音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

Yesterdayで考えるVIIm7とかアヴォイドとかメロディックマイナーの話〜ビートルズ楽曲topic

2917.9.28→2019.9.18更新

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夢の人「I've Just Seen A Face」の記事はこちらです。

イエスタデイ - Yesterday

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オリジナルキーはFです。

通常ダイアトニックコードのVIIはVIIm7ではなく、VIIm7(b5)です。

キーがFなら、ダイアトニックコード

(三和音)F  Gm  Am  Bb  C  Dm  Edim

(四和音)FM7  Gm7  Am7  BbM7  C7  Dm7  Em7(b5)

です。

この曲の歌始まり冒頭は、

F |Em7 A7 |Dm Dm/C |Bb C7 |
F |Em7 A7 |Bb F |

ですが、本来は、

F |Em7(b5) A7 |Dm~
が"正しい機能和声解釈"です。

 

でもこれだとメロディと合わないんです。
ポールは完全にEm7に合うメロディを作っています。時々ポールが使う進行です。

 

メロディラインも「メロディックマイナースケール」的に最初の部分ができています。
"yesterday all my trouble seemed so~"
のmyとtroubleの音に#がついて、bとc#になっているんです。そうすることによって母体となる音階が、
d-e-f-g-a-b-c#
となります。 Dメロディックマイナースケール(旋律的短音階)です。


でも別にポールはメロディックマイナースケールを使おうとしたのではなかったかもしれません。たまたま口から出てきたフレーズがそうなっちゃっただけかもしれません。

ポール・マッカートニーの作曲法と不定調性論/Paul McCartney Reveals his Songwriting Secrets - BBC Radio "Sold on Song"

 

よく学校の勉強は楽典を読んでて

「メロディックマイナースケールは上行は旋律的短音階(メロディックマイナー)になって、下降は自然的短音階(ナチュラルマイナースケール)になる」

なんて習いませでしたか??ヴィヴァルディの頃からこの慣習は楽譜に残されています。wikiなどで調べてみてください。

 {
\override Score.TimeSignature #'stencil = ##f
\relative c' { 
  \clef treble \time 7/4
  c4^\markup { C melodic minor scale } d es f g a!? b!?
  c bes aes g f es d
  c2
  }
}

Minor scale - Wikipedia

 

え!??なんで!!そんなに面倒なの!でもそれってクラシックだけでしょ!ダサい古めかしい理論!

って思ったあなた。Yesterayの楽譜をよく見てみてください。

この曲、ちゃんとDメロディックマイナー→Dナチュラルマイナーって戻って降りてくるんです。まさに教科書通りのフレージングなんです。

理屈に合わせてこれを作った、というより、たまたま教科書通りの展開になっている!

面白い!!って言って覚えておくのが良いと思います。

あそこのフレーズ、

g-f....a-b-c#-d-e-f-e-d-d...d-d-c-b♭-a-b♭-a-a...と流れます。

この曲はF/Dmキーですから、Dマイナーでメロディックマイナー→ナチュラルマイナーを考えると、

d-e-f-g-a#-b-c#-d→c-b♭-a-g-f-e-d

です。本来のメロディックマイナーの意図としては違うのですが、面白いです。

検証してみてください。

 

またリディアンモードの七つのコードは、
IM7-II7-IIIm7-IV#m7(b5)-VM7-VIIm7-VIIm7
です。

 

ここにIM7とVIIm7がでてきます。これで

I-VIIm7(F-Em7)のコード進行が作れますね。

IM7とVIIm7を持つモードはリディアンだけです。

これにより、IM7→VIIm7はリディアンの特性進行だ、とか音楽理論的に言ったりします。

 

Fリディアンは、
f-g-a-b-c-d-e-f
です。


このはなし、理屈として知ることより、もしこの感じが"かっこいいなぁ"と思うなら、自分の曲でも使ってみる、というのが不定調性論的思考による制作の姿勢です。

 

====

展開部
A7sus4 A7 |Dm C Bb Dm |Gm6 C7 |F |
A7sus4 A7 |Dm C Bb Dm |Gm6 C7 |F |

ここではGm6がよく取り上げられます。
演奏はGmでも良いのですが、メロディが♮6thの音を用いています。
この音と歌詞「I don't know」という流れと響きに取り戻せない昨日感、やるせない今日感、変わりないだろう明日感の雰囲気がちゃんと出ていてインスピレーションをえぐってきます。

こういうことをさらっとコードとメロディの関係でやれているからビートルズは自分(の感覚)に合っています。

 

これはアヴォイドノートの使用ですが、メロディックマイナーのVI度などで昔から使われていますし、ここでも不協和というよりも切実な傷心というイメージが効果的になっています。この曲の浸透によって、この雰囲気もまた人々の心に浸透していったとも言えます。

 

この曲では冒頭にメロディックマイナーの旋律が出てきますし(M6=♮6、M7を持つ)ので、ここでの6thは技法としても使用音の関連性、という意味でもとても統一感を感じます。

こういう辺りのバランスを直感的にこなせてしまう、理屈ではなくバランスを作り落とし込めて作業を進められるポール・マッカートニーという人の凄さを感じます。

 

エンディング


F G7 |Bb F |

このG7はドッペルドミナントです。II7です。
これを、
例;F Gm |Bb F |
としてみてください。これでも歌えますが、G7にした方がお洒落になりますよね。
しかしこのG7はドッペルの役割を果たしていません。

Vである Cにいかず、IVであるBbにいくからです。しかし
例;F G7 |C F |
では、「あの美しいエンディング」にはなりません。

音楽として成り立ちはするけど。つまり

「II7はドッペルドミナントだ、などと常に思うなかれ。」

という事例です。

このエンディングの流れは、決して無駄ではなく、全体の少し寂寥とした感じをこのエンディングによって、少し幻想的にしてくれて、切実な現実感をちょっとだけロマンチックにしてくれる効果があると思うのです。

この思考のすごいところは、

曲の全体を通して、あ、なんとなく、こういうエンディング入れたほうがいいな、って瞬間的に思えてしまうポールの能力です。きっと、それまでがなんか切実だから、エンディング入れたろ、とかって理屈で考えて入れるのではなく、彼のインタビューとか聞いていると、全てその場で直感的に決めているような感じだからです。

こういうことが数秒でビシッと決められるからこそ実績になっていたのだと思います。そういうところがすごいスペックだ、と感じます。

 

今聞けば当たり前ですが、皆さんがもしイエスタデイを作っていたなら、曲の最後どんなふうに締めますか?

 

ただもちろん、このエンディングは、ポールのあの声と、あのアレンジと、あの時代だったからこそ活きた、とも言えます。逆に言えば、それをドンピシャで作ったビートルチームすげえってなるだけなのですが。

 

ぜひ、ポールのメロディ研究も興味のある方はしてみてください。

 

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