忍耐でしかない、としたら、自分は工夫と努力と忍耐してるか? って思ってしまいます。

 

本に"深い森がある"と書いてあったとする。読者が創造する森は、それぞれ違うはずだ。音楽も同じ。1つの脚本を15人に渡せば15通りの音楽ができる。

-トム・ホルケンボルフ

 この視点は不定調性論と同じです。当たり前なのですが、先のジマーの言葉のように、求められているものがもっと自分ではない誰かが持っているものだと思ってしまうものです。分かっているけどすぐ見失う視点です。偉大な作曲家でも。だから発想の主軸に独立個人の意味をいつも置いておかないといけません。

 

音楽を聴いたときに体内で起きる反応には脳の様々な部分が関わってる。(中略)メロディや音程といった情報に反応する部位もあれば、テンポやリズムなど時間に関わる情報を受け取る部位もある。そして生理的な反応が現れる。(中略)脳の側坐核は報酬系と呼ばれるシステムの一部で、チョコレートやセックスにより刺激される部分よ。興味深いのは同じようなドーパミンの放出とそれに伴う快感の反応が音楽を聴いたときにも起きるということ。

-タン・シウラン博士(カラマズー大学 心理学教授)

うーむ。音楽をやる理由、っていうのをつい昨日書きましたが、快感を感じるのが生理的な反応と一緒なら、これはやめられないですよね。

そしてまだまだ研究が及んでいない分野です。どうやって人が感動するか、が分からない以上、音楽家がそれを考えるよりも、身体がそれによってどう反応し、その反応がメロディを生み出すことを悩まず、その反応だけを信じて音楽を作る活動に邁進すべきですね。

最初「なぜ音楽にこう感じるのか」を不定調性論で突き詰めようとしましたが、科学がそこに及んでいない、と知り、そこをブラックボックスにしました。

しかし音楽から生まれる反応は明らかに存在し、かつ一人一人違う。答えだけはすでにもらっているわけです。答えが出る過程を良く知らないだけ。

でも「答え」というのを現金と同じ、とすると笑、あればいくらでも使えます。そしてこの現金は次から次へと情緒に現れてきます笑、まずこれを使ってできることをしよう、という発想になり、不定調性論は、心象により音楽を連環させていく方法論となりました。

90分ほどの映画を観ると目線は2万1000回以上動く。見る場所は自分で選んでいると思いがちだけど、多くの研究でそれに反する結論が出ている。観客はだいたい同じタイミングで同じ所を見ているの。映画で観客の目線を誘導する方法の一つは画面上の特定の動きに音楽をマッチさせること。何かが上昇していくときに音程を高くしたりね。

-タン・シウラン博士(カラマズー大学 心理学教授)

これについては当ブログでも、メタファーについて話していますので、それに関わってきます。人の意識を巧みに活用しています。もし音楽が「共通に感動する」理由があるとするなら、このメタファーが共有されていることであると思います。

上記のコメントの後に実際に映像で解説してくれているので詳しくは映画をご覧ください。

www.terrax.site

上=価値がある

という価値観が共有されていないと共感できません。 感動するようにできている音楽はそのように出来ている、というわけです。そこが全て音楽理論で解説出来るというのではなく、もっと人の脳の性質、人種の価値観、意識の科学が関連しているのだと思います。「全世界で大ヒット」という映画を研究すれば、もちろんそれはストーリーあってのことですが、音楽におけるメタファーの共有も研究対象になろうかと思います。

 

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その他、ジョン・ウイリアムスとスピルバーグのジョーズのテーマについての会話シーンや、ピアノを弾くシーンなど貴重な映像もあります。帝王ウィリアムスに最も時間が割かれていますので満足感も高いかも。専門的なことではなくてごく触りだけですが。その次にジマーにも焦点が当たってます。

映像音楽でしか作れない世界があり、意識と感情を音に変換する、という不定調性論を地でいっている分野です。

 

人間は弱い。楽しいおしゃべりなら何時間でもできる。言葉の裏に本当の自分を隠せるから。だが音楽では完全に自分をさらけ出してる。だから聞かせる時は不安だ。それでもこの仕事を愛している。恐怖で妄想にかられたり死ぬほど悩むこともあるが辞める気はないよ。

こういう言葉を私が言ってるなら、まあ、才能ないんだからしょうがないよね、で済む話ですが、この言葉の主はハンス・ジマーです。

ハーバード大学も音楽を教育に取り入れていますが、

www.terrax.site

どんなに言葉巧みに言っても、音楽をやらせれば、楽器を演奏させれば、ちゃんと練習してきたか、ちゃんと考えているか、どこまで追求してきたかは全てばれてしまいます。うまいことごまかして名演奏をする、ということは出来ません。

これが科学で解明されない限り、音楽は唯一相手の本性を知る手段であり、それだからこそ本性をさらす作曲家の命がけの旋律に感動するのではないでしょうか、メロディの良さとかに感動することもありますが、もっと全体の雰囲気、音になっていない部分にきっと感動しているんだと思います。なんだろう、、、やっぱ「愛」の本質を見るからですよね笑。

 

 

 映画音楽のルールは一つ、"ルールはない"

-ダニー・エルフマン

エルフマンがバーナード・ハーマンから学んだ言葉だそうです。 

音楽も、芸術も、人生もみんなこの言葉に集約されている気がします。

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